【 暗黒剣士の聖十字 】 ~属性適正がまさかの闇で騎士団追放。でも魔王と呼ばれるようになった俺の力がないと騎士団が崩壊するって?~

岸本 雪兎

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休暇の騎士と。ゴブリン・ロードナイトのもとへ

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 フランを助け出して一週間が過ぎた。

 あれからリーネ=ヒルデガルド王女の目に見えた動きはない。
第1王女という立場だ。
護衛についていた兵士と騎士を何者かに突破され、さらに王国騎士のレズモンドも敗れた。
身の安全のために行動が大きく制限されているのではないかと思────

「やあ」

 考えてるそばから王女の刺客。
それは果たして何の意図か。
左右に美女をはべらせて。
王国騎士レズモンドが俺に挨拶する。

「だぁれ、その子」

 肌の露出の多い女性がいた。
彼女はレズモンドの腕にしがみつき、その大きな胸を押し付けている。

「俺の後輩候補くん」

「うそ、レズモンド様の後輩ってことは王国騎士?」

「まだ若いのに将来有望かぁ。ツバつけとこうかな」

 俺を見る2人の女性の目が明らかに変わった。
1人はスカートのスリットから大胆にそのなめまかしい脚をさらし、もう一人は胸の谷間を強調する。

「本人には今のところその気はないようだけれどね」

 レズモンドはそう言うとふところから金貨を取り出し、ジャラジャラともてあそんだ。
黄金に輝く硬貨の音色に、2人の美女はレズモンドに視線を戻す。

「俺以外の男に色目を使うのは感心しないな」

 レズモンドは握った金貨で女性の脚を。
そしてもう一人の胸をなぞった。
女性のものとは違う色気を放ちながら、レズモンドは2人の視線を強く自分に引き付ける。

 レズモンドは自分に夢中の2人に交互に視線を返すと、いで俺を見た。

 その視線が俺にだけ向いているのを確認して。

「何の用ですか」

 俺は静かにレズモンドにたずねた。
リーネ=ヒルデガルド王女のめいでフランをまたさらうつもりなのか。

「そう警戒しなくてもいい。今の俺はオフだよ。王国騎士も王女の護衛も関係ない」

「オフ?」

「そう、お休み。言ったろ、休日も全然申請できるって。今は療養のための休職してる。この間特異な魔物の襲撃を受けてね。金のために普段はしない無茶をしたから全身ガタガタだよ」

 レズモンドはそう言うと肩をすくめた。

 それはそうだろう。
俺のあの時出せる全力の攻撃を受けたんだ。
怪我も負うだろうし、むしろそうやって今、遊び歩けてるのが異常だ。

 俺はレズモンドの左右の女性を見る。

「そしてその魔物を、第1級指定禁忌きんき種に指定した」

「第1級指定禁忌きんき種?」

 レズモンドの言葉に思わず聞き返した。
ずいぶんと仰々ぎょうぎょうしい呼称だ。

「ギルドなんかでも特定個体を相手にするクエストの際に情報として張り出される階級の一種。その最上位だ。基本的には魔物の階級じゃなくクエストの難易度によるランク付けがメインだから冒険者が耳にする事はほとんどないだろうけどね」

「使うのはほんとにまれね。前に3級指定のクエストを発行したのが私は最初で最後」

「私達これでも普段は受付嬢をやってるのよ。王都の方のギルド本部に所属してるから、立ち寄ったときには顔を見せてね。受けられるクエスト、サービスしとくよ」

 ひらひらと指先を泳がせて女の人が言った。
もう一人が続いてウィンクする。

 本部の、受付嬢……。
アンさんが俺の情報が引き出された形跡があったって言ってたけど、もしかしてこの2人が?

「そして殿下、戻っておられたのですね」

 レズモンドは俺の背後に目を向けた。
その声に背後でびくりと揺れる影。
俺の服の裾を握っていた手に力がこもる。

 そこにいるのはフランだ。
次またいつ狙われるかも分からない。
そのために俺はフランと可能な限り行動を共にするようにしていた。

 視線が俺にしか向いてないから気付かれてないと思ったのに。
やはりこの男は油断ならない。

レズモンドは俺の陰から出てこないフランに続けて言う。

「あの魔物にさらわれた御身おんみ、ご無事で何より。良ければあの魔物の事を聞かせていただいても?」

「…………私も分からない。気を失ってた私はリヒトんとアイゼンさんに見つけてもらった。私も知りたいけど、あの人の事は何も知らないの」

「ふむ。あの人・・・、ですか」

 レズモンドは眉をひそめた。

「リヒト、あれは闇を操る強力な魔物・・です。いくら光の属性きみでも敵う相手じゃない」

 レズモンドはため息混じりに続ける。

「王国騎士は国の守護を担う最大戦力。本来その俺達の出番は滅多めったにくるものではなかったのに、最近はおかしな魔物の発生が多数報告されていてね。国の脅威きょういとして対応する羽目になった次は、暗黒剣士ダーク・フェンサーだ」

暗黒剣士ダーク・フェンサー?」

「あの魔物の呼称だよ。そう形容するのが一番しっくりきてね」

 まさか勝手に呼び名までつけられてるとは思わなかった。

 そしてやはり異変は広がってるらしい。
おかしな魔物とはドラゴ・ソーサラーやマザー・ゴブリンような変異種の事だろう。

 ちょうどいい。
今夜はゴブリン・ロードナイトのもとにおもむいて、得られた情報を確認する予定だった。

 近郊での魔物被害の報告が減ってるのはおそらく彼と配下のゴブリンの活躍。
同時にねぎらってあげようと思う。






 迎えた夜。
俺は荒野の一角に潜んでいたゴブリン・ロードナイトと接触。
闇夜に浮かぶ彼の配下の影は辺りを埋め尽くす勢いだった。
凄まじい数のゴブリンを従えているロードナイトの実力は、前に見せられたものとはきっと一線を画すものになっているだろう。

『報告ヲ』

 ロードナイトが喋った。
俺は彼に言葉を与えた覚えはない。
おそらく与えた能力の応用を自ら行使している。

 その意思を俺に伝える仲立ちのためにスコルを連れてきたけど不要だったようだ。
ちなみにハティはフランの護衛として街に残してきてある。

『聞こう』

 見られても大丈夫なよう、闇の仮面で顔を覆い隠した俺はロードナイトに言った。
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