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黒幕について!
しおりを挟むリチャードとマシューは協力して魔法でスプリガンを拘束した。
しかし数分止められた程度で、すぐに動きだしてしまった。
どうやら対象が大きすぎて魔法の効きが悪いようだ。
「やはりもっと上級の魔法でないと無理ですね」
「どうしたら良いの? 」
二人は会話をしながら攻撃を続けるもスプリガンは彼らの攻撃に慣れてきたのか、命中しても呻き声を上げなくなっていた。
「詠唱魔法やら術式やらで時間を掛ければ出来ますよ」
「僕が時間稼ぎをすればいい? ……なんなら倒しちゃってもいい? 」
「討伐ですか。マシュー君ならいけそうですね」
ヴァージニアは討伐と聞き、ショックで小さく復唱した。
綺麗な妖精も辛そうな表情になり俯いてしまった。
「あ、あのリチャードさん、スプリガンになる前の姿に戻せないのですか? 」
「どうなんでしょう? 私もそこそこ長く生きていますが、スプリガンだなんて初めてですのでねぇ」
綺麗な妖精も過去のスプリガンについては知らないそうだ。
「倒しちゃ駄目なの? 」
「私はそのつもりだったんですけど、元に戻す手立てがあるのなら、そちらの方がいいんですかね? 妖精の国での法律等はどうなってるんでしょう? 」
リチャードは綺麗な妖精にチラリと視線を送った。
「すみません。そのような法はなかったと思いますが、私は法律に詳しいわけではないので……」
「ああもうっ! よく分からないから氷付けにして動きを止めるよ! 」
ヴァージニアは子どもの頃に読んだ本にはなんと書いてあったのか、必死で思い出そうとした。
スプリガンは倒されたのか、それとも魔法で本来の姿に戻ったのか、あるいは凶暴性だけを取り除いてそのままの姿で暮らしたのか。
彼女はどのバージョンも読んだ気がした。
要するにどれも創作だ。
「よし、全身凍った」
遠くと言っても先ほどよりかはかなり近づいた場所で、光を反射する何かがある。
あれがスプリガンなのかとヴァージニアは思った。
「この隙に避難と怪我人の治療が出来るといいんですけどね」
リチャードは指に魔力を集中させて空中に何かを書き始めた。
これが術式なのだろう。
「とうめいを連れて来ればよかったね。きっと今頃牧場は軍が来て安全になってるだろうし」
「おや、呼びます? 転移魔法の補佐をしますよ」
というわけで、とうめいが妖精界にやって来た。
とうめいはいつの間にか見慣れぬ場所に来たので驚いてキョロキョロとしている。
「! 」
妖精界はグリーンスライムにとって食料が豊富なので、とうめいはすぐさま草を食べ始めた。
しかも妖精界の草を気に入ったようで、いつもより勢いよく食べている。
もしかしたらアンデッドとの戦闘で空腹だったのかもしれない。
「とうめい、ここは妖精界だよ。今はスプリガンっていうのが暴れてて、皆が困ってるんだ。怪我をしている妖精さんが沢山いるんだよ」
「! 」
とうめいは食事をしながらマシューの話を聞いている。
「私がついて行き皆に説明しますので、とうめいさんは怪我人の治療をお願いします」
「! 」
綺麗な妖精ととうめいは怪我人救出に向かった。
(あれ、また私は何もしていない……)
ヴァージニアはいつもこうだと肩を落とした。
綺麗な妖精達について行けばよかっただろうか、そうだ、きっとその方が役に立つだろう。
彼女は落ち込んでいる暇があるなら、すぐにとうめい達を追いかけるべきだと思い、ここから離れると二人に告げようとした。
(あれ? )
しかしリチャードが別の場所に移動した後で、マシューもリチャードの後について行っており、どのように術式を発動させるのか観察している。
ヴァージニアは完全に取り残されていたため、慌てて彼らが居る場所に走って行った。
「ああそうだ、封印という手もありますね」
「ん? この魔法は何なの? 」
「相手をじわじわと衰弱させる魔法を発動させようとしています」
リチャードは爽やかな笑顔で答えた。
そんなリチャードに対しマシューは嫌そうな顔をして、うわぁと小声で言った。
だが、彼はヴァージニアが近づいて来たので、すぐにいつもの整った顔に戻り、さらに何事もなかったかのように涼しい顔になった。
「ジニー、どうしたの? 」
「リチャードさん、マシュー、私はとうめい達の手伝いをしに行きます」
「駄目。ジニーはここにいて」
「わっ」
ヴァージニアはマシューに腕を掴まれ、引き寄せられた。
「そうですね。もう少し黒幕について話しませんと。まぁ話すというか、私が話をまとめるために付き合ってください」
現在、黒幕は妖精王であると仮定している。
他の者でも今回の事件を起こすことは出来るが、リチャードにはそうは思えないらしい。
「妖精王だと仮定するとアンデッドがあちらこちらに出たのも納得がいくんです。かなりの魔力量が必要なので、人間には無理ですからね。別の生き物同士を合成する禁術だってそうですよ。あの魔法は封じられたはずなのに、何故か人間が使用し、しかも成功している。魔導書を読み解いたからといって、再現出来る魔法じゃないんですよ。誰か大きな力を持った者が手助けをしていたんです」
神や龍や精霊は禁術を忌んでいるからあり得ないそうだ。
「アンデッドである理由は何でしょうか? 襲わせるなら魔獣でもいいですよね? 」
「推測でしかないですが、千年前にもアンデッドがうじゃうじゃいたそうですよ。昔は飢餓や戦争で沢山死骸があったそうですから自然発生したのでしょう」
リチャードの話は実際にその時代に生きていたエルフからの情報なので、人間界に残されている歴史書よりも正確な情報だろう。
ちなみに人間界の記録だとアンデッドは魔王の仕業となっている。
「千年前の再現……。合成された生き物に加えアンデッドも……」
「妖精王なら千年前にいた生き物には会えるんじゃないの? 」
「それなんですがねぇ、おそらく人間を操るための手段の一つでしかないと思います」
妖精王が人間界で駒を獲得するために、人生を滅茶苦茶にされた人がいる。
「そんな理由のためだけに人間や生き物達を……」
ヴァージニアは怒りで奥歯を噛んだ。
多くの人々が傷つけられ、その中には命を落とした者もいる。
活動資金を得るために体の一部を奪われた人や、一部の人の願望を叶えるために姿を変えられた人もいる。
死んだ後も安らかに眠れずに、自分の意思とは無関係に体を動かされている人もいる。
「そしてアンデッドであるもう一つの理由は、生きている兵だと食料が必要ですが、アンデッドだといりません。さらに見た目で人間に負のイメージを与えやすいですしね」
世界の空気を混沌へと向かわせられ一石何鳥にもなるというわけだ。
「では確定でいいのでしょうか」
「少なくとも組織のトップは人間ではないでしょう。人間だとしても名前だけで真のトップではないですよ」
「まだ妖精王がこんな恐ろしいことを企んだ理由が分かりません」
「ヴァージニアさんは妖精王についてどれくらい知っていますか? 」
妖精女王については様々な書物に記載されているが、妖精王のはない。
少なくともヴァージニアは見かけていない。
あっても一行、妖精界は妖精女王と妖精王の国が存在すると書いてあるだけだ。
「……」
「誰も知らないんですよ。風貌も性格も思想も何もかも」
長生きのエルフでさえ知らないなら、何故だと考えても分かるはずがない。
「レディントンさんに王の国から女王の国に移住している妖精がいるって聞きましたよ」
「昔過ぎますよ。近年はいないはずです」
「生きている妖精はいないと……」
「と思います。生きていても妖精王は人前に姿を現わさないようですから、彼らは知らないのではないですかねぇ」
「あるいは記憶を操作されているとかね! 」
マシューはスプリガンをさらに厳重に氷で覆っていたようだ。
「記憶の操作は確定ですね。妖精王についての記述が何もかもないのは不自然です」
「噂話もないのは変ですものね」
「ええ、これを知っていたら対策してとっくに解決していたでしょう」
まさか今回初めて気付いたのだろうか。
そうだとしたら今までと何が違ったのだろうか。
ただの偶然だろうかとヴァージニアは眉間に皺を寄せる。
「女王様の記憶まで操作出来ちゃうんだもんね」
妖精女王には千年前から全ての記憶がある。
マシューの両親が時を戻した世界も全部だ。
「そういえば陛下は避難されたんですか? 」
「ええもちろん、安全な場所に避難なさいました。魔力のブレもないですから大丈夫ですよ」
リチャードは術式を書き終えたようだ。
マシューは興味深げに術式を隅々まで見ていた。
「ここに誘導して弱らせましょう。そうすれば拘束がしやすくなるはずです」
「女王様に戻せないか聞いてみたら? 」
「兵士が討伐と言っていた時に止めていなかったので倒していいと思うのですけどねぇ」
こう話していると、スプリガンがいる方からどよめきが起きた。
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