転移魔法に失敗したら大変な事に巻き込まれたようです。

ミカヅキグマ

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屋敷内を捜索中!

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 ヴァージニアは浮かんだ疑問をマシューに質問してみた。

「ねぇマシュー。教えてーってしたら何でも教えて貰えるの? 拒否されたりしない? 」
「うん。皆教えてくれるよ。親切だよ」

 皆はマシューに協力的らしいが、ヴァージニアはマシューの教えてーは彼が強制的に覗いているのではないかと思っていた。
 事実ヴァージニアとマシューが出会った時、彼女は全身や全細胞を探られるような不快な感覚を味わった。
 彼女は二度とあの経験をしたくないと願っている。

「マシューが勝手に探ってるんじゃないよね? 」
「僕はそんなに失礼じゃないよ」

 マシューは少し口を尖らせ目も細くなり人相が悪くなった。

「そっかぁ」

 マシューはそうだよと行って別の部屋に移動した。
 どうやらまた幽霊を見つけたらしい。
 ヴァージニアは、今度こそ悪霊だったらどうしようかと思いながら彼を追いかけた。

「へぇ君はジャスティンさんがデザインする服が好きなんだね」

 ヴァージニアが到着すると、マシューは彼自身の右肩付近を見ながら話していた。
 彼女は何がいるのだろうかと目を凝らして彼の肩を見ると、小さな光の塊が見えた。
 これは幽霊ではなさそうだ。

「精霊さんは裸なのに皆洋服が好きなの? このお屋敷は町より精霊さんが多い気がするんだよね」

 どうやら精霊は裸らしい。
 妖精は洋服を着るが精霊は着ないようだ。

「ふぅん。着ないけど面白いから好きなんだね」

 洋服のどこら辺が面白いのだろうとヴァージニアは考えた。
 見た目だろうか、構造だろうか。

「え? 近くに土を捏ねて色々作っている人がいるの? その人も面白いんだね」
「陶芸家のことかな? 」

 精霊は人間が何かを作り出す様子を面白いと感じているのだろう。

「あっ、食器とか置物を作る人だよね」

 小さな光はマシューの肩の上で跳ねた。
 ヴァージニアがよく見てみると、小さな光は人の形をしていた。
 だが妖精ほど人間ぽい姿はしていない。

「そうだ。最近さ、いつもと違うことをした人いない? 例えばジャスティンさんの部屋でコソコソするとか」

 精霊は腕組みをして少し考えるような仕草をしたが、心当たりがないらしく首を横に振った。

「いつもあの部屋にいるわけじゃないもんね。え、なぁに? ……実はねジャスティンさんのデザインが盗まれちゃったんだよ。それで今、犯人を捜してるんだあ」

 先ほどからヴァージニアには精霊の言葉が聞き取れないが、マシューにははっきりと聞こえているらしい。

「え、皆に聞いてくれるの? ありがとう」

 マシューは精霊から協力してもらえることになった。
 精霊なら犯人に気付かれずに探れるだろう。

「じゃあね。……よし、次は幽霊だ」

 ヴァージニアは身構えながらマシューの後ろについていくと、マシューは近くの部屋に入り椅子の背もたれを見つめた。
 そう、椅子全体ではなく背もたれだ。
 しかも彼は背もたれの上部を見ている。

(え、どういう状況なの? )

 ヴァージニアが困惑しているのもお構いなしにマシューは幽霊に話しかけた。

「こんにちは。君は何をしてるの? ……屋敷の中を散歩してたんだ。あ、鳥だからじゃないか」

 背もたれには鳥が止まっているらしい。
 これを聞いてヴァージニアは少し安心した。
 もし人間だったら大分おかしな格好をしているからだ。

「へえ、前に住んでいた人に飼われてたんだね。前は屋敷を探検出来なかったから今してるんだ」

 おそらく鳥かごに入れられていたのだろう。

「じゃあ色んな部屋に行ってるよね。ジャスティンさんの所で怪しい人を見なかった? ……? 」

 鳥から返事がないらしくマシューは無言のままだ。

「鳥さんは何が怪しいのか分からないんじゃない? 」
「ああそっか。うーん、ジャスティンさんがいない時にやって来る人とかかなぁ? とにかくジャスティンさんがいない時にコソコソしてるんだよ」

 鳥の幽霊はジャスティンが不在でも何人もの人が部屋に入るとマシューに伝えた。
 どんな人かは覚えていないそうだが、いつもジャスティンの近くにいる人達とそうでない人達だそうだ。
 何やらはっきりしない言い方だが、相手が鳥なので仕方ない。

「そうなんだね。教えてくれてありがとう。君はこのまま屋敷の探検を続けるの? 僕がいる間ならあの世に道案内出来るよ。気が向いたら来てね」

 マシューは悪さをしない幽霊ならそのままにするようだ。
 彼は鳥の幽霊から聞いた話を復唱しながら別の部屋に移動した。



「あ、弟子の人達! 」

 どうやらここは作業部屋のようでトルソーが並べられている。
 その他には机に生地や型紙が置かれている。

「ヴァージニアさんとマシュー君。何か分かったかい? こちらはあのブランドにデザイナーが誰なのか問い合わせたけど教えて貰えなかったよ」

 トムが調べたところ化粧品ボトルのデザイナーは、ブランドの専属デザイナーではなく公募だったそうで、デザイナーの発表は化粧品の発売日にまで秘密なのだそうだ。

「ジャスティンさんがいないときに部屋に入れる人って三人の他には誰がいるの? 鳥さんの幽霊がね、近くにいる人とそうでない人って教えてくれたんだ」

 三人はマシューが鳥の幽霊と言ったので目をパチクリとさせて驚いていた。
 しかしすぐに返答があった。

「私達三人と秘書のマデリーンさん、それにゴミを回収しに来る使用人さんかな? 」

 ケイトが言うと他の二人が漏れがないか考えたが、いなかったらしくこの人達だけだと言った。

「使用人は日によって変わるよ」
「その人達は盗んだりしないよね? 」

 マシューは目を細め、さらに眉間に皺を寄せて完全に疑いの表情をしている。

「うーん、ずっと同じ人達だからやるならもっと前からやってるんじゃないかな? 」
「たまたま表に出なかっただけかもしれないぞ? 」
「別のブランドで似た物が出てたら省かれるからな」

 マシューは三人が首を傾げて悩んでいるのを見て、険しい顔のまま口を開いた。

「……三人は盗んでないよね? 」

 ヴァージニアはマシューの発言に驚き慌てたが、三人は怒らず笑っていた。

「まさか。人から盗んだ物で評価されても自分の力じゃないから全然嬉しくないよ。それにバレた時のリスクが高すぎる」

 トムが言うと他の二人も頷いた。

「けどさ、同じデザインでも有名な人だから評価されるって場合もあるんじゃないかな」

 マシューはじとりとした目で言い放った。
 先ほどから美少年が台無しになっている。

「マシュー君、なかなか言うね……」

 マシューは三人を困らせてしまったようだ。
 ヴァージニアは苦笑しながら、芸能人が描いた落書きのようなデザインのTシャツが高値で売れまくっていたのを思い出していた。

「一度評価されたらその後も評価され続けるんじゃないの? 」

 まだ言うマシューである。

「否定出来ないけど、一発屋もいるんだよ。私からしたら一発当たっただけでも羨ましいけどね」
「ふむふむ。三人と使用人は違うとなると、残りは秘書の人だけだね」

 マシューは納得したようだが今度は秘書を疑いだした。

「マデリーンさんは俺達よりも先生と付き合いが長いからそれこそ何故今? となるな」
「きっと魔が差したんだよ。あ、そうすると使用人の人達にも言えるね……」

 振り出しに戻ったようだ。

「うん。それに入ろうと思えば、我々を含めさっき言った人達以外も先生の部屋に入れるかもしれない」
「先生は私達を信用してくださっているから、そこまで厳重に鍵の管理をしていないの」
「ってことは全員が容疑者だ! 」

 マシューはあわわと慌てている。
 屋敷に出入り出来る人なら容疑者候補になってしまうので仕方ないだろう。

「ところで先生の部屋にいた幽霊は見つかったのかい? 鳥の幽霊がそうなのかな? 」
「鳥さんは違うよ。ジャスティンさんの部屋にいた幽霊達は多分僕から逃げてると思う」

 幽霊達はマシューに危害を加えられると思って逃げているのだろうか。

「マシューはどんな幽霊なのかは分かってるの? 」
「隠れるのが上手くて、見ようとするとぼやぼやするから分かんないっ」



 ヴァージニアとマシューは弟子達の作業部屋から移動して、屋敷の出入り口付近にやって来た。
 ジャスティンがいるのが見えたので二人が話しかけようとしたら、若い男性に止められた。
 格好からすると彼も使用人だろう。

「じきにお客様が到着なさいますので、お二人は少しの間近くの部屋で待機していただけますか? 」

 ジャスティンがわざわざ出迎えるのなら、客はかなりの大物のはずだ。
 後援者だろうか。
 マシューはジャスティンの対応の違いにブツブツと何か文句を言っていた。
 すると若い男性が笑顔でこう言った。

「お疲れのようですから休憩になさってはいかがでしょう? こちらでお菓子とお茶をご用意させていただきます」
「やったあ」

 マシューのご機嫌は一瞬で回復したようだ。
 どうやらマシューのご機嫌取りの方法がキャサリンから連絡されているらしい。
 二人は一室に通され美味しいお菓子とお茶を楽しむことになった。


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