【 暗黒剣士の聖十字 】 ~属性適正がまさかの闇で騎士団追放。でも魔王と呼ばれるようになった俺の力がないと騎士団が崩壊するって?~

岸本 雪兎

文字の大きさ
上 下
5 / 101

悲しみと騎士団からの使者

しおりを挟む
 町長さんは俺の言葉になぜか答えない。
答えてくれない。
その様子はまるで必死に言葉を選んでいるようで。
胸がざわざわする。
でもまさか、そんな。

 俺はいてもたってもいられず、全力で走り出した。

「リヒト!」

 町長さんが俺を呼んだ。
だが俺は足を止めない。
向かうのは俺の家。
父さんと母さんの待つ、俺が生まれ育った家に。

 そして俺は目的の場所へとたどり着く。

 でも、そこにはもう────家は、なかった。
そこにあるのは家の残骸。
そしてその前には粗末な墓標が2つ。
片方には見覚えのある直剣が折れた姿で立て掛けられて。
もう一方には母さんの好きだった紫の花で結われた花冠がかかっていた。
俺はしおれて花びらも半分以上散ってしまっているその花冠をそっと撫でる。

 頭では何が起こったか理解できない。
なのに心は嫌というほどその現実を前に叫びをあげていて。
気付けば混乱した頭のまま、俺は涙を流していた。

 父さんと母さんが……死んだ?
どうして。
なんで。
一体なにが。

…………決まってる。
魔物に、やられたんだ。
闇払いで土地の浄化さえできていれば、2人は死なずにすんだはずなのに!

 腹の底からふつふつと怒りがこみ上げる。
俺は家の残骸を力の限り殴り付けた。
鈍い音が響き、拳ににじんだ血がしたたる。

「やはりここに帰ってきたか、リヒト」

 馬のいななきと共に俺の後ろから声がした。
俺は肩越しに背後を振り返る。

 そこには馬にまたがり、麻のフードを目深まぶかに被った男の姿。
その背には布にくるまれた大きな荷物を背負い、腰には2本の剣を差している。

 俺は男の顔を見ると目を丸くした。

「どうして、あなたがここに?」

 その人は聖騎士団の団長の1人だった。

「お前に用があった」

「俺に? …………それより団長、この町は闇払いの儀が半年近く行われてなくて闇に飲まれてしまってる。ここだけじゃない。他の村や町も同じ惨状だと聞きました。一体何が起こっているんですか」

「全てリーンハルトの指示だ。闇払いにいてた人員を削減し、自分の側に置いたんだ」

「どうしてそんな事を」

「光の属性は闇に影響を受けやすいのはお前も知っているだろう。リーンハルトは力の習熟が未熟。その力を使うのに周囲の光の安定をヴィルヘルム様以上に行う必要があったんだ」

「でも、だからってそんな……」

「それにリーンハルトは貴族の生まれでない者を見下している。あの男にとって小さな村や町に住む平民の事なんてどうでもいいのさ」

 団長は平坦な声音こわねで言った。
だが手綱たづなを握る手に力がこもり、その瞳の奥にわずかに怒りの色がにじんだのを俺は見逃さなかった。

 俺は団長に言う。

「そしてリーンハルトはヴィルヘルム様を失脚に追い込みました」

 俺は団長にあの夜、リーンハルトの口から聞いた驚愕きょうがくの事実を告げた。
まさかヴィルヘルム様がリーンハルトによって団を追われ、さらには国外追放のめいを国王から言い渡されているなんて知らないはずだ。

 だが団長の答えは俺の予想とは違っていて。

「知っている」

「知っている?」

 俺は思わず聞き返した。

「知っていて…………いや、知っていたならどうしてリーンハルトに従っていられるんですか?!」

 俺は思わず声を荒らげる。

「俺達団長と一部の者は事の顛末てんまつを知っている。だがそれを知った頃には全てが手遅れだったんだ。そしてリーンハルトは強大な権力を手にいれた。逆らえばヴィルヘルム様やお前のように騎士団を追われる身となっていただろう」

「自身の保身のために従っていると?」

「違う」

 団長が強い語気で否定して。

「俺達まで騎士団を追われれば、いよいよリーンハルトの暴走を食い止める者がいなくなる。俺達は最後の抑止力なんだ。団を追われるわけにはいかない」

「ですがこのままでは」

「分かっている」

 団長がうなずくと続ける。

「だがリーンハルトは俺達の動向に常に目を光らせている。こうやってお前のもとに来るのも一苦労だった。騎士団はリーンハルトの手の上。だから俺達は団を追われて監視の目がないお前に期待を寄せている」

「期待……?」

 俺は首をかしげる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

スローライフとは何なのか? のんびり建国記

久遠 れんり
ファンタジー
突然の異世界転移。 ちょっとした事故により、もう世界の命運は、一緒に来た勇者くんに任せることにして、いきなり告白された彼女と、日本へ帰る事を少し思いながら、どこでもキャンプのできる異世界で、のんびり暮らそうと密かに心に決める。 だけどまあ、そんな事は夢の夢。 現実は、そんな考えを許してくれなかった。 三日と置かず、騒動は降ってくる。 基本は、いちゃこらファンタジーの予定。 そんな感じで、進みます。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

【完結】ご都合主義で生きてます。-商売の力で世界を変える。カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく-

ジェルミ
ファンタジー
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 その条件として女神に『面白楽しく生活でき、苦労をせずお金を稼いで生きていくスキルがほしい』と無理難題を言うのだった。 困った女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 この味気ない世界を、創生魔法とカスタマイズ可能なストレージを使い、美味しくなる調味料や料理を作り世界を変えて行く。 はい、ご注文は? 調味料、それとも武器ですか? カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく。 村を開拓し仲間を集め国を巻き込む産業を起こす。 いずれは世界へ通じる道を繋げるために。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!

あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!? 資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。 そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。 どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。 「私、ガンバる!」 だったら私は帰してもらえない?ダメ? 聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。 スローライフまでは到達しなかったよ……。 緩いざまああり。 注意 いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。

処理中です...