転移魔法に失敗したら大変な事に巻き込まれたようです。

ミカヅキグマ

文字の大きさ
上 下
243 / 312

とうめいの謎!

しおりを挟む

 キャサリンは研究施設から脱出した後、すぐに怪我人を病院に連れて行き、更に犯人の身柄を引渡した。
 その次に弟子達に手伝って貰いながら、研究施設と森を元に戻す魔法をかけた。
 これは問題なく成功、さらに遭難者を迎えに行く隊の派遣も完了し、キャサリンが王都ですべき事は終わった。
 細かい処理はまだあるが他の者に任せれば良い。
 キャサリンは一睡もしていなかったので休みたかったが、今回の件でどうしても納得がいかなかったことを確認しに行った。

「おや、キャサリン。遅かったですねぇ」

 キャサリンの視線の先にはヘラリと笑うエルフがいた。
 しかも彼は優雅に紅茶を飲んでいるので、キャサリンの怒りは一気に沸点に到達した。

「あんた! こうなるって分かってたんでしょ! 」

 キャサリンはリチャードの胸ぐらを掴んでそのまま壁に叩きつけた。

「フフッいつものように顔面を殴らないのですか? 」
「どうせトラップ仕掛けてるんでしょーがっ! 」
「んー、胸ぐらを掴んだ時点で発動するようにすればよかったですね。で、そろそろ離してくださいませんかね? 」

 キャサリンが乱暴に離すと、リチャードは手で胸元を撫でて整えた。

「怒りは収まりました? 」
「トラップなんか関係なくなるくらいの攻撃を仕掛けられたいの? 」
「それは流石に怪我をするのでやめてください。それで最初に質問のですが、答えははいです」
「どうやって知ったのよ。こんな事が起きるなんて書いてなかったわよ」

 キャサリンの一族に伝わる書物には何も書いていなかった。

「エルフ側の記録には今回のことはちゃんと書いてありますよ」
「今回の定義は? 」

 キャサリンは色々ありすぎたので、リチャードはどこからどこまでのことを言っているのか分からなかった。

「爆発が起るのとヴァージニアさんが大怪我をするの両方です。詳細は分かりませんので省きますね」
「っ、なんで私達の方にはそれが書いてなかったのよ」

 キャサリンは書物に今回のことは何も書かれていないのを確認していた。
 そのため封印解除をヴァージニアとマシューに依頼したのだった。

「それは前の世界の貴女が書く前に死んでしまったからですよ。前の世界ではマシュー君がヴァージニアさんを治療出来ないのだと絶望した時、彼の近くにいた生き物はヴァージニアさんを除いて一瞬で死んでいます。エルフ族はマシュー君の力の暴走に即座に反応して防御壁や結界を作って抵抗したので記述出来たんです」

 キャサリンはなるほどと小さな声で言った。

「というか、ある日を境に何も書かれていなかったら警戒しません? 」

 キャサリンは一応怪しんだのだが、今回のこととは思わなかったのだ。

「……それもそうだけど。リチャード、初めからあんたが来ていたらこんな大ごとにならなかったでしょう」
「ええ」

 キャサリンが何かを言い返そうとしたので、リチャードは手で制した。

「前の世界では私はまだマシュー君と接触していないのはご存じですよね。なので今回はジェーンとの再会時にそれとなく対面しました」

 なので前の世界ではキャサリンがリチャードに封印解除を依頼出来なかった。
 リチャードは前の世界と同じにするために依頼を断ったのだ。

「同じ状況にする必要ないでしょうに……。ったく、そもそもジェーンがああなるのだって今までなかったわよね」
「ええそうですね。それでですね、何故ジェーンが魔導列車の事故に巻き込まれたのか分かります? 」
「知らないわよそんなのっ」

 キャサリンはイライラが止まらない。

「私も確証はないのですがね、グリーンスライムの影響なのではと思っています」
「はあ? とうめいが? 確かに今までの世界では登場しなかったけど……、だけどその事がどうして……」
「ジェーンは色とりどりの毛糸を買うためにあの町に行ったのでしょう? 」
「そうよ。あそこは品揃えが豊富だからって……」

 よりにもよって、事件が起きると分かっている場所へだ。
 キャサリンが事前に知っていたら止めていた。
 だが、ジェーンが買い物に行かなかった世界では大きな被害が出て、世界で薄らと負の感情が渦巻き始めていた。

「ジェーンはとうめいと仲間達をセーターのデザインに入れるために毛糸を買いに行き、そこで事件に遭遇しで多くの人々を救った」
「少し強引なこじつけね」
「そうですかね? まぁ議論は後にしましょう。そして今回でもとうめいは大きな役割を果たしています」
「ヴァージニアの怪我を治した……」
「そうです。そのためにはマシュー君が転移魔法テレポートを失敗してはならない。なので私は転移魔法テレポートの手助けにまわったのです」

 リチャードはとうめいに不審感を抱かせないために、予めマシュー達と牧場に行っておいたのだ。

「……胸ぐら掴んで悪かったわね。けどね……さっきも言ったけど、前の世界と同じにする必要はないわよね」
「私もそう思ったのですが、エルフには優秀な予知能力者がおりましてね。その者が何パターンか未来を見て、色々教えてくれました。それでエルフ族で話し合った結果、マシュー君が様々な者と縁が作れるパターンが最適なのではとなりました」
「綿竜……」

 キャサリンは直接会っていないが、綿竜と会った話は聞いた。
 事実何者かの魔力が残っていた。

「ああ……龍が来ましたか。誰が来るのかは見えなかったそうなので……いやぁ凄いですね」
「後は研究局の局長と秘書よ。彼女達はマシューを調べていたから遠ざけていたのに」

 局長とヒューバート達はマシューについて調べている。
 膨大な魔力量を有する少年が突然出現したら調べたくもなるだろう。

「彼女達は敵にはなりませんよ」
「変に入れ込まれても面倒なのよ」
「それには同意です。彼女らはそれなりに力があるので、介入されるとこれからの出来事が大きく変わる可能性がありますから」

 そうなるとこれまでの記録が役に立たなくなる。

「これより先……。今までの世界でも行ったことがあったけど、今の世界とは違う道を歩いていたからどうなるのか未知数なのよね」
「そうなんですよねぇ。今回のはかなりサクサクと来ているんですよ」

 ヴァージニアにとってはサクサクではないので、彼女がこの話を聞いていたら卒倒していただろう。

「確かにイベントって表現でいいのか分からないけど、割とすぐにイベントが起きるのよね。だけど初めてのことも多いわよ。ジェーンのもだけど、例えばヴァージニアが風の渦で飛ばされたりケンタウロスと対峙するのだったり……。ああそうだわ。とうめいはどうして今までいなかったの? 」
「単純にマシュー君ととうめいが出会わなかったか、出会ってもヴァージニアさんが元いた場所に返すように指示したかでしょう。今回はヴァージニアさんが消耗していて、とうめいの存在に気付かずに森から連れてきてしまいました。そしてすぐに保護対象だと発覚し牧場に連れて行く手筈になったんですよね」
「ヒューバートがヴァージニアに拘束魔法を使うなんて思わなかったわよ。あれはジェーンじゃなくても怒るわね」
「二人は前の世界でも不仲でしたからねぇ。そのせいやも……」
「ああ、彼女に魔力があって飛び級で大学に進学した時ね……」

 この時キャサリンは理事長ではなかったので、二人の間で何が起きたのかは不明だ。

「そうだ、キャサリンも紅茶飲みます? 」
「さっきのお詫びに私が淹れるわ」



 遭難者は病院で検診が行われたが、ヒューバートは体に異常がなかったのでそのまま帰れることになった。
 しかし彼はまだ帰宅出来ていない。
 局長に呼び出されたのだ。

「局長、私は帰って眠りたいです」
「まだ寝かせるわけにはいきません」
「すみませんが、私は年上すぎるのはちょっと……」
「給料を下げますよ」

 ヒューバートは巫山戯て言ったのだが、局長に睨まれてしまった。

「冗談ですよ。どうせさっきの話の続きですよね。私はもう頭の中がこんがらがっているので、是非とも帰って休ませていただきたいです」

 例の少年が昔話の登場人物達の子どもだなんて信じられない。

「だいたいですね、局長の説は荒唐無稽なんですよ。少し一致するからと言って決めつけるのはよくないかと」

 普段の局長はもっと慎重で、こんなに突っ走ったりしない。

「魔王は回復魔法が不得手でした」
「そりゃ魔王ですから……、ああ、魔族なんていないんでしたね。権力者側が悪人扱いしたくて言い出しただけで。我々もその時代に生きていたら魔族と呼ばれてたのでしょうね。で、それが何か? 」
「マシュー君も自身ではヴァージニアさんを治療出来ないと判断して、グリーンスライムに治療させていました。彼ほどの能力があるなら回復魔法なんて見様見真似で習得出来るのに。それなのに彼はやらなかった理由を習ってないからだと言った。こんなことあります? 」
「……やってみた形跡もありませんでしたね」

 ヒューバートは否定を止めた。

「そう、なかった。魔力がないのならやってみても何も起きないでしょうが、彼には魔力がありすぎるほどあります。ならばやった時に何らかの反応があるはずです。ですが、何もなかった」
「習ってなくてもやってみますよね、普通は……。やってみたけど本当に何も起きなかった……? 」
「こんな事あり得ますかね」

 局長はどこか楽しそうだ。

「考えるのは休息した後でよくないですか? 」

 だがヒューバートは局長について行けない。

「よくないです。今のうちに情報を整理しないと忘れますよ」
「ではお一人でどうぞ。私は帰ります」

 ヒューバートは局長に背を向けた。
 だが、局長は気にせず話を続けた。

「あのグリーンスライムの能力の高さも気になります。いくらマシュー君が命名したからと言って、あんなになりますか? 」
「元から潜在能力が高かったのでは? 」
「そうかもしれませんが、貴方が行った森にグリーンスライムは生息していません」

 グリーンスライムは保護対象なので他の個体がいないか調査されたのだ。

「えー……うーん迷い込んだとか、何処かから移動してきたとかですよ。ああそうだ、どこかの研究施設から実験個体が脱走したとか」
「そんな法に触れる研究をしているところがあるとでも? 」
「では突然変異個体です。そしてさらにマシュー君が名を与えて能力が上がったんです。これでいいでしょう」

 これで十分筋が通る。
 ただの偶然だ。

「それだと都合が良すぎるんです。とうめいがいなければヴァージニアさんは命を落としていたでしょう。もし、これを避けたい人がいたとしたら? 」
「予知能力がある人の仕業ですか。ああそうですか。きっとそうですね。結論が出ましたね。と言うことで失礼致します」
「ヒューバートさん」
「私を変なことに巻き込まないでください。私はただ出世して良い暮らしをしたいだけなんです。私は弟や妹を良い学校に入れてやりたいだけなんです。失礼致します」

 ヒューバートは止める局長を無視して帰宅した。


しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

レンタル従魔始めました!

よっしぃ
ファンタジー
「従魔のレンタルはじめました!」 僕の名前はロキュス・エルメリンス。10歳の時に教会で祝福を受け、【テイム】と言うスキルを得ました。 そのまま【テイマー】と言うジョブに。 最初の内はテイムできる魔物・魔獣は1体のみ。 それも比較的無害と言われる小さなスライム(大きなスライムは凶悪過ぎてSランク指定)ぐらいしかテイムできず、レベルの低いうちは、役立たずランキングで常に一桁の常連のジョブです。 そんな僕がどうやって従魔のレンタルを始めたか、ですか? そのうち分かりますよ、そのうち・・・・

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!

仁徳
ファンタジー
あらすじ リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。 彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。 ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。 途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。 ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。 彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。 リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。 一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。 そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。 これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

いや、あんたらアホでしょ

青太郎
恋愛
約束は3年。 3年経ったら離縁する手筈だったのに… 彼らはそれを忘れてしまったのだろうか。 全7話程の短編です。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

処理中です...