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暖を取るその4!
しおりを挟むとうめいは綿竜の体毛に染みこんだ雨水を吸収していった。
綿竜はとても大きいので何回か、いや何十回かに分けて水を除去した。
「わぁ! とうめいさんありがとうございます! おかげで体が軽くなりました! 」
綿竜の体毛は先ほどとまでとは全く別物になっていた。
とうめいが水分を吸収する前でもかなりモコモコとしていたが、今は更にふわふわもふもふになっている。
その毛は本来の撥水効果も出しているのか、雨が降っていてもしおれていない。
「あったか~い! 」
マシューは綿竜に断りを入れる前に飛びついた、というより埋もれた。
その数秒後、彼は一瞬意識が飛んだらしく体をビクリとさせた。
「はっ、寝るところだった……」
綿竜の毛から脱出したマシューは涎を垂らしていたので、とうめいに拭かれていた。
「もう夜遅いですからね。ヴァージニアさんとマシュー君は寝てください」
マシューは上瞼と下瞼がくっつきそうになっていた。
「じゃあ私の毛の中で寝てて良いですよ。人間さんくらい小さければ重くないですしね」
「……それなんですが、綿竜さんにお願いがあります。遭難者を救助するのを手伝って欲しいのです」
局長はヒューバートから近くに遭難者がいると聞いていた。
「いいですよ! どんとこいです! 」
「ありがとうございます。何かお礼が出来たらいいのですけど……」
「んんー……、お礼というかお願いというか助言というかなんですけど、人間さんはもっと毛を生やした方がいいですよ。北に住んでる狼人さんみたいに! 」
ヴァージニアはヴァネッサも似た発言をしていたのを思い出した
「人間はツルツルだもんね! 」
「頭までツルッとピカッとしている人間さんもいるじゃないですか! なんですかあれ! 」
綿竜は少し怒っている。
全身毛まみれの綿竜からしたら信じられない光景なのだろう。
「精霊術の修業をしているのかも! 」
マシューが言うと、局長とヒューバートは興味深げな顔をしていた。
ヴァージニアは止めるのも変なのでマシューにそのまま話させた。
「ええー? 精霊が皆、ツルピカ頭が好きとは思わないですけどぉ? 」
「修業の邪魔になるから剃るんだって」
「へーわざわざ寒い思いをするなんて、人間さんって変わってますね。あっと、ええーっと遭難者さんを探すんですよね。ここから近い場所だとあっちとあっちとそっちとそっちにいますので、あっちから行きましょう」
綿竜は四人には背中に乗るように言い、とうめいは頭の上に乗せた。
どうやらとうめいを雨よけの帽子代わりにしたいようだ。
「マシュー君、精霊術を修業する僧侶を見たのかい? 」
ヒューバートはマシューの隣をキープ、というより四人は固まって綿竜の背に乗っているので自然と会話が始まった。
「うん、見たよ。寺院長さんに会ったんだ。ジニーはね、偉い人だからお婆さんだと思ってたんだって」
「ほう……、尼寺の方に行ったんですね」
局長はニコニコとしながらマシューの話を聞いてる。
なお局長の魔法のおかげで、雨が当たる量が少なくなっていた。
「はい。寺では修業を追い込む時期だったとかで、尼寺にお邪魔しました」
「そうでしたか。西都の尼寺は憑依体質の方が寺院長をなさってますね」
ヴァージニアは西都と言っただろうかと心の中で首を傾げた。
西都以外に精霊術を修業している尼寺はないのだろうか。
「えっ知りませんでした。とても珍しい術ですよね? 」
ヴァージニアはそれであの若さで院長にまでなったのかと合点がいった。
「おや? 憑依の様子を見に行ったのはないのですか? 」
局長はキャサリンの指示でマシューに様々な物を見せていると思ったそうだ。
「違うよ。精霊術がなんなのか聞きに行ったんだよ。けどね、行く前の日にキャサリンさんから教えてもらってたんだ。なのに山を登って行ったんだよ。今思うと何でだろう? どうせなら町で美味しい物を沢山食べたかったのになぁ」
「ねー。なんだったんだろうねー。山登りは疲れるし大変だったねー」
「僕は平気だったよ。そうだ! ジャスティンさんのお屋敷大きかったね! 」
ヴァージニアがキャサリン経由での依頼だと局長とヒューバートに説明した。
だが、二人は元から知っていたかのような反応を示した。
(私達が西都に行ったのを知っているんだ。それを言わないのは何でだろう? マシューが何者なのかを探ってるから? ……う……ん)
ヴァージニアは綿竜の毛のおかげで体温が高くなったのかウトウトしてきた。
彼女はマシューが先ほどの綿竜のように誘導されて、自身の素性をペラペラと喋らないか心配だったが眠気には耐えられなかった。
「あ、ジニー寝ちゃった」
局長は座った状態のヴァージニアを横に寝かせた。
「ヴァージニアさんはまだ血が足りていないのでしょう。マシュー君も寝てていいですよ」
「僕はさっきちょっと寝たから平気! それにさ、皆凍えてるんでしょ? 僕が魔法で暖めなくちゃ! 」
「出来るのかい? 」
「もちろん! ちょっと前に大きな船の時にやったからね! 」
「最近あった大きな船か……豪華客船が沈没しかけた時のことかな? 」
ヒューバートは大きな船の事件や事故といえば、これくらいしか浮かばなかった。
「そうそれそれ! 海軍の大きな船も来てたよね! ジェーンさんの親戚も乗ってたんだって」
「んんっと、親戚の方が乗ってたのは豪華客船じゃなくて海軍の船の方かな? 」
「そだよ! ジェーンさんみたいに強いのかな? 」
マシューはストーンとブライアンの戦いを見てから、強い人と手合わせしたくてワクワクしている。
「軍人だったらある程度鍛えてるだろうな」
「ジェイコブより強いかな? 」
ヒューバートはジェイコブを知らなかったようで、誰だと呟いた。
マシューは魔導列車事故の時にジェーンに応急処置をした人物だと説明した。
「ああ、南の地域を中心に活躍している魔導師ですね」
「ジェイコブは魔法も武術も出来るんだよ。僕もキャサリンさんとジェーンさんに習っているのに勝てそうにないんだよね」
「どちらも誰もが教えを乞いたい人物じゃないか……」
またヒューバートは呟いた。
「リチャードさんからもちょっと教えて貰ったよ。投網のやつ」
「と、とあみ……」
ヒューバートは混乱している。
彼もリチャードと同様に補助系の魔法が得意だが、投網がなんのことだか分からない。
聞けば納得するのだろうが、独特な表現なので理解出来ない。
教える人によって魔法の感覚が違うので仕方ない。
「本当はジョーさんから剣術を習いたいのになぁ。料理も習いたいなぁ」
「やりたいことが沢山あるんですね」
ヒューバートがツッコミを入れられなくなったので、局長が代わりに返答した。
「うん。けど本当はね、お父さんとお母さんに会いたいんだ。これを言うとジニーが悲しそうな顔をするから言わないけどね」
マシューの言葉を聞いて局長とヒューバートは相槌を打てなかった。
この少年の両親はもう会えない場所にいるのだと察したからだ。
「もしかして、ジニーは僕と離ればなれになるのが嫌なのかな? ジニーも一緒に僕達と暮らせば良いのにね! 」
マシューが微笑みながら話すので、ヒューバートはプラス思考だなと声を出さずに口だけを動かした。
「そうかもしれませんね」
「だよね! へへへっ」
マシューが笑っていると、綿竜が足を止めた。
どうやら近くに要救助者がいるようだ。
「私だと驚かせちゃうと思うので、人間さんが行ってください」
綿竜が爪でさした先に人間がいたので、ヒューバートが救助に行った。
その後も順調に人々を救助していった。
マシューの魔法と綿竜の毛のおかげで、低体温症になりかけていた人達は無事に回復していった。
「これで全員ですか? 」
局長は綿竜の背に寝かされている人々を数えていた。
「後は元理事長と例の解除場所を間違えた彼と、逃亡中の犯人くらいだと思います」
「キャサリンさんは無事として、後の人の安否は不明ですね」
救助された人々は局長達が来るまで誰にも会っていないと証言していた。
「綿竜さんによると元理事長は近寄るなと殺気を出しているとか。どうします? 」
局長とヒューバートが話をしていると、ヴァージニアの様子を見ていたマシューが毛に埋もれながらやって来た。
「僕さ、重大なことに気付いちゃったんだ。キャサリンさんは絶対に助けに行かない方が良いと思うよ。理由は言えないけど」
マシューは目を細めて嫌そうな顔をしている。
「勿体ぶらずに理由を教えて下さい」
「嫌だよ。僕、怖いもん! 」
「私も行くべきではないと思いますよっ。人間なのにあの殺気! それもこちらが危害を加えないと分かりながら! なんと恐ろしい! 」
局長とヒューバートは綿竜とマシューの意見を聞き入れることにした。
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