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魔物の王
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私は女の子の手を引いて精一杯走った。
でも逃げる先々で魔物の姿があって。
それを迂回してたら一向に逃げられない。
でも、そもそも逃げるって一体どこに?
街の外も中も魔物だらけで逃げる場所なんか…………。
『────!』
その時、少し先から低い咆哮が轟いた。
魔物の雄叫び。
それに続いて、小さな声と共に狼の魔物が曲がり角の先から勢い良く吹き飛んできた。
壁に叩きつけられた身体がぐしゃりと潰れ、胴体が黒い灰のようになる。
そしてその大きな建物の陰からは大きな口と蒼い炎を灯した目が現れる。
あの、巨大な魔物だ。
逃げ回っているうちに、よりにもよってあの魔物の方に来てたなんて。
巨大な魔物はぎょろりとこちらを向いた。
それだけで私は射竦められて動けなくなる。
心臓がばくばくする。
口の中がからからに渇いて。
ダメだ。
せめて女の子だけでも。
そうは思っても身体が動かない。
指先1つぴくりとも動かせなかった。
「……ぁ…………あ……」
女の子に逃げて、と伝えたいけど声すら出ない。
巨大な狼の魔物がこちらに向かってきた。
実体のある左足と闇そのもののような真っ黒な右足が交互に地面を踏みしめる。
その巨大な魔物に向かって次々と黒い狼の魔物が飛びかかる。
でも巨大な魔物はそれらを容易く返り討ちにした。
その歩みはまるで止まらない。
止まってくれない。
気付けばその魔物は目の前にまで迫ってきていた。
魔物は私達に狙いを定め、|獰猛(どうもう)な爪の並んだ左足を振りかざす。
「…………動、け!!」
振り下ろされる爪。
それと同時に私は声を絞り出した。
身体を縛っていた恐怖を振り払い、女の子の手を引いて後ろへと下がる。
同時に激しい音。
魔物の一撃が地面を抉り、その衝撃に私と女の子が吹き飛ばされる。
「きゃっ」
一瞬暗転した視界。
気付けば私と女の子の体は高々と宙に舞っていた。
握っていた手が、離れてしまう。
そして地面へと叩きつけられようとする私と女の子。
その時、2つの黒い影が疾った。
1つは黒い狼の魔物。
狼の魔物は地面に激突寸前の女の子の襟を咥《くわ》え、地面に叩きつけられるのを回避。
そのまま女の子を咥えて走り去ろうと。
「待って!」
私は走り去る魔物の背に声をかけた。
まずい、このままじゃ女の子が魔物にさらわれてしまう。
『大丈夫。あれは俺の意のままに動く』
女の子の身を案じる私に向かって声がした。
くぐもった声。
不気味な響きの声。
私が振り向いた先には真っ黒な闇。
その顔を闇で覆い隠した何者かは私を抱きかかえたまま着地する。
あれほどの高さだったのにまるで衝撃を感じない。
周囲の闇が集まってクッションのようにその衝撃を和らげていた。
私は得体の知れないその何者かに恐怖する。
その全身は闇のように真っ黒で、私を抱き上げる手は恐ろしいほどに冷たい。
でも…………同時に力強さと優しさのようなものも伝わってくる。
『無事で良かった』
その人はそう言って安堵した。
顔を包む闇越しに、優しい眼差しを向けられた気がする。
未だに私の心臓はばくばくと動いていた。
でも先ほどまでの恐怖とはどこか違う気がする。
『──────!!』
その時、あの巨大な魔物が雄叫びを上げた。
思わず私は体を竦める。
でも私を抱き抱えるこの人は微動だにしない。
微動だにできないんじゃない。
まるで平然としている。
そしてその人の周囲に闇が渦巻くと、次々と魔物が生まれた。
『安心して。この魔物は俺に従う』
顔を闇で覆い隠したその人が言った。
この人が、魔物を生み出したの?
一体どうやって……?
混乱する私の目の前で。
生まれた魔物は統率をとり、次々と巨大な魔物に向かっていく。
狼の魔物が飛びかかり、その背に跨がっていたゴブリンが切りつけた。
敵の攻撃を複数のゴーレムが受け止め、動きを止めたところにオーガがその大剣を振るう。
こんな別種族の魔物が連携をとるなんて聞いたこともない。
私はその人に振り返った。
この人が魔物を指揮してるんだ。
魔物を生み出し、魔物を操る。
それはまるで、魔物の王のようだ。
『────────!!!!』
その時、巨大な狼の魔物は怒り狂ったように吠えた。
同時にその身体から闇が激しく吹き出し、周囲の魔物を吹き飛ばす。
あの超重なゴーレムすらも吹き飛ばす闇の奔流。
周囲の建物が瓦解して瓦礫が空へと舞い上がってる。
でも私達にはその嵐のような闇は襲ってこない。
巨大な魔物が放つ闇は私達を──この人を避けて後方へと流れていた。
『待っていて。すぐに終わらせる』
その人は私をおろすと、あの巨大な魔物に向かって悠々と歩みを進める。
その人は背負っていた真っ黒な剣を手に取った。
禍々しい黒の長剣。
その剣を構えると、周囲の闇が渦を描いて剣身に集まっていく。
『フェンリル、お前はここで討つ』
その人はあの巨大な魔物を、伝承に出てくる最強の魔物の名で呼んだ。
そしてそれを討つと、とてつもないことを。
でも、さも当然のように宣言した。
でも逃げる先々で魔物の姿があって。
それを迂回してたら一向に逃げられない。
でも、そもそも逃げるって一体どこに?
街の外も中も魔物だらけで逃げる場所なんか…………。
『────!』
その時、少し先から低い咆哮が轟いた。
魔物の雄叫び。
それに続いて、小さな声と共に狼の魔物が曲がり角の先から勢い良く吹き飛んできた。
壁に叩きつけられた身体がぐしゃりと潰れ、胴体が黒い灰のようになる。
そしてその大きな建物の陰からは大きな口と蒼い炎を灯した目が現れる。
あの、巨大な魔物だ。
逃げ回っているうちに、よりにもよってあの魔物の方に来てたなんて。
巨大な魔物はぎょろりとこちらを向いた。
それだけで私は射竦められて動けなくなる。
心臓がばくばくする。
口の中がからからに渇いて。
ダメだ。
せめて女の子だけでも。
そうは思っても身体が動かない。
指先1つぴくりとも動かせなかった。
「……ぁ…………あ……」
女の子に逃げて、と伝えたいけど声すら出ない。
巨大な狼の魔物がこちらに向かってきた。
実体のある左足と闇そのもののような真っ黒な右足が交互に地面を踏みしめる。
その巨大な魔物に向かって次々と黒い狼の魔物が飛びかかる。
でも巨大な魔物はそれらを容易く返り討ちにした。
その歩みはまるで止まらない。
止まってくれない。
気付けばその魔物は目の前にまで迫ってきていた。
魔物は私達に狙いを定め、|獰猛(どうもう)な爪の並んだ左足を振りかざす。
「…………動、け!!」
振り下ろされる爪。
それと同時に私は声を絞り出した。
身体を縛っていた恐怖を振り払い、女の子の手を引いて後ろへと下がる。
同時に激しい音。
魔物の一撃が地面を抉り、その衝撃に私と女の子が吹き飛ばされる。
「きゃっ」
一瞬暗転した視界。
気付けば私と女の子の体は高々と宙に舞っていた。
握っていた手が、離れてしまう。
そして地面へと叩きつけられようとする私と女の子。
その時、2つの黒い影が疾った。
1つは黒い狼の魔物。
狼の魔物は地面に激突寸前の女の子の襟を咥《くわ》え、地面に叩きつけられるのを回避。
そのまま女の子を咥えて走り去ろうと。
「待って!」
私は走り去る魔物の背に声をかけた。
まずい、このままじゃ女の子が魔物にさらわれてしまう。
『大丈夫。あれは俺の意のままに動く』
女の子の身を案じる私に向かって声がした。
くぐもった声。
不気味な響きの声。
私が振り向いた先には真っ黒な闇。
その顔を闇で覆い隠した何者かは私を抱きかかえたまま着地する。
あれほどの高さだったのにまるで衝撃を感じない。
周囲の闇が集まってクッションのようにその衝撃を和らげていた。
私は得体の知れないその何者かに恐怖する。
その全身は闇のように真っ黒で、私を抱き上げる手は恐ろしいほどに冷たい。
でも…………同時に力強さと優しさのようなものも伝わってくる。
『無事で良かった』
その人はそう言って安堵した。
顔を包む闇越しに、優しい眼差しを向けられた気がする。
未だに私の心臓はばくばくと動いていた。
でも先ほどまでの恐怖とはどこか違う気がする。
『──────!!』
その時、あの巨大な魔物が雄叫びを上げた。
思わず私は体を竦める。
でも私を抱き抱えるこの人は微動だにしない。
微動だにできないんじゃない。
まるで平然としている。
そしてその人の周囲に闇が渦巻くと、次々と魔物が生まれた。
『安心して。この魔物は俺に従う』
顔を闇で覆い隠したその人が言った。
この人が、魔物を生み出したの?
一体どうやって……?
混乱する私の目の前で。
生まれた魔物は統率をとり、次々と巨大な魔物に向かっていく。
狼の魔物が飛びかかり、その背に跨がっていたゴブリンが切りつけた。
敵の攻撃を複数のゴーレムが受け止め、動きを止めたところにオーガがその大剣を振るう。
こんな別種族の魔物が連携をとるなんて聞いたこともない。
私はその人に振り返った。
この人が魔物を指揮してるんだ。
魔物を生み出し、魔物を操る。
それはまるで、魔物の王のようだ。
『────────!!!!』
その時、巨大な狼の魔物は怒り狂ったように吠えた。
同時にその身体から闇が激しく吹き出し、周囲の魔物を吹き飛ばす。
あの超重なゴーレムすらも吹き飛ばす闇の奔流。
周囲の建物が瓦解して瓦礫が空へと舞い上がってる。
でも私達にはその嵐のような闇は襲ってこない。
巨大な魔物が放つ闇は私達を──この人を避けて後方へと流れていた。
『待っていて。すぐに終わらせる』
その人は私をおろすと、あの巨大な魔物に向かって悠々と歩みを進める。
その人は背負っていた真っ黒な剣を手に取った。
禍々しい黒の長剣。
その剣を構えると、周囲の闇が渦を描いて剣身に集まっていく。
『フェンリル、お前はここで討つ』
その人はあの巨大な魔物を、伝承に出てくる最強の魔物の名で呼んだ。
そしてそれを討つと、とてつもないことを。
でも、さも当然のように宣言した。
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