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それぞれの会話!

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「え、兄さん。今なんて言ったの? 」

 妖精の研究者のレディントンは小学校で校長をしている兄からの連絡に驚きの声を出した。

「妖精がマシュー君に接触したようだよ」
「それってヴァージニアさんから聞いたのとは別の話? 牧場に来ていた件なら前に兄さんに話したわよね」

 兄がわざわざ言うのだからかなり重要な情報のはずだが、レディントンはいまいちピンと来ていない。
 何故なら妖精はマシューほどの力を持った人間に興味を持って近づくこともままあるからだ。

「その件とはまた別に最近会ったそうだ。正確には気配がしただけだそうだが、その場所がなんと西都の尼寺の寺院長の部屋なんだそうだ。彼女がいる所で気配がしたのなら、かなり高位の、女王か女王に近い妖精が来たのではないかな? 」

 レディントンは兄がとても面白そうに話すので、そんな彼の姿を想像して口角が上がった。
 前にも同じことが起きているので偶然とは考えにくく、兄が興奮するのも仕方ない。

「確か、その尼寺の寺院長は特異体質で憑依させられる人だったわね。そう、妖精を体に入れたのね」

 これが出来る人はかなり少ない。
 しかも中途半端な術者だと入れた者の影響を受けて気がおかしくなったり、体に負担がかかり術者が寝込む事態になる。
 寺院長はこれらがないのだ。

「だと思うよ。彼女の体を借りて女王か女王の側近クラスの妖精がマシュー君と話をしに来たのだろう」

 この話を知っているのは尼寺側でも極限られた人達だろう。
 あるいは寺院長は誰にも言っていないかもしれない。

「そう……。思っていたより……」
「そうだな。そろそろだ……」

 兄妹はこれ以上は言わずに別の話題に切り替えた。



 とある南の島では雷が落ちていた。
 その様子を見て地竜はため息を吐いた。

「おい、この島に雷を落とすんじゃない。何度言ったら分かるんだ」

 地竜が睨んだ先には雷竜がいた。
 まだくしゃみをするつもりなのか鼻をひくひくとさせている。

「うーん……。誰かが我の噂をしたな」

 雷竜は鋭いかぎ爪がついた指で鼻を擦った。

「ジェーンあたりじゃないのか? あるいはマシューだろう」

 地竜はつい最近会った人間の名前を言った。
 ヴァージニアの名前を出さなかったのは、彼女がペラペラと龍について喋る姿が想像出来なかったからだ。

「いやぁ、これは勘だが人間じゃないだろう」
「どうせまた何かして怒らせたんだろ。そうに決まってる」

 雷竜は雷という属性上、何もしなくても被害が出てしまう。
 現に冬毛になった地竜の体毛は静電気のせいで膨らんでしまっていた。

「決めつけるでないぞ。我がいつそんな無礼な行いをしたんだ」

 雷竜はまるで自覚がない。

「今さっきやっただろうに。もう忘れたのか」
「くしゃみをしただけだろう。大袈裟だな」

 雷竜はクククと笑っているが、大袈裟でも何でもなく被害が起きている。

「お前がくしゃみをする度に雷が落ちるのをなんとかせい! 」

 ヴァージニア達が帰ってからというもの、雷竜が頻繁に訪れるようになってしまった。
 その度に島に落雷があるので地竜は困っていた。

「あまり大きな声を出すんじゃない。コイツが驚いてしまうだろう」
「はぁ? 」

 雷竜は鼻を擦った手とは逆の手を背中に回した。
 その手で何かを掴んで持ち上げると、雷竜の翼の陰から何かが出てきた。

「あー! 地の竜さん助けて下さーい。うえーん」

 そこには羊のようにモコモコとした生き物がいた。
 その生き物の普段の大きさは地竜と雷竜より小さいはずだが、静電気で膨らんでいるのか同じくらいになっている。

「綿ぼこじゃないか。何故雷のに捕まってるんだ」
「うううっ……」

 綿ぼこと言われたのは綿竜である。
 あまり龍っぽくないが紛れもなく龍である。

「何故泣いている! 我が捕まえてやらねばずっと気流に流されていたままだろう! 」
「そうですけどぉ。なんで離してくれないんですかぁ……。私はおうちに帰りたかっただけなのに……」

 メソメソシクシクと綿竜は泣き続けた。
 そのせいで顔の周りの毛が濡れている。

「お前の家など知らんから我が行く予定の場所に連れて来たのだ! どうだ! 久々に友に会えて嬉しいだろう! フハハハハ! 」
「綿ぼこよ。災難だったな。しかし風に流されていたとはどういうことだ? 」
「こいつはあの風の奴のくしゃみの時からずっと流されていたらしいぞ! 面白い奴め! 」

 その事件から大分経っているので地竜はポカンと口を開けてしまった。

「待て、いくら風の影響を受けやすい体をしているからって、流石にそれはないだろう」

 と言いつつも綿竜の力だとあり得るかもと思った地竜である。

「我ながら恥ずかしいです。恥ずかしいですけど事実なのです。ううう……」

 綿竜はある山で風竜と会話をしていたら、綿竜の毛が風竜の鼻に当たってしまったそうだ。
 すると風竜は盛大にくしゃみをし、直撃した綿竜はそのまま空に吹き飛ばされて雷竜に見つかるまで気流に流されていたらしい。

「うわぁ、もしかしてくしゃみを浴びてから体を洗ってないのか? そうなのか? 」

 雷竜は綿竜はポイと地面に放り、地面で手を拭いた。

「うわぁ……」

 地竜は後退し綿竜から離れた。

「そんな言い方しないでくださいよぉ。私だって早く洗いたかったんですから! あ、けど風で大分飛ばされたと思いますよ」
「いやいやぁ、その風の元は風の奴のくしゃみだぞ? ばっちぃぞ」
「だな」

 綿竜はワーと叫びながら地面に体を擦りつけて砂まみれになった。
 しばらく地面を転がっていた綿竜は気が済んだのか諦めたのか、ゆっくりと起き上がった。

「あ、ジョリジョリが騒ぎを聞きつけてやって来たぞ」

 ジョリジョリとはマシューが名付けたサンドスライムである。
 たまに地竜に爪研ぎに使われているせいで、目の粗さを自在に変えられるようになっていた。

「何ですか? 何ですか、あの小さくて丸い砂の塊は! 」

 雷竜が地竜の代わりに、いや、割り込んで綿竜に説明した。
 すると綿竜も爪を研いでみたいと言ったので、挑戦することにした。

「ジョリジョリさん失礼しますね」
「……」

 ジョリジョリは大人しく綿竜に使われていたが悲劇が起きた。

「あああー、私の毛に絡まったー! ジョリジョリさーん」
「毛など毟ってしまえ。沢山あるんだからいいだろ」

 ジョリジョリは綿竜から剥がされたが、毛が残っているため、まるで新種のスライムのようになっていた。

「……」

 ジョリジョリは砂の塊から毛玉になってしまい不満げだ。

「なんだ? 面倒に巻き込まれるだけでなく、他者も巻き込むのか? 」
「フハハハハ! 実に愉快な生き物よ! 」
「ジョリジョリさんすみませんー」

 綿竜は爪先でジョリジョリについた自身の毛を取った。
 その間ジョリジョリは大人しくしていた。
 それだけ毛が嫌だったのだろう。

「そう言えば、人間達が例の禁術使いについて話しているのを聞いたぞ」

 雷竜はたまに人間の会話を盗み聞きしている。
 これはジェーンと再会してから頻繁に行うようになっていた。

「前にジェーンが教えてくれた話だな」
「動物だけでなく人間もいじっていたらしいぞ」

 雷竜は人造ケンタウロスの話を聞いたようだ。
 綿竜は雷竜の禁術使いの話を聞き、怯えながら毛を毟っていた。
 地竜は苛立ちを落ち着かせるために、長めのため息を吐いた。

「勇者と魔王がいた時代の生き物を再現するため、だったか。そんな愚かな事をしなくても、会いに行けばいいだろうに」
「力がないやつは行けないからやったんだろうよ」

 力があっても邪悪と判断されたら彼らの住処に入れない。
 龍達は自由に出入り出来るが特に用事がないので行っていない。

「うーん、会いたい人に会う努力をするのは良いですけど、努力の方向を間違えてますねー」
「間違いも間違いで、大間違いだ」

 雷竜が鼻をフンと鳴らすと、空からゴロゴロと音がした。
 ここでやっとジョリジョリから綿竜の毛がほぼなくなり、ジョリジョリは地面に擦りつけるようにして去って行った。

「はぁ、あやつも災難だったな」
「指一本だけ爪が短くなりました……」
「残りはそこら辺の岩で研いどけ」

 綿竜はトボトボと近場の岩まで歩いて行った。

「で、他には何か聞いたのか? 」
「うむ、ジェーンはキャサリンと合流したようだぞ。これから大きく動きだすな! 」
「キャサリンと言うのは、魔法が得意な人間だったか。マシューは魔法が上手くなったか? 」

 地竜はキャサリンは雷竜の話でしか知らない。
 人間なのに魔法がとても上手いらしい。

「ああ……魔力があれだけあって質も良いのに、魔法の使い方を全く理解してないようだったからな」

 マシューが島に来たときは魔力を無駄遣いしている状態だった。
 管楽器に例えるなら正しい運指が分からず適当に指を動かしている状態で、ただ音を鳴らしているだけだった。
 それでもたまたま魔法の発動条件と一致して発動出来ていたのだ。
 しかもマシューの場合は思い切り息を吹き込んでビャービャーと騒音を出していた。
 言い換えるならウネウネと回り道をしているが、それが高速なのでなんとかなっていたのだ。
 今はキャサリンとの特訓により最短距離に近い状態で移動可能になったことだろう。

「ヴァージニアにも頑張って貰わねばならんが……」
「彼女はあのままでも大丈夫だろう。マシューが懐いているのがその証拠だ! 」

 雷竜の言葉に地竜は頷いた。
 ヴァージニアは少々自信なさげで頼りないが、彼女は魔力が少ないなりに色々と工夫しているし、痛みを知るからこそ思いやれ、やる時にはやる人間である。
 そしてなにより彼女は龍を崇めたりせずに普通に会話出来るのも地竜にとって高評価のポイントである。

「既視感まみれの日常ではなくなってきているのも証拠だな」
「分かっているではないか! 流石我の友だ! 」

 雷竜が大きく笑ったら雷が落ちたので、地竜は激怒、綿竜は驚いて地面に転がっていた。


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