【 暗黒剣士の聖十字 】 ~属性適正がまさかの闇で騎士団追放。でも魔王と呼ばれるようになった俺の力がないと騎士団が崩壊するって?~

岸本 雪兎

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魔物の統治を始めよう

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 ゴブリン・ロードナイトからの報告はレズモンドから聞いた話を裏付けるものだった。
魔物の変異。
そして中にはマザー・ゴブリンのように人から魔物へと変わった個体も複数。
ロードナイトは人からの変異種を討伐せずに隔離してくれているらしい。

 ハティなら彼らを人に戻せるし、その身に何が起こったのかく事ができる。
マザー・ゴブリンへと変貌へんぼうした女性からは有益な情報は聞けなかったけど、今回は何か手がかりが得られるかも。

「……あるじヨ」

 一通りの報告を終えたロードナイトが俺に向き直る。

 ロードナイトは得物に手をかけた。
ゴブリンキングから得た、豪華な王笏おうしゃく禍々まがまがしい戦斧せんぷが一体となった武器を軽々と持ち上げる。

「配下達ガアルジを我ガ主人デアルト認メテイナイ。ソノオちから、ココデしめシテハ、イタダケマセンカ」

 俺は周囲に視線を走らせ、なるほどと納得した。
無数のゴブリンが俺を見る目は敵意と拒絶に満ちている。

 ここにつどうゴブリン達にとっての王はロードナイトであり、その王の上にいるのが俺というのが気に入らないらしい。

『分かった』

 俺はクレイモアを構えた。

 多くの配下を従え、その数に比例して力を増すゴブリン・ロードナイトの真価。
見せてもらおう。

 俺が応じるとゴブリン・ロードナイトの身体から闇が膨れ上がった。
吐き出された闇が戦斧せんぷを覆い、重厚な刃からはびや腐食ががれ落ちる。

 ギラリと闇色に光る刃先が空気をいだ。
低い風のうなりを上げ、ロードナイトは戦斧を振りかぶる。

 無音。

 いで大地を踏み抜く勢いでロードナイトが跳んだ。
蹴り出された大地が爆発したようにえぐれて。

 俺はロードナイトが動くのと同時にクレイモアを深淵しんえんのような限りない黒に染め上げた。
気を抜けば今にも弾けてしまいそうな高濃度に圧縮された闇の十字剣で迎え撃つ。

 重なりあう戦斧せんぷと十字剣。
遅れてロードナイトの跳躍による衝撃波が轟音を伴って走り抜けた。

 音すら置き去りに。
それでいてその一撃は超重ちょうじゅう
戦斧せんぷの質量と強化された肉体の膂力りょりょく、そして闇による強化が合わさり、砕けないものはないのではと錯覚さっかくするほどの威力がおそらく・・・・あった。

 ただもちろん例外はある。

 そのゴブリン・ロードナイトの一撃を受け止めた俺のクレイモアは砕けてなんかいない。

 ロードナイトはすかさず戦斧せんぷを再び縦に。
横に。
袈裟けさに。
振り上げ。
振り下ろして。

 人の身の丈以上の巨大な刃が幾度となくおどった。
激しい嵐のような突風が吹き荒れる。

 やはり強い。
俺は素直にロードナイトの能力を心の中で称賛した。

 聖騎士団の団長はもとより、王国騎士のレズモンドすら真っ向勝負なら歯が立たないだろう。
加えてこの強さで何度でも甦る。
自分で生み出した魔物だが末恐ろしい力だ。

 周りのゴブリン達は攻め立てるロードナイトと、それを受け止める俺の攻防を固唾かたずを飲んで見守っていた。

 言葉はなく。
そして俺が目を向けると、先程までとは打って変わって敵意や拒絶もない。
それは恐怖。
俺への恐れがその小さな瞳いっぱいに表れる。

『さて』

 俺はロードナイトへと視線を戻した。

『これで終わりにしよう』

 俺はクレイモアを振りかぶった。
小さな風切り1つ、しなかった。
俺のクレイモアは無音。
ロードナイトの攻撃を受け止めた時すら金属音1つ響かせない。

 すでに俺の闇の刃は。
音や衝撃すら喰らいつくす。

 今までの戦闘ならあれだけの攻撃。
受け止めた俺は耐えられても足場や周囲の環境が耐えられなかった。
だけど今はクレイモアの闇の濃度と使い方が違う。

 極限まで圧縮された闇の刃は、敵の攻撃と俺との間を膨大な空間で隔てるのに似た効果を生んでいた。
俺にはその衝撃は届かない。
だから“おそらく”。
届いていない威力は想像することしかできなかった。

 ロードナイトは俺が攻撃に転じるのを察すると後ろに跳んだ。

 だけど逃がさない。

 俺は闇に溶けたように音もなく空間を移動してゴブリン・ロードナイトに肉薄。
深く地を這うような低い姿勢から。
圧縮された闇を解放しながらクレイモアを突き上げる。

 放たれた暗黒の斬撃が天をいた。
立ち上る闇の奔流ほんりゅうは暗い夜空と微かにまたたく星々を飲み込んで。
空にぽっかりと黒い穴を穿うがつ。

 月と重なりあう闇の真円。
それは夜に燃える黒い太陽にも見えた。

『…………オ見事デゴザイマス』

 周囲の闇から肉体を再構成するロードナイトが言った。
薄闇に不確かな影が浮かび、それが実体を持つ。

 ゴブリン・ロードナイトは俺にひざまづいた。
気付くと周りのゴブリン達も俺を中心に平伏している。

『我ラガ魔物全テヲベルおうヨ。今コソ、ソノオちからデ……!』

『王、か』

 俺はロードナイトの言葉を繰り返した。
べる王……べるに値するという意味か。

 俺の目的はリーンハルトを糾弾きゅうだんして聖騎士団を正しい在り方に戻すこと。
だけどそれは魔物と闇の脅威から人々を守るためだ。

 人にあだなす魔物から人々を守る。
ならそもそも魔物が人を襲わなくさせる事ができたなら。
俺が魔物の王となって魔物を支配できたなら。

 “あれは────魔物です”

 ふとレズモンドの言葉を思い出した。
あれは闇を操る強力な魔物です、と。
闇を操る俺を、あのと呼んだフランを否定するように言った言葉だ。

『…………』

 俺の闇の仮面はその表情かおを覆い隠したまま。

 俺にできる。
そして俺にしかできない、闇から人々を救う手段。
迷うことはない。
ない、はずだ。

『これから俺は魔物の統治を始める。協力してくれ、ロードナイト』

おおセノママニ。我ラガおうヨ』

 俺はこうして魔物の王になることを、決めた。
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