【 暗黒剣士の聖十字 】 ~属性適正がまさかの闇で騎士団追放。でも魔王と呼ばれるようになった俺の力がないと騎士団が崩壊するって?~

岸本 雪兎

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誓いと闇の足音

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「今までの扱いを考えれば身勝手な話だと思うだろう。だが俺達にはもう他に頼れる者がいないんだ」

 団長が申し訳なさそうに言った。

「俺に、何をしろと言うんです?」

「お前には王国騎士を目指してもらいたい」

「王国騎士に? でもなんで」


 王国騎士とは国王直属の近衛このえ騎士であり、王国全体の守護を担う騎士のことだ。
その誰もが百戦錬磨の強者であり、一人一人が魔物の軍勢を単騎で蹂躙じゅうりんできるほどの力を備えているとか。
なぜ今俺に王国騎士を目指せと言うのか、俺にはさっぱり分からない。

「お前は王族でも貴族でもない。聖堂都市の聖騎士団は各地にある聖騎士団の中でも最上位。他の聖騎士団で地位をあげてもリーンハルトにはかなわない。王国議会は貴族か王族でなければなれない。だが王国騎士だけは狭き門だが実力だけでなることができる。そしてお前の実力はあのヴィルヘルム様でさえ認めていた」

 団長は語りながら、背負っていた荷物を手にとった。

「王国騎士の権力はうちの聖騎士団にも劣らないし、王との謁見えっけんの機会もある。王の信用を勝ち取り、今の現状とあの男の悪事を白日のもとにさらすんだ」

 そう言って団長が荷物を俺に差し出した。
俺は荷物を受け取り、巻き付けられた布を取り払う。

「これって」

 中から現れたのは冷たい銀色の輝きと純白の装飾。
それは俺が愛用していた十字剣のクレイモアだった。

「俺達聖騎士団は邪神の封印を保ち、民草たみくさを闇と魔物の脅威から守る責務を負っている。お前は聖騎士団を追われた身だが、そのこころざしまで奪われてはいない事を願う」

「……でも、俺はこの町を離れられない。町の人をならず者達になんて任せられません」

「町の住人の事なら心配するな。すでに手を打って都市への迎え入れの準備は整いつつある。ギルドを通してそれまで護衛の冒険者が駐在する手筈てはずだ」

 団長の言葉にほっとした。
常に魔物の影におびえながら生活するのはとてつもない負担だ。
出現した魔物は俺が倒す事はできるが、不安を完全に取り去る事はここに暮らす限りできなかっただろう。

「ありがとうございます」

「礼はいらんさ。むしろ我々は謝罪しなければならない」

 団長はそう言うと馬を操り、俺に背を向ける。

「選択は委ねた。選ぶのはお前の自由。お前が王国騎士を目指すと言うのなら東の街に向かえ。名をエーファ。お前が王国騎士になるのをサポートしてくれる者が待っている」

「エーファ……」

 俺はその名前を繰り返す。
その名前はどこかで聞いた覚えがある気がする。
だが一体どこで聞いたのか思い出せない。

 団長はそれだけ言い残して去っていった。
残ったのは俺のクレイモア。
小さな2つの墓標。
そして────

『おれ、みんなを守る騎士になるだ。魔物からも、悪い奴らからも、みーんな俺が守るんだよ!』

 幼き日に、その墓標の下で眠っている父と母の前で語った夢。
俺の誓い。

『偉いぞ、リヒト』
『リヒトならなれるわ。ママとパパの自慢の息子だもの』

 夢を応援してくれた父と母の声が。
その笑顔が脳裏に浮かんでは消えていく。

「ただいま。父さん、母さん」

 俺は声の震えを抑えながら言った。
寄り添うように並ぶ2つの墓標を見つめて。
そして涙をぬぐう。

 決めた。
俺は今一度、騎士を目指す。
王国騎士となり、今の間違った聖騎士団のり方を正して魔物の脅威からみんなを守るんだ。

 俺はクレイモアを背負った。
誓いの十字を背に、東へと足を向ける。

「いってきます」

 俺は墓標に向かって言った。
気付けば声の震えは消えていて。
俺は東の街に向かって歩きだす。

 そして何の運命か。
俺が東の街に向かうのと時を同じくして、東の街へと疾駆しっくする魔物の影があった。
大きな闇のうねりを伴い、全てを黒で塗り潰して飲み込んでいく魔狼。
その魔狼が駆け抜けた大地からは魔物が湧き出すように生まれていく。

 その瞳から蒼の炎を吹き出しながら大地を駆ける白銀の魔狼の名はフェンリル。
魔物の軍勢を従える最上位の魔物の一体。
俺は東の街で、この魔狼フェンリルと対峙たいじすることになる。

 あとになって思えばその予感はあった。
東の街へと向かう俺の中で、闇がざわざわと騒いでいた────
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