【 暗黒剣士の聖十字 】 ~属性適正がまさかの闇で騎士団追放。でも魔王と呼ばれるようになった俺の力がないと騎士団が崩壊するって?~

岸本 雪兎

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騎士団の現状 その2

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「────もう少しまともな弁明はできないのかね、リーンハルト君」

「君を聖騎士団総団長にすれば何かと便宜べんぎはかれると思ったのに。今じゃ利益の前に身の安全の心配をしなければならんとはな」

「私への恩をあだで返したこと、決して忘れはせんぞ! こともあろうにこの私の街での闇払いで不備を起こし、魔物の変異を起こさせるなど……!」

「……聖堂都市の防衛も、じり貧だと聞いている。防壁の外の闇払いもままならない状態だとか?」

「あまつさえ先日はついに街への魔物の侵入を許したとも」

「魔物が聖堂都市の深奥しんおうにある封印に到達すれば邪神が甦るのだろ? あまねく魔物の全てを生んだ魔物の祖。よこしまな創造主サマが」

「1000年守られた安寧あんねいを壊すつもりかね」

 私は今、一時的に聖堂都市を離れていた。
名門貴族や王族を筆頭にした権力者の方々に囲まれて。
だが彼らから受けているのは称賛でも賛辞でも、ない。

 私は平静を装いながらも、奥底でははらわたが煮えくり返る思いだ。
感情に呼応して暴発しそうになる光の属性をなんとか抑え込んで安定させる。
内に秘めた光の力が強すぎるがゆえの弊害へいがいなのだろう。
これも私が光の属性の使い手の中でも、さらに選ばれた存在だという左証さしょうなのだ。

 ……だというのに。
配下の無能どもの失態の責任を、この私が問われていた。

 聖堂都市の防衛は思うように機能せず。
闇払いは失敗し。
そこで愛想を尽かした私は騎士団から平民を全て退団させて。
代わりに教養と知性溢れる貴族や王族の出の騎士を多く引き入れた。

 だが愚図ぐずどもに合わせた仕組みが騎士団には強く根付き、引き入れた騎士達がうまく力を発揮できなかったようだ。
私の思い描いた形とは異なり、都市の防衛状況はさらに悪化。
指摘されたように魔物の侵入を許す始末だ。
今騎士団で改革を行わせているが、未だ目に見えた進展がない。
 
「人員を大きく入れ替えたようだが、そもそも防衛のほころびは遊撃手を退団させた事が発端ほったんだと聞いたぞ」

「ヴィルヘルムが目をかけていたほどの手練れ。何故手放したのか」

 闇属性のガキと、何よりあの老いぼれの名前を聞いて私の眉がぴくりと揺れた。

「なんだね? 不満でもあるのか、リーンハルト」

「いえ、滅相もありません」

 努めて平静な声で答えた。

 いけない。
心を落ち着かせなければ。

「いっそヴィルヘルムを呼び戻すことはできんのかね」

「それは無理でしょうな。国境は人の存在できる境界線上に配置されている。越えれば生物はみな、灰になるのです。ヴィルは国外追放。光を操る彼が仮に身体を保てても、今ごろは飢えて死んでいるでしょう」

「我ら人類の存続できる大地は狭すぎる」

「国の外は灰に。中心部の瘴海しょうかいでは闇に飲まれてちりに。長く連なって輪を描く山脈のふもととその周囲でしか生きられない」

「そしてその限られた大地も魔物どもに奪われつつある。もし邪神の復活を許せば、間違いなくこの大地の支配者は私達人間から魔物へと変わるだろう」

「2度と魔物の侵入を許すなよ、リーンハルト。貴様を総団長の座へ後押ししたのが我らなら。そして引きずり下ろすことも容易いと知れ」

「もちろんでございます。これまでの失態、必ずや働きで償ってみせましょう」

 私はそう言って深々と頭を下げた。

「…………」

 ふと私が盗み見た顔には、笑み。
思わず私はぎょっとした。
終始言葉を発さずに席についていたロキ様はほくそ笑んでいて。

 私を嘲笑あざわらっている?
違うようだ。
あの方は常に策を巡らせているお方。
何か閃いてるご様子。

「よろしいかな」

 そしてついにロキ様が口を開いた。

「リーンハルト様と皆様に私から提案がございます。かねてから計画されていた瘴海しょうかいの無力化。ですが王国騎士は国の脅威となると定義した新種──呼称『暗黒剣士ダーク・フェンサー』の討伐を最優先に活動を開始し、こちらの計画に人はけないという。王国騎士の力は強大。その代わりを務める事ができる者は限られている」

「その代わりをリーンハルトにさせると?」

 ロキ様がうなずく。

瘴海しょうかいを一部でも無力化して航路としてひらければその恩恵は計り知れないものがあります」

 そう言ってロキ様が私に視線を向けた。
その目が物語っている。
与えたチャンスを無駄にするなと。

「お任せください。必ずや私がこの選ばれた光の力をもってご期待にこたえてみせます!」

 私はここにいる権力者達に宣言した。
私の信頼は失われようとしている。
挽回するにはここしかない。

「うんうん。良く言った。さすがはボク・・のリーンハルトだ」

 ロキ様は大きくうなずくと、またたのしげな笑みを浮かべた。
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