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薬の効果!
しおりを挟む翌朝、ヴァージニアが何かの気配を感じて目を開けると、目の前にジェーンの顔があった。
「お……はようございます……」
ジェーンはちょうどヴァージニアの顔を覗いた瞬間だったらしい。
おかげでヴァージニアは心臓がドクンと大きく跳ね上がるほど驚いた。
「体調はどう? 」
どうやらジェーンはギルドに行く前にヴァージニア達の家に来て二人の様子を見に来たそうだ。
しかもジェーンは今来たのではなく、すでに食事を作り終えており、ヴァージニアはそれに気付かずに眠っていたのだ。
ヴァージニアはこれを自身の体調が悪いからだと思ったが、彼女が入院していた時に見たジェーンの恐ろしく静かな動作が頭に過ぎり、通常時でも同じだったかもと苦笑した。
「んもぅ、マシュー君ったらパンにジャムを山盛り乗せるのよ? 昨日の残りも全部食べて、ヴァージニアの分も少し食べちゃったみたいなの。だからスープを作り直したわ」
「すみません……」
会話をしている間にヴァージニアは着ている物を剥がされて体を拭かれた。
なおマシューにはスープをかき混ぜさせているらしい。
これは昨日もヴァージニアが体を拭かれている時にさせていたそうだ。
おそらくマシューが心配したふりをして覗きにくるのを防いだのだと思われる。
「はい、終わり。また熱が出て来たみたいね。食事をしたら薬を飲んでね」
「分かりました。ありがとうございます」
言い終わるとジェーンはギルドに出勤した。
ヴァージニアが隣室に移動すると、マシューがヴァージニアの食事を用意して待っていた。
「ジニー、お薬も用意したよ! 」
ジェーンが作ったスープの横に薬と水も置かれていた。
ヴァージニアが席に着くと、薬の臭いが鼻を突いた。
「ありがとう。いただきます」
ヴァージニアはスプーンでスープを掬って口に運んだ。
ジェーンの料理は美味しかったが、薬の味を思い出すとヴァージニアはげんなりとせざるを得ない。
「ジニー、まだ元気ない? お顔赤いもんね」
マシューはとても心配そうにヴァージニアの顔を見た。
「うん、ジェーンさんにも熱が出てきたって言われたよ。けどこれくらいなら動けるから大丈夫だよ」
「本当に? 僕は何かしなくて平気? 」
マシューはやる気満々で目を輝かせ、鼻息も少々荒くなっていた。
「洗濯も昨日ジェーンさんがしてくださったからいいんじゃないかな」
「ジニーはそのスープだけで足りるの? 美味しいけど足りないんじゃない? 」
マシューは味見のつもりだったらしいが、美味しくて食べ過ぎたそうだ。
ヴァージニアはツッコミたかったが、そこまで元気ではないのでフフフと笑っておいた。
「キャサリンさんはまだ昨日の処理をしないといけないから、今日の特訓はなしだって」
「じゃあジェーンさんに稽古つけてもらうの? 」
「んーん。今日はジニーの様子見てないと。一昨日キャサリンさんに暇つぶしを貰ったからそれをやってるよ」
暇つぶしとは通信制の学校の課題だそうだ。
随時、入学や編入を募集しているらしく、マシュー用の教科書や課題が届いたそうだ。
(学費はどうなるんだろう? キャサリンさんの推薦だから特待生制度が使えるかな? )
ヴァージニアはそうであってくれと願った。
そうすれば奨学金がもらえ、学費の心配をしなくてよい。
「スープ食べ終わったね。早くお薬飲まないと」
「うん……」
ヴァージニアが薬を飲むと、マシューは小声で不味そうと呟いた。
そして彼女が顔を顰めると、彼も同じような顔をしていた。
「片付けは僕がするから、ジニーは寝ててね」
マシューはヴァージニアの背中を押して寝室に押し込んだ。
ヴァージニアはベッドに横になるとすぐに眠った。
散々寝たはずなのにすぐに眠れたのだ。
だが、二時間経たないうちにマシューによって起こされたので、彼女は首だけを彼の方に向けて話を聞いた。
「ん? どうしたの? 」
「一年生のやつ終わった」
「もう終わったんだ。すごいね」
マシューは国語か算数か分からないが、提出課題を終えたらしい。
彼の能力を考えれば当然と言えばそうだろう。
「二年生のやっていいのかな? 」
「あるならやっちゃえば? 」
「そっか! そうだね! 」
マシューは小走りで隣の部屋に戻った。
しかし彼はすぐに何かを持ってヴァージニアのところにやって来た。
「どうしたの? 」
「これ、おでこに乗せてて」
マシューはヴァージニアの額にタオルを乗せた。
タオルは彼女の額を冷やした。
(乗せるときにタオルにマジックで何か書かれているのが見えたぞ……)
「紋章魔法? 」
「そうだよ。さっき作ったんだぁ! 」
マシューが嬉しそうにしているので、ヴァージニアは礼を言っておいた。
アリッサが貸したタオルではなかったのは幸いだ。
「じゃ、僕は二年生のやつやってくるね! 」
ヴァージニアが再び目を覚ますとコロッケのいい匂いがした。
誰かがマシュー用に食事を運んでくれたらしい。
ヴァージニアはジェーンが作ったスープを飲もうとベッドから出て、マシューが作った冷却タオルをヘッドボードに乗せて隣室に移動した。
「あ、おはよう! ジニーもコロッケ食べる? 」
マシューはダイニングテーブルで昼食を食べていた。
当然コロッケ定食である。
「マシューのなんだからマシューが食べていいんだよ」
ヴァージニアは言い終わってからマシューの前にある皿を見ると、コロッケは残り僅かになっていた。
逆に何故これだけ残っているのか不明だ。
マシューはいつもあっという間に食べてしまうのだが、今日はもしかしたらヴァージニアのために取っておいたのかもしれない。
ヴァージニアは自分の分のスープを用意しようとしたらマシューがコロッケを咀嚼しながら立ち上がった。
「んぐ、僕がやるからジニーは座ってて! 」
「ありがとう……」
マシューはすぐに魔法で用意しだした。
ヴァージニアは椅子に座りその様子を、実に鮮やかだなと思いながら見ていた。
「出来たよ。さっき温めておいたからね」
「マシューありがとう」
ヴァージニアの前に置かれたスープからは湯気が出ていた。
彼女が早速食べると、朝の出来たての時とほぼ同じ味がした。
「これくらい当然だよ! 僕に出来る事はちゃんとやらないとね」
マシューは得意気に言った。
「課題もやってるんでしょう? 無理しないでね」
「二年生のが終わったからお昼の準備しただけだよ。大したことじゃないよ」
マシューは一年生に続き二年生の分も終わらせたようだ。
ヴァージニアはここで一つの教科ではなく全ての教科を終わらせたのだろうと推測した。
「謙遜しなくてもいいのに。体調も回復してきたから夕食は私がやるから休んでてね」
ヴァージニアは課題について聞こうと思ったが、マシューがなんて答えるのか怖いので聞かないことにした。
たった数時間で複数の教科の課題を終わらせるなんてとんでもなく凄いことだが、マシューなら簡単にやってしまうに決まっている。
「回復してきただけでしょ? 完全に治ったんじゃないでしょ? だから僕がやるよ。ジニーは寝てて」
「そうだけど、ずっと寝ていたから体が痛くなっちゃってさ……」
ヴァージニアは腰痛が酷いし他の箇所も痛く、それは昨日走って逃げまわったからか、それとも長時間寝ていたからか分からない。
だが起きている方が楽なのでヴァージニアは横になりたくなかった。
「そうなの? 大変だ! 」
「少し体を動かしたら楽になると思うからそんなに心配しないで」
「けど……」
ヴァージニアは薬を飲めば大丈夫と言って、薬を水で流し込んだ。
しかし味はどうにかなっても、胃の中から薬の匂いがして気分が良くなかった。
ヴァージニアは気付くとダイニングテーブルに突っ伏して眠っていた。
(もしや、あの薬を飲むと眠くなるんじゃ……。いや、お腹がいっぱいになったからだ。きっとそうだ……)
ヴァージニアがテーブルの上を見ると食器は片付けられていた。
彼女がマシューに礼を言おうと彼を探すと、彼は家の中にはいなかった。
何処かに出かけたのだろうか。
(私の看病に精を出していたのに、いなくなるかな? 食べ物の買い出しとか? )
ヴァージニアが首を傾げていると、玄関のドアが開く音がした。
マシューが帰って来たようだ。
「ジニー起きたの? 動かしたら起きちゃうかもって思ってそのままにしたんだけど大丈夫だった? 」
「大丈夫だけど……なんでとうめいがいるの? 」
マシューの後ろにはグリーンスライムのとうめいがいた。
彼によると、牧場まで行きとうめいを連れてきたらしい。
「ちゃんとグリーンさんにいいか聞いたよ」
「けどなんで……」
ヴァージニアはマシューがとうめいに遊び相手になってもらうために連れ帰ったのかと思ってたが、どうやら違うようだ。
「とうめいにクッションの代わりになってもらえば、ジニーの体が痛くなくなるじゃないかなって思ったんだぁ」
「……! 」
とうめいは任せろとアピールしている。
確かにラージサイズになったとうめいならヴァージニアの体を支えられる。
ヴァージニアは綺麗な妖精が堪能したスライムのベッドを体験出来るようだ。
「そっか。そのために連れてきてくれたんだ。転移魔法で」
「ふふっ、そうだよ。転移魔法でだよ」
マシューはもう転移魔法が出来るのを隠すつもりはないらしい。
「とうめいの魔力を遮断するものも必要ないんだね」
「うん」
「……! 」
とうめいは狭くなくてよかったと身振り手振りしている。
マシューはヴァージニアよりも転移魔法が上手なのが確定した。
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