235 / 312
暖を取るその3!
しおりを挟むマシューがモコモコに向かって駆けて行くと、ヴァージニア達から見えない裏側にまわった。
しかし彼の声はヴァージニア達にはっきり聞こえて来た。
「ねぇねぇ、あなたは龍さんでしょ! こんな所でどうしたの? 」
ヴァージニアの隣にいた局長は、これを聞いてギョッとした表情になった。
それもそのはず、マシューは嗅いだことがある臭いがすると言った。
そして今の彼の発言から彼は龍の臭いを知っている、即ち龍と会ったことがあるとなる。
「えーっとですね、前に地竜さんと雷竜さんに会った事がありましてですね……」
「随分と希有な体験をなさってますね」
ヴァージニアは今回のように強風で魔力の流れが乱れたときの話をした。
彼女が南の無人島で遭難し、ジェーンとマシューが助けに来たのだと。
「雷竜に助力を願ったと……。末恐ろしい……」
「ジェーンさん凄いですよねぇ」
ヴァージニアは実際はマシュー発案だがジェーンの手柄にしようと思った。
「人間離れしてらっしゃいますものね……」
局長は立ち上がりヴァージニアに手を差し出した。
どうやらマシュー達の後を追うようだ。
ヴァージニアは局長ととうめいに助けられながら立ち上がった。
「ねぇーってばー! おーい! 」
「しくしく……」
マシューはモコモコの龍の顔があるらしい所を覗き込んでみたが、体を丸くしているため顔が見えない。
「マシュー君、これは本当に龍なのか? 新種の魔獣じゃないのか? 」
ヒューバートはマシューに追いついた。
彼は顔を上下させてモコモコの正体を判別しようとしている。
「龍さんだよ! だって地竜さんと雷竜さんと似ている匂いがするし、二龍の匂いもするよ! きっと最近一緒にいたんだ! 」
「うーんっと……マシュー君は今言った龍達に会ったことがあるんだね」
子どもの戯れ言には聞こえないのは、マシューの能力の高さと目の前の巨大なモコモコのせいだ。
「そうだよ! ジニーも会ったことあるよ! ねぇ、龍さん。どうしてこんな所にいるの? 何かあったの? 」
「ん? 」
龍は漸くマシューの声が聞こえたのかピクリと反応した。
「もしや人間さん? 」
龍はゆっくりと顔を上げ大きな目に二人の姿が映ると、ヒューバートとマシューがすぐ側にいるのに気付いた。
「わー! 幻聴かと思ってたのに-! 」
龍は驚いたのかさらに目が大きくなった。
「本物だよ! どうしてこの森にいるの? さっき落ちてきたのって龍さんだよね」
「ぐすん……、そうですよぉ。私はさっきここに落ちてきた龍ですよぉ」
龍は余程ショックだったのかいじけて、立派な角で地面をグリグリとほじった。
「どうして落ちちゃったの? 」
「それは酷い雨に見舞われたからです。おかげで毛が水を吸っちゃって重くなって飛べなくなったんですよぉ」
これだけ全身が分厚い毛まみれだと、そうもなるかもしれない。
「えー? 雷竜さんは雲の上を飛んでたよ」
「えっ! 」
龍はまた目を大きくし、口も半開きになった。
どうやら雲の上を飛ぶという発想がなかったらしい。
「確かに雲の上を飛べば濡れずに済みますね」
「あわわわわ! 私はなんてことを! けどけどっ、いつもは雨に濡れても平気なんです! それなのに今日は重たくなってしまって! 」
いつもは水を弾くそうだ。
「魔力の流れが乱れたのが原因かもしれませんね。何がどう作用したのかは不明ですが」
「なるほど。そんなことより、さっき地の竜さんと雷の竜さんって言ってました? 」
龍はずいっと顔をマシューに顔を近づけた。
「言ったよ! 」
「ってことは貴方がマシューさんですね。へぇ、話に聞いていましたけど人間なのに凄い魔力をお持ちですね! 」
「そうみたいだね! 」
マシューは自覚はないのでこの返事になる。
「こちらの人間さんは……オスですよね? 」
龍は首を傾げパチパチと瞬きした。
「はい、私はオスですね。もしかしてメスを探してます? 」
「そうです。マシューさんの隣にはヴァージニアさんって人間のメスがいるって聞いてたんです。けど違いますね」
龍は首を左右に動かして確認した。
「ジニーは近くにいるよ! あと局長さんもいるよ! 」
「そうでしたかー。色々と気配はするのに誰も来ないから、きっと見捨てられたんだと思っていました」
龍はまた落ち込んで顔を下に向けた。
「それで我々の声を幻聴だと思ったんですね」
「はい。幻聴にしてはとてもはっきりした声だなーと思ってました」
「ねぇねぇ! 龍さんは他の人の気配が分かるの? 僕達はまだ上手く探せないんだ」
「へぇ、人間さんはそういうの下手くそですもんね。えっとですね、近くだとあっちとあっちとそっちとそっちにいます」
龍は目をちょっと動かして、人間がいるらしい方向を見た。
「もの凄くざっくりだな……」
そんな龍の行動にヒューバートは思わず素が出た。
「キャサリンさんがどこにいるか分かる? キャサリンさんっていうのは他の人達より強そうな人だよ」
「うーん……。その人間さんか分かりませんけど、こっちに来るなって殺気を出している個体がいますね。人間の割に殺気がすごいです」
龍は目を細めて穏やかでない表情になった。
それだけの殺気を感じているのだろう。
「じゃあ間違いなくキャサリンさんだ! 」
「どういうことだよ」
ヒューバートは自信満々なマシューに思わずツッコミをいれた。
「キャサリンさんは魔法だけじゃなくグーで殴ってくるからね。怖いんだよ」
「元理事長が? ほう、良い情報ありがとうございます」
「リチャードさんもよく殴られるんだって怖がってたよ」
ヒューバートが驚いていると、局長とヴァージニアととうめいがやって来た。
ヴァージニアは局長ととうめいに助けられながら歩いていた。
「ジニーしっかりして! 」
マシューはテテテとヴァージニアに駆け寄って彼女を支えた。
「おー、貴女がヴァージニアさんですね」
「はいそうです。あなたは? 」
「私は綿ぼことか綿の奴とか呼ばれますね」
「綿ぼこって……あの、強風の事件と何か関係ありますか? 」
ヴァージニアは地竜が綿ぼこがどうとか言っていたのを思い出した。
「ふえ? な、なんのことだか。そ、そんな汚い話知りませんね」
「汚いって知ってるんだ! 」
局長とヒューバートが意味が分からず怪訝そうな顔をしたので、ヴァージニアは先の災害について説明した。
「くしゃみ? 」
「風竜のくしゃみですか? 」
局長とヒューバートはにわかには信じられないと言った反応を示した。
「ええ、龍ですね。羽があって角があれば龍なんです。……あれ? 水の中に住んでいるのは羽はないんですかね? 」
「さあ……? 」
誰も水の中で暮らす龍の姿を知らない。
「ま、兎に角、私は風の竜さんのくしゃみで吹き飛ばされて、最近まで気流に流されてたなんてありませんからね! 」
「そっか! くしゃみを浴びてないし流されてもないんだ! 」
マシューはさりげなく誘導している。
「そうですよ! 全身くしゃみまみれになんてなってないですよ! くしゃみを雨で洗い流そうだなんて思ってないですよ! 」
龍はフンフンと鼻息を荒くしている。
今回、龍はどうやらそのせいでこの森に落ちたようだ。
「そうなんだね! 」
「自分からペラペラと話してくれる……」
ヒューバートは呆れているようだ。
しかし、局長は知的好奇心が勝ったのか龍に一歩近づき話かけた。
「綿竜さんとお呼びしてもよろしいですか? 」
「どうぞ! 」
「綿竜さんに質問なのですが、北の地域には凍え死にしそうになった時に大きな羊が助けてくれたという伝承が多くあります。もしかして、この大きな羊って綿竜さんのことでしょうか? 」
綿竜は羊のようにモコモコとした毛で覆われ、角もぐるりと渦を巻いている。
羊と違うのは立派な羽があるかどうかと、羊や山羊特有の横に広い瞳孔はしていないことだ。
「そんなことあったような、なかったような? 私の毛はすぐに伸びるので別にちょっと分けても問題ないんです」
「今はビチャビチャだけど大丈夫? 」
乾いていたらもっとモコモコだったのだろう。
「寒くはないですけど、全身が重たいです。……ぐすん」
「! 」
ここでずっと大人しかったとうめいが大きく飛び跳ねた!
「わわっ! スライムさんどうしました? 」
「とうめいだよ! ジニー、とうめいはなんて言っているの? 」
ヴァージニアはとうめいの翻訳係になっているようだ。
「えー……、話の流れから綿竜さんの水分を取ってくれるんじゃないかな? 」
「! 」
正解だったらしく、ヴァージニアはとうめいに手を取られ握手した。
0
お気に入りに追加
52
あなたにおすすめの小説

レンタル従魔始めました!
よっしぃ
ファンタジー
「従魔のレンタルはじめました!」
僕の名前はロキュス・エルメリンス。10歳の時に教会で祝福を受け、【テイム】と言うスキルを得ました。
そのまま【テイマー】と言うジョブに。
最初の内はテイムできる魔物・魔獣は1体のみ。
それも比較的無害と言われる小さなスライム(大きなスライムは凶悪過ぎてSランク指定)ぐらいしかテイムできず、レベルの低いうちは、役立たずランキングで常に一桁の常連のジョブです。
そんな僕がどうやって従魔のレンタルを始めたか、ですか?
そのうち分かりますよ、そのうち・・・・

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!
仁徳
ファンタジー
あらすじ
リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。
彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。
ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。
途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。
ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。
彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。
リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。
一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。
そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。
これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~
一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。
しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。
流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。
その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。
右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。
この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。
数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。
元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。
根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね?
そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。
色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。
……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。



ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる