【 暗黒剣士の聖十字 】 ~属性適正がまさかの闇で騎士団追放。でも魔王と呼ばれるようになった俺の力がないと騎士団が崩壊するって?~

岸本 雪兎

文字の大きさ
上 下
22 / 101

仕組まれた罠

しおりを挟む
「大丈夫か? 棄権きけんしても構わんぞ」

 試験官が俺に言った。

「えーと、できる限り頑張ってみるので。無理だと思ったら助けを呼ぶので助けてもらえると」

「……せいぜい死なんようにな」

 試験官はそう言うと合図をした。
おりの扉が開き、中から新たにトラゴンが出てくる。

 俺は背負ったクレイモアを構えた。
ドラゴンに向かって駆け出す。

 俺の接近に気付いたドラゴンが爪を振るった。
俺はそれをかわし、すれ違い様に斬りつける。

 甲高い音と共に刃が弾かれたが、俺はそのまま走り抜けた。
すぐに剣を構え、関節を覆う鱗の隙間を狙って再び斬擊。
切っ先が鱗と鱗の境へと滑り込み、わずかな傷を与える。

 傷を受けて激昂げっこうしたドラゴンが俺目掛けて攻撃。
迫る影と気配だけで俺はそれを察知すると、振り下ろされる爪を大きく剣を振っていなした。
地面を叩きつけた腕を駆け上がって跳んで。
俺を睨むその目を狙って銀の一閃を放つ。

 けたたましい咆哮ほうこうを上げてもだえるドラゴン。
片目を潰されたドラゴンはその大きな口を開けた。
喉奥から膨れ上がる炎。

 本当ならこのまま追撃。
無防備な口の中から剣を突き上げ、頭を貫いて終わりだ。
だけど試験ではこの辺までにしておこう。

 俺はドラゴンのブレスを前に試験官の方を見た。
助けを求めようとすると、俺が声を発するよりも早く動く。

 俺の前へとおどり出た試験官が盾を構えた。
属性をまとわせ、盾を中心に水流の壁が現れる。

 能力の範囲とその発動速度が結構速い。
騎士団なら副団長クラスの能力だろうか。

 ドラゴンの放ったブレスは水流の壁に阻まれて俺と試験官には届かない。

 試験官はスピアを握る手に力を込めた。
切っ先に水流が渦巻き、巨大な穂先ほさきとなる。

 試験官はブレスが途切れたのと同時に駆け出した。
足元から水流の柱を立ち上らせ、その勢いを利用して高く跳躍。
ドラゴンの眉間みけん目掛けて属性のまとった槍を突き出す。

「────」

 その時。
俺は不気味な声を、聞いた。
いで凄まじい威圧感。
それはどこかフェンリルの眼差しに似ていて。
でもフェンリルの殺意と敵意に溢れたものよりも、もっと冷たく狡猾こうかつな視線。

 俺がその視線をたどると、客席のすみに立つ男と目が合った。
従者を複数引き連れた、おそらく高い身分の貴族。
絹のような美しいブロンドの長い髪。
その顔はフードの陰になってよく見えなかったが、陰から覗く金色の瞳が俺を見据えている。

「……?!」

 俺はおかしな気配を感じて男から視線を切った。
試験官の対峙するドラゴンから。
さらに他のおりにいるドラゴン。
アイゼンさんの倒したドラゴンの中からもそれを感じる。

「危ない!」

 俺は試験官に向かって叫んだ。

 炎を吐き終えたドラゴンの喉奥から這い出す深い闇。
真っ黒なスライムのようなそれが膨れ上がる。

「!」

 試験官はスピアの切っ先から水流を放った。
突如現れた何かへの牽制けんせいと同時に、その勢いで後ろへと下がって距離をとる。

 異変に気付いた客席から悲鳴が上がった。
次々と膨れ上がる闇色の何かを前に、混乱が闘技場に広がっていく。

 ドラゴンの中に仕込まれていた?
でも一体、なんのために。
誰が────

 俺は再びあの男を見た。
確信はないが直感があの男の仕業だと告げている。

「ここは危険です。ロキ様」

 謎の男は従者に促されるままに闘技場をあとにする。
追いかけたいけどこの場を放っておくわけにもいかない。

「なんだこいつは。見たことがねぇ」

 警戒しながら試験官が言った。
おそらくかなりの場数を踏んでる試験官も見たことがない魔物。

 俺だってこの種の魔物は見たことがない。
最初はブラック・スライムかその派生かと思ったけど、魔物はドラゴンの全身を包んで取り込んで。
下半身が4脚のドラゴン、上半身が魔法を操るソーサラーに似た半人半龍の人型へと変わる。

「おい、避難の誘導と救援を任せた。なんとか俺達であいつらをおさえる」

 試験官が受付嬢さんに言った。

 だが、あわあわと慌てた様子の受付嬢さんは恐怖に震えるばかりで身動きが取れない。

「お姉さん!」

 フランがお姉さんの手を握った。
フランと一緒に受付嬢さんが避難の誘導を始める。

「リヒトん!」

 フランが俺を呼んだ。

「無茶しないでね! 絶対だよ!」

 俺はクレイモアを握っていない方の手を上げてフランに答えて。
クレイモアを構えなおして魔物に向き直った。

 おりの中の魔物も容易くおりを破壊して外に。
俺達は得体の知れない4体の魔物と対峙たいじする。

「無能どもと若造は下がってろ」

 アイゼンさんが言った。

「そうもいかないよ」

 俺は前へと進み出たアイゼンの隣に並ぶ。

 相手は強い。
アイゼンさん一人じゃ間違いなく返り討ちにされてしまう。

「足は引っ張るなよ」

「アイゼンさんこそ気を付けてくださいね」

「あ? 俺が足を引っ張るって?」

「そうは言ってません。単純に心配しただけです!」

 俺はアイゼンさんの協調性のなさに、内心大きなため息をついた。

 そして俺が闇使いだとバレずにどこまでやれるか。

 俺は静かに闇を刃先に集中。
1ミリにも満たない極薄の闇の刃を形作った。
さらに全身に密着するよう闇を這わせ、身体能力を底上げする。

 傍目はためには気付かれないよう最新の注意を払った闇の操作。
だけどその分出せる力は普段の半分にも満たない。

それでも。

「やるしかない」

 動いたのはほぼ同時だった。
俺とアイゼンさん、試験官が魔物へと向かっていく。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

スローライフとは何なのか? のんびり建国記

久遠 れんり
ファンタジー
突然の異世界転移。 ちょっとした事故により、もう世界の命運は、一緒に来た勇者くんに任せることにして、いきなり告白された彼女と、日本へ帰る事を少し思いながら、どこでもキャンプのできる異世界で、のんびり暮らそうと密かに心に決める。 だけどまあ、そんな事は夢の夢。 現実は、そんな考えを許してくれなかった。 三日と置かず、騒動は降ってくる。 基本は、いちゃこらファンタジーの予定。 そんな感じで、進みます。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

【完結】ご都合主義で生きてます。-商売の力で世界を変える。カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく-

ジェルミ
ファンタジー
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 その条件として女神に『面白楽しく生活でき、苦労をせずお金を稼いで生きていくスキルがほしい』と無理難題を言うのだった。 困った女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 この味気ない世界を、創生魔法とカスタマイズ可能なストレージを使い、美味しくなる調味料や料理を作り世界を変えて行く。 はい、ご注文は? 調味料、それとも武器ですか? カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく。 村を開拓し仲間を集め国を巻き込む産業を起こす。 いずれは世界へ通じる道を繋げるために。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!

あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!? 資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。 そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。 どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。 「私、ガンバる!」 だったら私は帰してもらえない?ダメ? 聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。 スローライフまでは到達しなかったよ……。 緩いざまああり。 注意 いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。

処理中です...