転移魔法に失敗したら大変な事に巻き込まれたようです。

ミカヅキグマ

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ジェーンの家族!

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 ジェーンの病室にやって来たキャサリンは、今日も頭からつま先までビシッと決まった格好をしていた。
 だがいつもと違い、キャサリンから高そうな香水の匂いはしなかった。

「あら、ジョーじゃない。来てたのね。なんだか前見たときより痩せたじゃない」
「そりゃ、俺の所に弟子入りに来た奴がいるからな。みっともない姿で教えるわけにはいかないだろう」

 弟子とはケヴィンのことだ。
 そう、ジョーは剣豪であり、現在は料理店を営んでいる。

「みっともないって自覚があったならさっさと健康的な体になればよかったでしょうに。まったく……」

 キャサリンは腕組みして本当に嫌そうにため息を吐いた。
 普段から外見に気を付けているキャサリンからすると、以前のジョーの見た目は心底気に入らなかったのだろう。
 ヴァージニアはキャサリンの態度からジョーがどれだけ太っていたのか気になった。

「キャサリンも来てくれたのね。ありがとう」
「どういたしまして。ジェーンの回復が早くてびっくりよ。まだ喋れないようだったら私が魔法をかけようかと思ってたのよ」

 キャサリンはジェーンが術後に発熱すると予想していたそうだ。

「出来るのは喋るくらいよ。だってほぼ全身ギプスで固定されてるんだもの」

 ジェーンは全身の骨がやれれていたらしく、今は指一本も動かせないそうだ。
 それを聞いてマリリンとヴァージニアとマシューは驚いて顔を見合わせた。

「ねぇ、ご飯はどうしてるの? 」
「病院の人に食べさせて貰ってるわ」

 と言ってもジェーンに出されたのはお粥だけだそうだ。
 ヴァージニアの入院時と同じである。

「じゃあグミは……」

 マシューだったら念動力サイコキネシスで簡単に食べられるだろうが、今のジェーンには出来ない。

「元気になったら食べるわね。ありがとう」
「食べたくなったら言ってね。こっそり食べさせてあげるよ」
「本当? マ……マーサちゃんありがとうね」

 ジェーンは危うくマシューと言いそうになったようだ。

「あら? この子の事、ジョーに言ってないの? 」
「んんっ? 色々事情があるとかなんとかだろ? 他にもあるのか? 」

 ジョーは片方の眉毛を上げた。
 彼の眉も髪の毛と同じくシルバーになっている。

「実はこの子、男の子なの」

 キャサリンはジョーにはマシューの変装について話すようだ。
 元仲間なので信頼出来るからだろう。

「……キャサリンと同じ感じか? 」

 ジョーは神妙な面持ちをしながら言った。

「違うわよ。マスコミや野次馬がいっぱいいるでしょう? この子の力を狙う輩が出てくるかもしれないから姿を偽っているのよ」
「ふーん。ならキャサリンの変身魔法を教えてやれば良いだろう。ぐおっ! 」

 ジョーはキャサリンに鳩尾を殴られ呻いた。
 ジェイコブとマリリンはキャサリンが変身魔法で姿を丸っきり別にしているのを知らないらしく、疑問を感じた表情になっている。

「マッチョ……マッチョ……」

 マシューはキャサリンの手が届かない場所でヒソヒソと言った。
 ヴァージニアは何故怒られそうなことをわざわざ言うのだろうかと思った。
 もしや彼は遊んでいるのだろうか。

「マシュー? 特訓をもっと厳しくして欲しいのかしら? 」

 キャサリンが凄むとマシューは大人達の陰に隠れた。
 彼は安全地帯にいればキャサリンが手出ししないと確信しているようだ。

「嬢ちゃん、いや坊主はマシューと言うのか。言われても全く分からんな」

 ジョーは目を丸くして驚いている。
 そのジョーの顔を見てマシューは不服そうな顔になったが、すぐにいつもの表情に戻った。
 彼は何かを察知したらしい。

「ねぇ、誰か来たみたいだよ」

 複数の足音がヴァージニアの耳にも届いた。

「あらぁ? 」

 ジェーンにも聞こえていたようで、いつもの笑顔から驚いたような表情になっていた。
 彼女にはドアが開く前から誰が来たのか分かったらしい。
 おそらく話し声が聞こえたのだろう。

「母さん! 」
「おばあちゃん! 」

 ヴァージニア達は新しく来た見舞客、ジェーンの家族のために場所を空けた。
 夫婦と娘で来たらしく、どうやら孫はヴァージニアよりも年上のようだ。
 ジャスティンの屋敷で目が鍛えられたヴァージニアには、三人が着ている服が上等そうに見えた。
 三人はキャサリン達に会釈してジェーンの隣に移動した。

「皆してどうしたの? 」

 ジェーンは何度も瞬きをしている。

「何って、大怪我をしたって聞いたから心配して来たんだよ」

 男性がとても心配そうな顔をして言った。

「え? あんな遠くから? 大変だったでしょう」
「おばあちゃん、今の自分の格好見えてる? おばあちゃんの方が大変でしょう」

 外国でもジェーンが大怪我をして入院中なのが報道されているそうだ。

「世界中でお義母さんの話で持ちきりなんですよ。過去の伝説についても話題になっています」

 ジェーンの血を引いているのは男性のようだ。
 ヴァージニアはチラリとジェーンと息子と孫娘を見て、確かにジェーンにどこか似ているような気がした。

「ええ~? そうなの? 」
「そう言えば私達の伝記だかも重版が続出って聞いたわね」

 書店で特集コーナーが設置されていることだろう。

「本当か? これで俺も店の奴らに剣豪だって信じて貰えるな」

 ジョーはケヴィンが弟子入りに来たときに、従業員達から疑いの眼差しで見られたらしい。
 今は稽古の様子を見て信じてもらえたようなので、これは冗談である。

「お二人にも迷惑をかけてしまったようで……」

 ジェーンの息子が頭を下げた。
 彼の妻と娘も同じように頭を下げた。

「いいのよ。いつものことだから」
「そうだな」
「アンタもジェーンの次に私達に迷惑かけてたでしょう。食材を探しに訳の分からないところに連れて行かれるし」

 ジェーンは四人パーティだったので、今病室にいる三人に加えもう一人いる。
 なので私達なのだ。

「え? そんな事あったかしら? 」

 ジェーンは本当に何も覚えていないようで、少し考えるような顔をしている。

「記憶にないなぁ」

 ジョーは口元をさすりニヤリと笑ったので、彼には覚えがあるようだ。

「もしかして、所用で秘境に行った時に十年前に誘拐された異国の王子を見つけた時の話ですか? 」

 ジェイコブが言うと、キャサリンが顔をしかめた。
 マリリンも知っている話らしく、小さくああと言った。

「あー、そういう風に伝わってるの? 実際は幻の食べ物を探していたら、その王子も食いつなぐためにそれを狙ってたってだけの話よ」

 ジョー達は王子と食材を取り合いになって、戦いの末に王子を組み伏せたそうだ。
 その時にパーティの残りの一人が捜索願いを思い出し、王子の面影があると気付いたのだ。
 どうやら王子は自力で誘拐犯から逃げ出せたが、何処に行ったらいいのか分からずそのまま秘境で生活していたらしい。

「なかなか強かったよな。生きていくために自然と力がついたんだろ」

 マシューはキャサリン達の話に興奮したのか、ずっと目を輝かせて聞いていた。
 話自体が面白かったのか、食材探しに反応したのかは不明である。

「……あら、せっかくの家族の再会の場なのにごめんなさいね。私達は席を外すわね」

 ジェーンの家族達はキャサリン達の話を楽しげに聞いていたが、久々に会ったので積もる話があるだろうとキャサリンは判断したようだ。
 なのでキャサリンとジョーと一緒にヴァージニア達は同じ階にある休憩スペースに向かった。



「あ、桃のジュースが売ってるよ。ジニー、買ってもいい? 」

 マシューは飲み物の自動販売機を指さした。

「ネクターだね。いいよ」

 マシューは桃のネクター、ヴァージニアは紅茶を買った。
 二人が買うのを見て他の人達も飲み物を買い、椅子に座った。

「他の子達も来るのかしらね」
「ジェーンの子どもは五人だったか。確か皆遠くに住んでいるんだったよな」

 ヴァージニアが何故ジェーンの子ども達は遠い場所で暮らしているのだろうと考えていたら、キャサリンに考えを読まれたらしく理由を話し出した。

「ヴァージニア、彼らは外交官なのよ。それも優秀なね。大使になった子もいるわよね」
「そうだったな。各国にジェーンのファンは多いから、国の偉い奴らが彼らを放っておくはずがない。事実彼らは賢い」
「フフッ、そういうのはご主人に似たみたいね」
「今回の件で下火になっていた人気も再燃するだろう」

 下火と言ってもジェーン達の知名度や人気は抜群だ。
 なので現役時代と比べたら周囲が静かだったという意味である。

「フフッ、私ナースステーションで誰がジェーンにご飯を食べさせるかで揉めているのを見たわ」
「なんだ? 噛みつかれるかもってか? 」

 ジョーはクククと意地悪げに笑った。

「そうなの? 」
「んなわけないでしょう。マシューが信じちゃったじゃない」
「なぁんだ」

 マシューは早速ネクターの飲み干し、ヴァージニアにもう一本欲しいとねだった。

「なんだ、マシューは桃が好きなのか? 」
「うん。甘くて美味しいからね」
「そんなマシューにモモタローの話をしてやろう」

 ジョーの故郷の昔話だそうだ。
 どうやら悪者退治の話のようである。

「剣でやっつけたんだね。スモーはしなかったの? 」

 マシューはテレビ等でジェーンの話を聞きスモーが頭から離れないようだ。

「スモーを取るのはキンタローだな。熊とスモーを取るんだったと思うぞ」
「そうなの? よぉし、今度ブラッドとスモーしよう」

 ヴァージニアはジョーにブラッドとはケヴィンのパーティにいる女性の従魔だと説明した。

「熊ってことは鎧熊だろ。やめておけ。ケヴィンの仲間の従魔なら尚更だ」

 ジョーが言うとキャサリンとジェイコブも頷いた。
 なんでもブラッドの一撃で致命傷になる可能性があるそうだ。
 ブラッドがいつも大人しくしているのはアリッサが制御出来ているからなのだ。

「スモーなら私もジェーンもしばらくこの町から離れられないから、ジェイコブに稽古をつけて貰えばいいわよ」
「え」

 ジェイコブは突然指導役を振られてに驚いて声を上げた。
 マリリンも同様に驚いている。

「忙しいって言いたそうだけど、心配しなくて良いわよ。仕事が回らないようにしてあげるから」

 キャサリンはニッコリと作り笑顔をした。

「出来れば、いつもそうしていただけると嬉しいのですがねぇ……」

 ジェイコブは苦笑してから俯いてため息をついた。


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