【 暗黒剣士の聖十字 】 ~属性適正がまさかの闇で騎士団追放。でも魔王と呼ばれるようになった俺の力がないと騎士団が崩壊するって?~

岸本 雪兎

文字の大きさ
上 下
1 / 101

聖騎士の闇使い

しおりを挟む
 騎士達の怒号と魔物の咆哮ほうこうとが入り乱れる戦場を、俺は風のごとく駆け抜ける。

「絶対に魔物を都市へと入れるな!」

「邪神の封印を解かせるわけにはいかない……!」

「騎士の誇りを示せ!」

 戦場でそれぞれの団の団長が団員を鼓舞こぶする声が聞こえた。 

 ここは1000年前に邪神を封じ、その封印を守るために作られた聖堂都市の壁外。
その封印を破るために日夜襲いくる魔物の軍勢。
それらを退けるために都市の建設と共に結成された聖騎士団。
俺──リヒトは騎士団の総団長だったヴィルヘルム様に憧れてこの聖騎士団に入団した。

「喰らえ!」

「トドメです!」

「捉えた」

がさん……!」

 騎士達は魔物目掛けて各々おのおのの属性を宿した得物を振るう。

 人は一部の例外を除いて火、水、風、土の4属性のどれかに適正を持ち、属性適正の鑑定の儀をもってその力に目覚める。
例外は適正の属性を持たない無適正者。
そして上位属性の適正者だけだった。
────そう、俺が現れるまでは。

 その時、光の柱が戦場に立ちのぼった。
基本4属性とは異なる、選ばれし者だけが使える上位属性『光』の奔流ほんりゅう
その光の力の前には強大な力を有するレッド・ドラゴンも一撃で倒れる。

「凄い! あのレッド・ドラゴンを一撃で!」

「さすがは総団長様!」

「選ばれし光属性の使い手!」

 他の騎士では10人がかりでも倒せるかどうかという巨大なドラゴンを一撃でほふって。
騎士達の賛辞さんじを一身に浴びるのは、騎士団の今の総団長を務めるリーンハルト様。
俺が憧れたヴィルヘルム様と同じ光の属性を操る騎士団のエースだ。

 だがレッド・ドラゴンは1体だけではない。
俺が向かう先には防戦一方の騎士達の姿と巨大な影。
彼等が対峙たいじしているのもまたレッド・ドラゴンだった。
その鋭い鉤爪かぎづめ強靭きょうじんな尾、灼熱のブレスは脅威だ。
それらをなんとかくぐって騎士達が攻撃しているが、その血のように赤い鱗には傷1つ付けられていない。

 俺は十字を描く巨大な剣──クレイモアを構えながらレッド・ドラゴンに向かって駆けていく。

「おっと」

 混戦状態の戦場では時折味方の剣も襲ってくる。
俺は背後から振るわれた剣を易々やすやすと回避してそのままレッド・ドラゴンに向かった。

 わりとよくある事。
だがそれにしても────

「いつもより剣を向けられ過ぎじゃないか?」

 思わず呟いてしまう。
だって今のですでに13回目。
ちょっといくらなんでも多すぎる。

 だが今はヴィルヘルム様が退団して初の大規模な襲撃による混戦。
それも仕方ないことか。
何より、剣を向けられる1番の理由が俺にあるのだ。

 俺は隊列を組む騎士達を飛び越え、レッド・ドラゴンの前へとおどり出る。
俺の姿に背後の騎士達が一瞬息を飲んだのが伝わった。
無理もない。
深い闇をたなびかせて戦場を疾駆しっくする俺の姿は、お世辞にも聖騎士の末席まっせきに名を連ねる者の姿ではない。

「チッ、リヒトか」

「驚かせるな、魔物かと思ったぞ」

 背後からそんな声が聞こえた。

 俺は闇によって黒く染まったクレイモアを振りかぶった。
俺に与えられた属性、それは『闇』。
無適正者、上位属性適正者にぐ第3にして初の例外。
人間が操る事はできないと言われた6番目の属性を操る者。
その属性の性質のせいで俺は度々たびたび、戦場で魔物と見間違えられる。
だがそれにももう慣れた。

 レッド・ドラゴンは鋭い瞳で俺を見下ろした。
その鉤爪かぎづめを俺へと振るう。

 鋭い風切りの音と共に迫る凶爪きょうそう
だが俺はクレイモアを横に一閃いっせん
黒い剣閃けんせんが尾を引き、レッド・ドラゴンの爪ごとその胸を真一文字に斬り裂いた。
続けざまに剣を縦に振り上げる。

「『黒き十字を抱きて眠れダーク・グレイヴ』……!」

 描かれた暗黒の十字。
十字を刻まれたレッド・ドラゴンの身体が頭から尾にかけて真っ二つに分かれた。
その身体が崩れ落ちる。

 これが俺の対魔物の切り札。
 最初の一閃いっせんで魔物に宿る闇を俺の力で奪い取り、その防御を低下。
そして奪った闇を込めた一撃で魔物を討つ俺の剣技。
憧れだったヴィルヘルム様の奥義『御手が刻みしグランド勝利の聖印クロス』を模した俺の必殺技だ。

「すげぇ、こっちも一撃だ」

「さすがは光とついをなす呪われた属性」

「いつ見てもおぞましい」

 背後の騎士達が言った。
そこに感謝や賛辞の言葉はない。
同じようにレッド・ドラゴンを倒したのに、その対応はリーンハルト様とは雲泥の差だ。
魔物でも見るような目で見られる。

 魔物の軍勢は筆頭だったレッド・ドラゴン2体を討たれた事で勢いを失い、ついには撤退した。
激しい戦いだったが俺達騎士団からは死傷者を出すこともなく完全勝利となる。

 だが勝利の余韻よいんに浸る暇もなく、俺は総団長リーンハルト様の呼び出しを受けた。
一体何の用だろうか。
リーンハルト様は名家の生まれで選ばれた光の属性適正者だ。
貴族の出でもなく、ましてや闇の属性を持つ俺をあまりこころよく思っていないと聞いていたけれど。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

スローライフとは何なのか? のんびり建国記

久遠 れんり
ファンタジー
突然の異世界転移。 ちょっとした事故により、もう世界の命運は、一緒に来た勇者くんに任せることにして、いきなり告白された彼女と、日本へ帰る事を少し思いながら、どこでもキャンプのできる異世界で、のんびり暮らそうと密かに心に決める。 だけどまあ、そんな事は夢の夢。 現実は、そんな考えを許してくれなかった。 三日と置かず、騒動は降ってくる。 基本は、いちゃこらファンタジーの予定。 そんな感じで、進みます。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

【完結】ご都合主義で生きてます。-商売の力で世界を変える。カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく-

ジェルミ
ファンタジー
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 その条件として女神に『面白楽しく生活でき、苦労をせずお金を稼いで生きていくスキルがほしい』と無理難題を言うのだった。 困った女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 この味気ない世界を、創生魔法とカスタマイズ可能なストレージを使い、美味しくなる調味料や料理を作り世界を変えて行く。 はい、ご注文は? 調味料、それとも武器ですか? カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく。 村を開拓し仲間を集め国を巻き込む産業を起こす。 いずれは世界へ通じる道を繋げるために。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!

あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!? 資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。 そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。 どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。 「私、ガンバる!」 だったら私は帰してもらえない?ダメ? 聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。 スローライフまでは到達しなかったよ……。 緩いざまああり。 注意 いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。

処理中です...