転移魔法に失敗したら大変な事に巻き込まれたようです。

ミカヅキグマ

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大きな精霊!

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 マシューはコロッケを買いに行くことにしたが、その前に調査だ。
 幽霊達とデザインを盗んだ犯人を捜さねばならない。

「後は庭師のおじさんが言ってた犬と猫も探さないとね。僕達はまだ姿も鳴き声も確認出来てないよ」

 ここでヴァージニアは犬と猫も幽霊達と同様にマシューを避けているのではと思い、そこから幽霊達の正体は犬と猫なのではと仮説を立てた。
 幽霊達と犬と猫が同一の存在ならば、この屋敷の敷地内で同時に複数の不思議なことが起きているのではなくなる。
 だが、何故犬と猫の幽霊はジャスティンの周囲にいるのか、彼らは何がしたいのか、ジャスティンとはどう言う関係なのか全然分からない。
 ヴァージニアはジャスティンに犬と猫の心当たりがないか聞こうと思ったが、彼は今日午前中に外出する予定があるのを思い出した。
 彼は今頃屋敷を出ているはずだ。

(デザイン泥棒は誰なんだろう? マシューが精霊と幽霊に話を聞くのも限界があるよね。犬と猫ならずっとジャスティンさんの周りにいるから何があったのか知っていると思う。だってジャスティンさんに何もしてないなら味方のはずだよ。彼らに聞けたらいいのになぁ。どうやってこちらに敵意がないのを知って貰えるんだろう? )

 ヴァージニアがあれこれ考えていたら、いつの間にかマシューがいなくなっていた。
 接触感応サイコメトリーをして誰かに話を聞きに行ったらしい。

(マシューは足が速いからもう近くにいなさそう……)

 ヴァージニアは部屋から出て左右を見たが誰もいなかった。
 なのでマシューの行方を聞けない。

(うーん通信機で連絡するか……。広いお屋敷だから声を出しても聞こえないだろうし)

 学園都市の研究所ほどではないが、かなり大きな屋敷だ。
 ヴァージニアは掃除するのも大変だろうなと思いながら窓の外を見た。
 すると黒い髪の毛の子どもが庭を歩いているのが見えた。
 遠くて顔がよく見えないが、彼はマシューと同じスーツを着ているのでマシューに違いないだろう。

(マシュー、いつの間に外に)

 犬と猫を探しに出たのだろうか。
 ヴァージニアは部屋に戻りコートを持って彼の元に急いだ。



「マシュー! 」
「ジニー、どこ行ってたの? 」

 何処かに行ったのはマシューである。
 ヴァージニアはそう言いながら彼にコートを着せた。

「犬と猫が何処にいるのか教えて貰おうと思ったんだよ」
「誰に聞くの? 」

 今庭師はこの場にいない。
 なら精霊か幽霊だろうか、それとも妖精が来たのだろうか。

「もうすぐ出て来てくれるよ。ホラ! 」

 マシューが示した方を見ると、大気がグニャリと揺らぎ向こう側が見えにくくなった。
 何やら目の前に緑色や茶色の大きな塊が出現したようだ。
 しかしヴァージニアには何が起きたのか分からず、出来たのは口をポカンと開けるぐらいだ。

「初めまして! 」

 ヴァージニアが呆気に取られている隣で、マシューは何かを見上げて挨拶をした。
 彼女が不思議に思いながら彼の視線の先を見ると、とても大きな大きな人の顔が浮かんでいた。
 その大きな顔は緑色の肌と目をしており、どちらかと言うと女性っぽい顔をしている。

「っ、えあ、な、何? 」

 緑色の目を細めた大きな顔は、同じ色の長い髪をゆらゆらとさせて面白そうにヴァージニアとマシューを見ていた。

「大きな精霊さんおはようございます! 」

 マシューは全く動じずに目の前の大きな顔に話しかけた。

「ふふふ、人間よおはよう。私に何の用だ? 」
「ずっとお話ししたかったかったんだよ! 」
「そのようだな。だが、お前達からはたまにこの屋敷に来る人間と同じ炎の気配がしたからな。少々様子を見させて貰った」

 炎は庭を燃やす可能性があるから嫌なのだろう。

「キャサリンさんかな? 青い炎の精霊さんに力を貸してくれてるんだって」
「あの陰気な奴だろ? 知っているよ」

 これはキャサリンではなく青い炎の精霊のことのようだ。

「あとそちらの娘からはハサミを持った生き物の気配がする」
「ヤドカリさんですね」

 大きな精霊はそいつだそいつと言いクスクスと笑った。
 ハサミは植物を傷付けるから嫌なのだそうだ。

「苦手なのがいっぱいなのに、なんで出てきてくれたの? 」
「そうだな。緑色の丸い者の気配もうっすらと感じたからだな。コイツは草木を食べ過ぎさえしなければ悪い奴ではない」

 グリーンスライムのとうめいのことだ。

「今はいないけど友達なんだぁ」
「そうかそうか、フフフ。それで私に何を聞きたいのだ? 」
「最近犬と猫を見かけなかった? 最近っていうのは数ヶ月だよ。数ヶ月っていうのは、うーんと……」

 マシューは大きな精霊にひと月を説明しようと腕を組んで悩み出した。

「知っているから大丈夫だ。そうだな、あやつらも私と同じでお前を避けている。お前の力は強力だから仕方あるまい」
「どうしたらいいかな? 」
「どうするとは? あやつらと会って何かあるのか? 」

 マシューは犬と猫を探すことしか考えていなかったらしく、唸って考え出してしまった。

「あ、あの。彼らが私達に必要な情報を知っているかもしれないんです」

 ヴァージニアは二人の会話に割って入った。

「そうなのジニー? 見つけるだけじゃないの? 」

 マシューはまだ幽霊と犬と猫が結びついていない。
 なので彼は庭師の悩み事を解決することしか考えていないのだ。

「私と話しているのを見て、お前達に近づくのは危険でないと判断するだろうよ」

 犬と猫は何処かから大きな精霊とヴァージニアとマシューの対話を見ているようだ。
 マシューですら察知出来ていないようだが、大きな精霊には分かるらしい。

「じゃあ後で会えるかな? 」
「多分な」

 大きな精霊はクスクスと笑った。
 ヴァージニアは全然違う音なのに、まるで木々の葉がそよいだかのように感じた。

「それとね。ジャスティンさんのデザインが盗まれちゃったんだけど、大きな精霊さんは何か知らない? 」
「屋敷内で起きたことだろう? 私はこの庭以外での出来事は分からぬ」
「そっか。……と言いつつ実は精霊さんが盗んだとかないよね? 」

 実はマシューは屋敷で会った全員にデザインを盗んでいないか聞いていた。
 当然彼らは否定するのであまり意味がない質問だ。

「そのデザインとやらは私にとって価値がある物なのか? 」

 ヴァージニアは大きな精霊が怒っているのではと焦った。

「ないと思う」
「ならば答えは分かるだろう」

 大きな精霊は目を細めて面白そうに笑ったので怒っていないようだ。

「全員に聞いていることなんだ。疑ってごめんね」

 マシューは刑事ドラマで見た、関係者全員に聞いているのですがを使用した。

「久しぶりに人間と話せて気分転換になったから気にするな。他に何かないか? ないなら私は庭に戻る」

 現在地も庭だが、大きな精霊にとっては顔を出したので戻るという表現になるようだ。

「僕はないよ」

 ヴァージニアは大きな精霊にマシューの親について知っているかを聞きたかったが、誰が聞いているか分からないので、彼女も質問はないと答えた。

「逆に精霊さんは何か聞きたい事や伝えておいて欲しい事ある? 」
「ほう……。そうくるとは思っていなかった。では屋敷の主に良い庭師を連れて来てくれてありがとうと言っておいてくれると助かる」

 前の家主が屋敷を手放してからジャスティンが屋敷を購入するまで時間が空いてしまったため、庭の草木が伸びに伸びて荒れ放題になっていたそうだ。

「ぐちゃぐちゃだったの? 」
「ああ、酷いものだった。私はすでに庭から動けぬようになっていたから、助けも呼べず困っていたのだ。庭が荒れていると良くない輩も来てしまう。追い返すのが大変だったよ」

 大きな精霊はどこか楽しそうに笑みを浮かべたので、大して苦労はせずに追い返したのだろう。
 ただ面倒臭かった程度かもしれない。

「人間のところもそうだよ。窓が割れていたり落書きが沢山あるところは治安が悪いんだって」
「どの種族も同じなのだな」
「あ、雷竜さんも言ってた! 」

 マシューの言葉に大きな精霊の顔が曇った。

「あの阿呆あほうに会ったのか。ビリビリしよって……植物が傷んだらどうするつもりだ」

 大きな精霊はチッと舌打ちをしたので本当に嫌なようだ。

「若い庭師さんも雷魔法が得意だから避けているの? 」
「ううーん。あの者が悪いとは微塵も思ってないんだ。だがどうしてもあの阿呆が頭の中を過ぎってしまう。代わりに謝っておいてくれ」
「僕が言わなくてもあそこで聞いているよ」

 庭師達が集まって来ていた。
 どの人もヴァージニアがしたように、大きな精霊を見てポカンと口を開けていた。

「そうか。いつも庭を整えてくれて感謝する」
「いつもありがとーだって! 」

 マシューは庭師達に向かって手を振りながら叫んだ。
 庭師達は正気に戻ったようで驚きから照れ笑いを浮かべるようになった。

「では、私は戻るがいいか? 」
「うん! ありがとうございました! 」

 マシューが言い終わると同時に大きな精霊は霧の中に入ったかのように消えていった。


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