転移魔法に失敗したら大変な事に巻き込まれたようです。

ミカヅキグマ

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病院内散策!

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 ヴァージニア達が休憩スペースで談笑していると、身なりの良い家族が廊下を通りすぎっていった。
 キャサリンによるとジェーンの子ども達の家族とのことで、キャサリンとジョーは彼らに挨拶しに行った。

「赤ちゃんいたよ。曾孫かな? 」
「だろうな」

 ベビーカーから小さな足がチラリと出ていたのだ。

「名前はなんだろうね。 名前と言えば、さっきの物語の主人公は二人とも後ろにタローってついてたよ」
「ジョーさんも本当はジョータローって名前だそうだ。その国の男性名には多いのかもな」

 女性名にも同様の言葉があるのだろうか。

「へぇ、アタシもマシュタローって名前にしようかな? 」
「呼びにくいからやめてねー」

 ヴァージニアがこう言うと、マシューは冗談だよと笑った。

「ねぇ、さっきも言ったけどもう一本ネクター買っても良い? 駄目だよね。知ってた」
「答えが分かってて偉いねぇ」
「一縷の望みにかけてみたんだ」

 マシューがヘヘヘと言って笑っていたら、スーツ姿の厳つい人達がヴァージニア達に近寄って来た。
 ヴァージニアが驚いて固まっていると、ジェイコブが彼らから話を聞くために立ち上がった。

「……護衛の方々ですか? 」
「はい。貴方方は? 」

 ジェイコブ達は若干ピリついているが、マシューはリラックスしているので護衛を名乗る人達から悪い気配を感じないのだろう。

「我々はジェーンさんと同じギルドに所属する者で、本日は見舞いに来ました」

 ジェイコブは身分を証明するためにギルド証を護衛の人々に渡した。
 すると彼らは偽造されたものでないか魔導具を使って確認していた。
 さらにジェイコブがどんな経歴を持っているのかも調べているようだ。

「ジェイコブさんご本人ですね。確認が出来ましたのでお返し致します。念のためそちらのお二方もご協力お願いいたします」

 マリリンとヴァージニアは護衛にギルド証を渡した。
 もしマシューの分も求められたら少々面倒なことになっていただろう。
 マシューもそれを理解しているので何も言わなかった。
 ただ大人についてきた子どものふりをしていたのだ。

「確認が出来ました。お返しいたします。ご協力頂きありがとうございました」

 ヴァージニア達の目の前にいる護衛が言い終わると、近くにいた別の護衛が合図を出し、数分後にやはり身なりのいい人物達が廊下を通過した。
 ジェーンの家族なのは確かであろう。

「……ジェーンさんの血縁者だね。きっと、さっきの人達より偉い人なんだ」

 マシューがヒソヒソと声を潜めて言った。

「あの方が大使閣下かもな」

 護衛の一人が休憩スペースの出入り口の前に立った。
 どうやらヴァージニア達は見張られるようだ。

「ジェイコブの経歴を見てもこうなるのね」

 ジェイコブは各界の重鎮から数え切れないくらい依頼を受けており、キャサリンもその一人である。

「俺は大層なご身分でない一般人だから仕方ない」

 ジェイコブも飲み物を飲み終えたようだ。

「今は近しい人達しか来ていないけど、もう少ししたら各国のお偉い方々がいらっしゃるのかも」
「だろうな。ジェーンさんはファンが多いから連日訪れるだろう」

 明日からは見舞いに来ない方がいいようだとヴァージニアは思った。

「ジェーンさんは大丈夫かな? 」
「マーサの言う通り、疲れちゃうかもね」
「何かあったら医師が止めてくれるだろう」

 その医師すら黙らせるような大物が来ないことを祈るしかない。
 いや、医師の意見をきちんと聞く人々が来るのを祈るべきか。



 マリリンとヴァージニアとマシューは見張りの護衛に了承を得て、病院内を見てまわることにした。
 ジェイコブはキャサリン達が休憩スペースに戻るかもしれないので居残る。

「大きな病院だね。って他の病院を知らないけど」

 マシューは壁に掲示されている病院の案内図を見ている。
 ヴァージニアも見てみると、どうやら下層階が外来で上層階が病棟らしい。
 これはどの病院でも大体同じだろう。

「よし、ここの食堂に行ってみよう」

 マシューはとても嬉しそうに食堂を指さした。
 大病院だからなのか広めにスペースがとってあるようだ。

「マーサは食いしん坊だね」

 もちろんマシューはしっかり昼食を食べている。

「マーサちゃん、おやつの時間だから何かあるかもね」
「でしょ? だから早く行かなきゃ」

 マシューはマリリンとヴァージニアの手を引いて食堂に行った。
 しかし、大使が来ているからか食堂には新しく人が入れなくなっていた。
 現在中にいるのは大使が来る前から食堂内にいた人だそうだ。

「はぁ、アタシは中で食べている人を涎を垂らしながら見るしかないんだね」
「……違う場所に行けばいいでしょう」

 マシューは次は売店に行こうと言い出したが、ヴァージニアは却下した。

「じゃあ、このリハビリステーションに行こう。ジェーンさんのために下見しないと」

 マシューは謎の使命感を抱いているようだ。
 ヴァージニアも少し興味があったので三人で行く事にした。



 リハビリステーションに着くなりマシューが声を上げた。
 リハビリ中の人々はマシューの声には反応せずに、一生懸命に歩行訓練等に取り組んでいた。

「どうしたの? 」
「あの人、腕に何かつけてるよ」

 マリリンがマシューに魔導義手だと教えた。
 筋肉の動きに合せて指先が動くのだ。

「って、あれ? 」

 マシューはいつの間にか魔導義手を装着している人の前に行っていた。
 それほど興味があるのだろう。

「こんにちは。貴方はケリー兄弟と血が繋がっている人だよね」

 ケリー兄弟とはヴァージニア達が最初に合成生物に出会った時に、その生き物を討伐した人々だ。

「おお、お嬢ちゃんよく分かったな。俺はあいつらとは従兄弟だよ。ま、他の従兄弟と合わせてケリー兄弟で通ってるけどな」

 一家ではなく兄弟と呼ばれているのは、最初は兄弟だけで活動していたからだそうだ。

「オーラで分かったんだよ。アタシ、魔導義手って初めて見たよ。もっと近くで見せてもらってもいい? 」

 マシューは実に積極的である。

「かまわんぞ。これは戦闘と日常、両方に使えるって代物だ。今まで使っていたのは一々付け替えてたんだが、改良されたコレだとその面倒がないそうだ。俺もついさっきつけたから、ちゃんと使える物なのか分からんがな」

 男性が腰掛けている長椅子に、戦闘用と日常用の義手が置いてあった。
 戦闘用は鎧のような見た目でかなり厳ついが、日常用は普通の腕のようだった。
 男性が今装着しているのはその中間ぐらいのデザインだ。

「魔導って言ってるんだから魔力で動くんだよね」
「ああそうだ。ほら指が動くだろ」

 男性はグーチョキパーを順に行った。
 動きはスムーズで、生身の人間の動きと大差ない。

「おおー」
「この上腕の筋肉の動きで指が動くんだと。俺は生まれつき右の肘から下がなかったから、感覚を掴むまで大変だったよ」

 男性はタオルを摘まんでみたり、ボールを掴んでみたりと様々な動作をして性能を確認していた。

「そっか。指の筋肉を動かした事がないから動かし方が分からなかったんだね」
「おうそうだ。嬢ちゃん賢いな」

 男性はハハハと声を出して笑った。

「フフン。凄いでしょ」

 マシューは男性に誉められてドヤ顔になった。

「ハハッ! 凄いぞ! 説明しても分からない奴もいるんだよ。……うん、日常で使うには悪くなさそうだな」
「それってもしかして属性魔法を纏える? 」

 マシューはドヤ顔からすぐに真剣な顔つきになった。
 だがどこか目の奥が輝いていており、興味津々な様子だ。

「お、それも分かるのか。俺はそうやって戦ってるんだ」

 男性は少し魔導義手の周りに雷を纏わせた。
 彼は数度バチバチとさせた後で解除していた。

「ジェーンさんみたいに? 」

 ジェーンは腕力だけでも十分戦えるが、相手によって属性を変える必要があればそうする。

「ガキの頃に彼女が戦う姿を一度見たことがあるが、無駄のない見事な戦闘だったな。……今この病院に入院しているんだってな。回復に向かっているって報道があったけど大丈夫なんだろうか? 」
「大丈夫だって小耳に挟んだよ」

 マシューはジェーンと知り合いなのは黙っておくようだ。
 彼は言わない方がよい事を分かっているのだ。
 それなのに彼女の名前を出したのは、わざとなのかうっかりなのか不明である。

「ハハハ! そうかそうか」

 男性はマシューが気遣いで言ったと思っているのだろう。
 ここで研究者ぽい格好をした人が登場した。

「ああ、お一人で確認させてしまってすみません。おや? そちらの皆さんは? 」

 ヴァージニアが今来た人の首から提げている身分証を見ると、やはり研究者のようだ。

「魔導義手に興味がある子と……お姉さん達か? 」
「ええ、親戚なんです」
「そうでしたか。魔導義手に興味を持って下さるなんて嬉しいです」

 研究者は言い終わると何かを思い出したようで、ヴァージニアをじっと見つめた。

「なんでしょう? 」

 もしやどこかで会ったことがあるのだろうかとヴァージニアは考えた。
 しかし彼女は人を覚えるのが苦手なので研究者が誰なのか分からない。

「あの、違っていたら申し訳ないのですが、以前学園都市の王立研究所の噴水前で何かと言い争っていませんでしたか? 」
「え……ああ……妖精に絡まれたので、その時ですね……」

 ヴァージニアは恥ずかしい場面見られていたようだ。
 マリリンとマシューにクスリと笑われてしまった。

「おお妖精でしたか」
「なんか、人間にちょっかいを出す奴がいるらしいな。俺も人伝に聞いただけだが」

 ケリー兄弟の一員なら、あのださい妖精に絡まれるはずがない。

「ねぇねぇ、そんな妖精の話より闘う時の動きを見せて! 」
「おおっ、そうだった。日常使いには問題なさそうだから、あとはどれだけ衝撃に耐えられるかだな」

 研究者は防御壁を作れる魔導具を取り出した。
 範囲は一人分のようだ。

「便利だね」

 マシューはこう言いながらも、自分がやった方がいいと思っているだろう。
 男性が魔導義手で拳を作ると、その拳の周りに先ほどより強力な電撃が現れた。
 彼はさらに出力を上げて、彼自身が望む耐久度があるのか試した。

「今の所は大丈夫そうだな」

 男性は次にパンチの動作をした。
 マシューは食い入るようにその様子を見ている。
 男性の動きは素人のヴァージニアが見ても無駄がないように見えたので、マシューがそうなるのも無理はない。

「これは魔石や魔水晶も装着出来るんですよ」

 纏う属性が変えられるし、補助魔法の効果も得られるそうだ。

「ほへー」

 マシューは研究者の説明に感心しきりだった。


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