転移魔法に失敗したら大変な事に巻き込まれたようです。

ミカヅキグマ

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暖を取るその3!

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 マシューがモコモコに向かって駆けて行くと、ヴァージニア達から見えない裏側にまわった。
 しかし彼の声はヴァージニア達にはっきり聞こえて来た。

「ねぇねぇ、あなたは龍さんでしょ! こんな所でどうしたの? 」

 ヴァージニアの隣にいた局長は、これを聞いてギョッとした表情になった。
 それもそのはず、マシューは嗅いだことがある臭いがすると言った。
 そして今の彼の発言から彼は龍の臭いを知っている、即ち龍と会ったことがあるとなる。

「えーっとですね、前に地竜さんと雷竜さんに会った事がありましてですね……」
「随分と希有な体験をなさってますね」

 ヴァージニアは今回のように強風で魔力の流れが乱れたときの話をした。
 彼女が南の無人島で遭難し、ジェーンとマシューが助けに来たのだと。

「雷竜に助力を願ったと……。末恐ろしい……」
「ジェーンさん凄いですよねぇ」

 ヴァージニアは実際はマシュー発案だがジェーンの手柄にしようと思った。

「人間離れしてらっしゃいますものね……」

 局長は立ち上がりヴァージニアに手を差し出した。
 どうやらマシュー達の後を追うようだ。
 ヴァージニアは局長ととうめいに助けられながら立ち上がった。



「ねぇーってばー! おーい! 」
「しくしく……」

 マシューはモコモコの龍の顔があるらしい所を覗き込んでみたが、体を丸くしているため顔が見えない。

「マシュー君、これは本当に龍なのか? 新種の魔獣じゃないのか? 」

 ヒューバートはマシューに追いついた。
 彼は顔を上下させてモコモコの正体を判別しようとしている。

「龍さんだよ! だって地竜さんと雷竜さんと似ている匂いがするし、二龍の匂いもするよ! きっと最近一緒にいたんだ! 」
「うーんっと……マシュー君は今言った龍達に会ったことがあるんだね」

 子どもの戯れ言には聞こえないのは、マシューの能力の高さと目の前の巨大なモコモコのせいだ。

「そうだよ! ジニーも会ったことあるよ! ねぇ、龍さん。どうしてこんな所にいるの? 何かあったの? 」
「ん? 」

 龍は漸くマシューの声が聞こえたのかピクリと反応した。

「もしや人間さん? 」

 龍はゆっくりと顔を上げ大きな目に二人の姿が映ると、ヒューバートとマシューがすぐ側にいるのに気付いた。

「わー! 幻聴かと思ってたのに-! 」

 龍は驚いたのかさらに目が大きくなった。

「本物だよ! どうしてこの森にいるの? さっき落ちてきたのって龍さんだよね」
「ぐすん……、そうですよぉ。私はさっきここに落ちてきた龍ですよぉ」

 龍は余程ショックだったのかいじけて、立派な角で地面をグリグリとほじった。

「どうして落ちちゃったの? 」
「それは酷い雨に見舞われたからです。おかげで毛が水を吸っちゃって重くなって飛べなくなったんですよぉ」

 これだけ全身が分厚い毛まみれだと、そうもなるかもしれない。

「えー? 雷竜さんは雲の上を飛んでたよ」
「えっ! 」

 龍はまた目を大きくし、口も半開きになった。
 どうやら雲の上を飛ぶという発想がなかったらしい。

「確かに雲の上を飛べば濡れずに済みますね」
「あわわわわ! 私はなんてことを! けどけどっ、いつもは雨に濡れても平気なんです! それなのに今日は重たくなってしまって! 」

 いつもは水を弾くそうだ。

「魔力の流れが乱れたのが原因かもしれませんね。何がどう作用したのかは不明ですが」
「なるほど。そんなことより、さっき地の竜さんと雷の竜さんって言ってました? 」

 龍はずいっと顔をマシューに顔を近づけた。

「言ったよ! 」
「ってことは貴方がマシューさんですね。へぇ、話に聞いていましたけど人間なのに凄い魔力をお持ちですね! 」
「そうみたいだね! 」

 マシューは自覚はないのでこの返事になる。

「こちらの人間さんは……オスですよね? 」

 龍は首を傾げパチパチと瞬きした。

「はい、私はオスですね。もしかしてメスを探してます? 」
「そうです。マシューさんの隣にはヴァージニアさんって人間のメスがいるって聞いてたんです。けど違いますね」

 龍は首を左右に動かして確認した。

「ジニーは近くにいるよ! あと局長さんもいるよ! 」
「そうでしたかー。色々と気配はするのに誰も来ないから、きっと見捨てられたんだと思っていました」

 龍はまた落ち込んで顔を下に向けた。

「それで我々の声を幻聴だと思ったんですね」
「はい。幻聴にしてはとてもはっきりした声だなーと思ってました」
「ねぇねぇ! 龍さんは他の人の気配が分かるの? 僕達はまだ上手く探せないんだ」
「へぇ、人間さんはそういうの下手くそですもんね。えっとですね、近くだとあっちとあっちとそっちとそっちにいます」

 龍は目をちょっと動かして、人間がいるらしい方向を見た。

「もの凄くざっくりだな……」

 そんな龍の行動にヒューバートは思わず素が出た。

「キャサリンさんがどこにいるか分かる? キャサリンさんっていうのは他の人達より強そうな人だよ」
「うーん……。その人間さんか分かりませんけど、こっちに来るなって殺気を出している個体がいますね。人間の割に殺気がすごいです」

 龍は目を細めて穏やかでない表情になった。
 それだけの殺気を感じているのだろう。

「じゃあ間違いなくキャサリンさんだ! 」
「どういうことだよ」

 ヒューバートは自信満々なマシューに思わずツッコミをいれた。

「キャサリンさんは魔法だけじゃなくグーで殴ってくるからね。怖いんだよ」
「元理事長が? ほう、良い情報ありがとうございます」
「リチャードさんもよく殴られるんだって怖がってたよ」

 ヒューバートが驚いていると、局長とヴァージニアととうめいがやって来た。
 ヴァージニアは局長ととうめいに助けられながら歩いていた。

「ジニーしっかりして! 」

 マシューはテテテとヴァージニアに駆け寄って彼女を支えた。

「おー、貴女がヴァージニアさんですね」
「はいそうです。あなたは? 」
「私は綿ぼことか綿の奴とか呼ばれますね」
「綿ぼこって……あの、強風の事件と何か関係ありますか? 」

 ヴァージニアは地竜が綿ぼこがどうとか言っていたのを思い出した。

「ふえ? な、なんのことだか。そ、そんな汚い話知りませんね」
「汚いって知ってるんだ! 」

 局長とヒューバートが意味が分からず怪訝そうな顔をしたので、ヴァージニアは先の災害について説明した。

「くしゃみ? 」
「風竜のくしゃみですか? 」

 局長とヒューバートはにわかには信じられないと言った反応を示した。

「ええ、龍ですね。羽があって角があれば龍なんです。……あれ? 水の中に住んでいるのは羽はないんですかね? 」
「さあ……? 」

 誰も水の中で暮らす龍の姿を知らない。

「ま、兎に角、私は風の竜さんのくしゃみで吹き飛ばされて、最近まで気流に流されてたなんてありませんからね! 」
「そっか! くしゃみを浴びてないし流されてもないんだ! 」

 マシューはさりげなく誘導している。

「そうですよ! 全身くしゃみまみれになんてなってないですよ! くしゃみを雨で洗い流そうだなんて思ってないですよ! 」

 龍はフンフンと鼻息を荒くしている。
 今回、龍はどうやらそのせいでこの森に落ちたようだ。

「そうなんだね! 」
「自分からペラペラと話してくれる……」

 ヒューバートは呆れているようだ。
 しかし、局長は知的好奇心が勝ったのか龍に一歩近づき話かけた。

「綿竜さんとお呼びしてもよろしいですか? 」
「どうぞ! 」
「綿竜さんに質問なのですが、北の地域には凍え死にしそうになった時に大きな羊が助けてくれたという伝承が多くあります。もしかして、この大きな羊って綿竜さんのことでしょうか? 」

 綿竜は羊のようにモコモコとした毛で覆われ、角もぐるりと渦を巻いている。
 羊と違うのは立派な羽があるかどうかと、羊や山羊特有の横に広い瞳孔はしていないことだ。

「そんなことあったような、なかったような? 私の毛はすぐに伸びるので別にちょっと分けても問題ないんです」
「今はビチャビチャだけど大丈夫? 」

 乾いていたらもっとモコモコだったのだろう。

「寒くはないですけど、全身が重たいです。……ぐすん」
「! 」

 ここでずっと大人しかったとうめいが大きく飛び跳ねた!

「わわっ! スライムさんどうしました? 」
「とうめいだよ! ジニー、とうめいはなんて言っているの? 」

 ヴァージニアはとうめいの翻訳係になっているようだ。

「えー……、話の流れから綿竜さんの水分を取ってくれるんじゃないかな? 」
「! 」

 正解だったらしく、ヴァージニアはとうめいに手を取られ握手した。


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