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試験と2人の無適正者 その1
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「────それでは、これよりギルド試験を開始いたします」
受付のお姉さんが言った。
フランシスカ──フランと共に、俺はギルドの試験を受けるために闘技場に来ていた。
闘技場にはギルドの試験官と進行役のお姉さん、俺を含めて試験参加者が10人とその同伴者。
さらに観客席にはギャラリーが大勢集まっている。
聖堂都市から派遣された騎士の大隊の必死の努力によって街の中の闇払いはようやくほぼ完了し、当初の予定より大きく遅れての試験開催。
希望者の試験が後ろ倒しになり、10人まとめての試験となっていた。
騎士達はみんな見知った顔ばかりだったから、闇払いの間は身を隠すので大変だったな。
「それでは改めてルールの確認になります。今回の試験参加者は10名。試験ではその10人の中から互いにチームを組み、こちらで用意した魔物の討伐をしていただきます」
お姉さんが言うと、隣に立っていた試験官が1歩前へ。
試験官は長いスピアと小さな盾を背負った、首筋の片方に大きな傷跡のあるおじさんだ。
髪で隠れているが、よくよく見ると傷のある方の耳がない。
試験官は鋭い目付きで俺達参加者を見回すと言う。
「ギルドの依頼ってのは即興でパーティーを組むのも日常茶飯事だぁ。知らねぇ奴と組んでも十全の働きが求められる。もちろんバディなんかの固定パーティーをメインにする奴らもいるだろう。だから知り合いがいるんならそいつと組んでもらっても構わねぇ。大事なのは1つ。実力を見せろ」
「……実力さえ見せれるんなら、ソロでもいいのか」
試験参加者の1人が言った。
「オススメはせんなぁ。こっちは複数人で討伐する事を前提に魔物を用意してる。一応俺もヤバそうなら助けに入ってやるが、俺が助ける前に死んじまっても責任はとらんぞ?」
その言葉に参加者達の空気が変わったのを俺は感じた。
命の保証がない。
どこからか、ごくりと生唾を飲む音が聞こえた。
だが試験官に質問した男は、にやりと笑う。
「なら俺は1人でやらせてもらう。オススメしないって事は、禁止にもしてないんだろ?」
「ああ」
「ならそうさせてもらう」
試験官はじろりとその男を一瞥。
次いでよこせ、と手振りでお姉さんに指示した。
お姉さんが慌てて手にしていた書類を何枚かまくると、出てきた1枚を手渡す。
「…………ん?」
その書類に視線を落としていた試験官が片方の眉を上げた。
「アイゼン、年齢21、属性適正…………『無し』」
属性適正無し?
俺は試験官からそのアイゼンという男の方へと視線を向けた。
他の参加者や、やり取りが聞こえていた一部のギャラリーの視線がアイゼンに集中する。
「ああ、俺は数少ない無適正者だ」
それが何か? という顔でアイゼンが口角を吊り上げる。
「確かに俺は無適正。だけど属性適正があるだけの雑魚なんかより俺はずっと強い」
アイゼンは挑発するような眼差しで俺を含む参加者に視線を走らせ、そして試験官にもその視線を向けた。
「…………」
試験官はその視線を受け流すと、肩をすくめて。
「まぁいい。開始は10分後。それまでにパーティーを組み、討伐の段取りを立ててくれ。今回お前達の試験に用意したのはこいつだ」
そう言って試験官が合図すると、闘技場の壁際に並んでいた大きな檻の覆いが降りた。
並んだ複数の檻の中に囚われている魔物の姿が露になる。
そこにいたは、赤いドラゴン。
「レ、レッド・ドラゴンだ……!」
参加者の一人が声を上げた。
闘技場内がざわめく。
だが違う、と俺は思う。
あれはレッド・ドラゴンじゃない。
色こそ赤いがレッド・ドラゴンの特長と異なる。
レッド・ドラゴンと対峙した経験がある人間の方が稀だし、分からないのも仕方ないだろうけど。
「ふむ」
俺は赤いドラゴンを観察する。
角や牙、翼の特長的にあれはおそらくブルー・ドラゴンだ。
動揺を誘うためか、何かしらの意図を持って赤く体表を塗ったんだろう。
「レッド・ドラゴンて、かなり上位の……! リヒトん危ないよ、大丈夫なの?」
付き添いとして俺の隣に立っていたフランが言った。
俺の腕をきゅっと掴む。
「俺は大丈夫だよ。危なくなったら試験官が助けてくれるし、助けてくれるまで俺は全力で逃げるから」
そう言ってフランに笑いかけた。
でもフランは未だに不安げで、何か言いたそうにしている。
フランが俺の心配をするのは分かる。
俺は自分の属性適正が無いとフランにも偽っていた。
無適正者がドラゴンに挑もうだなんて聞いたら、これが普通の反応だ。
……まぁ正直、ブルー・ドラゴン相手なら俺1人でもピンチになることは絶対にないけど。
でも。
それは闇の適正者である、俺だからだ。
俺はアイゼンを見た。
無適正者は魔物に対して圧倒的に不利だ。
身体能力で劣る人間が属性もなしに魔物と渡り合うのは自殺行為。
しかもグリーン・ゴブリンなんかならどうにでもなるけど、さすがにドラゴンのクラス・ブルー。
鑑定の儀で属性適正に目覚めた人間でもかなり手こずる強さを持ってる。
「…………」
余計なお世話と思いつつ、俺は忠告のためにアイゼンのもとへ。
「何か用か?」
俺に気付いたアイゼンが言った。
「……その、余計なお世話だとは思うけど」
「無適正者がドラゴンに挑むなんて無謀だって?」
アイゼンはそう訊くと鼻で笑った。
「お前の属性は? まぁどの属性でも関係ない。俺を属性がなきゃ戦えないお前ら雑魚と一緒にするなよ」
やはり素直に言うことは聞いてくれないか。
俺はどうにかしてほしくて試験官の方を見た。
俺と目が合った試験官。
試験官はまた、よこせと手振りでお姉さんに指示。
お姉さんに受け取った資料に目を落とす。
「ほう、こいつは珍しい」
試験官が呟いて。
「リヒト、年齢17、属性適正『無し』。お前さんも無適正者か。まさか1度の試験に無適正者が2人もいるなんてな」
皮肉った笑いを浮かべながら試験官が言うと、周囲の視線が俺に一気に集まった。
アイゼンが俺を凝視する。
受付のお姉さんが言った。
フランシスカ──フランと共に、俺はギルドの試験を受けるために闘技場に来ていた。
闘技場にはギルドの試験官と進行役のお姉さん、俺を含めて試験参加者が10人とその同伴者。
さらに観客席にはギャラリーが大勢集まっている。
聖堂都市から派遣された騎士の大隊の必死の努力によって街の中の闇払いはようやくほぼ完了し、当初の予定より大きく遅れての試験開催。
希望者の試験が後ろ倒しになり、10人まとめての試験となっていた。
騎士達はみんな見知った顔ばかりだったから、闇払いの間は身を隠すので大変だったな。
「それでは改めてルールの確認になります。今回の試験参加者は10名。試験ではその10人の中から互いにチームを組み、こちらで用意した魔物の討伐をしていただきます」
お姉さんが言うと、隣に立っていた試験官が1歩前へ。
試験官は長いスピアと小さな盾を背負った、首筋の片方に大きな傷跡のあるおじさんだ。
髪で隠れているが、よくよく見ると傷のある方の耳がない。
試験官は鋭い目付きで俺達参加者を見回すと言う。
「ギルドの依頼ってのは即興でパーティーを組むのも日常茶飯事だぁ。知らねぇ奴と組んでも十全の働きが求められる。もちろんバディなんかの固定パーティーをメインにする奴らもいるだろう。だから知り合いがいるんならそいつと組んでもらっても構わねぇ。大事なのは1つ。実力を見せろ」
「……実力さえ見せれるんなら、ソロでもいいのか」
試験参加者の1人が言った。
「オススメはせんなぁ。こっちは複数人で討伐する事を前提に魔物を用意してる。一応俺もヤバそうなら助けに入ってやるが、俺が助ける前に死んじまっても責任はとらんぞ?」
その言葉に参加者達の空気が変わったのを俺は感じた。
命の保証がない。
どこからか、ごくりと生唾を飲む音が聞こえた。
だが試験官に質問した男は、にやりと笑う。
「なら俺は1人でやらせてもらう。オススメしないって事は、禁止にもしてないんだろ?」
「ああ」
「ならそうさせてもらう」
試験官はじろりとその男を一瞥。
次いでよこせ、と手振りでお姉さんに指示した。
お姉さんが慌てて手にしていた書類を何枚かまくると、出てきた1枚を手渡す。
「…………ん?」
その書類に視線を落としていた試験官が片方の眉を上げた。
「アイゼン、年齢21、属性適正…………『無し』」
属性適正無し?
俺は試験官からそのアイゼンという男の方へと視線を向けた。
他の参加者や、やり取りが聞こえていた一部のギャラリーの視線がアイゼンに集中する。
「ああ、俺は数少ない無適正者だ」
それが何か? という顔でアイゼンが口角を吊り上げる。
「確かに俺は無適正。だけど属性適正があるだけの雑魚なんかより俺はずっと強い」
アイゼンは挑発するような眼差しで俺を含む参加者に視線を走らせ、そして試験官にもその視線を向けた。
「…………」
試験官はその視線を受け流すと、肩をすくめて。
「まぁいい。開始は10分後。それまでにパーティーを組み、討伐の段取りを立ててくれ。今回お前達の試験に用意したのはこいつだ」
そう言って試験官が合図すると、闘技場の壁際に並んでいた大きな檻の覆いが降りた。
並んだ複数の檻の中に囚われている魔物の姿が露になる。
そこにいたは、赤いドラゴン。
「レ、レッド・ドラゴンだ……!」
参加者の一人が声を上げた。
闘技場内がざわめく。
だが違う、と俺は思う。
あれはレッド・ドラゴンじゃない。
色こそ赤いがレッド・ドラゴンの特長と異なる。
レッド・ドラゴンと対峙した経験がある人間の方が稀だし、分からないのも仕方ないだろうけど。
「ふむ」
俺は赤いドラゴンを観察する。
角や牙、翼の特長的にあれはおそらくブルー・ドラゴンだ。
動揺を誘うためか、何かしらの意図を持って赤く体表を塗ったんだろう。
「レッド・ドラゴンて、かなり上位の……! リヒトん危ないよ、大丈夫なの?」
付き添いとして俺の隣に立っていたフランが言った。
俺の腕をきゅっと掴む。
「俺は大丈夫だよ。危なくなったら試験官が助けてくれるし、助けてくれるまで俺は全力で逃げるから」
そう言ってフランに笑いかけた。
でもフランは未だに不安げで、何か言いたそうにしている。
フランが俺の心配をするのは分かる。
俺は自分の属性適正が無いとフランにも偽っていた。
無適正者がドラゴンに挑もうだなんて聞いたら、これが普通の反応だ。
……まぁ正直、ブルー・ドラゴン相手なら俺1人でもピンチになることは絶対にないけど。
でも。
それは闇の適正者である、俺だからだ。
俺はアイゼンを見た。
無適正者は魔物に対して圧倒的に不利だ。
身体能力で劣る人間が属性もなしに魔物と渡り合うのは自殺行為。
しかもグリーン・ゴブリンなんかならどうにでもなるけど、さすがにドラゴンのクラス・ブルー。
鑑定の儀で属性適正に目覚めた人間でもかなり手こずる強さを持ってる。
「…………」
余計なお世話と思いつつ、俺は忠告のためにアイゼンのもとへ。
「何か用か?」
俺に気付いたアイゼンが言った。
「……その、余計なお世話だとは思うけど」
「無適正者がドラゴンに挑むなんて無謀だって?」
アイゼンはそう訊くと鼻で笑った。
「お前の属性は? まぁどの属性でも関係ない。俺を属性がなきゃ戦えないお前ら雑魚と一緒にするなよ」
やはり素直に言うことは聞いてくれないか。
俺はどうにかしてほしくて試験官の方を見た。
俺と目が合った試験官。
試験官はまた、よこせと手振りでお姉さんに指示。
お姉さんに受け取った資料に目を落とす。
「ほう、こいつは珍しい」
試験官が呟いて。
「リヒト、年齢17、属性適正『無し』。お前さんも無適正者か。まさか1度の試験に無適正者が2人もいるなんてな」
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