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闇の真価
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俺はフランシスカを残し、防壁から飛び降りた。
着地と同時に地面を蹴り、疾走する。
後ろからフランシスカが俺を呼ぶ声が聞こえる。
でも立ち止まる事も、振り返る事もしない。
俺は布を取り払い、クレイモアを抜剣した。
周囲には警笛が鳴り響き、街の人達が半狂乱になっている。
俺は人々の間をすり抜け、飛び上がると屋根の上を駆け抜けて。
俺が西側に面した門にたどり着いた頃には、衛兵達が集まって陣形を組んでいた。
「なんであんなのが近くに来るまで気づかなかった」
「見張りの奴らはどうした」
「……進行が早すぎた。おそらくこっから西側の拠点の奴らは伝令を伝える間も無く全滅してったんだ」
「あんな闇、聖堂都市の聖騎士団でも飲まれちまうぞ」
「応援はまだか」
だが陣形を組む衛兵達は明らかに動揺してる。
すでに見渡す限りの景色は闇に飲まれ、地平線から空にかけて完全に黒く染まっていた。
そして目を凝らすと中心に2つの蒼い焔。
それがこの闇を率いる何かの眼だと俺はすぐに気付いた。
未だにその視線が俺に注がれている。
「狙いは……俺なのか?」
なぜかは分からないが、狙いが俺なら話は早い。
俺は跳躍し、陣形を組む衛兵達を飛び越えた。
まっすぐあの蒼い眼の魔物に向かっていく。
「どこへ行く!」
「戻れ、自殺行為だ!」
迫り来る闇の先頭へと向かっていく俺に衛兵達が言った。
「街の防衛をお願いします」
俺はそれだけ伝えると速度をあげる。
穢れていく大地を疾駆する。
すぐに衛兵達の声は俺に届かなくなった。
「お前か」
俺は闇を滾らせるその魔物と対峙すると言った。
『────────!!』
俺に応えるように発せられた轟くような咆哮。
その魔物は巨大な狼の姿をしていた。
家よりも大きい巨大な体躯。
白銀の体毛は深い闇の中でも輝いていて。
そしてその鋭い視線を俺へと向ける双眸からは、蒼い炎が吹き上がっている。
今まで見たこともない魔物。
だが巨大な狼の姿と蒼い炎を灯す目、そして闇から生まれるはずの魔物が闇を生み出しているという異様な光景。
その正体には覚えがあった。
「まさか、フェンリル……?!」
フェンリルとは魔物の軍勢の中でも最上位に位置する魔物の1体で、その存在は古い伝承の中でも多く語られてきた。
曰く膨大な闇を作り出し、大地を黒く染めしモノ。
曰く万の魔物を生み、大国をも一夜のうちに飲み込む魔物の将。
曰くどんな英雄すらも喰らい殺す獣の象をした暴虐の化身。
伝承の中のフェンリルは常に規格外の化け物として描かれていた。
「1000年前に邪神が封印されてから姿を消したって話だったけど、まさかまだ存在してたなんて」
俺はフェンリルの一挙一動に注視しながら、周囲の闇をクレイモアへと纏わせていった。
白と銀のクレイモアが暗黒色へと染まる。
俺を見下ろしているフェンリル。
その背後からはフェンリルの闇から魔物が湧き出し、膨れ上がっていた。
魔物はそのほとんどの等級を色で判別できる。
グリーン、ブルー、レッド、そしてブラックと等級が上がり、その強さは爆発的に増していく。
ブラックともなれば騎士団の総力をあげて討伐されるレベルだ。
そしてフェンリルの背後に蠢く魔物の姿はその全てが──黒い。
『────!』
フェンリルの号令と共に魔物が一斉に進軍してきた。
最初は気を引いて逃げるつもりだった。
逃げ続けて時間を稼ぎ、騎士団の応援さえ待てば共闘して倒せると。
だが魔物の軍勢が目指しているのは俺ではなく、俺の背後にある街だった。
フェンリルだけが俺を見据えていて、その眼が言っている。
お前が逃げれば後ろの街は全滅だぞ──と。
逃げるわけにはいかなくなった。
衛兵達は属性適正の鑑定の儀をほとんどが受けているはずだが、とてもブラックの位の魔物から街を守れるほどではない。
俺はクレイモアを振りかぶった。
幸いここにはフェンリルの生む膨大な闇がある。
そして────
「闇は俺の、領域だ……!」
俺は自分を鼓舞すると共にクレイモアを橫薙ぎに振り抜いた。
クレイモアの剣身に圧縮させていた闇が三日月型の斬擊となって疾る。
ひとまず牽制になれば十分。
前を走る魔物が一瞬でも足を止めれば、その隙をついて魔物の懐に入り、『黒き十字を抱きて眠れ』で順番に仕留める。
俺は自分の放った黒い斬擊を追った。
だが途中で異変に気付く。
放たれた斬擊がおかしい。
普段はその大きさは剣身の倍程度。
なのに今放った一閃は迫り来る魔物の軍勢を一薙ぎにできるほど。
そしてその巨大な黒い三日月は魔物の軍勢を斬り裂いた。
斬り裂かれた魔物の肢体が飛沫と肉塊となって散る。
「威力が……桁違いだ」
俺は自分の技に恐怖を覚える。
空間の闇を纏わせてそれを攻撃に転ずる技はその威力が知れている。
だから俺は一閃目で魔物から闇を奪い、その闇で相手を両断する二擊による必殺技を主軸に戦っていたんだ。
なのに今の一撃はそれよりも遥かに強大。
「そうか!」
思えば俺は聖騎士になってから戦闘を終えるごとに闇払いが行われる聖堂都市の壁外で、魔物が漂わせる残滓のような闇の中でしか戦ってはこなかった。
だがここは違う。
「これが属性適正『闇』の、本当の力……!」
着地と同時に地面を蹴り、疾走する。
後ろからフランシスカが俺を呼ぶ声が聞こえる。
でも立ち止まる事も、振り返る事もしない。
俺は布を取り払い、クレイモアを抜剣した。
周囲には警笛が鳴り響き、街の人達が半狂乱になっている。
俺は人々の間をすり抜け、飛び上がると屋根の上を駆け抜けて。
俺が西側に面した門にたどり着いた頃には、衛兵達が集まって陣形を組んでいた。
「なんであんなのが近くに来るまで気づかなかった」
「見張りの奴らはどうした」
「……進行が早すぎた。おそらくこっから西側の拠点の奴らは伝令を伝える間も無く全滅してったんだ」
「あんな闇、聖堂都市の聖騎士団でも飲まれちまうぞ」
「応援はまだか」
だが陣形を組む衛兵達は明らかに動揺してる。
すでに見渡す限りの景色は闇に飲まれ、地平線から空にかけて完全に黒く染まっていた。
そして目を凝らすと中心に2つの蒼い焔。
それがこの闇を率いる何かの眼だと俺はすぐに気付いた。
未だにその視線が俺に注がれている。
「狙いは……俺なのか?」
なぜかは分からないが、狙いが俺なら話は早い。
俺は跳躍し、陣形を組む衛兵達を飛び越えた。
まっすぐあの蒼い眼の魔物に向かっていく。
「どこへ行く!」
「戻れ、自殺行為だ!」
迫り来る闇の先頭へと向かっていく俺に衛兵達が言った。
「街の防衛をお願いします」
俺はそれだけ伝えると速度をあげる。
穢れていく大地を疾駆する。
すぐに衛兵達の声は俺に届かなくなった。
「お前か」
俺は闇を滾らせるその魔物と対峙すると言った。
『────────!!』
俺に応えるように発せられた轟くような咆哮。
その魔物は巨大な狼の姿をしていた。
家よりも大きい巨大な体躯。
白銀の体毛は深い闇の中でも輝いていて。
そしてその鋭い視線を俺へと向ける双眸からは、蒼い炎が吹き上がっている。
今まで見たこともない魔物。
だが巨大な狼の姿と蒼い炎を灯す目、そして闇から生まれるはずの魔物が闇を生み出しているという異様な光景。
その正体には覚えがあった。
「まさか、フェンリル……?!」
フェンリルとは魔物の軍勢の中でも最上位に位置する魔物の1体で、その存在は古い伝承の中でも多く語られてきた。
曰く膨大な闇を作り出し、大地を黒く染めしモノ。
曰く万の魔物を生み、大国をも一夜のうちに飲み込む魔物の将。
曰くどんな英雄すらも喰らい殺す獣の象をした暴虐の化身。
伝承の中のフェンリルは常に規格外の化け物として描かれていた。
「1000年前に邪神が封印されてから姿を消したって話だったけど、まさかまだ存在してたなんて」
俺はフェンリルの一挙一動に注視しながら、周囲の闇をクレイモアへと纏わせていった。
白と銀のクレイモアが暗黒色へと染まる。
俺を見下ろしているフェンリル。
その背後からはフェンリルの闇から魔物が湧き出し、膨れ上がっていた。
魔物はそのほとんどの等級を色で判別できる。
グリーン、ブルー、レッド、そしてブラックと等級が上がり、その強さは爆発的に増していく。
ブラックともなれば騎士団の総力をあげて討伐されるレベルだ。
そしてフェンリルの背後に蠢く魔物の姿はその全てが──黒い。
『────!』
フェンリルの号令と共に魔物が一斉に進軍してきた。
最初は気を引いて逃げるつもりだった。
逃げ続けて時間を稼ぎ、騎士団の応援さえ待てば共闘して倒せると。
だが魔物の軍勢が目指しているのは俺ではなく、俺の背後にある街だった。
フェンリルだけが俺を見据えていて、その眼が言っている。
お前が逃げれば後ろの街は全滅だぞ──と。
逃げるわけにはいかなくなった。
衛兵達は属性適正の鑑定の儀をほとんどが受けているはずだが、とてもブラックの位の魔物から街を守れるほどではない。
俺はクレイモアを振りかぶった。
幸いここにはフェンリルの生む膨大な闇がある。
そして────
「闇は俺の、領域だ……!」
俺は自分を鼓舞すると共にクレイモアを橫薙ぎに振り抜いた。
クレイモアの剣身に圧縮させていた闇が三日月型の斬擊となって疾る。
ひとまず牽制になれば十分。
前を走る魔物が一瞬でも足を止めれば、その隙をついて魔物の懐に入り、『黒き十字を抱きて眠れ』で順番に仕留める。
俺は自分の放った黒い斬擊を追った。
だが途中で異変に気付く。
放たれた斬擊がおかしい。
普段はその大きさは剣身の倍程度。
なのに今放った一閃は迫り来る魔物の軍勢を一薙ぎにできるほど。
そしてその巨大な黒い三日月は魔物の軍勢を斬り裂いた。
斬り裂かれた魔物の肢体が飛沫と肉塊となって散る。
「威力が……桁違いだ」
俺は自分の技に恐怖を覚える。
空間の闇を纏わせてそれを攻撃に転ずる技はその威力が知れている。
だから俺は一閃目で魔物から闇を奪い、その闇で相手を両断する二擊による必殺技を主軸に戦っていたんだ。
なのに今の一撃はそれよりも遥かに強大。
「そうか!」
思えば俺は聖騎士になってから戦闘を終えるごとに闇払いが行われる聖堂都市の壁外で、魔物が漂わせる残滓のような闇の中でしか戦ってはこなかった。
だがここは違う。
「これが属性適正『闇』の、本当の力……!」
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