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悲しみと騎士団からの使者

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 町長さんは俺の言葉になぜか答えない。
答えてくれない。
その様子はまるで必死に言葉を選んでいるようで。
胸がざわざわする。
でもまさか、そんな。

 俺はいてもたってもいられず、全力で走り出した。

「リヒト!」

 町長さんが俺を呼んだ。
だが俺は足を止めない。
向かうのは俺の家。
父さんと母さんの待つ、俺が生まれ育った家に。

 そして俺は目的の場所へとたどり着く。

 でも、そこにはもう────家は、なかった。
そこにあるのは家の残骸。
そしてその前には粗末な墓標が2つ。
片方には見覚えのある直剣が折れた姿で立て掛けられて。
もう一方には母さんの好きだった紫の花で結われた花冠がかかっていた。
俺はしおれて花びらも半分以上散ってしまっているその花冠をそっと撫でる。

 頭では何が起こったか理解できない。
なのに心は嫌というほどその現実を前に叫びをあげていて。
気付けば混乱した頭のまま、俺は涙を流していた。

 父さんと母さんが……死んだ?
どうして。
なんで。
一体なにが。

…………決まってる。
魔物に、やられたんだ。
闇払いで土地の浄化さえできていれば、2人は死なずにすんだはずなのに!

 腹の底からふつふつと怒りがこみ上げる。
俺は家の残骸を力の限り殴り付けた。
鈍い音が響き、拳ににじんだ血がしたたる。

「やはりここに帰ってきたか、リヒト」

 馬のいななきと共に俺の後ろから声がした。
俺は肩越しに背後を振り返る。

 そこには馬にまたがり、麻のフードを目深まぶかに被った男の姿。
その背には布にくるまれた大きな荷物を背負い、腰には2本の剣を差している。

 俺は男の顔を見ると目を丸くした。

「どうして、あなたがここに?」

 その人は聖騎士団の団長の1人だった。

「お前に用があった」

「俺に? …………それより団長、この町は闇払いの儀が半年近く行われてなくて闇に飲まれてしまってる。ここだけじゃない。他の村や町も同じ惨状だと聞きました。一体何が起こっているんですか」

「全てリーンハルトの指示だ。闇払いにいてた人員を削減し、自分の側に置いたんだ」

「どうしてそんな事を」

「光の属性は闇に影響を受けやすいのはお前も知っているだろう。リーンハルトは力の習熟が未熟。その力を使うのに周囲の光の安定をヴィルヘルム様以上に行う必要があったんだ」

「でも、だからってそんな……」

「それにリーンハルトは貴族の生まれでない者を見下している。あの男にとって小さな村や町に住む平民の事なんてどうでもいいのさ」

 団長は平坦な声音こわねで言った。
だが手綱たづなを握る手に力がこもり、その瞳の奥にわずかに怒りの色がにじんだのを俺は見逃さなかった。

 俺は団長に言う。

「そしてリーンハルトはヴィルヘルム様を失脚に追い込みました」

 俺は団長にあの夜、リーンハルトの口から聞いた驚愕きょうがくの事実を告げた。
まさかヴィルヘルム様がリーンハルトによって団を追われ、さらには国外追放のめいを国王から言い渡されているなんて知らないはずだ。

 だが団長の答えは俺の予想とは違っていて。

「知っている」

「知っている?」

 俺は思わず聞き返した。

「知っていて…………いや、知っていたならどうしてリーンハルトに従っていられるんですか?!」

 俺は思わず声を荒らげる。

「俺達団長と一部の者は事の顛末てんまつを知っている。だがそれを知った頃には全てが手遅れだったんだ。そしてリーンハルトは強大な権力を手にいれた。逆らえばヴィルヘルム様やお前のように騎士団を追われる身となっていただろう」

「自身の保身のために従っていると?」

「違う」

 団長が強い語気で否定して。

「俺達まで騎士団を追われれば、いよいよリーンハルトの暴走を食い止める者がいなくなる。俺達は最後の抑止力なんだ。団を追われるわけにはいかない」

「ですがこのままでは」

「分かっている」

 団長がうなずくと続ける。

「だがリーンハルトは俺達の動向に常に目を光らせている。こうやってお前のもとに来るのも一苦労だった。騎士団はリーンハルトの手の上。だから俺達は団を追われて監視の目がないお前に期待を寄せている」

「期待……?」

 俺は首をかしげる。
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