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コロッケを作る!
しおりを挟むヴァージニアとマシューととうめいはホテルにいた。
もう昼だが皆は疲れ果てているのでこれから寝るのだ。
「ところで……とうめいはその石を貰ったの? 」
「! 」
とうめいの体内にはヒューバートが持っていたジェムストーンリザードの石があった。
彼の給料でも少し高いと感じるようなので、ヴァージニアは本当に貰ったのか気になって仕方なかった。
「悪い奴から嫌な奴になって良い奴になったね! 」
「奴のままかーい」
ヴァージニアは疲れているがツッコミを入れておいた。
とうめいはどうやら敷き布団になるらしく、ヴァージニアが使用していたベッドの上に広がった。
(ってことはマシューも一緒に寝るのか……)
二人と一匹は一緒に眠るらしい。
ヴァージニアがベッドに横たわると、マシューも枕を持参して当然のように彼女の隣に来た。
「ふふふ、従来の寝心地の良さに暖かさが加わるなんて夢のようだね」
「そうだねぇ」
マシューはテレビ通販のような言葉を発した。
「そう言えばさ、とうめいって行方不明扱いになってないかな? リチャードさんがいたから平気かな? それとも皆がグリーンさんに伝えてくれたかな? 」
「! 」
「多分そうじゃない? 」
ヴァージニアはそうであってくれと願った。
彼女はもう眠くて眠くて確認したくない。
「皆はとうめいがいなくて寂しがってるかもね」
「! 」
「そうかもねぇ」
マシューはいつも入眠が早いのに、今日はやたらとヴァージニアに話しかけていた。
「ジニー、お腹の脇は痛くない? 」
「とうめいが治してくれたから平気だよ」
「! 」
「そっか。あのね、僕ね、回復魔法をしようとしたんだよ。だけどね、出来なかったんだ。なんでかな? 」
マシューはこれが言いたかったのだ。
「今度キャサリンさんに習おうねぇ」
「僕さ、大体は一度見たら出来ちゃうんだよ。なのに出来なかったんだ」
「人は得意不得意があるから、きっとそれだよ」
ヴァージニアはキャサリンに教えられたマシューの母親が回復魔法が不得手であったという話はすべきではないと判断した。
マシューがショックを受けるだろうし、そもそもキャサリンが作った嘘の可能性があるからだ。
「練習したら出来るかな? 」
ヴァージニアは肯定出来ないし嘘をつきたくなかったので、少し話をずらすことにした。
「マシューだったら治れって念じたり祈ったりしたら、それで治るかもよ」
「うん。とうめいがジニーを治してる時に二人を応援してたよ。治れー頑張れーって」
「そのおかげでとうめいも頑張れたんだね」
「! 」
やはりとうめいだけの力ではなかったようだ。
ヴァージニアの怪我が完治したのはマシューの応援もとい祈りと、彼の魔力が含まれて栄養満点な涙をとうめいが摂取したからだ。
「二人ともありがとう」
「うん! 」
「! 」
マシューは納得したようですぐに眠りについた。
おかげでヴァージニアも眠ることが出来た。
二人は夕方に目が覚めた。
マシューはすっかり腹ペコなようで、夕食を楽しみにしていた。
「ははは早く行かないとなくなっちゃうよ! ジニー急いで! 」
マシューは走るかのように足踏みしている。
階下からうるさいと言われないか心配である。
「ビュッフェ形式だけど、なくなっても補充されるから大丈夫だよ」
「元を取らないと! 」
「え……私達が払うんじゃないんだから……」
「はっ! こっそりタッパーを持って行って……」
マシューは美味しい物をお持ち帰りするつもりのようだ。
これはどう考えても迷惑な客でしかない。
「駄目だよー」
ヴァージニアは準備が出来たのでマシューの手を引いて会場に向かった。
マシューはコロッケがなくて残念そうだったが、全種類を鱈腹食べてホテルのスタッフに驚かれていた。
翌朝、ヴァージニア達はとうめいを牧場に送った。
スライム達はとうめいが帰って来て大喜びしていた。
「……! ……! 」
とうめいは仲間達に石を見せており、どうやら懐炉だと説明しているようだ。
「…………ねぇマシュー、本当に貰ったんだよね? 」
「返せって言われてないからいいんじゃない? 」
スライム達はとうめいに触れて懐炉の凄さを体感していた。
「はぁ、帰ろっか……」
ヴァージニアはまだ疲れが抜けきっていない。
いくら寝心地が良いとうめいの上で寝ても、隣にマシューがいたら彼の寝返りの際の攻撃で目覚めてしまうのだ。
「あれ? ソフトクリーム食べないの? パンは? 」
「パン屋のおじさんはまだ来てないと思うよ」
朝一で来たので、おじさんはまだ牧場に来ていない。
「じゃあ帰ってコロッケ定食を食べないと」
「それもまだじゃないかなぁ」
マシューはコロッケ不足なのだ。
もしかしたら禁断症状が出るかもしれない。
「他のお芋料理を食べて誤魔化そう……。いや、今から西都に行ってあのお店のコロッケを……」
マシューはブツブツと何か言っている。
「あ、マシュー。コロッケを作るんだったよね」
「そうだった! お店で材料を買わなきゃ! 」
マシューは慌てて転移魔法したのだが、ヴァージニアも一緒だった。
彼は対象に触れなくても一緒に転移魔法可能なのだ。
やはりマシューは回復魔法以外だったら何でも出来てしまうようだ。
「ジニー、美味しい? 」
「うん。美味しいよ」
「世界で一番美味しい? 」
「初めて作ったコロッケにそんな事言ったら世界中の料理人に失礼になるよ」
「あわわっ僕はなんて失礼なことを言ってしまったんだ! 」
「衣の色も均等じゃないし、形もいびつだからね。こんなのをよくコロッケだなんて言えたね」
「その通りだよ! なんて愚かなことを……あわわ」
ヴァージニアは目を細めてマシューを見ていた。
「……マシュー、一人で何を言ってるの? 」
先ほどのは全てマシューの独り言である。
彼は一人二役をしたのだ。
「……ジニー、美味しい? 」
「初めてにしては美味しいんじゃない? 」
マシュー作のコロッケは味や食感等に問題はない。
ヴァージニアが彼にこう伝えると、彼は頬を膨らませて怒り出した。
「違う! 僕はそんな優しさ求めてないよ! 」
「うわぁ面倒臭い子になってる……」
マシューは美味しいコロッケが作りたいので、子ども向けのコメントは欲しくないのだ。
「ちゃんと言って! 」
「えー……。そうだなぁ、ジャガイモがちゃんと潰せてないところがあるかなぁ。だけど違う食感が楽しめていいと思うよ」
ヴァージニアはこれはこれで美味しいと思った。
「後半はいらないよ! 気を使わないで! 他は? 」
「さっきマシューが自分で言ってたの以外は特にないかなぁ」
ヴァージニアは家庭で作るコロッケなんて皆こんな物だろうと思っている。
「本当に? 油っこいとかは? 」
「へ、揚げ物なんだから油っこいものじゃないの? 」
「はぁ……駄目だ……まるで分かってない……」
マシューはとても面倒臭い子になってしまったようだ。
マシューは満足しなかったのか、昼過ぎにギルドに行った。
目的はもちろんコロッケ定食を食べるためだ。
(私はお腹いっぱいなんだが……)
何故かヴァージニアもマシューに一緒に行こうと言われてギルドにやって来た。
「ジニーもコロッケ定食ね」
マシューは美少年が陰を潜めるくらい人相が悪くなっている。
余程先ほどのコロッケが気に入らなかったようだ。
「もう満腹だからいらないよ。マシューだけ食べて」
「ジニーも食べなかったら、何が美味しいコロッケなのか分からないでしょっ! 」
ヴァージニアはマシューの次回作のために食べねばならないらしい。
コロッケ定食は比較対象なのだ。
「いやいや、本当に無理だから」
「駄目。食べて」
「あらぁ? マシュー君はご機嫌斜めさんなのねぇ」
ヴァージニアが困っていたら、ジェーンが二人のもとにやって来た。
「マシューは先ほどコロッケを作ったのですが、理想が高くて……」
「最初から上手くいくわけないでしょ~。だけどそう言う上昇志向が強いのは良いと思うわ」
「でしょ! 」
マシューはフフンと胸を張っている。
「けどね、他の人に押しつけちゃ駄目なのよ」
「えー……」
マシューは思いっきりむくれた。
今日、彼はずっと美少年が台無しになる表情をしている。
「そうだわ! ジョーのお店でご飯を食べる日が決まったんだったわ! 」
「本当? いつ! いつなの! 」
マシューはいつものように目をキラキラと輝かせた。
「なんと明日よ! 」
ヴァージニアは急すぎるが明日は何も用事がないのでいいかと思った。
(確か代金はジェーンさん持ちのはず……)
ヴァージニアの分も支払われるのか不明だが、大食いのマシューの分はジェーンが払うと言っていたので懐はさほど痛まないだろう。
「やったぁ! ジョーさんの作る料理を食べて勉強しよ! 」
(剣術はいいんだ)
マシューはジョーから剣術を習いたがっていたがすっかり忘れているらしい。
食への執着恐るべしである。
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