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絶対に逃がしませんわ
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「────」
「お待ちなさい」
回答を急かしたリーネ=ヒルデガルド王女自身が俺の発言を遮った。
「貴方、まさか断ろうだなんて思ってませんわよね?」
王女様がつかつかと俺に歩み寄ってくる。
どうやら傍若無人なお姫様も人の顔色は読めるらしい。
俺が断るのを察して止めにきた。
「嘘ですわよね?」
いや、本当です。
「やはり学のない下民にはこれがどれほど素晴らしい提案なのか、みっちり教えて差し上げないといけなくて?!」
いえ、結構です。
「レズモンド!」
言葉はなくとも俺の心が変わらないのを察してる。
ついにはレズモンドに助けを求めた。
「御意。……賃金は破格な上に、わりと簡単に色々なものが経費で落とせる。折られた剣もより高いものに経費で買い換えるつもりだ。国の防衛が職務内容になっているためあまり休みがないイメージを持たれがちだが、それも過去の話。俺がごねまくって前例をたくさん作った。後輩となる君は気兼ねなく休日希望を出すといい」
「ち、違う。違うわ、レズモンド。私はそんな俗物的な説明が欲しかったわけじゃないの!」
「……ふむ」
レズモンドは顎に手を添えた。
「…………」
そしてくるりとリーネ=ヒルデガルド王女に振り返る。
「高尚な目的や崇高な理念を私に説かせるのは無茶では?」
「そうね。それは私が間違ってましたわ……」
呆れる王女様。
俺は静かにクエストの目的である霊薬の花を拾い上げた。
「お待ちなさいってば。この私の側に仕えられるのよ? 第1王女よ、権力も美貌も兼ね備えたこの私なのよ」
食い下がる王女様。
その時、彼女を半眼で見ていたハティが言う。
「顔は似てるのにあの女とは真逆なのね。あっちは身分とか特別扱いを嫌がってたのに」
瞬間、リーネ=ヒルデガルド王女の目の色が変わった。
口許に浮かんだ冷たい笑みとは対照的に、緑色の瞳の奥には執念にも似た灯。
「あなたが言ってるのはもしかしてエーファの事かしら? 貴女達、エーファ=フランシスカ・ロア・キングスブライドを知っているのかしら?」
嬉しそうな笑みの仮面の下に、冷酷な表情を忍ばせて。
声を弾ませて問いかけてくるが、その瞳に燃える激情は隠せない。
「……知らない」
ハティがぷいと顔を背けて言った。
「そう、ご存知ないのですね」
「な、名前も聞いたこと……な、なななないです……」
スコルがハティのフォローをするために、しどろもどろのに答えた。
「そうでしたの。エーファは私の妹なのですけど。私の幼少期に似て可愛らしい顔立ちをしているのよ。それはもう────憎らしいほどに、可愛いの」
「リーネ=ヒルデガルド王女殿下。せっかくの申し出ですが、丁重にお断りさせていただきます」
俺は彼女の意識が逸れている隙に断りを告げた。
彼女達と一緒はまずい。
これ以上ボロが出る前にすぐにでもこの場を立ち去らないと。
「あら、言われてしまいましたわね。ではこの場での解答は保留ということで」
保留もなにも断ってるのに。
王女様はその答えを受け入れるつもりはないらしい。
「次お会いするときは良い返事を期待してますわ。それとお名前はなんでしたかしら」
「……リヒトです」
「リヒト、ね。覚えましたわ、リヒト」
リーネ=ヒルデガルド王女が俺の名前をついに口にした。
それがむしろ怖い。
俺は丁寧にお辞儀をした。
ハティとスコルを連れて王女様とレズモンド、従者達から逃げるように泉をあとにする。
「よろしかったので」
「その前にレズモンド。先にリヒトに敗れた理由の、納得のいく説明をしてもらえるかしら?」
私はレズモンドに訊ねた。
私はリヒトと小娘2人の私への不敬を咎めて処刑するつもりだったのに。
まさか剣を折られて敗北するなんて、とんだ役立たずですわ。
「私のお役目は王女殿下の護衛。王女殿下の肌に傷の1つでもつけばそれは国益どころか世界全ての大きな損失。私は常に王女殿下をお守りするために力の半分を温存しております」
レズモンドは相変わらず飄々としている。
私の機嫌を損ねた愚か者がどういう末路を辿ったか、彼が1番知っているでしょうに。
私好みの色男が、私の嗜虐心を満たすような顔を見せた事は1度もない。
その顔を見たいがために側に置いてるのだけど。
レズモンドはさらに続ける。
「加えて周囲を照らし、従者達を守るための炎が。さらに退路を断つために展開した壁のために私があの時、剣に纏わせていた炎は4割程度にとどまっておりました。あれが私の実力の全てではない事をご理解いただきたく」
「いいでしょう」
私はそう言ってレズモンドを見つめた。
「……御意」
ふふ、やはりこの男は分かってる。
私にではなく金に忠義を誓う俗物の騎士。
だけどだからこそ私の意思に逆らわず、そしてその意図を汲み取って最高の働きを見せてくれる。
「エーファ=フランシスカ殿下を知らない。名前すら聞いたことがない、などと」
レズモンドが軽薄な笑みを浮かべる。
「戻り次第ギルドに照会を命じてリヒトのギルド登録を行った支部から直近のクエストを受けた支部までを割り出させます。それで拠点としている街を特定しましょう。行方をくらませた殿下はおそらく、そこに潜んでいる」
「馬鹿なエーファ。私から逃げられるはずがございませんのに。エーファも。リヒトも。ふふふ。私、狙った得物は絶対に逃がしませんわ」
「お待ちなさい」
回答を急かしたリーネ=ヒルデガルド王女自身が俺の発言を遮った。
「貴方、まさか断ろうだなんて思ってませんわよね?」
王女様がつかつかと俺に歩み寄ってくる。
どうやら傍若無人なお姫様も人の顔色は読めるらしい。
俺が断るのを察して止めにきた。
「嘘ですわよね?」
いや、本当です。
「やはり学のない下民にはこれがどれほど素晴らしい提案なのか、みっちり教えて差し上げないといけなくて?!」
いえ、結構です。
「レズモンド!」
言葉はなくとも俺の心が変わらないのを察してる。
ついにはレズモンドに助けを求めた。
「御意。……賃金は破格な上に、わりと簡単に色々なものが経費で落とせる。折られた剣もより高いものに経費で買い換えるつもりだ。国の防衛が職務内容になっているためあまり休みがないイメージを持たれがちだが、それも過去の話。俺がごねまくって前例をたくさん作った。後輩となる君は気兼ねなく休日希望を出すといい」
「ち、違う。違うわ、レズモンド。私はそんな俗物的な説明が欲しかったわけじゃないの!」
「……ふむ」
レズモンドは顎に手を添えた。
「…………」
そしてくるりとリーネ=ヒルデガルド王女に振り返る。
「高尚な目的や崇高な理念を私に説かせるのは無茶では?」
「そうね。それは私が間違ってましたわ……」
呆れる王女様。
俺は静かにクエストの目的である霊薬の花を拾い上げた。
「お待ちなさいってば。この私の側に仕えられるのよ? 第1王女よ、権力も美貌も兼ね備えたこの私なのよ」
食い下がる王女様。
その時、彼女を半眼で見ていたハティが言う。
「顔は似てるのにあの女とは真逆なのね。あっちは身分とか特別扱いを嫌がってたのに」
瞬間、リーネ=ヒルデガルド王女の目の色が変わった。
口許に浮かんだ冷たい笑みとは対照的に、緑色の瞳の奥には執念にも似た灯。
「あなたが言ってるのはもしかしてエーファの事かしら? 貴女達、エーファ=フランシスカ・ロア・キングスブライドを知っているのかしら?」
嬉しそうな笑みの仮面の下に、冷酷な表情を忍ばせて。
声を弾ませて問いかけてくるが、その瞳に燃える激情は隠せない。
「……知らない」
ハティがぷいと顔を背けて言った。
「そう、ご存知ないのですね」
「な、名前も聞いたこと……な、なななないです……」
スコルがハティのフォローをするために、しどろもどろのに答えた。
「そうでしたの。エーファは私の妹なのですけど。私の幼少期に似て可愛らしい顔立ちをしているのよ。それはもう────憎らしいほどに、可愛いの」
「リーネ=ヒルデガルド王女殿下。せっかくの申し出ですが、丁重にお断りさせていただきます」
俺は彼女の意識が逸れている隙に断りを告げた。
彼女達と一緒はまずい。
これ以上ボロが出る前にすぐにでもこの場を立ち去らないと。
「あら、言われてしまいましたわね。ではこの場での解答は保留ということで」
保留もなにも断ってるのに。
王女様はその答えを受け入れるつもりはないらしい。
「次お会いするときは良い返事を期待してますわ。それとお名前はなんでしたかしら」
「……リヒトです」
「リヒト、ね。覚えましたわ、リヒト」
リーネ=ヒルデガルド王女が俺の名前をついに口にした。
それがむしろ怖い。
俺は丁寧にお辞儀をした。
ハティとスコルを連れて王女様とレズモンド、従者達から逃げるように泉をあとにする。
「よろしかったので」
「その前にレズモンド。先にリヒトに敗れた理由の、納得のいく説明をしてもらえるかしら?」
私はレズモンドに訊ねた。
私はリヒトと小娘2人の私への不敬を咎めて処刑するつもりだったのに。
まさか剣を折られて敗北するなんて、とんだ役立たずですわ。
「私のお役目は王女殿下の護衛。王女殿下の肌に傷の1つでもつけばそれは国益どころか世界全ての大きな損失。私は常に王女殿下をお守りするために力の半分を温存しております」
レズモンドは相変わらず飄々としている。
私の機嫌を損ねた愚か者がどういう末路を辿ったか、彼が1番知っているでしょうに。
私好みの色男が、私の嗜虐心を満たすような顔を見せた事は1度もない。
その顔を見たいがために側に置いてるのだけど。
レズモンドはさらに続ける。
「加えて周囲を照らし、従者達を守るための炎が。さらに退路を断つために展開した壁のために私があの時、剣に纏わせていた炎は4割程度にとどまっておりました。あれが私の実力の全てではない事をご理解いただきたく」
「いいでしょう」
私はそう言ってレズモンドを見つめた。
「……御意」
ふふ、やはりこの男は分かってる。
私にではなく金に忠義を誓う俗物の騎士。
だけどだからこそ私の意思に逆らわず、そしてその意図を汲み取って最高の働きを見せてくれる。
「エーファ=フランシスカ殿下を知らない。名前すら聞いたことがない、などと」
レズモンドが軽薄な笑みを浮かべる。
「戻り次第ギルドに照会を命じてリヒトのギルド登録を行った支部から直近のクエストを受けた支部までを割り出させます。それで拠点としている街を特定しましょう。行方をくらませた殿下はおそらく、そこに潜んでいる」
「馬鹿なエーファ。私から逃げられるはずがございませんのに。エーファも。リヒトも。ふふふ。私、狙った得物は絶対に逃がしませんわ」
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