転移魔法に失敗したら大変な事に巻き込まれたようです。

ミカヅキグマ

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新たな敵!

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 羊舎に避難していた羊飼い達は窓からオルトロスの戦闘を見守っていた。
 牧場の放送でアンデッドが出たと知らさせてすぐに羊を避難させ、オルルとトロロに悪い奴が来るから警戒するよう伝えた。
 彼らは言葉を理解したらしく、任せろと言わんばかりに短く吠えて身構えていた。
 人間が建物に入って十分ほど経過した頃にスケルトンライダーが、やや遅れてスケルトンもやって来たのだった。

「オルトロスがいなかったら俺達は今頃どうなっていたのやら……」

 全員武器になりそうな物を握りしめながら窓からオルトロスを見ている。

「後で思う存分ブラッシングしてあげるからね」

 女性は手に武器だけでなく汗も握っているが、すぐにでもブラシを握りたかった。
 きっとオルトロスは砂まみれになっているだろうからシャンプーをして、フワフワにしてやるのだ。

「頑張ってね」



「ワーワフ! 」

 オルトロスはとうめいがやって来たと喜んだ。
 とうめいがぼよんぼよんと跳ねる音が次第に大きく聞こえるようになってきたが、何故か一度立ち止まったようで音がしなくなった。
 そしてすぐに別の音がした。
 オルルとトロロは聞いたことがない音だったので首を傾げたが、その音の後にも違う音が聞こえてきた。

「ガウッ! 」

 オルトロスが何だろうかと考える間もなく正体不明の物体が飛んできた。
 彼らは新たな敵かと思い姿勢を低くして唸ったが、その謎の物体は竜巻に突入していった。
 するとすぐに竜巻が炎の柱に変化し熱風が彼らに直撃した。

「ガフッ! 」

 オルトロスは驚いて思わず飛び退くと火の粉まで飛んできた。
 彼らは反射神経のおかげで自慢の毛を燃やさずに済んだようだ。

「ワウゥ? 」

 一体何が起きたのかとオルトロスがまた首を傾げていると、視界の端に緑色の物体が映った。

「……! 」
「ワーワフ! 」

 オルルとトロロが炎の柱に気を取られていたら、とうめいが目の前に来ていた。
 とうめいがオルトロスを治療するために包み込むも、何処も怪我をしていなかったのですぐに離れた。
 一瞬のことだが、このおかげでオルトロスの毛はツヤツヤになったが、炎のせいで空気が乾燥しているようで、すぐに毛がパサパサになり膨張し始めてしまった。

「クゥウン」

 オルトロスは鼻も乾燥してきたので、不快感を覚えた。
 とうめいも体の水分が奪われてきたので距離を取る。
 建物内にいる人間達はいきなり炎が上がったので何が起きたのかと気が気では無い。

「ハフッ」

 オルトロスは口の中も乾燥したのか上手く吠えられない。
 それほど強い火力で燃やされているので、敵はそろそろ灰になったのではないか。
 とうめいがそう思っていると、炎が徐々に小さくなり竜巻に戻った。
 オルトロスがとうめいに指示されて魔法を解除すると、灰とレッドスライムが落ちてきた。
 その灰をレッドスライムは必死に体の中に入れる。
 空腹だったのかレッドスライムは灰を平らげた。

「……! ……! 」

 とうめいはオルトロスにレッドスライムを紹介した。
 しかしオルトロスにはスライムの言葉は理解出来ないため、同じスライムだから仲間なのだろうと推測した。
 とうめいはピンクちゃんについても説明したが、彼らはピンクちゃんが闘牛舎に残ったなどとは全く分からない。
 ただぽよぽよと震えているだけに見えるのだった。



 研究所ではストーンとパン屋の主人が戦っていた。
 研究員達も自作の武器で援護、観光客の中にも魔法が使える人がいたので手助けしていた。
 かなり善戦していたが、ストーンが持っていた人工魔水晶が壊れてしまった。
 これでは炎による攻撃が出来ないが、そこは岩竜に力を貸して貰っているストーンである。
 彼は岩によってスケルトンを粉々にしていった。
 しかしこのまま戦い続けられるはずがない。
 いつ動けなくなるか分からないので、ストーンは体力と魔力が残っているうちにあることをした。

「では少し揺れるので何処かに掴まっていてください! 」

 ストーンは魔法で研究所の地面を何十メートルも隆起させた。
 これなら敵はこの崖を登れないだろうし、仮に出来ても登ってくる間に撃退可能だ。

「非常食があるので何日間か籠城出来ます」
「高くなったおかげで牧場内を見渡せるな」

 研究所では現在牧場内がどうなっているのか把握するために、各部署と連絡を取っていた。
 さらに、各区画に設置している魔力感知魔導具を駆使してアンデッドが何処にいるのかも割り出していた。

「やはり人間が避難している箇所に集中気味ですね」
「くそっ、まだ軍は来ないのか」
「いくら各地で出没しているからって誰も来ないのは……」

 グリーン達は落ち着こうにも、疲労感や状況が好転しそうにないので焦っていた。
 せっかくストーンとパン屋の主人が軍の到着まで時間稼ぎをしたのに、軍はいつになっても到着しないし、グリーン達は何も解決策を思いつけず二人に申し訳ないと思っていた。
 ストーンとパン屋の主人はと言うと、床に座って壁により掛かり、治療のためグリーンスライム達がくっついている。

「すまない。君達が貸してくれた魔水晶は壊れてしまった」
「……! 」

 スライム達はストーンの体をつつくような仕草をした。
 気にするなとでも言っているのだろう。
 ストーンの周囲にはいつの間にか石ころ達もストーンの近くに集まっていた。
 石ころ達はストーンが研究所を魔法で隆起させた時に、いつもは大体の事に無反応なのに人間の子どものようにはしゃいでいた。
 そのため彼らはストーンにもっと見せろとせがんでいるのか、感想を言っているのかもしれない。
 ストーンとパン屋の主人が一息ついた頃、魔力感知魔導具から警報が鳴った。
 皆が一斉に音がした方を見ると研究員達が青ざめており、中には震えている者までいた。

「どうしたのですかー? 」
「高い魔力を有した個体が出現しました……」

 魔導具の画面には高魔力を意味する赤い丸があった。
 どうやら羊舎のすぐ近くに現れたようだ。

「そんな……。これではオルトロスやスライム達だと撃退出来ないぞ……」

 魔力量が多くないとうめい達が勝てていたのは工夫していたからだ。
 しかし、今出現した個体はかなり格上で工夫だけでは勝てない。

「私が行って来ます! 」
「おう! 俺も行くぞ」

 先ほどまで戦闘をしていた二人が立ち上がるも、グリーンが止めた。

「お二人が行ってもどうなるか……。それに行く途中には他のアンデッドもいます」
「何だったら二人がやられてアンデッドになったら、さらに悪い状況になる」

 今までのアンデッドより高位の者ならば、死人をアンデッド化する能力を保有している可能性がある。

「では彼らを見捨てろとおっしゃるのですか! 」
「くそっ! 被害を少なくするにはこうするしかないってのか」

 全員が顔を歪めて下を見た。
 だがそんなことをしている場合ではない。
 さらに警報が鳴ったのだ。

「え、入り口近くにも赤いマークが……。どんどん中に移動している」
「そんなっ」

 皆の顔から血の気が引いていき、スライム達もブルブルと震えたが、石ころ達には変化なかった。



 とうめい達の前にまた骨だらけの奴が現れた。
 だがこの個体は先ほどの奴らよりも立派そうな服を着て、さらに装飾がついた長い杖を持っている。
 醸し出す雰囲気から、とうめい達は敵だと判断し相手が動く前に攻撃した。

「ククク、こんな攻撃が私に効くとでも? 」

 オルトロスの竜巻は消され、レッドスライムの炎を纏った突進も弾き返された。

「? 」
「ガウ? 」

 それよりもとうめい達は骨だらけの奴が喋ったことに驚いていた。
 とうめいは龍達のように念話で話しているのだろうかと考えた。

「ふむ、思ったより瘴気が溜まっていませんね。そのせいでなかなかこちらに移動出来なかった訳ですか……。まさか貴方達のせいですか? こんな小物達が? 裏切り者と小物中の小物のスライムが? 面白いですねぇ」

 裏切り者とはオルトロスのことだろう。
 そうなると誰がこの襲撃を企てたのか分かる。

「さて、話はここまでにして先ほどのお返しをしましょう」

 言い終わると骨だらけの奴は氷魔法をとうめいに目がけて放った。
 しかしとうめいは素早く回避して見せた。

「おや? 思ったより早く動けるのですね。逃げ足が速いのなら周辺を凍らせてみましょうか」

 水分量が多いとうめいは凍ってしまったら生死に関わる。
 オルトロスとレッドスライムはとうめいを守るべく動いた。

「ふふ、仲良しなようで。なら一緒にあの世に送ってあげましょう」

 もし敵の頭蓋骨に肉が付いていたら、さぞかし不気味に笑っていたのだろう。
 オルトロスはとうめいとレッドスライムを背に乗せて走り出した。
 彼らの鼻と脚があれば誰もいない方へ逃げられ、巻き添えを作らずに済む。
 と思ったが、敵は彼らに付いてこない。
 鈍足だからではない。
 近くの建物に人間がいると気付いていたからだ。

「ガフウッ! 」

 オルトロスは慌てて羊舎へ引き返した。
 しかし敵の杖には魔力が集中しており、今にも攻撃を放とうとしている。

「……! 」
「……! 」

 とうめいはレッドスライムを飛ばした。
 レッドスライムは寸分の狂いもなく敵に命中しそうだ。
 とうめい達はやったと喜びかけたが、敵は難なく炎の塊を叩き落とした。


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