【 暗黒剣士の聖十字 】 ~属性適正がまさかの闇で騎士団追放。でも魔王と呼ばれるようになった俺の力がないと騎士団が崩壊するって?~

岸本 雪兎

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試験と2人の無適正者 その2

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「ええ、俺も無適正者です」

 俺が答えると、アイゼンはあからさまに舌打ちして。

「余計なお世話かも知れないけどな」

 そう言ってアイゼンはため息混じりに続ける。

「お前、この試験受けるのやめとけ。無適正の若造がドラゴンに挑んでも返り討ちだ」

 そう言ってひらひらと手を振るアイゼン。
俺がしようとした忠告をそのまま返された。

 俺が他の人から若造扱いされるのは仕方ないとは思う。
でもアイゼンは俺を若造呼ばわりできるほど差がないと思うんだけどな。
さっき試験官が読み上げたアイゼンの歳、21だったし。

「なんだ? 不服そうなつらだな」

「だってアイゼンさんだって無適正者だ。ドラゴンの討伐を、それもソロでやるなんて無茶です。アイゼンさんこそ返り討ちにあいますよ」

「俺はお前や他の無適正者とは違う。そこいらの属性適正があっただけのザコともな」

 アイゼンは背中に背負っていた剣を抜いた。
いで刃先に視線を向けて。
その瞳に灯る強い意志。
アイゼンの鋭い眼光を反射するように、刃にギラリと光が走る。

「…………!」

 俺はその剣を一目見て気付いた。
アイゼンが持っている特異な形状をした片刃の長剣。
その中心部分から気配を、感じる。


「それは……魔物の一部を使ってますよね」

「…………」

 アイゼンは答えない。
だが目だけ細めて笑っているその表情かおが答えだった。

「リヒトん」

 フランが俺の袖を引いた。

「早くしないと組む人いなくなっちゃうよ」

 俺はフランに言われて周囲に目を向ける。
見ると、すでに他の試験参加者がそれぞれチームを組んでいた。
彼らは2つのチームに分かれ、それぞれドラゴンの討伐の作戦を練っていて。
そして俺の視線に気付いた参加者達はすぐさま目を逸らす。

 うーん、すでに手遅れかも。

「すみません」

 俺はダメもとで参加者のチームに声をかけた。

「腕に覚えはあります。少なくとも自分の身は自分で守るので絶対に邪魔はしません。俺もチームに入れていただけませんか」

「いやぁ……だって悪いけどあんた無適正者なんだろ?」

「無適正者じゃねぇ」

「無適正は魔物の討伐には向いてないよ」

「別な職を探すか、地道に低ランクの任務をこなす方が良いと思うよ」

 予想通りの反応。

 俺はもう一方のチームにも視線を向けた。
するとそのチームの一人が、しっしっと手を払って。
まるで動物を追い払うみたいに俺をあしらう。

 無適正者と組んでもいいという度量の広い、あるいは物好きはいないみたいだ。
俺は小さく肩をすくめる。

 まぁでもそれも仕方ない。
試験の結果がランクに反映されるんだ。
明らかに足手まといになる人間と組んでくれる人のが少ないだろう。

「…………」

 正直、気は進まないけど。

「あの」

「お断りだ」

 アイゼンに声をかけたら、即座に拒絶された。

「すみません」

「俺は誰とも組まない」

「そこをなんとか」

「断る」

「どうしても?」

「どうしてもだ」

 やっぱりこっちも、ダメそうだ。

「仕方ないか」

 俺はソロで試験に挑む事に決めた。

「仕方ないって、もしかしてリヒトん一人で試験受けるつもり?」

 フランが心配そうにこちらを見てくる。

「大丈夫。俺、身のこなしには自信あるし」

 俺はそう言うとフランにそっと耳打ちする。

「それに俺は元聖騎士だよ。聖堂都市の守護のためにドラゴンとの交戦経験もある」

「でもその時は他の騎士もいたんでしょ?」

「うん。でも俺は守ってもらったりしてないよ。ちゃんと1人の聖騎士として戦場を奔走ほんそうして、今も無事でこうやって立ってる」

奔走ほんそう?」

「……俺、これでも遊撃手だったんだよ。戦場全体を見て危ないところに駆けつけるんだ」

「そうなの?」

「凄いでしょ」

「危ないよ」

 フランはぶんぶんとかぶりを振った。

「でも俺が王国騎士になるためにはリスクもおかさないと」

「それは…………そうだけど」

「俺に任せて。絶対無茶はしないから」

「1人の時点で凄い無茶なんだけどなー。うん、でも分かった。私はリヒトんを信じる」

 フランは渋々しぶしぶといった様子だったけど納得してくれた。

 だが、となると問題はどこまでやるか。
無適正者が1人で討伐までしてしまうのは悪目立ちが過ぎる。

 無難なのはドラゴンの攻撃をかわし続け、隙を見てカウンターを何度か入れて。
それでほどほどのところで試験官に助けを求める。
でもそれだと試験結果としてはいまいちだ。
王国騎士を目指すならできる限り高い評価を得ておきたい。

「それではこれより試験を開始する!」

 試験官の声が響き渡った。
思案してる間に時間が来たらしい。

「先に試験を向けるチームは?」

 試験官が言うと、試験参加者が顔を見合わせて。
そして1つのチームが手を上げた。
俺を動物相手にするみたいに、あしらった方のチームだ。

「よし、まずはお前達だな。他の参加者や同伴者は下がってくれ」

 試験官に言われるままに闘技場の壁際まで後退。
試験を受けるチームと試験官だけが闘技場の真ん中に残った。

「お久しぶりです」

 一緒に避難していた受付のお姉さんが俺に声をかけてきた。

「お久しぶりです。俺の事、覚えててくれたんてすね」

「ええ。あの時は……お役に立てずにごめんなさい。うぅ」

 ああ。
お姉さんが早くもしょんぼりモードに。

「それでお探しの相手は見つかりましたか」

「ええ。見つかりましたよ」

「リヒトんが探してたのは私だよ!」

 フランがお姉さんに言った。
お姉さんはフランを見ると、パッと顔を輝かせて。
いで再び顔が曇る。
なんでだ。

「お役に立てずにごめんなさい。あなたには私のお話まで聞いてもらって」

「ううん。気にしないで」

 フランが笑顔で答える。

 しょんぼりしてたお姉さんはいくぶん元気を取り戻した様子。
そして俺とフランの顔を交互に見るとハッとした。
口許くちもとに手を当てて驚きの表情。
いで両手で握り拳を作ると、胸の前で上下にぶんぶんと振る。

「もしかして彼があなたの言ってた?」

 キラキラとした眼差まなざしでフランを見るお姉さん。
何の話だろ。

「フラン、何の話?」

 俺はフランにたずねた。
するととなぜか顔を赤くしたフランがぶんぶん、ぶんぶんと首を激しく左右に振って。

「ち、違うよ。あれはリヒトんのここここ事じゃなななくて」

 しどろもどろに答えるフラン。
その様子を見てにまにまと笑うお姉さん。

 赤面する女の子に、それを微笑ましい、と言うには少しねっとりとした笑顔で見るお姉さん。

 もしかして恋の話?
なんとなく直感で思った。

「なるほどなるほどー」

「だからリヒトんの事じゃないってば」

「私はお似合いだと思いますよー。応援してます!」

「だ、だだから違うってば!」


 顔を真っ赤にしたフランが否定する。

 フランはチラッと俺を横目見た。
目が合うと俺もなぜか気恥ずかしくなって。
お互いに目を逸らすと、俺は顔が熱くなるのを感じる。

「うんうん。初々ういういしくていいですね。私にもそんな頃が…………遥か昔には、ありましたぁ」

 上機嫌だったお姉さんのテンションが再び急降下。
やはりこの人、感情の乱高下が激しい。
その上がっては下がる感じはまるでワイバーンだ。

「おい! 次はどっちが出るんだぁ?」

 試験官が俺とアイゼンに言った。
その声は苛立たしげだ。

 え? と思って闘技場に目を向けると、すでに2チームの試験が終了していた。
いつの間に。

 試験参加者とドラゴンを交互に見ると、お互いに大した負傷もしていない。
どちらのチームも早々に棄権きけんした形か。

「俺が出る」

 アイゼンが言った。

 剣の切っ先を、闘技場の地面に走らせながら前に進み出る。
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