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ジェーンの強さ!
しおりを挟む先ほどのご馳走繋がりで、ヴァージニア達はジョーから驚きの話を聞いた。
ジョーの店とこの病院の食堂がコラボして限定メニューを出すそうだ。
「ちゃっかり仕事してますね~」
「最初は病院内に俺の店を出そうかと思ったがキャサリンに止められた」
それでコラボメニューになったそうだ。
「えへへ、僕コラボメニュー気になるなぁ」
マシューは言葉だけで涎を垂らしそうだ。
「今、会議しているから見学に行くか? 」
「じゃあ三人で行きましょう」
ジョーとリチャードとマシューは病室から出て行った。
病室にいるのはジェーンの他にジェイコブとマリリンとヴァージニアだけになった。
(えー……、ジェーンさんのお見舞いに来たんだよねぇ? )
ヴァージニアは今出て行った三人を咎める気はないが、本来の目的を忘れていないかと言いたかった。
「あらあら、皆食いしん坊ね。私のご飯ももう少し食べ応えがあるものだったら、回復が早くなると思うのだけど……我慢するしかないのねぇ」
ジェーンは笑顔だが声は少し残念そうだった。
「ジェーンさんの食事はキャサリンさんが考えているそうですね」
「そうみたい。こんなに豪華で特別な部屋だから食事も特別かと思って期待してたら、別の意味で特別だったのよ。彼女がやることだから間違えはないのは分かっているわ。けどもうちょっと、ねえ? 」
ジェーンの訴えに一同笑った。
彼女は病室の雰囲気に合った豪華な食事が出ると思ったようで、もう少しガッツリとした物が食べたいそうだ。
「もう全身を動かして大丈夫だと思うのよ。血管や神経や筋肉が繋がっているのは分かっているのに……。皆気にしすぎよ」
ジェーンは現役時代に何度も大怪我をしているため、その時に体がどう回復していくのか覚えたらしい。
「本来は喋るのも時間がかかると思われていたそうですよ」
「みたいねぇ。全然平気なのに。歌だって歌えちゃうわよ? 」
ジェーンの感覚では今すぐ歌いながら走り回れるくらいには怪我が治っているとのことだ。
「そうですか。あはははっ……あ、すみません。連絡が来たので一旦失礼しますね」
ジェイコブが通信機を持って退室した。
「仕事かしら? 相変わらず忙しいのね」
「これでもキャサリンさんが仕事を回さないようにしてくれてるみたいなんですけどね……」
マリリンはため息をついた。
「ジェイコブなら確実に依頼達成するからつい頼ってしまうのよ。指導も上手いし。あ、マシュー君にスモーの稽古をつけたそうね」
「ええ、マシューは一度もジェイコブを押し出せなかったんです」
ヴァージニアはマシューが身体強化魔法をしていたがジェイコブはしていなかったと伝えた。
「んもう! マシュー君はまだ力の使い方を理解出来ていないのね。彼の魔力量で強化したならジェイコブの筋力を軽く上回るはずだもの。鍛え直さないといけないわね」
ジェーンは目をギラリ光らせて、口角をニヤリと上げた。
そんな楽しげなジェーンを見てマリリンとヴァージニアは声を出して笑った。
「マシュー君、頑張らないとね……あ、私の通信機にも連絡が来たみたいです。すみません。失礼します」
マリリンも病室から出て行き、ヴァージニアはジェーンと二人きりになった。
「皆忙しいのねぇ」
「みたいですね」
ヴァージニアの通信機には何の連絡も入らない。
誰も急な荷物や移動はないらしい。
「忙しいと言えば、色んな国の人が秒単位でお見舞いに来たのは驚いたわ。私ももう急いで挨拶と説明をしてなんだか大変だったわ」
ジェーンは同じ事を何度も話したらしい。
途中で何を言ったか忘れてしまいそうだったそうだ。
「お疲れ様です。この後は肩書きが凄い方はいらっしゃらないのですか? 」
「外国の人はね。国内は来るかもってキャサリンが言ってたわ。すでに王族や貴族は何人か来ているけど、今度は軍関係やお役人が来るみたい。ゴールドちゃんみたいに知っている人ならいいけど……。今から気が重いわ」
ゴールドちゃんとはゴールドバーグ陸軍元帥閣下である。
彼はジェーン達の弟子なのだ。
「断れないんですか? 」
明らかに大怪我をして入院中の人に負担がかかる内容だ。
何故誰も遠慮しないのだろうか。
「いいのよお。私が元気って言うのを見て安心出来るなら、いくらでもお話しするわよ」
ヴァージニアはこれはジェーンの安否確認をしての安心ではないと気付いた。
皆は超人的な力を持つジェーンが無事なのを確認したいのだ。
もし絶大な力を持つ彼女に何かあったら、彼らに動揺が走る。
そして世界中が不安に包まれてしまう。
だから彼らはジェーンが元気なのを見て安心したいのだ。
「そんな……。ただ自分達が安心したいからって……」
自分は大丈夫、世界は大丈夫、これが全てジェーンにかかっている。
それがたった一人にかかっている。
「ヴァージニア、そんな顔しないで。私はね、絶対たる強者じゃないといけないの。弱い姿を見せちゃいけないの。皆がそう望んでいるし、私自身がそう望んでいる。だからいいのよ、これで」
ジェーンはいつもと変わらない笑顔だ。
「そんな、そんなの……」
そんなのおかしい、こうヴァージニアは叫びたかった。
彼女がそうしなかったのは、涙が溢れて、声が震えて出来なかったからだ。
「泣かないで。私は皆の笑顔が見たくてやっているんだから、ね? 」
ジェーンの優しい声にヴァージニアは余計に涙が出た。
ヴァージニアはベッドの脇にあるティッシュで顔中を拭いた。
「けど、ありがとう。私の代わりに泣いてくれて……」
きっといつものジェーンだったらヴァージニアを柔らかくも逞しい腕で抱きしめていただろう。
だが、今はそれは出来ない。
(ああ、私もジェーンさんで安堵感を得てた……。今も得ようとしていた)
ヴァージニアは自身も他の人と同じだと気付いた。
それなのに涙を流してジェーンに同情していた。
(そんなの駄目だ。他は駄目でも心は強くないと……)
ヴァージニアは涙を拭き終わり、ティッシュをゴミ箱に捨てた。
キャサリンがジェーンの病室に入ろうとした時に、ジェーンとヴァージニアの会話が聞こえてきた。
盗み聞きなど趣味が悪く、キャサリンの美学に反する。
だがキャサリンは二人の会話に入るべきでないと判断し、ドアの横で入室するタイミングを待った。
(ヴァージニア……、やはり貴女は優しい。これは心の痛みを知るからこそのもの。魔力量が多かった時にはなかった。だからマシューの心が壊れた。そして彼は暴走して世界を崩壊させようとした)
もちろん当時はマシューという名ではなかったが便宜上マシューとする。
(マシューの両親が彼女の生活が豊かになるに魔力量を本来より多くしたけど、それが良くない方向に作用し失敗してしまった。だから次は様子をみるために大幅に減らした。彼女には酷だけどそれが功を奏したのよね)
ヴァージニアの先任者達もマシューと共に過ごす適性があったが上手くいかなかった。
(適性については私もよく知らない。けれど、封印解除が出来てあの島に行ける能力がある人物なのは確か。後はヴァージニアだけかもしれないけど、感情の変化でオーラが大きく乱れない。例えば嘘を言っても大して変化がない)
他の共通点はヴァージニアも含め全員若い女性だった。
一度も男性はいなかった。
(母親代わりなのか、それとも……)
今後の展開を思い出すとそうなのだろうかとキャサリンは首を傾げた。
(もっと進んだ時はあったけど、今までより早く動いているから、じきに前の世界の情報が使えなくなる……。すでにチラホラと今までなかった事が起きているし……)
となると選択肢を間違えないように慎重にならざるを得ない。
だがそんな悠長に構えている余裕がいつもある訳がない。
即座に判断しないと取り返しが付かなくなる所まで発展する決まっている。
(他の協力者達と話し合いたいけど、人間側は誰なのか分からない……。エルフ側はコンタクトを取りに来たし、妖精も関わってきている……。彼らも前に進みたいに決まっているものね)
キャサリンは何人か予測しているが決定打がない。
ないので話を切り出せない。
(もし違ったらジェーンみたいに守護者にでもなってもらおうかしらね。駄目なら忘却の魔法で……)
キャサリンは敵になるようなら記憶を忘れさせたり改竄したりを考えたが、禁忌ともいえる行為なので本当はしない方がいい。
それに協力者は皆能力が高いはずなので、この魔法は効かない可能性もある。
(ああ、協力者だった場合はしなくていいんだったわね……。はぁ、疲れているのね……)
どうやら病室内で泣いていたヴァージニアは落ち着いたようだ。
キャサリンはちょうど戻って来たジェイコブとマリリンと共に病室内に入った。
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