【 暗黒剣士の聖十字 】 ~属性適正がまさかの闇で騎士団追放。でも魔王と呼ばれるようになった俺の力がないと騎士団が崩壊するって?~

岸本 雪兎

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ヘルヘイムの通行証

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 俺は荷馬車に揺られていた。
障海しょうかいの下へと続く洞窟が迫る頃には、冒険者の乗る荷馬車が合流して長い列を成している。

 ここにアイゼンさんはいない。
なぜかアイゼンさんは時間までに現れなかった。

「見えたぞ」

 誰とも知れない冒険者の1人が言った。

 その声に、乗り合わせた他の冒険者達が前方に目を凝らす。

 俺も振り向くと、地平線に一筋の黒。
大きなうねりと青い障気を伴った闇の海──障海しょうかいが見えた。
この国の中心。
巨大な輪をなす山脈のただ中に広がる、人が踏みいる事のできない黒い海の姿だ。

 そして大規模な冒険者の連合はその海の底へと繋がる洞窟の入口にたどり着いた。
深い闇をたたえる巨大な洞穴ほらあなが遥か地の底へと繋がっていて。
ぽっかりと空いたその入口はどこか巨大な口を思わせる。

 洞窟の中は闇がいでいた。
あまりに静か。
代わりに視界を闇が奪い、松明の明かりは1メートル先をかろうじて照らせる程度。
炎の属性適正者が炎を操って周囲の視界を確保している。

 しばらくすると冒険者連合の先頭が何かを見つけた────いや、たどり着いたらしい。

 そこには障海しょうかいと同じ青い障気を吹き出す闇の流れる河と、黄金色こがねいろに燃える巨大な炎の橋があった。

「おい、なんだあれ」

「魔物の……残骸?」

 そしてその橋の手前には、バラバラになった魔物の身体があった。
強い力で引き千切られたり、力ずくで叩き斬られたような傷。
そしてその端々はしばしには焦げ跡のようなものも見える。

 リーンハルト達が倒したものか。
いや、だとしたら状態が綺麗すぎる。
バラバラになってこそいるけど、残骸がちり化してる様子がない。
もしリーンハルト達が倒したのならもっと身体は分解が進んでるはず。

 ……というより、ちりに全くなってない?

 俺がその違和感に気付いた時。
突如とつじょ動き出す魔物の死体。

 転がっていた腕が近くにいた赤い髪の冒険者を鷲掴わしづかみにし、その身体を容赦なく握り潰した。
その髪よりも赤い、鮮やかな血潮ちしおが吹き出して。
そして投げ捨てられたのは赤い塊。
もはや人の形を、成してない。

「1人やられた!」

「こいつ! まだ死んでねぇ……!」

「嘘だろ?!」

 本来なら致命傷。
だけどバラバラになっていた魔物は時間が巻き戻るように身体が再生していった。
次々とバラバラにされたパーツが空中へと浮かび、あるべき場所へと固定されて傷が塞がっていく。

 復活したのは巨人種だった。
見上げるほどに大きいその体躯たいくは成人男性の10倍近く。
だけどその大きさに対して頭身は低く、まるで人間の子供のよう。
白い仮面で目鼻を隠し、その下に覗く巨大な口は歯並びがいびつ
深緑色の長い髪は意思があるかのように重力に逆らって揺れている。

 魔物は冒険者達へと襲いかかった。
その大きな手で冒険者を叩き潰し、地面を高速で這い回ってかじりつく。

 冒険者達の猛攻を受ける魔物だが、どれだけダメージを負ってもひるみもしない。
胸を穿うがたれ、頭を潰されても平然としていた。
次々と冒険者達が断末魔をあげる。

 明らかに普通の魔物と違う。
それこそバラバラにするくらいでないと止められない。

 俺は闇を薄くクレイモアに────いや、それだと足りない。
俺はクレイモアの周囲の闇を操作。
闇のない層で、圧縮した闇の刃を覆い隠した。
闇に飲まれていたはずの光を際立たせ、その光で偽装の光刃を生み出す。

 俺は光輝くクレイモアを振りかぶって駆け出した。
左右に素早くステップして冒険者達の隙間を縫い、魔物へと接近。
その足の間に潜り込むと剣を振り抜きながら旋回して。
魔物から闇を奪いつつ、その両足に回転斬りをみまう。

 膝をついた魔物目掛け、すかさずクレイモアを振り上げた。
その身体を両断する。

「今です!」

 俺の掛け声と共に冒険者達が一斉に攻撃。
炎と。
水と。
風と。
そして土と。
様々な属性による攻撃が乱舞し、少女にも似た巨人種を飲み込む。

 しばらくして冒険者の攻撃が止んだ。
土煙が晴れると、横たわる魔物の残骸は身動みしろぎ1つしない。
でもやはりちりになる様子もない。

「また動き出す前に先に行こうぜ」

「警戒をおこたるな」

 冒険者達はまた巨人が復活するのではないかと注意しつつ、炎に包まれた橋を渡る。
どうやら通常の炎とは違って熱はないらしい。

 冒険者のいくらかが俺を指差して何か話していた。
おそらく偽装の光刃を見て俺を光の属性適正者だと勘違いしてるんだろう。
俺は気付かないふりをして先へと向かう。

「…………?」

 だけど何か、違和感。
俺は橋の手前で背後を振り返った。

 見えるのは戦いの爪痕が残る大地と。
横たわる魔物の残骸に。
そして俺の後続の冒険者達がこちらに向かってくる姿だけ。

 でも何か、足りな────

「ぼさっとしてないで早く行け」

 俺は荒くれ者風の冒険者に肩を押された。
俺はその男を一瞥いちべつすると、かぶりを振る。

 違和感はぬぐえない。
けど気のせいだと自分を納得させる。

 俺はかされるまま、先に進んだ冒険者達を追って駆け出した。

 周囲を警戒しつつ、前に追い付こうと速度を上げる。

 他の冒険者達をいくらか追い抜いて。
だけどそこでまた異変に気付いた。
一定の人数を抜いてから距離が縮まらない。
それどころか距離を離されてる感すらある。

 戦場を奔走ほんそうする遊撃手だった俺は足とスタミナにそれなりに自身がある。
なのにペースを保てるギリギリの配分で走ってるのに追い付けない?
まさか前の人達は全力疾走でもしてるのか。

 積み重なる違和感。
ふと振り返るとその正体の1つに気付いた。

「……な、前に進んでねぇ!」

 俺の視線を追って背後を振り返った冒険者が叫んだ。
他の冒険者も後ろを見ると足を止める。

 すぐそこには橋の入口と横たわる魔物の残骸があった。

 前に視線を戻すと、彼らは先へと進めている。

 冒険者を分断する罠?
それとも、何か条件が────

 そこで俺は前を走る冒険者の1人に気付いた。
赤い髪の冒険者。
あの、赤い髪の冒険者。
最初に魔物に握り潰されて殺されたはずの男・・・・・・・・
その男が、走っていた。

 背後で地響き。
もう一度背後を見ると、巨人種が肉体を再生しながら起き上がった。
そしてその周囲には冒険者の死体が1つもない。
多くの冒険者があの魔物の餌食えじきになったはずなのに。

 つまりはそういうことだ。
ヘルが築いた死者アンデッドの国──ヘルヘイム。
死者を支配すると言われた魔物の将の国に入るためには通行証が要るらしい。

 さながらあの巨人種はその通行証を来たものに与える門番。

死ななきゃ通行証がなきゃ通さない、か」

 俺は偽装の光刃を構えて呟いた。
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