42 / 101
休暇の騎士と。ゴブリン・ロードナイトのもとへ
しおりを挟む
フランを助け出して一週間が過ぎた。
あれからリーネ=ヒルデガルド王女の目に見えた動きはない。
第1王女という立場だ。
護衛についていた兵士と騎士を俺に突破され、さらに王国騎士のレズモンドも敗れた。
身の安全のために行動が大きく制限されているのではないかと思────
「やあ」
考えてるそばから王女の刺客。
それは果たして何の意図か。
左右に美女をはべらせて。
王国騎士レズモンドが俺に挨拶する。
「だぁれ、その子」
肌の露出の多い女性が訊いた。
彼女はレズモンドの腕にしがみつき、その大きな胸を押し付けている。
「俺の後輩候補くん」
「うそ、レズモンド様の後輩ってことは王国騎士?」
「まだ若いのに将来有望かぁ。ツバつけとこうかな」
俺を見る2人の女性の目が明らかに変わった。
1人はスカートのスリットから大胆にそのなめまかしい脚を晒し、もう一人は胸の谷間を強調する。
「本人には今のところその気はないようだけれどね」
レズモンドはそう言うと懐から金貨を取り出し、ジャラジャラと玩んだ。
黄金に輝く硬貨の音色に、2人の美女はレズモンドに視線を戻す。
「俺以外の男に色目を使うのは感心しないな」
レズモンドは握った金貨で女性の脚を。
そしてもう一人の胸をなぞった。
女性のものとは違う色気を放ちながら、レズモンドは2人の視線を強く自分に引き付ける。
レズモンドは自分に夢中の2人に交互に視線を返すと、次いで俺を見た。
その視線が俺にだけ向いているのを確認して。
「何の用ですか」
俺は静かにレズモンドに訊ねた。
リーネ=ヒルデガルド王女の命でフランをまた拐うつもりなのか。
「そう警戒しなくてもいい。今の俺はオフだよ。王国騎士も王女の護衛も関係ない」
「オフ?」
「そう、お休み。言ったろ、休日も全然申請できるって。今は療養のための休職してる。この間特異な魔物の襲撃を受けてね。金のために普段はしない無茶をしたから全身ガタガタだよ」
レズモンドはそう言うと肩をすくめた。
それはそうだろう。
俺のあの時出せる全力の攻撃を受けたんだ。
怪我も負うだろうし、むしろそうやって今、遊び歩けてるのが異常だ。
俺はレズモンドの左右の女性を見る。
「そしてその魔物を、第1級指定禁忌種に指定した」
「第1級指定禁忌種?」
レズモンドの言葉に思わず聞き返した。
ずいぶんと仰々しい呼称だ。
「ギルドなんかでも特定個体を相手にするクエストの際に情報として張り出される階級の一種。その最上位だ。基本的には魔物の階級じゃなくクエストの難易度によるランク付けがメインだから冒険者が耳にする事はほとんどないだろうけどね」
「使うのはほんとに稀ね。前に3級指定のクエストを発行したのが私は最初で最後」
「私達これでも普段は受付嬢をやってるのよ。王都の方のギルド本部に所属してるから、立ち寄ったときには顔を見せてね。受けられるクエスト、サービスしとくよ」
ひらひらと指先を泳がせて女の人が言った。
もう一人が続いてウィンクする。
本部の、受付嬢……。
アンさんが俺の情報が引き出された形跡があったって言ってたけど、もしかしてこの2人が?
「そして殿下、戻っておられたのですね」
レズモンドは俺の背後に目を向けた。
その声に背後でびくりと揺れる影。
俺の服の裾を握っていた手に力がこもる。
そこにいるのはフランだ。
次またいつ狙われるかも分からない。
そのために俺はフランと可能な限り行動を共にするようにしていた。
視線が俺にしか向いてないから気付かれてないと思ったのに。
やはりこの男は油断ならない。
レズモンドは俺の陰から出てこないフランに続けて言う。
「あの魔物に拐われた御身、ご無事で何より。良ければあの魔物の事を聞かせていただいても?」
「…………私も分からない。気を失ってた私はリヒトんとアイゼンさんに見つけてもらった。私も知りたいけど、あの人の事は何も知らないの」
「ふむ。あの人、ですか」
レズモンドは眉をひそめた。
「リヒト、あれは闇を操る強力な魔物です。いくら光の属性でも敵う相手じゃない」
レズモンドはため息混じりに続ける。
「王国騎士は国の守護を担う最大戦力。本来その俺達の出番は滅多にくるものではなかったのに、最近はおかしな魔物の発生が多数報告されていてね。国の脅威として対応する羽目になった次は、暗黒剣士だ」
「暗黒剣士?」
「あの魔物の呼称だよ。そう形容するのが一番しっくりきてね」
まさか勝手に呼び名までつけられてるとは思わなかった。
そしてやはり異変は広がってるらしい。
おかしな魔物とはドラゴ・ソーサラーやマザー・ゴブリンような変異種の事だろう。
ちょうどいい。
今夜はゴブリン・ロードナイトのもとに赴いて、得られた情報を確認する予定だった。
近郊での魔物被害の報告が減ってるのはおそらく彼と配下のゴブリンの活躍。
同時に労ってあげようと思う。
迎えた夜。
俺は荒野の一角に潜んでいたゴブリン・ロードナイトと接触。
闇夜に浮かぶ彼の配下の影は辺りを埋め尽くす勢いだった。
凄まじい数のゴブリンを従えているロードナイトの実力は、前に見せられたものとはきっと一線を画すものになっているだろう。
『報告ヲ』
ロードナイトが喋った。
俺は彼に言葉を与えた覚えはない。
おそらく与えた能力の応用を自ら行使している。
その意思を俺に伝える仲立ちのためにスコルを連れてきたけど不要だったようだ。
ちなみにハティはフランの護衛として街に残してきてある。
『聞こう』
見られても大丈夫なよう、闇の仮面で顔を覆い隠した俺はロードナイトに言った。
あれからリーネ=ヒルデガルド王女の目に見えた動きはない。
第1王女という立場だ。
護衛についていた兵士と騎士を俺に突破され、さらに王国騎士のレズモンドも敗れた。
身の安全のために行動が大きく制限されているのではないかと思────
「やあ」
考えてるそばから王女の刺客。
それは果たして何の意図か。
左右に美女をはべらせて。
王国騎士レズモンドが俺に挨拶する。
「だぁれ、その子」
肌の露出の多い女性が訊いた。
彼女はレズモンドの腕にしがみつき、その大きな胸を押し付けている。
「俺の後輩候補くん」
「うそ、レズモンド様の後輩ってことは王国騎士?」
「まだ若いのに将来有望かぁ。ツバつけとこうかな」
俺を見る2人の女性の目が明らかに変わった。
1人はスカートのスリットから大胆にそのなめまかしい脚を晒し、もう一人は胸の谷間を強調する。
「本人には今のところその気はないようだけれどね」
レズモンドはそう言うと懐から金貨を取り出し、ジャラジャラと玩んだ。
黄金に輝く硬貨の音色に、2人の美女はレズモンドに視線を戻す。
「俺以外の男に色目を使うのは感心しないな」
レズモンドは握った金貨で女性の脚を。
そしてもう一人の胸をなぞった。
女性のものとは違う色気を放ちながら、レズモンドは2人の視線を強く自分に引き付ける。
レズモンドは自分に夢中の2人に交互に視線を返すと、次いで俺を見た。
その視線が俺にだけ向いているのを確認して。
「何の用ですか」
俺は静かにレズモンドに訊ねた。
リーネ=ヒルデガルド王女の命でフランをまた拐うつもりなのか。
「そう警戒しなくてもいい。今の俺はオフだよ。王国騎士も王女の護衛も関係ない」
「オフ?」
「そう、お休み。言ったろ、休日も全然申請できるって。今は療養のための休職してる。この間特異な魔物の襲撃を受けてね。金のために普段はしない無茶をしたから全身ガタガタだよ」
レズモンドはそう言うと肩をすくめた。
それはそうだろう。
俺のあの時出せる全力の攻撃を受けたんだ。
怪我も負うだろうし、むしろそうやって今、遊び歩けてるのが異常だ。
俺はレズモンドの左右の女性を見る。
「そしてその魔物を、第1級指定禁忌種に指定した」
「第1級指定禁忌種?」
レズモンドの言葉に思わず聞き返した。
ずいぶんと仰々しい呼称だ。
「ギルドなんかでも特定個体を相手にするクエストの際に情報として張り出される階級の一種。その最上位だ。基本的には魔物の階級じゃなくクエストの難易度によるランク付けがメインだから冒険者が耳にする事はほとんどないだろうけどね」
「使うのはほんとに稀ね。前に3級指定のクエストを発行したのが私は最初で最後」
「私達これでも普段は受付嬢をやってるのよ。王都の方のギルド本部に所属してるから、立ち寄ったときには顔を見せてね。受けられるクエスト、サービスしとくよ」
ひらひらと指先を泳がせて女の人が言った。
もう一人が続いてウィンクする。
本部の、受付嬢……。
アンさんが俺の情報が引き出された形跡があったって言ってたけど、もしかしてこの2人が?
「そして殿下、戻っておられたのですね」
レズモンドは俺の背後に目を向けた。
その声に背後でびくりと揺れる影。
俺の服の裾を握っていた手に力がこもる。
そこにいるのはフランだ。
次またいつ狙われるかも分からない。
そのために俺はフランと可能な限り行動を共にするようにしていた。
視線が俺にしか向いてないから気付かれてないと思ったのに。
やはりこの男は油断ならない。
レズモンドは俺の陰から出てこないフランに続けて言う。
「あの魔物に拐われた御身、ご無事で何より。良ければあの魔物の事を聞かせていただいても?」
「…………私も分からない。気を失ってた私はリヒトんとアイゼンさんに見つけてもらった。私も知りたいけど、あの人の事は何も知らないの」
「ふむ。あの人、ですか」
レズモンドは眉をひそめた。
「リヒト、あれは闇を操る強力な魔物です。いくら光の属性でも敵う相手じゃない」
レズモンドはため息混じりに続ける。
「王国騎士は国の守護を担う最大戦力。本来その俺達の出番は滅多にくるものではなかったのに、最近はおかしな魔物の発生が多数報告されていてね。国の脅威として対応する羽目になった次は、暗黒剣士だ」
「暗黒剣士?」
「あの魔物の呼称だよ。そう形容するのが一番しっくりきてね」
まさか勝手に呼び名までつけられてるとは思わなかった。
そしてやはり異変は広がってるらしい。
おかしな魔物とはドラゴ・ソーサラーやマザー・ゴブリンような変異種の事だろう。
ちょうどいい。
今夜はゴブリン・ロードナイトのもとに赴いて、得られた情報を確認する予定だった。
近郊での魔物被害の報告が減ってるのはおそらく彼と配下のゴブリンの活躍。
同時に労ってあげようと思う。
迎えた夜。
俺は荒野の一角に潜んでいたゴブリン・ロードナイトと接触。
闇夜に浮かぶ彼の配下の影は辺りを埋め尽くす勢いだった。
凄まじい数のゴブリンを従えているロードナイトの実力は、前に見せられたものとはきっと一線を画すものになっているだろう。
『報告ヲ』
ロードナイトが喋った。
俺は彼に言葉を与えた覚えはない。
おそらく与えた能力の応用を自ら行使している。
その意思を俺に伝える仲立ちのためにスコルを連れてきたけど不要だったようだ。
ちなみにハティはフランの護衛として街に残してきてある。
『聞こう』
見られても大丈夫なよう、闇の仮面で顔を覆い隠した俺はロードナイトに言った。
0
お気に入りに追加
121
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


【後日談完結】10日間の異世界旅行~帰れなくなった二人の異世界冒険譚~
ばいむ
ファンタジー
剣と魔法の世界であるライハンドリア・・・。魔獣と言われるモンスターがおり、剣と魔法でそれを倒す冒険者と言われる人達がいる世界。
高校の休み時間に突然その世界に行くことになってしまった。この世界での生活は10日間と言われ、混乱しながらも楽しむことにしたが、なぜか戻ることができなかった。
特殊な能力を授かるわけでもなく、生きるための力をつけるには自ら鍛錬しなければならなかった。魔獣を狩り、いろいろな遺跡を訪ね、いろいろな人と出会った。何度か死にそうになったこともあったが、多くの人に助けられながらも少しずつ成長していった。
冒険をともにするのは同じく異世界に転移してきた女性・ジェニファー。彼女と出会い、そして・・・。
初投稿というか、初作品というか、まともな初執筆品です。
今までこういうものをまともに書いたこともなかったのでいろいろと変なところがあるかもしれませんがご了承ください。
誤字脱字等あれば連絡をお願いします。
感想やレビューをいただけるととてもうれしいです。書くときの参考にさせていただきます。
おもしろかっただけでも励みになります。
2021/6/27 無事に完結しました。
2021/9/10 後日談の追加開始
2022/2/18 後日談完結
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~
一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。
しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。
流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。
その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。
右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。
この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。
数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。
元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。
根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね?
そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。
色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。
……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記
ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。
そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。
【魔物】を倒すと魔石を落とす。
魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。
世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる