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闇喰らいのハティと望まぬ訪問者
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騒動のあった試験から3日。
あの謎の魔物──ドラゴソーサラーの出現は不完全な闇払いによって残留していた闇をドラゴンが取り込んで変異したものとして報告されたらしい。
フランが仲良くなった受付嬢さんからの情報だった。
それによって闇払いを行ったリーンハルト率いるあの聖騎士団が責任を問われているとか。
特にこの街の領主はリーンハルトが新たな騎士団長になるのを後押しした1人。
今回の一件でリーンハルトは領主から信頼をなくし、強力な後ろ楯の1つを失ったことになる。
それは俺にとっても都合がいい。
リーンハルトの手から聖騎士団を取り戻し、ヴィルヘルム様がいた頃のような本来の騎士団の姿を取り戻すのに。
だけど。
「何か裏がある気がする」
俺はぽつりと呟いた。
あの謎の貴族の男が気になるが、あの男は街の領主とは別の人間だった。
一体何者なのか。
「ちょっと! ぶつぶつ言ってないでご飯よこしなさいよ!」
俺の思考を遮って。
ベッドで横になっていた俺の上に小さな影が飛び乗ってきた。
黄昏の空のような赤い髪。
毛先は夜の闇のように黒く、星のような光が瞬いていた。
髪と同じ赤い尻尾をぶんぶんと揺らし、勝ち気な瞳で俺を見下ろすのはハティ。
にやりと笑う口許にはギザギザの鋭い歯が並んでいる。
「…………えい」
そしてハティの姿を見ていたもう1人。
暁の空のように青い髪。
その毛先にかけて、光の加減でほんのりと緋色に染まって見えた。
髪と同じ青い尻尾をふりふりと揺らし、おどおどとした上目遣いを向けるのはスコル。
スコルも俺の上に体を預けて。
えへへと笑う口許には八重歯が覗く。
「スコル、なにやってんの?」
ハティが訊いた。
「ハティちゃんのまねっこだよ」
「はぁ? あたし、こいつにそんなベタベタしてない」
「してるよね?」
「してない!」
頭の上にある小さな耳。
それをぴょこぴょこと忙しなく揺らしながらハティが否定した。
「でももう闇のストックがないよ」
「えー」
俺が言うと、ハティは顔をしかめた。
耳がぺたんと垂れる。
どうやらハティは闇を喰うらしい。
俺を初めて見たときに美味しそうと言ったのは俺から闇の臭いがしてたからで。
試験の時に助っ人に現れたのは空腹に耐えかねた時に強い闇の臭いがしたからだとスコルからこっそり聞いていた。
「あたしが助けてあげた恩義を忘れたの? ないならとってきなさいよ」
ハティが俺に馬乗りになったまま、偉そうに腕を組んだ。
ハティはスコルが俺にこっそり話していることを知らない。
すでにバレてるんだけどなー。
ふんぞり返るハティを前に、俺はスコルと目が合った。
俺が苦笑すると、スコルもふふふと笑う。
「ちょっと、何笑ってるのよ? 面白いこと? あたしも混ぜなさいよ」
ハティ本人だけが笑いの意味に気付いていない。
その時、ゴンゴンと強いノックの音。
ハティとスコルがベッドから飛び降り、街で買ったケモ耳パーカーのフードを目深に被った。
腰のベルトを解くと折り畳まれていた裾がストンと落ちて尻尾を隠す。
この強いノックはまたあの人だ。
俺はめんどくさいなーと思いつつも扉を開けた。
ガコン、と。
ハティの体当たりで壊れたままになっていた扉を持ち上げてよける。
「よう、若造」
未だに俺を若造呼ばわりするアイゼンさんが立っていた。
ガコン、と。
俺は扉をはめ直す────
「待て待て待て。なんで閉じる」
訪問者があなただって確認できたからですよ、とは言わない。
「アイゼンさん、またですか」
アイゼンさんが枠と扉の間に手を入れて止めたので、俺は仕方なく扉を再び持ち上げた。
「ああ。俺と組もうぜ」
アイゼンさんは試験のあとから連日パーティーを組もうと誘ってくる。
純粋に俺を誘ってくれてるなら嬉しいけど、その目的は別にある。
「なんでかたくなに断る。知られたくない秘密でもあるのか?」
アイゼンさんの瞳がギラリと光った。
ドラゴソーサラーとの戦いで、仕方なかったとはいえ少し力を出しすぎた。
決定的な姿は見られてないみたいだけど、アイゼンさんに俺が普通ではないという疑念を持たれている。
俺とパーティーを組んで行動を共にして、その秘密を暴く魂胆だ。
「嫌ですよ。アイゼンさんが協調性がないのはこの間の試験で分かってるので」
「俺らみたいな無適正者とパーティーを組んでくれるやつが他にいないのも分かったはずだぜ?」
アイゼンさんが食い下がる。
「わざわざ実技試験を受けたってことは上の任務を早くこなしたいってことだろ。金か名声か……なんにせよ目的がある。そのためには仲間が要るだろ? 何か秘密でもあるってんなら別だがな」
「秘密なんて……ないですよ」
「ふむ。素性不明。聖騎士の意匠のクレイモアを得物にした無適正者。おまけにお前、俺の機構剣の秘密にも気付いたよな。普通じゃねぇよ」
アイゼンさんが俺の目を見つめる。
俺の嘘を見透かそうと目を凝らしてる。
「……ま、お前が断ったってもう遅いけどな!」
「え、それってどういう……」
困惑する俺に、その報せを運ぶ足音が迫る。
あの謎の魔物──ドラゴソーサラーの出現は不完全な闇払いによって残留していた闇をドラゴンが取り込んで変異したものとして報告されたらしい。
フランが仲良くなった受付嬢さんからの情報だった。
それによって闇払いを行ったリーンハルト率いるあの聖騎士団が責任を問われているとか。
特にこの街の領主はリーンハルトが新たな騎士団長になるのを後押しした1人。
今回の一件でリーンハルトは領主から信頼をなくし、強力な後ろ楯の1つを失ったことになる。
それは俺にとっても都合がいい。
リーンハルトの手から聖騎士団を取り戻し、ヴィルヘルム様がいた頃のような本来の騎士団の姿を取り戻すのに。
だけど。
「何か裏がある気がする」
俺はぽつりと呟いた。
あの謎の貴族の男が気になるが、あの男は街の領主とは別の人間だった。
一体何者なのか。
「ちょっと! ぶつぶつ言ってないでご飯よこしなさいよ!」
俺の思考を遮って。
ベッドで横になっていた俺の上に小さな影が飛び乗ってきた。
黄昏の空のような赤い髪。
毛先は夜の闇のように黒く、星のような光が瞬いていた。
髪と同じ赤い尻尾をぶんぶんと揺らし、勝ち気な瞳で俺を見下ろすのはハティ。
にやりと笑う口許にはギザギザの鋭い歯が並んでいる。
「…………えい」
そしてハティの姿を見ていたもう1人。
暁の空のように青い髪。
その毛先にかけて、光の加減でほんのりと緋色に染まって見えた。
髪と同じ青い尻尾をふりふりと揺らし、おどおどとした上目遣いを向けるのはスコル。
スコルも俺の上に体を預けて。
えへへと笑う口許には八重歯が覗く。
「スコル、なにやってんの?」
ハティが訊いた。
「ハティちゃんのまねっこだよ」
「はぁ? あたし、こいつにそんなベタベタしてない」
「してるよね?」
「してない!」
頭の上にある小さな耳。
それをぴょこぴょこと忙しなく揺らしながらハティが否定した。
「でももう闇のストックがないよ」
「えー」
俺が言うと、ハティは顔をしかめた。
耳がぺたんと垂れる。
どうやらハティは闇を喰うらしい。
俺を初めて見たときに美味しそうと言ったのは俺から闇の臭いがしてたからで。
試験の時に助っ人に現れたのは空腹に耐えかねた時に強い闇の臭いがしたからだとスコルからこっそり聞いていた。
「あたしが助けてあげた恩義を忘れたの? ないならとってきなさいよ」
ハティが俺に馬乗りになったまま、偉そうに腕を組んだ。
ハティはスコルが俺にこっそり話していることを知らない。
すでにバレてるんだけどなー。
ふんぞり返るハティを前に、俺はスコルと目が合った。
俺が苦笑すると、スコルもふふふと笑う。
「ちょっと、何笑ってるのよ? 面白いこと? あたしも混ぜなさいよ」
ハティ本人だけが笑いの意味に気付いていない。
その時、ゴンゴンと強いノックの音。
ハティとスコルがベッドから飛び降り、街で買ったケモ耳パーカーのフードを目深に被った。
腰のベルトを解くと折り畳まれていた裾がストンと落ちて尻尾を隠す。
この強いノックはまたあの人だ。
俺はめんどくさいなーと思いつつも扉を開けた。
ガコン、と。
ハティの体当たりで壊れたままになっていた扉を持ち上げてよける。
「よう、若造」
未だに俺を若造呼ばわりするアイゼンさんが立っていた。
ガコン、と。
俺は扉をはめ直す────
「待て待て待て。なんで閉じる」
訪問者があなただって確認できたからですよ、とは言わない。
「アイゼンさん、またですか」
アイゼンさんが枠と扉の間に手を入れて止めたので、俺は仕方なく扉を再び持ち上げた。
「ああ。俺と組もうぜ」
アイゼンさんは試験のあとから連日パーティーを組もうと誘ってくる。
純粋に俺を誘ってくれてるなら嬉しいけど、その目的は別にある。
「なんでかたくなに断る。知られたくない秘密でもあるのか?」
アイゼンさんの瞳がギラリと光った。
ドラゴソーサラーとの戦いで、仕方なかったとはいえ少し力を出しすぎた。
決定的な姿は見られてないみたいだけど、アイゼンさんに俺が普通ではないという疑念を持たれている。
俺とパーティーを組んで行動を共にして、その秘密を暴く魂胆だ。
「嫌ですよ。アイゼンさんが協調性がないのはこの間の試験で分かってるので」
「俺らみたいな無適正者とパーティーを組んでくれるやつが他にいないのも分かったはずだぜ?」
アイゼンさんが食い下がる。
「わざわざ実技試験を受けたってことは上の任務を早くこなしたいってことだろ。金か名声か……なんにせよ目的がある。そのためには仲間が要るだろ? 何か秘密でもあるってんなら別だがな」
「秘密なんて……ないですよ」
「ふむ。素性不明。聖騎士の意匠のクレイモアを得物にした無適正者。おまけにお前、俺の機構剣の秘密にも気付いたよな。普通じゃねぇよ」
アイゼンさんが俺の目を見つめる。
俺の嘘を見透かそうと目を凝らしてる。
「……ま、お前が断ったってもう遅いけどな!」
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