転移魔法に失敗したら大変な事に巻き込まれたようです。

ミカヅキグマ

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その後……!

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「はぁー、マシューの能力がやたら高いのはそれでかぁ」

 ジョーはディナーの準備を他の従業員に任せて、ジェーン達と話をしていた。
 そこでキャサリンからマシューの生い立ちについて聞かされた。

「私も最初は驚いちゃったけど、言われてみたらなるほどってなったわ」
「ああ合点がいくよな。特にあの顔とか。元が美形なのもあるが、マシューは東側の人間の血が流れてて凹凸が少ないから余計に可愛らしく見えるんだろ」

 凹凸が少ないと言えば白い毛の狼人イサークだ。
 彼は他の三人より耳が小さくマズルが短いので可愛らしく見える。

「それで狼人さん達はどうやってマシュー君について知ったの? 」
「彼については祖先達が彼の両親から知らされていました」

 これはエルフやキャサリンと同じである。

「彼の封印が解かれたと知ったのは妖精女王から連絡があったからです。どう接触しようかと思っていたら、あの事件が発生しました」

 あの事件とはもちろん人造ケンタウロスの事件である。

「あれは予想外だったから焦ったわよ。到着が間に合ってよかったわ」
「おかげで誰も負傷せずに済みました。改めて感謝申し上げます」

 もしあのままアンデッド化した人造ケンタウロスと戦闘を続けていたら、光属性や火属性の魔法が使えないグレゴリー達は危険であった。

「それなんだけどね、キャサリンはヴァージニアがいなかったら行ってなかったの? 」
「ええ、私直々じゃなくて近くにいる人を行かせてたでしょうね」

 キャサリンはその者達を信頼していないわけではないが、あの時キャサリン自ら行ったのは、被害を最小限に抑えるのと確実に仕留めるためである。

「キャサリンは至る所に配下がいますからねぇ」
「部下や弟子と言ってくれるかしら? 」

 キャサリンはリチャードの言い方に苛ついて、笑顔で怒っている。

「しかしまあ、ヴァージニアも大変だな。一般人とさほど変わらない魔力で何度もヤバイ事なっててな」
「つい先日のもヤバかったわよ。まさか脇腹をやられて死にかけるなんて……」

 キャサリンはお前のせいだと言わんばかりに、ギロリとリチャードを睨みつけた。

「とうめいちゃんのおかげで助かったんでしょう? 」
「そのとうめいが上手くマシュー君の所にいけるようにしたのが、この私です」

 ドヤ顔で自慢げに言うリチャードを見てキャサリンはため息を吐いた。

「最初から貴方が来ればよかったのに、まったく……」
「まだ言いますか。彼らが綿竜に会えたんですからよかったじゃないですか」
「龍に会えたなんて羨ましいですけど、綿竜に会えると何か特別なことが起きるのでしょうか? 」

 グレゴリーは綿竜の匂いを嗅いでいるので強さは知っている。
 しかしこれが今後どんな作用を起こすのか不明だ。

「……色んな生き物と縁を作れたのは良いことだと思います」
「ハハッなんもねぇのか」
「温厚な龍だったからよかったものの、好戦的な龍だったらどうするおつもりだったのでしょう」
「大体の龍は雲の上を飛びますから雨に濡れません。仮に濡れても自分が飛べなくなるほどの重量にならないのであの森に落ちませんよ」

 綿竜が落下したのはかなり特殊な例だ。
 豊富な毛が原因で飛べなくなるなんて、誰が考えつこうか。

「それで、これからどうなるの? 」

 ジェーンのこの質問は世界とマシューについて両方言っている。

「マシュー君はジェーンやキャサリンの指導のおかげでかなり体術と魔法が上手くなっています。ですので、大体の敵は単独で撃破出来るでしょう」
「敵って誰が敵になるの? 」

 本来は基礎等を学ばせるためと護身のために教えているが、一体誰がマシューを襲うというのか。

「……魔導列車の事故と先日の王都郊外の制御装置爆破事件は同一組織の犯行よ」
「え? 」

 キャサリンの言葉にジェーンが目を丸くした。

「結構俺達がぶっ潰したのにまだいるのか」
「悪人なんて次々に湧いて出てくるものですからね」
「私は人造ケンタウロスもそいつらじゃないかと思っているわ」

 かの組織は、魔法や科学で合成獣を作る技術を持つ輩に資金提供しているとキャサリンは踏んでいる。

「彼らは何をしたいのかしら? 」
「純粋に見たいのもあるでしょうけど、千年前と同じ環境にしたいのだと思われます」

 リチャードはどういう理由かは知らないと付け足した。

「千年前にいた生物の再現だけでなく、当時と同じ混乱状態にする気なのですね。あの頃は今のように魔力の流れが制御されていなかったそうですから、魔法が上手く使えず暴発も度々あったとか」

 グレゴリーは伝説の人々の前でも淡々と話をしているが、ジェーン達は狼人の間でも人気があるので、ずっとドキドキしている。

「ああ、じゃあ魔導列車の事故は人の心を乱すためかしらね。大昔は科学や医学が発達してなかったから、ちょっとした不思議な出来事でも悪魔だなんだって騒いでいたそうだものねぇ。私の祖母も小さな事故とか風邪でもあれやこれやと言っていたわね」

 魔導列車が暴走したこと自体が問題なのだが、もしあのまま水没して甚大な被害が出ていたら、どこにどんな風に非難が向いていたか。
 魔導列車の会社へ誹謗中傷の嵐だっただろうし、その牙が国にも向いていたかもしれない。

「私が止められなかったら今も騒いでいたかもねぇ」

 そして負の感情まみれの時に制御装置が破壊され、魔法が自由に使えなっていたら。
 今の所はこれらの事件や事故の被害を最小限に出来ているので平穏な生活を送れている。
 しかし少しでも対応が違っていたら悠長に食事会など出来ていなかっただろう。

「それに加えて千年前にいた生き物の再現か。そんなに見たいかあ? 」
「見たことないものを見たいってだけでしょう」
「なんで過去と同じようにしたいのやら。わざわざやらんでも、近いうちになるのにな。この星が活性化して住めなくなるんだろ? んでそれを抑えるためにマシューがいると」

 ジョーの顔は酒で少し赤くなっている。
 ジェーンは変わらずいつものままだ。

「ところでマシュー君はどうやって星を抑えるの? いくら彼でも星全体は難しいんじゃない? 」
「それは」
「まだ内緒です」

 ジェーンとジョーの二人は不服そうな顔をして、酒が入ったグラスを空にした。



 ヒューバートはとうめいがいる牧場にやって来た。
 目的はもちろんジェムストーンリザードの石を返して貰うためだ。

(あっちか……)

 ヒューバートがとうめいがいる区画に到着すると、スライム達は小屋の中で身を寄せ合って寒さに耐えてきた。

(寒さに弱いんだったな……)

 とうめいはヒューバートに気付き、仲間達に何かを教えていた。

(石を指さした後で俺を指している。おそらく、あいつがくれたんだとでも言っているのだろう)

 とうめい達はヒューバートの前にやって来た。
 スライム達は彼を見上げるような形になっていた。

(目があったらキラキラさせてそうだな)

 スライム達はぷるぷると体を震わせている。
 これは寒いからではなく、嬉しいからだろう。

(駄目だ。高かったから返して貰わねば)
「あー、とうめい。その石……」

 ヒューバートはとうめい達の視線? に耐えられなかった。

「うんんっ、……その石の使い心地はどうだ? 」
「! 」

 とうめい達は体に丸を浮かばせた。

「そうか。よかったか。そうかー……」

 ヒューバートは早々に石を返して貰うのを諦めた。
 ならば買い取って貰おうかと彼は思ったが、それはそれで心が痛んだ。

「……はぁ、とうめい」
「? 」
「君は皆を守っているんだな。偉いよ」
「! 」

 ヒューバートはとうめいが仲間達が寒くないようにと体を広げて包み込んでいるのを見て、彼は自身の幼少期を思い出していた。
 彼は冬の時期に下の兄弟とくっついて、互いに暖を取りながら寝ていた。
 長子である彼は下の子達が風邪を引かないようにと世話を焼いたものだ。

「ほら、そんな君にはとっておきの薬草と水をあげよう」
「! 」

 ヒューバートはただで取り返すのは気が引けたので、スライム達が喜びそうな食べ物を持って来ていた。
 彼がため息を吐きながら鞄を探っていると、男性の優しげな声がした。

「おや、貴方は? 」
「え、ああ、私はあの石の元所有者でして……」
「なんと! こんな高価なものを寄付して下さってありがとうございます」

 この男性はグリーンというスライムの研究者だそうだ。
 彼はスライム達が柵ギリギリに寄っているのを確認して、ヴァージニア達が来たと思ったらしい。

(寄付したことになってる……)
「いえいえ、とうめいは先日の事件では大活躍でしたのでそのお礼です」

 ヒューバートはいつものようにニッコリと笑顔を作った。

「かなりの人数の治療をしたとか……」
「はい。爆発に巻き込まれた重傷者も治療して、見事完治させておりました」
「ほう……。ちなみにその方の魔力はどのくらいですか? 」

 ヒューバートは何故魔力量を聞かれたのか分からない。

「え? えーっと私よりは少ないですが、優秀な人物ですよ」
「ほうほう……」

 グリーンはとうめいが大勢の高魔力保持者の血液を摂取したのではと興奮していたが、表情には出さずにヒューバートとの話を続けた。



 翌日ヒューバートが仕事場に行くと、先に来ていた先輩秘書から話しかけられた。

「石は取り戻せたかい? 」
「いいえ。寄付したことになっていました。そうでなくても仲間が寒くないように暖めている姿を見たら返してくれだなんて言えませんよ」

 言葉は通じないが、とうめいやスライム達はヒューバートにありがとうと言っていた。

「君にも優しい心はあったんだな」
「失礼な……」

 先輩はククッと笑いながらヒューバートからコーヒーを受け取った。

「ああそうだ。あの二人に会ったのなら校長先生について聞いたかい? 」
「そんな余裕なかったですよ。それにしても、かなり優秀な人物なのに地方の公立小学校の校長をしているだなんて勿体ないですよね」

 ヒューバート達は研究所に校長と同窓の者がいたので話を聞いていた。
 当時、校長の就職先に皆がやめろと言ったそうだ。

「しかも縁もゆかりもない土地に行くのもかなり変わってるよな」
「田舎暮しをしたかったとかですかね? 」
「かもしれないが……彼が少年と会ったのは偶然かあ? 」

 先輩秘書はミルクの気分だったので黒に白を足した。

「まさか。偶然が重なりすぎです。奇跡でなければ必然です」
「彼の甥も優秀で、彼が声をかけて移住している。本来ならば彼も甥も王都で官僚になっていただろうに」

 甥のジェイコブは校長に誘われて南ノ森町にやって来た。
 そして彼と一緒に恋人であるマリリンもやって来た。
 そしてマリリンは就職先が決まらずに困っていたヴァージニアを誘った。

「うーん、ジェーン氏があの町にいるのが関係しているのだろうか? 」
「ファンとかですかね? 」

 ジェーンの所在地は公にはされていない。
 しかしそんな情報を極秘で入手したらどうだろうか。
 こっそり近づきたいと思わないだろうか。

「違う。彼女がいれば少年に危害を加える輩は排除出来るだろう」

 もちろん先ほどのヒューバートのセリフは冗談である。

「ええ、校長や甥がいなくても彼女がいれば少年達の敵を排除出来ますね」
「実際排除されたしな」

 先輩秘書はヒューバートを横目で見てクククと笑った。


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