転移魔法に失敗したら大変な事に巻き込まれたようです。

ミカヅキグマ

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王同士の話!

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 妖精王と妖精女王は魔水晶に映し出された世界中の惨状を延々と見ていた。
 もう何時間も目を背けたくなる光景なのに、二人は無言で見続けている。
 ただ妖精王は無表情、妖精女王は顔面蒼白なので心境は大きく異なるようだ。

「夜になる国が増えるから、さらに増やすか。より活発に動けるようになるからな」
「……何故アンデッドなのですか? 」

 魔水晶には妖精王の国の兵士は一度も映し出されていない。
 首謀者発覚を避けるために自国民を表に出さないつもりなのだろうか。

「アンデッドだと人間共の恐怖心を煽るのにちょうどいいだろう。それに生きている者共と違い、食料が不要だしな。一番良いのは生きている奴らは反抗するが、こいつらはしない」
「一体どこからこんなに沢山……」
「単純に千年もあれば自然に増える。それに千年の間にいくつもの戦争と災害があっただろう。それだよ」

 妖精女王は妖精王の悲惨な出来事を、ただの物扱いする言葉遣いに胸が痛くなった。

「だがもっと増えるはずだったのに、あの二人が邪魔をして……。それも何度もだ」

 妖精王は一段と低い声で言い、それはまるで地響きのようだった。

「まさか貴方が戦争するように仕向けたのですか? 」
「全てではないがいくつかはな。自然災害は魔力の流れをコントロールすれば出来るが、人間を操る方が楽だった。大幅に人口を減らせそうな時に限ってあいつらは時間を戻すんだ。ふざけてる」
「そんな……」

 妖精女王は数多くの戦争と自然災害を見て来た。
 どれも多くの人々が死に地形も変わり、何度も地図が書き換えられた。
 そんな痛ましい出来事がよく知る人物の仕業だったと知り、彼女は息が出来なくなるくらい胸が締め付けられた。
 しかも自然を愛していた妖精王が破壊行為をしていただなんて信じられなかった。

「超人共がこちら側に靡きそうになっても、すぐになかった事にされた」

 妖精王の言う超人とはジェーンのような全種族で数百年に一度にしか誕生しない強者のことである。

「あれも貴方の……」
「よい駒になると思ったんだがな。しかしまぁ、最初のうちは時間が戻されているなんて全然気付かなかった。やたらと既視感を覚える日々が続くからおかしいと思い、そこで漸く気付いた。そしてそんな大魔法が出来る奴は限られているから、すぐに誰の仕業なのかも分かったよ。無視したあげく邪魔するとはな。本当にふざけた奴らだ」
「無視ではありません。先ほども言ったとおり、貴方の体調を気遣ってのことです」
「どこにその証拠がある? 」

 妖精王は妖精女王の口から出任せだと信じて疑わない。

「証拠はありませんが、貴方を蔑ろにした証拠もありません」
「あるだろ、無視というのが。全種族や部族に声をかけたのに私にだけ無いもののように扱われた」
「それは違うと先ほども言ったではないですか。仮にそうだとして、それと今、貴方がしていることと何の関係があるのです」
「もう忘れたのか? この星が自由に活動出来るようにするためだ。私怨関係なく動いているつもりだ。だが結果として奴らの妨害になっているな。これはこれで面白い」
「皆の死が面白い? 貴方の国の民が聞いたらどう思うでしょう」

 妖精女王は妖精王が民のためにと行動していた千年前を思い出して欲しかった。

「もういない」
「え? 」
「彼らには様々な実験体や材料になってもらった」
「な、なにを……」

 最初妖精女王は、目の前の人物が何を言ったのか理解出来なかった。
 何度も唱えてみたが、彼の言葉の意味が分からない。

「ことを上手く運ぶには私の存在を消すのが必要だった。だから記憶を操作する術を身に付けた」

 事実、妖精女王は妖精王の襲撃に遭うまで、彼を完全に忘れていた。

「何人か我が国からの移住者がいただろう。彼らに記憶操作装置の役割を果たして貰った。よく機能してくれたようだな」
「私の記憶までを操作出来るなんて……」

 妖精女王の記憶は時を戻されても残る大変特殊なもので、妖精王はそれさえも操作してしまう魔法を生み出していた。

「ああ、お前のせいで時間がかかったよ。何百年もかかった」
「だから今このタイミングなのですか? 私が完全に術にかかった状態だから……」
「まぁそれもそうだが、後はあのマシューとかいう突然現れた小僧に嫌な予感がしたから早めに行動を起こしたかった」

 妖精王はマシューが妖精界から出るのを確かめ、人間界でアンデッドを出現させて彼を足止めし、妖精界でスプリガンを出現させた。
 マシューが頻繁に行く箇所、つまり牧場にアンデッドを送り込んだのも妖精界に戻る時間を遅らせるためだ。

「本当ならもっと早くやりたかったかったが、思ったよりスプリガンの実験に時間がかかってしまった」
「……貴方の国の民で試したのですか? 」
「ああ、確実に成功するために何度もやったよ」

 人工的にスプリガンを作り、さらに死んだ妖精の魔力をスプリガンに送る。
 妖精王は妖精女王の国の妖精を殺す前に自分の国の妖精で実験していた。
 記憶を操作出来るのなら反対する者はいなかっただろう。
 彼女は衝撃的な話を連続で聞かされて、目眩どころではなくなっている。
 それでも彼に軽蔑の眼差しを向けないのは、昔なじみだからだろうか。
 しかし、そう思っているのは彼女だけで、彼にはとってはただの人質でしかないかもしれない。

「あの小僧はあいつらの息子のようだな。容姿と能力の高さから疑いようもない。親子揃って邪魔をするのか。生まれつき全てを持っている癖に、どうして人の楽しみを奪うのだ。そんな権利ないだろう」
「貴方にだって生物の命を奪う権利はないはずです」
「いいや、星の声を聞いた。苦しいと叫んでいた。私は代わりに悪しき者共を排除しているだけだ」
「いつその声を聞いたのです? 貴方が体調を崩していたときではないですか? 」
「ああそうだが? なんだ? 私が幻聴を聞いたとでも思っているのか? 」
「いいえ、そんなまさか。きっと貴方の苦しみと同調したから聞こえたのでしょうね……」

 妖精女王は否定したら妖精王が何をするのか予想つかないので、話に乗ることにした。



 人間界では一旦アンデッドの襲撃が落ち着いていたものの、夜になった国々に再びアンデッドが出現し多くの被害が出ていた。
 各地にいるキャサリンの一族は疲弊しながらも何とか持ち堪えていた。

「はぁ、まさか青い炎の精霊の力がこんなに役立つ時が来るとはね」

 キャサリンは倒したアンデッドを百まで数えたところでやめた。
 すでにその何倍も倒しているので、あの時数えるのをやめてよかったとキャサリンは思っている。

「キャサリンさんが来て下さらなかったら、この町はどうなっていたか……。ありがとうございます」

 マリリンは再装填しているが、そろそろ弾がなくなりそうなので、新たに作るか別の属性の弾を使わねばならなくなっている。
 現在、南ノ森町にはキャサリンとマリリン、二人がいるのと反対側に校長夫妻がいる。
 この四人に加えギルド員達もいるが、アンデッドに有効な術がないので、キャサリンによる属性付与や校長が所持する魔導具などを駆使して戦っている。

「ここら辺はうちの一族の者がいないし、有力な戦闘員がいないようだったから来てみたのよ」
「本当に助かります」

 炎魔法が得意なギルドの厨房のおじさんは別の町に、ジェイコブやコーディもより激戦になっている場所に行っているため主戦力はキャサリン達のみだ。
 ジェーンの又姪のレオナもすでに海軍に呼び戻され町にいない。

「私ならいくらでも時間稼ぎ出来るから、焦らずに確実に弾の準備してちょうだいね」
「すみません。魔導生物の事件後に沢山用意したのですけど……」

 マリリンの魔銃の弾は購入も可だが魔法で自作も出来るので、合間を縫って新しい弾を作っていた。

「属性付与は私がする? 」
「専用の魔法円があるから大丈夫ですよ」

 キャサリンは便利ねと言いながら、青い炎を放ちリッチを撃破した。

「アンデッドの上位種をこんな長閑な町で見る日が来るなんて、流石の私でも驚くわよ」
「これってジニーとマシュー君が追われているのと関係ありますか? 」
「黒幕は同じね」

 キャサリンは妖精王だとはマリリンに言わずにおいた。
 彼女だけでなく一般人には伏せておくべきだと思ったのだ。

「そんな、国の上層部にまで介入出来る人がいるなんて……」
「私達が大体の悪党を懲らしめていたけど、身を隠すのが上手かったようなのよ」

 相手は記憶までを操れる。
 キャサリンは妖精王を疑いもしなかった。
 もっと言うなら彼は話題にも上がったことがない。
 妖精王は自身の存在を消すために、何気ない会話すらさせなかった。
 これでは疑いようもない。

「ええっ、キャサリンさん達からも逃れられる人間がいるのですか? 」

 何気に鋭いマリリンである。

「何処にでも逃げるのが上手いのっているでしょう」
「隠密か何かでしょうか、その人。私だったら楽しそうな事があったら参加したくなっちゃいます」
「あら? 激辛料理のフルコースとかかしら? 」
「ああっ、そんなの知ったら隠れていられませんよっ」

 マリリンは涎が垂れそうになるのを我慢してアンデッドに弾を撃ち込んだ。


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