転移魔法に失敗したら大変な事に巻き込まれたようです。

ミカヅキグマ

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助っ人登場!

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「ふむ、お二人が術者を退治してくれたおかげで早く退治出来たのですね」

 マリリンの代わりに校長と校長夫人とレオナがやって来た。
 マリリンは厨房のおじさんと魔導生物の監視するため、彼らと交代したそうだ。

「校長先生! この人達はどうするんですか? 」

 マシューが挙手して質問すると、一瞬の間の後、校長は笑顔でこう言った。

「フフッ何処の誰で、何の目的なのか聞かないといけないので尋問をします」
「あの……それは軍が行うので……先生がなさらなくても」

 レオナはすでに陸軍を呼んでいる。

「あら? うちの人はそういうの得意よ? 」

 ヴァージニアはたまに町内で見かける女性が校長夫人だとは知らなかった。
 マシューは見れば分かるでしょと言うが、夫人はジェイコブとは少しも似ていないので分からない。

「どうやって尋問するんですか? 僕、勉強したいです! 」

 マシューはまた挙手した。
 灯りに照らされた彼の顔はやる気満々だ。

「うーん、子どもに見せていい物ではないんですよ」

 そんなマシューに校長は困り笑顔で返事した。

「え、あのそれって拷問では……それに接触感応サイコメトリーが出来れば必要ないですよね? 」
「彼らには何者かによって読み取れないようにブロックがかけられています。無理矢理やれば出来ますけど、彼らは精神崩壊するでしょうね」
「残念だなぁ。尋問見たかったなぁ。故郷のお袋さんが泣いてるぞって言いたかったなぁ」

 マシューはベテラン刑事のセリフを真似た。

「きみは随分と古いドラマを見ているんだね」

 そんなマシューにレオナは少々困惑している。

「うん。けど最近は魔導列車刑事を見てるよ」

 出演している俳優の顔から判断するに、現在とさほど変わりがないので近年の作品だと思われる。

「時刻表のトリックのやつよね。色んな名所が出てきて面白いわよね」
「うん。もっと食べ物を出せば視聴率が上がると思うよ」
「うふふっテレビ局に教えてあげないとねぇ」

 そんな話をしている間、校長は何かの準備をしていた。
 普通に考えれば尋問だが、それには魔導具はいるのだろうか。
 嘘発見器のようなものだろうか。

「一番年上そうな人物と、魔力が高い人物、どちらにします? 」
「血縁者みたいだから年上にしましょ」

 夫妻はヴァージニア達を置き去りにして話を進めている。
 校長はマシューに睡眠の魔法を解除させ、さらに体と目元以外の拘束魔法も解かせた。

「う……うう」
「失礼……」

 校長は男の口に魔導具を装着した指を入れた。

「それは? 」
「自害しないようにと我々に危害を加えないようにするためのものです」

 校長は夫人に渡されたウェットティッシュで手と魔導具を拭いた。

「では質問です。貴方は誰ですか? 」
「……」
「うーん、流石に自白剤や魔法は禁じられてますから出来ないんですよ」
「……」
「となると、ある程度の刺激を与えないといけなくなります」

 ヴァージニアはこれを聞き、やはり拷問をするつもりだったのだと思い青ざめた。
 マシューに目隠しをすべきだろうか。

「我らはある人に依頼されてこの町を襲うように言われただけだ」
「その人の特徴は? 」
「見てない。ある日ねぐらに手紙と金がおいてあった」
「その手紙を見せて貰えますか? 」

 その手紙から接触感応サイコメトリーで相手の情報を読み取ろうにも、彼らと同じくブロックの魔法が施されているだろう。
 となると襲撃計画の全貌を知るためだろうか。

「読み終わったら燃えた。だからもうない」

 これを聞いた校長はため息をついた。

「……嘘ですねぇ」

 校長が言うとマシューが頷いた。
 夫人とレオナもそうだと思っているようで、表情が変わらない。

「この状況で嘘を言えるわけないだろ」
「すみません。先に言えばよかったですね。私はオーラを見れば相手が嘘を吐いているかどうか分かるのですよ」

 男には見えていないが、校長は笑顔だ。

「緊張してんだからオーラが乱れるのは当然だろ」
「そうだとしても心音が落ち着きすぎてるんですよ。何をされるのか分からない状態なのに不思議です」

 確かに彼には焦りが見られない。
 訓練されているからなだけだろうかとヴァージニアは首を捻る。

「もしや助けが来ます? 」
「我らは使い捨てだろう。来るわけがない」

 依頼方法が事実だとしたら彼の言う通りなのだろうか。

「では貴方達に接触感応サイコメトリーをブロックする魔法をかけたのはどなたですか? 」

 使い捨てだったらそんな手間をかける必要はない。
 手紙での指示が本当ならば、情報が漏れる心配はないだろう。

「知らん。なんだそれは」

 男の口元が一瞬ヒクリと動いた。

「あるいはまだこの襲撃は終わりではない、どうでしょう? 」
「ハッ、さっさと軍に引渡せ。我らは何も知らん」
「何も知らない、知らされるような立場ではない。どちらですか? 使い捨てという表現から後者でしょうかね」
「知らんと言っているだろう」

 男は少々語気が荒くなってきている。
 校長の言葉に動揺したのだろうか。

「貴方の名前は? 」
「……知らん」

 名を言いたくなければ、知らんと言わずに黙っていればいい。
 なのに男がこう言ったのは何故なのかとヴァージニアは眉間に皺を寄せる。

「貴方の心に少しでも戸惑いがあると、知らんと答える術をかけられているみたいですね」
「知らん」

 男の顔は冷や汗で光り出した。

「貴方は本来捕らえられたら自害、いや自爆するつもりだったのでは? 」
「知らん」

 ここで僅かに動揺がおさまった。
 自害するのは元から決まっていたようだ。

「自爆テロですね。崇高な行為とでも言われました? 」
「……知らん」

 図星のようだ。

「ですがこちらが先手を打って封じてしまった。いえ、それすら読んでいて貴方達に情報を漏らさせないように術をかけていたのですから、先手を打ってという表現はおかしかったですかね」
「し、知らん……ひひっひひひ……」

 男の口元が引きつっている。

「本当は何と指示されてこの町に来たのでしょう? 少なくとも、ある人とやらではなく組織に命じられたのですよね? 」
「知らんものは知らん! 」
「自分で考えられなくなるくらい、のめり込んでしまいましたか」

 考える余地を与えないの方が正しいかもしれない。

「うるさい! 知らんものは知らんのだ! 知らん知らん知らん知らん知らんうひっひひっいひひひひ」

 これはかなりまずいのではないかとヴァージニアは思ったが、校長達の顔色は何一つ変わっていない。
 だが校長達も止めるべきと思ったようで、男は再び眠らされ全身を拘束された。

「まだ何か起るみたいよ」
「魔導生物のところに戻りましょう。お二人はここで彼らを見ていてください」
「はい」

 ヴァージニアとマシューは校長夫妻とレオナの背を見送った。



 マリリン達は動かなくなった魔導生物を見ていた。

「萎んだ風船みたいですね」
「魔力で膨らんでたんだろうな。んで操ってたと」

 普通の魔獣と変わらぬ動きをしていたので、術者はそれなりに技術を持っているはずだ。
 だが実際にマリリンが見た術者は大したことがなさそうだった。

「なんだか違和感が……」
「何がだ? 」
「魔導生物自体もですけど、町の中にいきなり出現したのもです。あの人達の能力の割に大きな魔法だなって……」

 六人揃えば出来るものだろうか。
 訓練されていれば可能になるのだろうか。

「魔導生物が消えずに萎んだだけってのもなんだかな。考えすぎかもしれんが」
「考えすぎなだけで済むといいですね」

 残念ながらマリリン達の願いは叶わなかった。
 すぐに魔導生物はモゾモゾと不気味に動き出したのだ。

「おい! 動き出したぞ! 術者は一体どうなってるんだ! 」

 術者はすでに捕らえられているはずだ。
 それなのに魔導生物が動き出したということは、術者が捕縛から逃れたということか。

「魔法の糸は見えませんよ! 」
「んじゃあ術者の仕業じゃないってことかっ? 」

 マリリンと厨房のおじさんは身構えて、魔導生物の動きを観察した。
 空気を入れた風船のようにどんどん大きくなっている。
 風船ならば限度があるが、魔導生物だとどうなのか。
 まさか町を押しつぶすぐらい大きくなってしまうのか。

「別の人が魔力を送っている説もありますね」

 マリリンは首が痛くなるほど見上げている。

「今魔力を送っている最中なのか、それともこうなることを予測して仕掛けられていたのか」
「糸は見えませんから仕掛けられていたに一票」
「俺も」

 二人は魔導生物が暴れ出す前に攻撃を開始した。

「やっぱり炎は効かねぇなあ」
「雷も効かないので弾丸の属性を変えますね」

 マリリンは各属性を順番に装填していった。

「まずは風」

 当たったがやはり効かない。

「次は氷」

 少しだけ魔導生物の表面が白くなった。
 しかしどんどんと膨張するのですぐに氷は弾けた。

「次は岩」

 今回の場合、物理攻撃と大して変わらないようだ。

「風船だったら油をかければ割れるぞ」
「風船みたいに膨らんでるってだけですよ? 」
「そうなんだよなぁ。それに割れちまったら衝撃でどんな被害が出るか……」

 二人ともため息を吐いてうなだれた。

「あっ! 風船みたいに上に飛ばして破裂させる、とかどうでしょう? 」
「いい案だな! だが問題はどうやって上に飛ばして、どうやって破裂させるかだ」
「――ハッ! 前者は簡単だ。そんなん、蹴り上げりゃいいだろう! 」

 二人の後ろから誰かの声がした。
 おじさんとマリリンは聞き覚えのある声に驚いて振り向いた。

「コーディ! 」
「おう、久しぶりだな。ジェーンさんとジェイコブの両方から町に行ってくれって言われたから来てみたんだが、何だこいつ」
「ええっと今は説明している暇がなくてえ」

 マリリンが慌てていると、校長達が到着した。

「おやコーディさん」
「いいい、今はあいつを上に飛ばしてそこで破裂させようってなってましてですね」
「マリリン落ち着け。でな、コーディが蹴り上げるってまでは決まったんだ」

 マリリンの代わりにおじさんが校長達に説明した。

「では破裂させるのは私に任せてください。民間人にさせるわけにはいきませんので」
「誰だ。この色々と強そうなねぇちゃん」

 コーディはレオナとは初対面のようだ。

「いつも大伯母が世話になっております」
「んーああ、誰だか分かった。じゃあ俺が蹴り上げて、あんたが破裂させる」

 コーディが言うとレオナは頷いた。

「その前に私が周囲に被害が出ないように防御壁を作って、二人に強化魔法をかけておくわね」
「さらにその前にレオナさんに私の魔導具を貸しましょう。体の負担を和らげるはずです」

 今回の魔導生物と相性の悪い、厨房のおじさんとマリリンは応援だ。


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