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狙われた理由!

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 ショーのゲネプロが終わって少し経っても、ヴァージニアの鼓動は速くなったままだった。
 マシューも興奮しているのか、声が大きいし鼻息も荒い。

「私達はお仕事してくるわね」

 ジャスティンとケイトは細かい確認があるのか何処かに行ってしまった。

「ジニーはどのドレスが良かった? 」
「うーん、どれも素敵だったから一つに絞れないかなぁ」
「僕はコロッケ色のが好みだよ」

 マシューの笑顔に対して、大人達は彼の表現が理解出来ず眉間に皺を寄せた。

「えー……ベージュゴールドってことかな? 」

 ヴァージニアは一生懸命に思い出して答えを捻り出した。

「ああなるほど……」
「コロッケ色って! 」

 ドロシーの笑いのツボにはまったらしく、彼女は何分か笑い続けた。



(あれ? あの人達は……)

 ドロシーが笑い終わった頃、ヴァージニアはスタイルが良い人達が集まっているのに気が付いた。
 彼らのうち一人は赤ん坊を抱いている。
 その人達と一緒に女性の母親もおり、彼らと挨拶をしている。

「あの人達もモデルさんかな? 」
「ご友人とか? 」

 目元を拭う仕草と女性の名前を呼んでいるので、女性と知り合いなのは間違いなさそうだ。

「僕、聞いてくるね! 」

 マシューは小走りでスタイルの良い人達の元に走っていった。

「行っちゃった……」
「なんて行動力! 」

 ヴァージニアは呆れ、ドロシーは驚いて声をあげた。

「ほら、あの子が何を言うか分からないから一緒に行くわよ」

 スタイルのいいキャサリンはあの中に入っても見劣りしないだろうな、とヴァージニアは思いながら、キャサリンとドロシーと一緒にマシューの所に歩いて行った。



「こんにちは! 皆さんはショーをするお姉さんの友達ですか? 」
「そうだけど、君は? 」
「僕は最近知り合ったマシューだよ」

 何人かはマシューが男だと思わなかったようで目を丸くしている。

「マシュー、赤ちゃんがびっくりしちゃうからこっちにおいで」
「そうよ。すぐにご機嫌斜めになっちゃうんだから」
「えっ! キャサリンさんって赤ちゃんだったの? 」

 ヴァージニアはマシューの言葉に、彼は何故怒られるようなことをわざわざ言うのかとため息をついた。
 それとも本気で言っているのだろうか。

「どういうことかしらあ? 」
「赤ちゃんが泣いちゃうよ」

 ドロシーはまたも笑いのツボにはまったらしく、声を押し殺して笑っている。

「えっと、あの、騒がしくしてすみません。皆さんもモデルさんなんですか? 」
「そうです。事務所が一緒だったり、同じ仕事をして親しくなって……」
「彼女が行方不明になったって時は靴が見つかった場所に行って捜索隊と一緒に探したり、チラシを配って情報を提供を呼びかけました」

 モデル達はその時に女性の母親と顔見知りになったそうだ。

「それで坊や達は? 」
「僕はキャサリンさんの教え子だよ。キャサリンさんは魔法が得意なの」
「えっ? 何処かの芸能事務所の方かと思ってました。魔導師さんでしたか」

 キャサリンは雰囲気や堂々とした立ち姿から社長だと思われていたようだ。

「ってことは見つけてくれたのって……」

 ここで女性の母親とキャサリンが今回のことについて説明した。
 皆が感嘆の声を出すと、マシューは格好つけて喋りだした。

「フッ僕はちょっと手助けをしただけさ」
(格好つけ方がいくつか昔だよ、マシュー)

 これは古い刑事ドラマを見たせいだろうか。

「ふふっ、私はあんまり魔力がないから分からないけど、マシュー君は魔力が沢山あるんだね」
「目が虹色なのって全属性の魔法が出来ちゃうんでしょう? 」
「そうだよ。どれも均等に出来るよ」

 皆がいいなぁと言っている側で、キャサリンが何か考え込んでいた。

「どうかされました? 」

 ヴァージニアがキャサリンに話しかけると、キャサリンはすぐに盗聴防止の魔法をかけた。
 理由が分からずヴァージニアが困惑していると、キャサリンが険しい顔をしながら話し出した。

「多分だけど、あの女性が狙われた理由は魔力がある程度あったからよ」

 キャサリンによると、手足と取るだけならどんな魔力量でもいいが、別の生き物と融合する魔法をかける場合、魔力がないと魔法に蝕まれて失敗してしまうそうだ。
 だがありすぎても抵抗されて失敗してしまう。

「ちょうど良い魔力量だったってことですね」
「他の被害者を調べて彼女と同じくらいの人はいなかったから恐らく合ってるわね」

 何度も失敗して正解に辿り着いたのだろうが、こんな研究は絶対におかしい。

「そうでしたか。……あの方達を見てその答えが出たのはどうしてでしょうか? 」
「彼らは事件当日、同じ仕事していたそうよ。仕事が終わって彼らと一緒に帰路について別れた後に襲われたの。もっと人通りの少ない道を通る人もいたのに、何故彼女が狙われたのかが気になっていたのよ」

 皆容姿が整っているので、言い方は悪いがどの人でも良いはずだ。

「その方は犯人が望む条件を満たしていなかったんですね」

 これは盗聴防止すべき内容だ。
 ここでマシューが二人が会話しているのを発見した。

「あー! キャサリンさんとジニーが内緒話してる! 」
「この子ったらどうして長時間息を止めてても平気なのかって言うから教えてあげてたのよ」

 確かにヴァージニアは気になっていた。
 女性は何も口に付けていなかったので、水中で呼吸が出来る魔法をかけたのだろうか。
 だが一体誰がその魔法をかけたのか。

「なぁんだ。そんなことかー」
「すみませんが、私達も気になっていたので教えていただけませんか? 」

 女性の母親やモデル仲間達も知りたいようだ。

「海竜さんが力を貸してくれてるからだよ」
「えっ……い、いつ? 」

 ヴァージニアはそんな様子は見ていないし、変化も感じ取っていない。

「海竜さんがクククって笑ったときだよ。ジニーも見てたでしょ」

 キャサリンが頷いているので事実のようだ。

「見てたのかぁ」

 ヴァージニアが気付いていなかっただけらしい。



 翌日、ショーは無事に終わったと連絡があった。
 そして何日か経過しキャサリンが信頼するメディアから女性についての情報が世界に広まると、別の被害者が名乗り出てきた。
 被害者達は女性と同じく体の一部に別の生き物を融合されているそうだ。
 彼らは隙をついて逃げ出し、その後は隠れて暮らしていたらしい。

「気味悪がられるのを恐れて隠れて生活していたんだって。だけどお姉さんのショーの報道を見て心を動かされたって」

 マシューはヴァージニアと一緒にテレビを見ているのに、彼女に説明している。
 なお、二人はやっとテレビを買ったので自宅で見ていた。

「けどさ、目立つためにわざと姿を変えたんだって馬鹿なことを言う人がいるんだって。死んじゃうかもしれないのに馬鹿じゃないの! 」

 これもつい今しがたテレビで言っていた内容である。

「マシュー、悪い言葉はあんまり使っちゃ駄目だよ」
「馬鹿に馬鹿って言って何が悪いのさ! 」

 マシューはご立腹だ。

「喧嘩になっちゃうからねぇ」
「僕は勝てるから大丈夫」

 マシューに勝てる人間はそうそういない。
 彼が本気になったらジェーン達でさえ危うい。
 ヴァージニアは森で見た夢なのか過去なのか未来なのか分からない体験を鮮明に覚えており、男性の真っ暗な目は忘れられそうにない。

「そういう問題じゃないよ。……逮捕されちゃうし賠償金とかあるし」
「……僕がやったってバレないように、こっそりやってやればいいのか。ふむふむ」

 ヴァージニアはマシューにはお金に関する話をすれば納得すると思ったが、当てが外れたようだ。

「そうじゃなくて、喧嘩しなきゃいいだけだよ。争いは避けるに限るんだよ」
「戦わねばならない時もあるよ。……あ、コーナーが変わった。僕はこのコーナーは嫌いだから別の番組のグルメリポートを見るよ。今日は何かな? 」

 どうやら今日は海産物のようで、リポーターは港に来ている。

「喧嘩は駄目だからね。悪い言葉や汚い言葉を使っちゃ駄目だからね。人を傷付けるのは良くないんだよ」
「僕は悪い奴にしか言わないよ」
「マシュー……」

 マシューが素直にうんと言わないのは、それほど怒っているからだ。

「ジニー、このウニっての美味しそうだね」
「えーっと……これは何? 」

 ヴァージニアは謎の食べ物を見て顔をしかめた。
 トゲトゲの中にあるオレンジ色の物体を食べるようだが、そもそも本当に食べ物なのか。

「何処に行ったら食べられるのかな? この港に行けばいいのかな? 」

 マシューはテレビ画面のテロップを見て港の場所をメモしていた。


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