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新聞の一面!
しおりを挟む「あ! 」
マシューは新聞を広げてすぐに驚きの声を上げた。
彼が見ているのは一面だが、ここには料理は載っていない。
「どうしたの? 」
「見て見て! ケンタウロスについて書いてあるよ! 」
この日のトップニュースとして人造ケンタウロスについて書かれていた。
ケンタウロスを作り出すために盗み出された遺体の身元が特定されたらしい。
「本当だ……」
禁術使いは近隣諸国で成人男性の遺体を墓地から複数回盗んでいたらしく、数多くの人々の写真と名前が載せられていた。
その人達の職業も併記されていたのでヴァージニアが覗き込んで確認してみると、どの人も殉職した兵士や警官、元格闘家など体格が良い人ばかりで、禁術使いは選んで遺体を盗んでいたようだ。
そして彼がヴァージニア達がいる国に移動してからは、火葬場で元死刑囚の遺体を盗んでいた。
ただの憶測でしかないが、殉職したということは遺体の損傷が激しかったので、禁術使いの理想のケンタウロスにならなかったのではないか。
元格闘家の死因は記載されていないが、その人も怪我か病気で亡くなったと考えられるので、こちらも理想の姿は作り出せなかったのだろう。
勿論ただ単に禁術に失敗して盗み続けたとも考えられるが、ターゲットを元死刑囚に変更したのは大きな外傷がないと推測したからではないのか。
「こんなに沢山の人を! なんて奴だ! 許せないよ! 」
マシューは頬を膨らませて怒っている。
子どもらしく可愛い怒り方だが、ヴァージニアは少し考え込んだ。
「うん……」
ヴァージニアはすぐに前にもマシューが禁術使いに対して怒っていたのを思い出した。
そしてその人物は正気でなくなっているらしいのも……。
(もしやマシューが……)
禁術使いはマシューが嫌悪感を抱いたからおかしくなってしまったのではないか。
(そんな馬鹿な)
ヴァージニアはただの偶然だと考えたが、こう何度も偶然が起きていいのだろうか。
(偶然だ、偶然に決まってる……)
「悪い人はちゃんと法で裁きを受けてるからね」
ヴァージニアはマシューの憎悪が増したら不味いことになるのではないかと不安になった。
なので罰を与えるのは司法の役割だと教えた。
「でもでもっ、多くの生き物が酷い目にあってるよ。人間は死んでたのかもしれないけどさ。酷すぎるよ。だって体を半分に切られちゃったんだよ? 」
ヴァージニアは他のギルド員の目もあるので、マシューをギルドの奥に連れて行った。
マシューは新聞を離さず、移動している間も不満げな声を漏らしていた。
「そうだけどね、一般人は司法の裁きに口出し出来ないんだよ」
感情論で量刑が決まってはならない。
私刑も当然いけない。
「知ってるよ。僕は許せないって言っただけだよ」
そう言えばそうだ、マシューは禁術使いに酷い目に遭えとは一言も言っていない。
ヴァージニアは禁術使いの件にマシューが関与していないと考えたのに、頭の片隅では怪しんでいたのか言葉に出してしまった。
「うん、そうだね……」
「けどさ、新聞には禁術の人は具合が悪くてもう話を聞ける状況じゃないって書いてあるよ。もしかして刑務作業をしないで刑務所にいるだけなの? これって罰になるの? 」
マシューはまだご立腹だ。
ヴァージニアはどうやって彼を鎮めれば良いのか分からない。
彼女が困っていると二人の元に誰かがやって来た。
「あら~? マシュー君は正義感でいっぱいなのねぇ」
何よりも心強い助け船だ。
「ジェーンさんもこの新聞見た? 酷い奴だよ! 」
「そうねぇ、私が捕縛に参加していたらどさくさに紛れて一発お見舞いしていたわ」
ヴァージニアは話を逸らすためにジェーンの話にのった。
「どうやってやるんですか? 」
「僕も知りたい! 」
「そうね。こうやって……」
ジェーンは笑顔で拳を構えた。
「こうよ」
ジェーンの拳が消えた。
いつしかのようにヴァージニアには何も見えなかったが、マシューはしっかり見えていたようではしゃいでいる。
「すごい! 顔の正面からやるんだね! 鼻? 顎? 」
「鼻よ。ガツーンと一発やってやるのよ」
その光景を見たらさぞかしスッキリすることだろう。
もしやジェーンはわざと派手にぶっ飛ばしているのではないか。
皆にそれを見せれば爽快感が得られ、悪人に憎悪が向かないのではないか。
(鼻をやれば鼻血も出て、悪い奴がやっつけられた感が出るし……)
だだの過剰な攻撃ではないのだろう。
「ガツーンだね! 」
「マシュー君の身長なら顎を下からいった方がいいかしらね? ま、その時々ね。今まで教えたことを応用してやっつけなさい」
「押忍っ! 」
ジェーンは新聞をマシューから回収して受付に戻っていった。
ヴァージニアとマシューはギルドの周りの枯れ葉を掃除した。
マシューが風魔法で掃除しようとしたら自然の風が吹いて、彼は珍しく狼狽えていた。
「わわわー」
「マシューが風に弄ばれてる……」
マシューが落ち葉を魔法で一箇所に集めたら、すぐに風が吹いて台無しにしてしまう。
なのでヴァージニアは少量ずつ集めた。
「あっ! 防御壁だ。掃除する範囲を全て覆えばいいんだ」
「おー、そうだね」
マシューなら防御壁を作りながらも魔法で葉っぱを集められる。
おかげですぐに掃除が完了した。
「厨房のおじさんがこの葉っぱで焼き芋を作るって言ってたよ。だから僕はワクワクが止まらないんだ」
マシューは喜色満面である。
「言いにくいんだけど、焼き芋のお芋はジャガイモじゃなくて別の種類だよ」
「え……」
マシューのワクワク顔は一瞬にして消え去った。
「甘藷っていう甘いお芋なんだよ」
「甘い、お芋……美味しいの? 」
マシューは美少年がしてはいけない表情をしている。
目を細め下唇が前に出ている。
「美味しいよ。この時期の定番だよ。お菓子の材料にもなるし。あれ? 芋けんぴと干し芋の材料がそのお芋じゃないかな」
「なぁんだ。じゃあ美味しいね」
マシューはいつも通りの美少年に戻った。
昼食後マシューは焼き芋を食べて上機嫌だ。
厨房のおじさんはジャガイモも焼いてくれ、マシューはバターを乗せて食べた。
「僕はなんだか眠たくなってきたよ」
マシューは満腹になり睡魔が訪れたらしい。
先ほどの禁術使いの事は綺麗さっぱり忘れているようなので、ヴァージニアはホッとしている。
「お家に帰る? 」
「うん、キャサリンさん来ないもんね。忙しいんだね」
こう言うと登場するのがキャサリンなので、ヴァージニアは辺りを見回して見たがキャサリンの姿は見えなかった。
「なんの連絡もないみたいだから、買い物して帰ろうか」
「うん。桃缶を買って帰ろう」
マシューは芋類を沢山食べたのでポテチとコロッケはいいようだ。
二人がジェーンに挨拶してギルドから出ようとしたら、高級そうな香水の匂いがした。
この匂いは間違いなくキャサリンのものだろう。
「……逃げなきゃ」
マシューがポツリと言った直後にヌッとキャサリンが姿を見せた。
普通に登場しただけなのに迫力があった。
「誰から逃げるって言うのよ。失礼な子ね」
マシューはひゃーと言ってヴァージニアの後ろに隠れた。
「キャサリンさんこんにちは」
「貴方達二人に仕事を持ってきたわよ。そこに座りなさい」
キャサリンに貴方達二人と言われたので、マシューだけでなくヴァージニアにも仕事の依頼が来たようだ。
三人はギルドの出入り口からテーブル席に移動した。
「私の友人の所に行って欲しいの」
「いいよ! 」
「マシュー、依頼内容を聞こうね」
ヴァージニアは即答したマシューをたしなめ、キャサリンから依頼内容を聞いた。
デザイナーをしているキャサリンの友人は最近身のまわりでおかしな気配がするのと、物の位置が若干変わっているのをキャサリンに相談したそうだ。
「私のスーツを作ってくれている人だから力になってあげて」
「けどさ、それはきっと幽霊の仕業だから僕の専門じゃないよ」
マシューは何の専門家だろうか。
コロッケだろうか。
「マシューにはほぼ全て出来るように教えてるから出来るわよ」
「となると、私はマシューの付き添いですか? 」
ヴァージニアは幽霊退治など話で聞いたことがあるだけで何も出来ない。
「ま、そんなところね。……なぁんて嘘よ。貴女は転移魔法が出来るから、依頼主に危険な事が起きたら一緒に逃げられるからいいと思ったのよ」
「危険な事が起きるの? 」
「幽霊がいるんだったら、ポルターガイストが発生するかもしれないでしょ? 」
キャサリンは面白そうに笑った。
「怖いなぁ怖いなぁ」
マシューも口では怖いと言っているのに顔は笑っている。
ヴァージニアはなんだこの二人はと思い顔を顰めた。
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