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夜に訪れる者
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フランは突然の来訪に驚いていて。
でも俺を見つめる青い瞳に恐れや敵意はなかった。
その眼差しに俺はどこかホッとする。
「その、どうしてここへ?」
フランが訊いてきた。
『……君に会いたかった』
「ふぇっ!?」
俺の言葉に、フランはびっくりして変な声をあげた。
どうしてそんな事を言ったのか自分でも分からない。
でもきっとこれが俺の素直な気持ちだった。
毎日会ってる。
今はほとんど一緒に行動を共にしてる。
でもそれは偽物の俺な気がしていた。
闇の属性適正者であることを隠して過ごす俺は偽物で。
そして闇を操る本当の俺は人々からは畏怖の対象。
だけどフランだけが本当の俺を化け物ではなく、人として見てれている。
そう感じていた。
顔を覆い隠してる方が本当だなんて変な話だ。
でもだからこそ、俺は素直な気持ちを口にできたのかも知れない。
フランはどこかそわそわとしていた。
俺を見ては視線を外し、心なしか顔と耳が赤い気がする。
「私も」
そしてフランは俺にまっすぐ視線を向けて言う。
「あなたに、会いたかった。そ、そそそそ……その。2度も助けてもらったたたたし。お礼ちゃんと言えてなかったから!」
フランはぎゅっと胸の前で拳を握った。
言葉を選んでいるのか、言葉を待っているのか。
俺とフランの間に沈黙が流れる。
「あの、名前を訊いても?」
『ナハト』
俺はフランに答えた。
どこか似た響きの名前を選んだのは、きっと俺がリヒトだと気付いて欲しい気持ちと。
そしてバレたくない気持ちの表れだ。
俺はフランに、自分がリヒトだと名乗れなかった。
この闇の仮面を取る勇気もない。
「ナハト」
フランがその名前を繰り返した。
名前を口にして彼女は嬉しそうに微笑んだ。
「ナハト……さん?」
『ナハトでいい』
「ナハト、また会える?」
『君が望んでくれるなら』
「じゃあ約束」
フランが俺に小指を差し出した。
俺はそれに応えて小指を絡ませる。
フランと1度別れ、気付かれないよう隣の自分の部屋に戻った。
カコン、と音を最小限にひそめて扉を外し、再びドア枠にはめる。
壊れた扉はまだ直ってない。
俺はベッドで横になろうと思ったが、そこにはすでに先客が2人。
すーすー。
ぐーぐー。
寝息を立ててスコルとハティが丸くなって眠ってる。
俺は2人の寝顔を見下ろすと、そっとその頭を撫でた。
耳に指先が当たるとぴこぴこと揺れた。
面白くて何度かわざと触ると、ハティが不機嫌そうに唸って。
尻尾をばさばさと左右に振る。
俺はくすくすと笑うと、ソファで横になった。
眠りにつく。
「────アイゼン、だね」
「誰だお前」
俺は相棒の切っ先をその男に向けた。
俺の周囲には塵になっていく魔物の群れ。
クエストを受けてたわけじゃないが、憂さ晴らしに魔物を狩っていたところだ。
相棒の残弾が2。
相手は1人。
男はブロンドの長髪。
顔はフードでよく見えないが、金色の瞳は猫の目みたいに光ってる。
服装から貴族か王族か。
だが従者を連れている様子はない。
華奢な優男が武器も持たずに。
魔物の頻出する草原には不釣り合いなその男は、俺を見てにやにやと笑ってやがる。
「私は君の協力者だ。君の復讐に手を貸してあげよう。君は属性適正者全てが憎い。だから彼らよりも自身が優れている事を証明しようとしてる。でもそれじゃ君の心は晴れない」
「お前は俺の何を知ってやがる」
「全てだよ。無力な君の目の前で両親と弟が魔物に襲われ、属性適正者は魔物を恐れて君の家族を見殺しにした。戦えたのは彼らだけだったのにね」
男はなんのつもりか俺に手を差し出してきて。
「でも属性適正者をどれだけ憎んでも君が弱いことには変わらない」
「あ?」
手を取れと言わんばかりなのに、その発言は俺の神経を逆撫でする。
「君が憎んでるのは家族を助けられたはずなのに見殺した属性適正者だけじゃない。助ける選択肢すらなかった無力な自分もそこに含まれている」
「黙れ。その耳障りな口を閉じて失せろ」
「嫌だと言ったら?」
俺はいまだに差し出されてるそいつの腕を見る。
「その腕斬り落とすぞ」
「やれるものなら。弱い君には、できないよ」
瞬間。
俺は跳んだ。
煽ったのはてめぇだ。
人の過去に土足で踏み言って好き勝手言いやがって。
地面に転がる自分の腕を見て後悔しやがれ!
俺は男の腕目掛けて相棒を振り下ろした。
「────は?」
「ほら、言っただろう?」
にやりと笑う男。
俺の剣は防がれていた。
男の腕から溢れだした黒いスライム質。
そこから黒い牙と鱗、蟲の脚のようなものが伸びて俺の剣に絡み付いてる。
「てめぇ、魔物か!」
俺はすかさず引き金を引いた。
「いいや、ボクは人間さ」
爆炎を上げて相棒が加速。
絡み付いた拘束を引きちぎり、男の言葉も飲み込んで紅蓮の刃が閃く。
「無駄だって」
黒いスライム質が壁を作り、俺の剣が弾かれた。
見るとスライム質の中に硬質なゴーレムの腕が覗いている。
なんだこいつは。
得体の知れない能力。
だがその黒いスライムみたいなのには見覚えがある。
あのゴブリン女が魔物になったときに現れたものだ。
こいつが人間を魔物に?
「力が欲しいんだろ?」
男が言った。
黒いスライムが様々な魔物の部位に化けて俺へと押し寄せる。
「魔物の力に抵抗はないだろ。その剣だって魔物の力だ」
「くそ!」
俺は迫る魔物の塊に向けて剣を向けた。
撃鉄が最後の炸薬に引火。
爆炎を上げて切っ先が魔物を打つ。
だが、効いてない。
「くそが!!」
俺の相棒が砕かれる。
剣身が分解し、機構の心臓部が露出。
残り火が吹き出して俺の半身を焼き、押し寄せた魔物の塊が剣ごと俺の右腕を飲み込んだ。
俺の身体を何かが蝕んでいた。
薄れていく視界には黒いスライム質に覆われた右腕と、相棒の核のゴーレムの心臓部が見える。
男は俺に歩み寄ると、金色の瞳を愉しそうに細めて言う。
「おめでとう。それが君の望んだ力だよ、アイゼン」
でも俺を見つめる青い瞳に恐れや敵意はなかった。
その眼差しに俺はどこかホッとする。
「その、どうしてここへ?」
フランが訊いてきた。
『……君に会いたかった』
「ふぇっ!?」
俺の言葉に、フランはびっくりして変な声をあげた。
どうしてそんな事を言ったのか自分でも分からない。
でもきっとこれが俺の素直な気持ちだった。
毎日会ってる。
今はほとんど一緒に行動を共にしてる。
でもそれは偽物の俺な気がしていた。
闇の属性適正者であることを隠して過ごす俺は偽物で。
そして闇を操る本当の俺は人々からは畏怖の対象。
だけどフランだけが本当の俺を化け物ではなく、人として見てれている。
そう感じていた。
顔を覆い隠してる方が本当だなんて変な話だ。
でもだからこそ、俺は素直な気持ちを口にできたのかも知れない。
フランはどこかそわそわとしていた。
俺を見ては視線を外し、心なしか顔と耳が赤い気がする。
「私も」
そしてフランは俺にまっすぐ視線を向けて言う。
「あなたに、会いたかった。そ、そそそそ……その。2度も助けてもらったたたたし。お礼ちゃんと言えてなかったから!」
フランはぎゅっと胸の前で拳を握った。
言葉を選んでいるのか、言葉を待っているのか。
俺とフランの間に沈黙が流れる。
「あの、名前を訊いても?」
『ナハト』
俺はフランに答えた。
どこか似た響きの名前を選んだのは、きっと俺がリヒトだと気付いて欲しい気持ちと。
そしてバレたくない気持ちの表れだ。
俺はフランに、自分がリヒトだと名乗れなかった。
この闇の仮面を取る勇気もない。
「ナハト」
フランがその名前を繰り返した。
名前を口にして彼女は嬉しそうに微笑んだ。
「ナハト……さん?」
『ナハトでいい』
「ナハト、また会える?」
『君が望んでくれるなら』
「じゃあ約束」
フランが俺に小指を差し出した。
俺はそれに応えて小指を絡ませる。
フランと1度別れ、気付かれないよう隣の自分の部屋に戻った。
カコン、と音を最小限にひそめて扉を外し、再びドア枠にはめる。
壊れた扉はまだ直ってない。
俺はベッドで横になろうと思ったが、そこにはすでに先客が2人。
すーすー。
ぐーぐー。
寝息を立ててスコルとハティが丸くなって眠ってる。
俺は2人の寝顔を見下ろすと、そっとその頭を撫でた。
耳に指先が当たるとぴこぴこと揺れた。
面白くて何度かわざと触ると、ハティが不機嫌そうに唸って。
尻尾をばさばさと左右に振る。
俺はくすくすと笑うと、ソファで横になった。
眠りにつく。
「────アイゼン、だね」
「誰だお前」
俺は相棒の切っ先をその男に向けた。
俺の周囲には塵になっていく魔物の群れ。
クエストを受けてたわけじゃないが、憂さ晴らしに魔物を狩っていたところだ。
相棒の残弾が2。
相手は1人。
男はブロンドの長髪。
顔はフードでよく見えないが、金色の瞳は猫の目みたいに光ってる。
服装から貴族か王族か。
だが従者を連れている様子はない。
華奢な優男が武器も持たずに。
魔物の頻出する草原には不釣り合いなその男は、俺を見てにやにやと笑ってやがる。
「私は君の協力者だ。君の復讐に手を貸してあげよう。君は属性適正者全てが憎い。だから彼らよりも自身が優れている事を証明しようとしてる。でもそれじゃ君の心は晴れない」
「お前は俺の何を知ってやがる」
「全てだよ。無力な君の目の前で両親と弟が魔物に襲われ、属性適正者は魔物を恐れて君の家族を見殺しにした。戦えたのは彼らだけだったのにね」
男はなんのつもりか俺に手を差し出してきて。
「でも属性適正者をどれだけ憎んでも君が弱いことには変わらない」
「あ?」
手を取れと言わんばかりなのに、その発言は俺の神経を逆撫でする。
「君が憎んでるのは家族を助けられたはずなのに見殺した属性適正者だけじゃない。助ける選択肢すらなかった無力な自分もそこに含まれている」
「黙れ。その耳障りな口を閉じて失せろ」
「嫌だと言ったら?」
俺はいまだに差し出されてるそいつの腕を見る。
「その腕斬り落とすぞ」
「やれるものなら。弱い君には、できないよ」
瞬間。
俺は跳んだ。
煽ったのはてめぇだ。
人の過去に土足で踏み言って好き勝手言いやがって。
地面に転がる自分の腕を見て後悔しやがれ!
俺は男の腕目掛けて相棒を振り下ろした。
「────は?」
「ほら、言っただろう?」
にやりと笑う男。
俺の剣は防がれていた。
男の腕から溢れだした黒いスライム質。
そこから黒い牙と鱗、蟲の脚のようなものが伸びて俺の剣に絡み付いてる。
「てめぇ、魔物か!」
俺はすかさず引き金を引いた。
「いいや、ボクは人間さ」
爆炎を上げて相棒が加速。
絡み付いた拘束を引きちぎり、男の言葉も飲み込んで紅蓮の刃が閃く。
「無駄だって」
黒いスライム質が壁を作り、俺の剣が弾かれた。
見るとスライム質の中に硬質なゴーレムの腕が覗いている。
なんだこいつは。
得体の知れない能力。
だがその黒いスライムみたいなのには見覚えがある。
あのゴブリン女が魔物になったときに現れたものだ。
こいつが人間を魔物に?
「力が欲しいんだろ?」
男が言った。
黒いスライムが様々な魔物の部位に化けて俺へと押し寄せる。
「魔物の力に抵抗はないだろ。その剣だって魔物の力だ」
「くそ!」
俺は迫る魔物の塊に向けて剣を向けた。
撃鉄が最後の炸薬に引火。
爆炎を上げて切っ先が魔物を打つ。
だが、効いてない。
「くそが!!」
俺の相棒が砕かれる。
剣身が分解し、機構の心臓部が露出。
残り火が吹き出して俺の半身を焼き、押し寄せた魔物の塊が剣ごと俺の右腕を飲み込んだ。
俺の身体を何かが蝕んでいた。
薄れていく視界には黒いスライム質に覆われた右腕と、相棒の核のゴーレムの心臓部が見える。
男は俺に歩み寄ると、金色の瞳を愉しそうに細めて言う。
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