【 暗黒剣士の聖十字 】 ~属性適正がまさかの闇で騎士団追放。でも魔王と呼ばれるようになった俺の力がないと騎士団が崩壊するって?~

岸本 雪兎

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スコルとハティ その1

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 すーすー。
ぐーぐー。

 俺は寝息を立てている2人のそばへ。

「やっぱりパッと見は人間、だよね」

 俺は2人の姿を見て呟いた。
2人は同じフェンリルから生まれたためか、双子のように瓜二つの顔立ち。

 その髪は1人があかつきの空のように青い。
その毛先にかけて、光の加減でほんのりと緋色ひいろに染まって見える。
もう1人の髪は黄昏たそがれの空のように赤い。
その毛先は夜の闇のように黒く、時折星のような光がまたたいている。

 ふりふり。
ぶんぶん。

 そしてその綺麗な長い髪から視線を下げた。
そこには一見人間のように見える2人の、明らかに人間と異なる部位。
なんと髪の毛と同じ綺麗な青と赤の長い尻尾が、2人のお尻から生えていて。
それが時折揺れている。

 ぺたん。
ぴこぴこ。

 そしてさらに頭の上には獣の耳がついていた。

 獣人とでも形容すればいいのか。
おとぎ話の中では時折目にするが、実際に目にしたことはもちろんない。

 俺は可愛いらしい2人の寝顔を眺める。
魔物なのはほぼ間違いないんだろうけど……。
でも人間の子供の姿をしているから、やはり殺すのは躊躇ためらわれた。

「…………ふあ」

 その時、獣人の1人が目を開けた。
むくりと体を起こす。

 青くて長い前髪が顔にかかり、左目を覆い隠す。
その子はぱちぱちとまばたきした。
その目はオッドアイになっていて。
左の瞳が赤。
前髪越しに僅かに透けて見えるのが青。

 そしてその子は部屋に視線をさ迷わせると、俺と目が合う。

「────!」

 その子は華奢きゃしゃな体をすくませ、耳と尻尾がぴんと立った。
とても驚いた顔をしている。

 俺はひとまず声をかけようと。
だがその子は泣きそうな顔で、相方の顔をばしばしと叩き始めた。

「ハティちゃん、起きてー!!」

 ばしばし、ばしばし。

「ハティちゃーん!」

 ばばし、ばしばし。
ばしん、ばしん。

 情けない声をあげながら。
青い髪の子が容赦なく赤い髪の子の頬をはたく。
はたいてはたいて、はたき倒す。

「うぅ、ったい……!」

 顔をはたかれていた赤い髪の子が起きた。
かばっと体を起こし、不機嫌そうな顔で青い子を睨む。
赤い髪の子もオッドアイだった。
だが左右の色が逆で左目が青、右目が赤だ。

「なによスコル。気持ちよく寝てたのに!」

「ハティちゃん、ハティちゃん、ハティちゃん!」

「なによ、どうしたのよ。はっきり言わなきゃ分からない」

 赤い髪の子が赤く腫れた頬を押さえながら言った。

「ふえーん、変態さんだよぉ」

「変態さん?!」

 変態さん?!

 俺は青い髪の子の発言に目を丸くした。
赤い髪の子が言うのと同時に心の中で叫ぶ。

 赤い髪の子が俺に気付いた。
そして自分達の格好を見て。

「え、うそ! なんであたし達、裸なの?!」

 赤い髪の子は顔を真っ赤にして言った。
慌ててかけていた布団を抱き寄せる。

「変態さんだよぉ」

「変態だわ!」

 なぜか俺がののしられる。
そもそもフェンリルの闇から生まれた時に裸だったし、その体を隠してる綺麗な布団だって誰がレンタルしてかけてあげたと思ってるんだ。

「誤解だよ」

「この状況でよく言えたわね!」

 俺は誤解だと説明しようとしたが、赤い髪の子がそれを遮った。
バカ、アホ、まぬけ、変態を延々と繰り返す。
語彙ごいがない。

「そもそも2人は最初から服着てなかったんだよ」

 俺が言うと、赤い髪の子の口擊こうげきが1度止んで。

「なるほど。その時あたし達は狼の姿だったのね。ならまぁ」

「いや、今の姿だけど」

「わたし達の裸、変態さんに見られてるよハティちゃん!」

「最悪!」

 赤い髪の子が敵意をき出して俺をにらんだ。
ベッドの上に勢いよく立ち上がる。

「あ。ダメだよ、ハティちゃん」

 だが青い髪の子が取られそうになった布団を引っ張った。
布団を取り返され、赤い髪の子の肢体したいあらわになる。

「ううう、殺す!」

 涙目になってしまった赤い髪の子が叫んだ。
ふさふさの尻尾が叩きつけるように激しく上下に揺れる。
そしてその身体から立ち上ぼり、全身を包む深い闇。
そして闇の中から赤い小さな狼が現れて俺に襲いかかった。

 俺は咄嗟とっさにクレイモアを抜き、剣の腹で赤い狼の突進を受け止める。

だが見た目と裏腹に力が強い。
闇による身体強化を施してなかった俺の体が力負けした。
俺は後ろに吹き飛ばされ、扉を破って地面に転がる。

 完全に油断した。
見た目はどうあれ、あれはフェンリルの闇の半分から生まれたんだ。
その体に秘めた闇の量を考えたら、本当なら今ので致命傷になっていてもおかしくない。

 俺は受け身を取ると体を起こした。
幸い周りに人影はない。
騒ぎになる前に────

 そこで俺の思考が止まる。
騒ぎになる前にどうするんだろう。
殺す、のか?

 2人は子供の姿で、しかも言葉を喋る。
ああやって恥じらって、慌てて、怒って。
その様子は人間そのものじゃないか。

 俺が悩んでいる間に赤い狼が迫る。
赤い狼が大きく跳躍。
その爪を振りかぶった。
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