転移魔法に失敗したら大変な事に巻き込まれたようです。

ミカヅキグマ

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入手方法!

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「いや、死体を手に入れたんじゃないか? 」

 グレゴリーが言うこの方法だと、施設内侵入時に見つからなければ禁術使いが負傷するリスクがない。

「あり得るな……。よし、墓を掘り返されたり、遺体安置所などからなくなった遺体がないか聞いてみるか」

 コーディが頷くとすぐにイサークが反応した。

「ん? それだとニュースになりそうだが、俺はそんなニュースを見た記憶は無いぞ」

 イサークの言う通り、ヴァージニアも見聞きしていない。
 一度で禁術が成功するとは考えられないので、何度も遺体を盗んでいそうなのに、何も報道されないものなのか。
 それとも同一犯だとバレないように毎回入手の方法や場所を変えていたのだろうか。
 だが連続犯であろうとなかろうと、何も情報がないのはおかしい。
 ヴァージニアは何か変だと首を傾げた。。

「この国は火葬だから、墓荒らしはされないだろう。病院の遺体安置所を問い合わせてみるか」
「……って盲点をついて火葬場から盗まれてたりして」

 イサークが言った内容にコーディは眉間に皺を寄せ、んな訳あるかと言いながらも火葬場を調べるようにジェイコブに連絡した。
 するとジェイコブから死刑執行された人の火葬を請け負っている火葬場から元死刑囚の遺体が紛失した噂があると聞けた。
 ジェイコブが知っているのは噂程度だが、イサークの何気なく言った軽口が当たったのだ。

「マジか……。問題になるから火葬したことにして隠してるのか。へぇ……。ちなみに、そいつは素手で生き物を引きちぎれるか? 」

 ジェイコブは詳しくは知らないらしく、コーディのメモする手が止まった。

「他には同様の事件はないか? 俺達は一回だけで禁術が成功するとは思えないから、他にも行方不明になっている遺体があると考えている」

 狼人達は通信機から漏れるジェイコブの声を聞き取っているようで、ふむふむと聞いている。
 ヴァージニアは何も分からないのでコーディのメモを見るだけだった。

「ああ、よろしく頼む」

 コーディによるとジェイコブは引き続き調査をしてくれるようだ。
 ジェイコブは元々忙しいのに仕事が増えて大変だろうとヴァージニアは心配した。

「死体がある場所全部あたってくれるってよ」
「んー、念のため近隣国にも問い合わせてみるか」

 こう言ってグレゴリーは通信機を手に取って連絡し始めた。

「しかしよく死体なんじゃないかって気付いたな」

 イサークはヴァージニアをじっと見つけた。
 ヴァージニアは狼人の表情を読み取れないので、イサークがどんな感情で言っているのか分からないが、おそらく誉めていると考えることにした。

「はい、前に別の合成された生物を見ていたので、それを思い出したんです」
「へぇ。ヴァージニアは変わった物に遭遇しやすいのか? 」

 ヴァージニアはマシューに出会ってから普通じゃ遭遇しない生き物達に出会っている。
 そう、全てはマシューと出会ってからだ。

「たまたまじゃないですかね? 」
「偶然なんてそう何回も起きないだろう。もはや必然じゃないか? 」
「え……」

 ヴァージニアは硬直した。
 言われてみれば変だ。
 どこか秘境に行ったのなら起こり得そうだが、ヴァージニアはずっと人が生活している区域にしか行っていない。
 ヴァージニアがおかしな出来事に巻き込まれるのは必然なのか。
 マシューの魔力で普通でない物が引っ張られているのかと思ったが、マシューがいない時でも起きている。
 彼の魔力の残渣のせいだろうかとも思ったが、全て彼のせいにしていいのだろうか。

「おーい、ヴァージニア大丈夫か? 」

 コーディは固まっているヴァージニアの視線の先で手を振っている。

「すみません。大丈夫です」
「へ、変なことを言ってすまない……」

 イサークは耳を寝かせて申し訳なさそうにしている。
 まるで悪戯した子犬のようだが、彼ら狼人に犬と言ったら失礼になるだろうからヴァージニアは思うだけにした。

「気にすんなって。それだけ成長したってことだろう。いくつも依頼を受けていると、おかしなのはあっちから勝手にやって来るもんだ」
「コーディさんも何か経験があるんですか? 」
「ん……また貴族のお嬢様から護衛の依頼が来た。スキーに行くらしい。……出来ないって言えばよかった…………」

 コーディはお嬢様に気に入られたようだ。



「ただいまー! 森は変わった事だらけだったよ! 」
「ヴァネッサ、明るく言うんじゃなくて深刻そうに言ってくれ。何もなかったのかと勘違いしてしまう」

 グレゴリーはため息をつきながら、先ほどの遺体紛失の話をヴァネッサにした。

「そうなんだ。それでね私の方も収穫とは言えるか分からないけど色々見つけたよ。ケンタウロスはやっぱりサイレンに驚いたみたいで、あちこち暴れ回った跡があったの」

 腐臭と薬品の匂いが残っていたので他の動物ではないそうだ。

「他には何かあったのか? 」
「汚い話だけど、何かを吐き出した物があったよ。枝でつついてみたら、木の実だった。匂いも残っていたからケンタウロスが出したんだと思うよ」

 ヴァネッサは指でこれくらいと示した大きさはどんぐりぐらいだった。

「草食だったのか。けど草じゃなくて木の実か」
「草が大分枯れてきてるからかもね。木の実なら成ってるのもあるし、小動物が隠したのもあるから探せば意外と見つかるよ」

 ヴァージニアはリスが一生懸命木の実を隠している姿と、それをケンタウロスが奪い取りに来る姿まで想像した。

「あれ? 体が腐ってきているのに食べるんですか? 」

 外だけでなく内臓もやられているはずので食べても消化出来ない。
 自分が腐っているのに気付いていないのか。

「いや、それを言うならすでに死んでいるのに食うのか、だろ」

 自分が死んだのにも気付いていないのか。
 だとすればケンタウロスは食事をするだろうが、木の実は食べようとしたのに襲った家畜を口にしないのはおかしい。

「馬が食事したかったとかかなぁ? 」
「それだと馬は生きているってことか? 人間の部分は死んでいるのに変だろ」

 一同がまさかと思ったが、常識に囚われていては謎が解けない。

「人間と馬の腐った匂いの違いなんて分からないから、判別しようがないよ。姿を見ようにも足が速いからすぐに逃げちゃうだろうし……」

 いくら足が速い狼人でも馬には勝てない。

「馬は生きていたとして、家畜を襲うか? 」
「気性の荒い馬だったんじゃないか? あるいは人間の部分が本能で動いているとか……」

 死刑は重罪人しかならないので、危険人物なのは確かだ。

「死刑執行されたらニュースになるよね? 調べてみようよ! 」

 皆はヴァネッサに同意し、各々事情に詳しそうな人に連絡した。
 このログハウスは寝泊まりが出来るぐらいの物しかないので、自力で調べられないのだ。

(私はキャサリンさんにお願いしてみよう。その筋に詳しそうだし……)

 ヴァージニアの考えは当たり、すぐにキャサリンから情報を得られた。
 他の皆は連絡の手を止めてヴァージニアの通信機から漏れる声を聞き逃すまいとしている。

「あー、いたわね。もの凄く怪力の奴よ……って言ってもジェーンには劣るわよ? そいつの嫌な所は肉体の一部を引きちぎって被害者が痛みに苦しむ声を聞いて楽しんでいたの」

 コーディは舌打ちし、グレゴリーは悪趣味なと呟いた。
 ヴァージニアはそんな恐ろしい人物がいるなんて信じたくなかった。

「殺してないんですか? 」
「そう、人間は殺してないの。だからね弁護士が終身刑が妥当だとか言って……。まぁ、被害者が大勢いたから死刑になったんだけどね」

 今も怪我の後遺症に苦しむ人が大勢いるそうだ。
 彼らの生々しい証言が死刑の決め手になったらしい。

「キャサリンさん。コーディです。お言葉ですがそんな危険人物が死刑執行されたらニュースになりますよね。ですが俺はそんなニュース知らないです」

 ヴァージニアはコーディが割り込んできたので彼に通信機を渡した。

「人権派団体と被害者団体が騒がしくなるから秘密裏に死刑執行されたそうよ。だから遺体がなくなってもニュースに出来なかったのね」
「そこを狙ったのでしょうか? 」
「もしそうだとしたら死刑の情報が漏れていたことになるわね。たまたまだなんて都合が良すぎるもの」

 手引きした人がいるのだろうか。

「共犯がいたかもしれませんが、俺達は複数回遺体が盗まれたと考えています。それで運良く体格のいい遺体を確保出来たのでは? 」
「そうよねぇ、簡単に禁術が成功するなんてないでしょうし……。たまたま凶悪犯に当たったってのも考えられるわね。だけどやっぱり情報漏洩の可能性は捨てきれないわよ。禁術使いはこだわりがある人間みたいだから、毎回体格の良いのを選んで盗んでたってのも考えられわ」

 キャサリンは知り合いに担当部署を調べさせるそうだ。

「キャサリンさん教えてくださりありがとうございました。あの、……後ろでマシューが騒いでませんか? 」
「そうなのよ。ヴァージニアが帰って来られないって知ってから煩くて……」

 ヴァージニアはコーディに通信機を返された。
 耳を当てなくてもマシューの声が聞こえた。

「ジニー! 早く帰って来てー! うわぁああん! 」

 マシューはキャサリンの後ろで喚いている。

「魔水晶がおかしくなってるのに戻れるわけないでしょう! んもう、何回言っても分からない子ね」
「ジニーが帰れないなら僕がそっち行くー! 」

 マシューは少々わざとらしく騒いでいる。
 ヴァージニアはいつも一緒にいるのでそれくらいすぐに分かる。

「いくら何でも無理よ。諦めて私と一緒にジェーンの家に行くわよ」

 キャサリンはジェーンの家に泊めて貰っているのだ。
 今日はヴァージニアが帰れないのでマシューはジェーンとキャサリンが預かってくれるそうだ。

「やだー! ジニーんとこ行くー! 僕なら転移魔法テレポート失敗しないもん! 平気だもん! 」
「いーえ、危険だからやめてちょうだい」
「ちょっと待って、マシューは転移魔法テレポート出来るの? 出来ないから牧場に行くときに私にくっついてたんじゃないの? 」

 ヴァージニアはマシューの言葉を聞き逃さなかった。
 彼女はマシューが転移魔法テレポートしてジェーンに助けを求めに行ったのを知らなかったのだ。

(そう言えば今までマシューがどうやって移動したのか考えたことがなかった……)

 ヴァージニアはマシューの能力なら出来ると思っていたが、彼が否定したのでそれを信じていた。
 だが彼は出来るのを隠していたのか、咄嗟に出来てしまったのか不明だが、転移魔法テレポート出来るようになっていたのだ。

「…………うわぁーん! ジニー! 早く帰って来てー! 」
「……え、誤魔化した」

 ヴァージニアとマシューのやり取りに、コーディと狼人達は笑っていた。
 通信機の向こうのキャサリンは呆れたのかため息をついていた。


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