【 暗黒剣士の聖十字 】 ~属性適正がまさかの闇で騎士団追放。でも魔王と呼ばれるようになった俺の力がないと騎士団が崩壊するって?~

岸本 雪兎

文字の大きさ
上 下
28 / 101

狂えるマザー・ゴブリン

しおりを挟む







「フラン!」

 俺は階段の先にフランの姿を見つけた。
手枷てかせで鎖に繋がれたフランは倒れてぐったりとしてる。

 まさか、間に合わなかった……?!

 俺は慌ててフランに駆け寄った。

「フラン」

「…………」

「フラン、起きて」

「……リヒトん?」

 俺の呼び掛けでフランが目を覚ました。
どうやら無事みたいだ。

「助けにきた」

 俺はフランの体を抱き起こす。

「そっか私、ハティちゃんを探してて町の外れで」

 フランは自分の身に何が起きたか思い出したようだ。
俺の服をぎゅっと掴む。

「────ずるいじゃない」

 その時、背後から声がした。
しわがれた女の声。
見るとフラン以外に女の人が同じように手枷てかせで繋がれている。

 フラン以外にさらわれた人がいたことに驚いた。
町では行方不明者の話はなかったし、この近郊にはあの町しかないはずなのに。

「……うぅぅ、ずるい、ずるい! ずるい! ずるい!」

 女の人はぶるぶると頭を揺らしながら半狂乱で叫びだした。
その声を聞いて遠くにいたゴブリンが俺達に気付いて。
運んでいた大きな木箱をおろし、こちらに向かってくる。

「落ち着いて、大丈夫よ」

 お姉さんが女の人に駆け寄った。
手枷てかせを外す。

 手枷てかせの下からは刻印が現れた。
女の人の手首に彫られた不気味な模様。

それを見てアイゼンさんが叫ぶ。

「その女から離れろ!」

「え?」

 お姉さんはアイゼンさんを見て。
その視線をらしたすきに首を掴まれた。
女の人が両手でお姉さんの首を締める。

「な、んで」

 助けにきたはずの自分が首を絞められているのに困惑するお姉さん。

 俺達は女の人のお腹が異様に膨れているのに気付いた。

 俺は女の人の中に闇を感じた。
すでに魔物が発生してもおかしくない密度になっている。

「私は助けなんて来なかったのに! 見てよこのお腹! なのにその女は連れてこられてすぐに助け? 不公平じゃない!!」

 叫ぶ女の腹部がぼこぼこと波打った。
ゴブリンが、生まれようとしている。
このままじゃ彼女は!

「このままじゃあなたは死んでしまう。もうゴブリンが生まれようとしてるんだ! 俺なら助けられる! だからまずお姉さんを放して!」

「助ける? 今さら遅い。遅すぎる! ……う」

 女の人が突然嘔吐おうと
ビチャビチャとこぼれたのは粘りけのある黒。
そして彼女は天をあおいだ。
その喉奥から闇色の何かが膨らんでくる。

 あれはドラゴソーサラーの時の!

 俺と同時に気付いたアイゼンさんが走った。
いで女の人の腕を剣で切断。
お姉さんを助け出す。

「ごほっごほ」

 き込むお姉さんの腕を引いてアイゼンさんが下がった。
その先で女の人はもだえながら黒いスライムに覆われていく。

「助けないと」

「やめとけ」

 アイゼンさんが俺を止めた。

「あの女の手首にあった刻印は罪人の証だ。彫り込みの数からしてかなり重い罪を重ねてる。それにどうせ手遅れだ。それより────」

 アイゼンさんが視線を走らせて。

「こいつらからをどうするか考えろ」

 そう言ったアイゼンさんの視線の先には無数のゴブリン。
武器を構えてこちらににじり寄ってくる。

 俺はフランの手枷てかせを外すと、おじさんにフランを預けた。

「しんがりは俺が。アイゼンさんを先頭に離脱してください」

「若造がしんがり?」

「だって2人は斥候せっこうと後衛だし、アイゼンさんは切り札の数に限りがある。その点、俺は乱戦は得意ですよ」

 そう言ってクレイモアを構える。

『逃ガサナイワヨ』

 ざらついた声音こわね
声の方を見ると、闇に飲まれた女の人がゆらりと立ち上がった。
髪がばらばらと抜け落ち、その肌は灰色に染まって。
落ちくぼんだ目に鋭く尖った耳。
そして大きな膨れた鷲鼻わしばな
その姿はまるでゴブリンのようだった。

 膨れ上がった下腹部は網目状の肉の繊維に代わり、そこから吹き出した闇がゴブリンを生み出す。

 周囲を埋め尽くす青いゴブリンに紛れてその生み出されたゴブリンは赤と緑のまだら。
両足と片腕が赤く、残りは緑色をしている。

「まさかグリーンとレッドの混合? 身体を構成する闇を不均一にして部分的な強化をしてるのか」

 俺はまだらなゴブリンを構成する闇の密度を読み取って言った。
闇の総量はブルー・ゴブリンと相違ないが、その能力は大きく変わってくる。

 ゴブリンと化した女の人は周囲の闇を吸い込み始めた。
1度は闇を吐き出してしおれた下腹部が再びパンパンに膨れ上がり、その闇でまたゴブリンを生み出す。

 次は左腕だけが黒い。
グリーンとブラックの混合ゴブリンだ。

 ゴブリンを意図的に生み出す母体の魔物。
ドラゴソーサラーと同じく今まで存在しなかった魔物に、俺はひとまずマザー・ゴブリンと名付ける。

「化け物!」

 お姉さんはボウガンに矢をつがえ、マザー・ゴブリンめがけて放った。
土属性を付与された矢じり。
だがマザー・ゴブリンはその矢を止める。

 膨れ上がった下腹部から現れた黒いゴブリンの腕。
形成された2本の腕が、矢を掴んでいた。
両手で矢じりを握り込み、込められた属性の攻撃を抑え込む。

『皆、皆、皆殺シヨ!』

 マザー・ゴブリンが醜悪しゅうあくな顔を歪めて笑った。
下腹部から伸びる長い腕を左右に広げてこちらに迫ってくる。

「『阻めよ、大地よストーン・ウォール』!」

 お姉さんが岩の壁を生み出した。
魔物達とこちらを隔てる。

「この壁はそうそう破れない。早く逃げましょう!」

 お姉さんが言った。
だけど次の瞬間にはその壁が破られる。

 轟音ごうおんと共に吹き飛ばされた壁。
壁を穿うがって飛んできたのは圧縮された闇の砲弾だった。
マザー・ゴブリンの下腹部にはぽっかりと大きな穴が空いていて、そこから闇の残滓ざんしが尾を引いている。

 魔物を生み出すだけでなく、吸収した闇をそのまま攻撃にも使えるのか。

「……お姉さん、もう一度壁を」

「無駄よ。今の見たでしょう。何回壁を張っても破られてしまうわ」

 俺は前に進み出た。
振り返って再度お姉さんに言う。

「もう一度壁を。壁の向こうに俺が残って注意を引きます」

「そんな、無茶だわ!」

 無茶じゃない。

「リヒトん、危ないよ!」

 危なくない。

「リヒトどの、殺されてしまうぞ」

 殺されるわけがない。

「若造、お前死ぬ気か」

 死ぬつもりなんて欠片もない。

「お姉さん、早く……!」

 俺はかすように言った。

 こうしてる間にもマザー・ゴブリンは体を左右に揺らして不気味に迫り、無数のゴブリンも押し寄せてくる。

 お姉さんは申し訳なさそうな表情を一瞬浮かべた。
だがゴブリンの大群とマザー・ゴブリンを見ると恐怖の方が強く浮かんで。

「『阻めよ、大地よストーン・ウォール』!!」

 悲痛な声で叫んで壁を生み出す。

「リヒトん!!」

 不安げなフランに俺はにこりと笑って見せた。
そして一瞬で岩の壁が俺と4人を隔てる。

「……さてと」

 俺を取り囲むゴブリン達とその奥のマザー・ゴブリンに向き直った。
ゴブリン達はにやにやと下卑げびた笑いを浮かべている。

 自分達が圧倒的優位、なんて勘違いをしているらしい。

 俺は周囲の闇に意識を広げて掌握。
闇をまとい、黒く染まったクレイモアを構える。

 お前達は俺には勝てない。
なぜなら────
 
 日の光も届かない闇の中。
おぼろげな松明の弱々しい光に照らされたゴブリン達に告げる。

「闇は俺の領域だ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

【後日談完結】10日間の異世界旅行~帰れなくなった二人の異世界冒険譚~

ばいむ
ファンタジー
剣と魔法の世界であるライハンドリア・・・。魔獣と言われるモンスターがおり、剣と魔法でそれを倒す冒険者と言われる人達がいる世界。 高校の休み時間に突然その世界に行くことになってしまった。この世界での生活は10日間と言われ、混乱しながらも楽しむことにしたが、なぜか戻ることができなかった。 特殊な能力を授かるわけでもなく、生きるための力をつけるには自ら鍛錬しなければならなかった。魔獣を狩り、いろいろな遺跡を訪ね、いろいろな人と出会った。何度か死にそうになったこともあったが、多くの人に助けられながらも少しずつ成長していった。 冒険をともにするのは同じく異世界に転移してきた女性・ジェニファー。彼女と出会い、そして・・・。 初投稿というか、初作品というか、まともな初執筆品です。 今までこういうものをまともに書いたこともなかったのでいろいろと変なところがあるかもしれませんがご了承ください。 誤字脱字等あれば連絡をお願いします。 感想やレビューをいただけるととてもうれしいです。書くときの参考にさせていただきます。 おもしろかっただけでも励みになります。 2021/6/27 無事に完結しました。 2021/9/10 後日談の追加開始 2022/2/18 後日談完結

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記

ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
 ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。  そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。  【魔物】を倒すと魔石を落とす。  魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。  世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...