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念願が叶う!
しおりを挟むジャスティンと一緒にいたヘアメイクアーティストはメーガンと名乗った。
そんな彼女はまだマシューが気になるようで、ヴァージニアの後ろに隠れる彼を覗き込んでいた。
「……ん、あれ、どうして男の子の服を着てるの? 」
メーガンはマシューを頭から足を順番に見て不思議そうに言った。
「僕、男だよ! 失礼な人だなぁ! 」
マシューは久しぶりに女児に間違えられご立腹だ。
彼は元々ご機嫌斜めだったので、いつも以上に大きな声を出して怒った。
「そうよぉ~。マシュー君は男の子よ。とっても可愛いけど男の子なのぉ」
「僕はかっこいい方がいい! 」
子どもだから可愛いと言われがちのマシューはとても不服らしい。
「えー? ほっぺを膨らませて怒っているの見て、可愛い以外の感想ある? 」
マシューは笑顔のジャスティンをジトリとした目で睨んだ。
しかしジャスティンには効果がなく、睨まれても笑顔のままだった。
「マシュー君ごめんね。この仕事をしてても滅多に出会えない綺麗な顔だったから間違えちゃったの」
「どうせ僕の髪の毛が長いからでしょっ! 」
腹ペコなマシューはまだ怒っている。
そんな彼を見たヴァージニアは、助けを求めてチラリとジャスティンを見た。
彼ならマシューの対処法をキャサリンから聞いているはずだ。
「怒ってたらランチが美味しくなくなっちゃうわよ。せっかく料理長がジャガイモ料理を用意してくれたのにいいのかしらぁ? 」
「お芋っ! 」
マシューは昼食に美味しい芋料理を食べた。
そして午後にヴァージニアとマシューは、服の宣伝がてらジャスティンが包装紙をデザインした菓子店にお菓子を食べに行き、さらにその店で念願の風船を貰いとても機嫌がよくなった。
どうやら秘書のマデリーンが店側に用意するように伝えてくれたらしい。
二人は屋敷に戻ると服を派手でないスーツに着替えて、屋敷内の調査を再開した。
マシューは風船を持ったまま接触感応をして、人間や精霊や幽霊の居場所を探っていた。
(片手が塞がってるけど、邪魔じゃないのかな? )
「ねぇマシュー、風船は部屋に置いておいたらどうかな? 」
「この風船は良いやつだから、きっと皆見たいと思うんだよね」
ヴァージニアはどんな理屈だよと思ったが、マシューが自慢したいだけだろうと察して持ち歩くのを認めた。
「よし、あっちだ」
マシューが移動した先には老婆の幽霊がいた。
幽霊の服装からすると使用人ではなさそうである。
彼は早速、幽霊から話を聞き始めた。
「え? どゆこと? 」
だが、マシューは今までのようにすんなりと話が聞けていないようだ。
「んっとね、だからね、怪しい人か幽霊を見なかった? ……僕は怪しくないよ。え、これは風船だよ。なんとかガスっていうのが入っているから浮いてるんだよ」
「……」
ヴァージニアには老婆の幽霊の声は聞こえないが、マシューの表情が険しくなってきているので、ご高齢特有の話し方をしているのだと思われる。
「もうっ! じゃあ僕以外の怪しい人はいた? いないの? じゃあ幽霊は? 幽霊かどうか分からない? えー、犬と猫は? うん、そうだね。可愛いね。昔飼ってたの? そうなんだね」
マシューは庭師の困りごとも解決するつもりのようだ。
「庭で見たか聞いて見たら? 」
マシューはよく頑張っているなぁとヴァージニアは感心していた。
「そっか。ねぇねぇ最近、庭で犬と猫を見かけた? え、おばあちゃんは屋敷の中で飼ってたの? そうじゃなくて……、僕は最近庭で見かけたのかを知りたいんだよ」
「お婆さんには犬と猫も生きているのか幽霊なのか分からないのかもよ」
鳥の幽霊がいるのなら犬や猫の幽霊がいてもおかしくない。
「えー、そうなの? んじゃ、どっちでもいいから犬と猫を見かけなかった? ……うん、可愛いね。撫でたいね」
「……どうなの? 」
「ずっと犬と猫が可愛いって話しかしてないよ。……え? さっき見た時も撫でればよかった? 何処で見たの? え、忘れた? けど、おばあちゃんはこの屋敷から動いてないんだ」
老婆の幽霊は犬と猫を見かけたそうだが、いつどこで見たのかは覚えていないようだ。
それも生きているのか幽霊なのかも不明だ。
「うん。良い情報を教えてくれてありがとう。よかったらあの世に行けるようにするけど、おばあちゃんどうする? 」
老婆の幽霊は犬と猫を撫でてからにすると言ったので、マシューはもう一度礼を言って別の部屋に向かった。
ヴァージニアも老婆の幽霊に会釈をし彼を追跡した。
「やっぱり、犬と猫はいるんだね。もっと情報を集めないと」
「そうだね」
ヴァージニアは老婆の幽霊のさっきとはどれくらいの期間を示しているのかと考えていた。
彼女の服装から考えると、かなり長い間を幽霊として過ごしているようなので、ヴァージニアは自分達が思うさっきとは時間がずれているのではないかと心配になった。
もし数十年単位の話だったら、老婆の幽霊の話は良い情報ではなくなってしまう。
「よぉし、幽霊じゃなくて人間にも聞いてみよっ! 」
次に行った部屋には生きている人間達がいた。
マシューは彼女らに庭師が言っていた話を伝え、他の情報がないか聞いた。
「うーん。姿は見ていないけど、草が揺れる音は聞いたよ」
「私もガサガサ言う音なら聞いたかな? 」
彼女らによると、音は聞いても誰も犬と猫の姿を見ていないとのことだ。
「鳴き声は? ワンとかニャンとか」
「聞いたって言う人もいるけど、ちゃんと姿は見てないって。影っぽいのは見たらしいけど」
「えー、だれだれ? 」
ヴァージニアは犯人探しをしなくていいのかと思いつつ犬と猫の存在も気になるので、マシューの調査が脇道に逸れても口を出さなかった。
二人は裏庭に移動した。
先ほどの人達によると影を見た人物は若い庭師だそうで、昨日二人が会った人とは別人らしい。
「どこにいるんだろう? 」
「落ち葉が多い季節だから庭にいるかと思ったけど……」
西都は雪が降るので重さで折れないように木々に対策をせねばならないし、落ち葉の掃除もせねばならない。
二人はその準備なり作業もしているのではと考えたのだが、姿が見当たらなかった。
「表の庭に行こう」
マシューが歩きだそうとした時に、岩の陰から誰かが出てきたのを発見した。
彼はヴァージニアが見つけるより早く、その人物に向かって走って行ってしまった。
「こんにちは! 貴方が犬と猫の影を見た人ですか? 」
「うおぅっ! なんだ? 」
庭師の格好をした若い男性は、突然のマシューの登場に驚いて体がビクリとなっていた。
マシューは自己紹介し、調査協力して欲しいとお願いした。
「ああ、君は旦那様のお客さんなんだね。あービックリした」
ヴァージニアはマシューと若い庭師の元に到着した。
転移魔法だったので距離があっても色んな木々や置物があっても平気だ。
「鳴き声を聞いたし、影も見たんでしょ? 」
「犬と猫って言ってたよね。そうだよ。聞いたし見たよ。遠くで犬がワンワンと吠えて、猫がフシャーッって威嚇してたんだ」
若い庭師が道具を持って歩きだしたので、二人は彼について行った。
「誰に? それとも犬と猫の喧嘩? 」
「いや、喧嘩ではなさそうかな? で、誰に対してかは見てないんだ。ごめんよ。それで影は別の日に見たんだけど、草むらに飛び込む瞬間だったから姿は分からないな」
「そっか。いるのは分かっても、どんな姿だったのか生きているのか幽霊かは分からないのかぁ。なぁんだ」
マシューは腕組みをして悩み、ヴァージニアはマシューの失礼な言い方を若い庭師に謝罪した。
「ははは、それだけ真剣ってことだからね。……そういえば鳴き声がする前に、誰かは分からないけど女性の悲鳴が聞こえたんだよね。だけど悲鳴も鳴き声もすぐに聞こえなくなったな」
ずっと騒がしかったのではないそうだ。
なので若い庭師は様子を見に行かなかったらしい。
「そっか。他の日に同じようなことあった? 」
「いや。この日だけだよ」
ただし若い庭師は庭周辺で仕事をするので他の場所での話は分からないそうだ。
「他に犬と猫の噂は聞いていない? 」
「屋敷の敷地内でってことだよね。……いるっぽいのに姿が見えなくて不思議だって話だけかなぁ」
若い庭師は一生懸命に思い出そうとしてくれた。
「そっか。ちなみに、女の人の声って若かった? そうじゃなかった? 」
「ええー……若くもお年寄りでもなかったと思うけど、ちょっと聞いただけだから自信ないな」
若い庭師は庭の隅にある倉庫に道具をしまった。
倉庫は庭の風景に紛れているので、ヴァージニアは倉庫だと気付かなかった。
「この屋敷ってそういう人のが多いよね」
「だよねぇ。……そういえばマシュー君は精霊とか幽霊が見えるんだよね。この庭にも大きな精霊がいるけど、何だが避けられてる気がするんだ。俺って嫌われているのかな? 」
大きな精霊は若い庭師を遠くから見るが決して近寄ろうとせず、彼が動き出そうとするとそれを察知したのか気配が消えたり遠ざかったりするらしい。
「嫌いじゃないと思うよ。だって嫌いだったらお兄さんを追い出せるほどのおっきな力を持っているもの」
若い庭師はギョッとした顔になった。
マシューが言うには大きな精霊に避けられているのは、若い庭師の得意な属性が雷だからだそうだ。
大きな精霊は庭とほぼ一体化しているので、植物を燃やす可能性がある炎や雷が嫌らしい。
「雷か……。確かに静電気が起きやすいね」
若い庭師はセーターを着ると大変だと嘆いていた。
彼はマシューの風船を見て子どもの頃に風船が割れていたのはそのせいかと更に嘆き、これを聞いたマシューは若い庭師から離れた。
(ところでマシューはいつの間に精霊が庭と一体化しているって分かったんだろう? )
ヴァージニアはマシューは接触感応が出来るので、それで分かったのだと考えた。
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