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特訓5日目!
しおりを挟む「え? 魔力の質を上げたい? そうねぇ。貴女の場合、転移魔法を発動する前の状態をキープすればいいんじゃないかしらね」
キャサリン曰く、ヴァージニアが水を辿って転移魔法出来るのは、自然の魔力とヴァージニアの魔力が近い物になっているからだそうだ。
なのでヴァージニアが砂漠などの乾燥地帯に転移魔法する場合は、いつもより集中すべきとのことだ。
「話を戻すわね。私は魔法発動前の状態を保つことを魔力を練ると言っているわ」
「練る、ですか」
マシューはケチの歌のように練る歌を歌い始めたので、キャサリンに睨まれる前にヴァージニアは彼を止めた。
「あの、思ったのですが、魔力の質が変わったらオーラが変わりませんかね? 」
「根本的なものは変わらないわ。服装にもTPOってあるでしょ? 身に付ける物を変えてもその人が変わる訳じゃないのと同じよ」
ヴァージニアはマシューがTPOの歌を歌い始める前に、時と場所と場合だと教えた。
彼は納得したようで静かにしている。
「とても分かりやすいです。ありがとうございます」
「フフフ、一応国のトップの学校で理事長をしてたものね。これくらいは当然よ」
学校の話が出たのでヴァージニアはマシューの進学について相談した。
この町の小学校の校長に通信制の学校を薦められたと話した。
「そうねぇ、その人が言うようにマシューの能力の高さを考えるとその方がいいわね。けど、マシューはすでに勉強してるのだから通信制の学校も必要ないんじゃない? 提出物に時間をかけるのもどうなのかしら? 」
「暇つぶしにいいかも! 」
学歴なしになるのもマシューの将来によくないので、キャサリンは飛び級が出来る学校があるのでそこにマシューを入学させようと言った。
その学校は身分の高い子らばかりが在籍するので普通は入学出来ないが、キャサリンが推薦すれば大丈夫だろうとのことだ。
「はーい。というわけで、今日の特訓を始めるわね」
「お願いします」
「お願いします! 」
ヴァージニアは昨日とほぼ変わらずに塩水の移動をしている。
少し薄めた塩水でも移動出来たので、後は移動距離が伸びればと思い何度も挑戦するが変わらない。
(出来ると信じても出来ないなぁ……。もっと強く念じないといけないのかな? )
まだどこかに出来ないと思い込んでしまっているのかもしれない。
切羽詰まった時にしか力を発揮出来ないのはまずいので、ここで変えねばならない。
ヴァージニアが必死でもっと遠くに移動出来るように念じていると、何やら汗が出て来た。
彼女が熱中しすぎたからだと思っていたら、そんな事はなくキャサリンとマシューが炎で攻防していたからだった。
熱いはずである。
「ほら、さっさと体勢を立て直しなさい! ちんたらしない! 」
マシューは十分素早い動きをしているが、キャサリンからすると遅く見えるらしい。
彼は反撃の火の玉を放ったがキャサリンがいる場所からかなりズレた所に飛んでいった。
動きながらだと命中率が下がるようだ。
「無駄撃ちしない! 味方や関係ない人に当たったらどうするの? 物を壊したらどうするの? 」
「んあー! 」
今のはおそらくファイアーと叫んだのだと思われるが、マシューはずっと走り回っているので息が切れており上手く発音できなかったようだ。
(ずっと思っていたけど、キャサリンさんってなんであんなに細いヒールで動けるんだろう。足首をグキッてやりそう……)
ヴァージニアは心配しながらスポーツドリンクに手を伸ばした。
彼女は何口か飲んだところで動きを止めた。
(……これも塩が入った液体だよね)
ヴァージニアはスポーツドリンクでも出来るのではと思い、そっと一滴だけ手の平に垂らした。
(よし、転移魔法! )
スポーツドリンクはヴァージニアの手の平から移動した。
ヴァージニアはスポーツドリンクには塩以外も入っているので不安だったが、無事に成功したので喜んだ。
(他の塩が入った液体、例えばスープもいけるかな? 食べ物を粗末にするのは嫌だからやってみないけど……。いや、スポーツドリンクも飲み物だけどね……)
具材は無理だとしても液体だけなら転移魔法出来るのではないか。
(……出来たとして何の意味があるんだろう? )
ヴァージニアはスープを忘れて、今までの練習に戻った。
午後からキャサリンが所用で不在になったので、マシューはジェーンの修業になった。
まずはヴァージニアが入院中の修業内容の復習をした。
もちろんマシューはジェーンに怒られることはなかった。
「ちゃんと出来たわね。マシュー君、偉いわあ」
「押忍っ! 」
ヴァージニアはマシューがいつもと違う表情や動作をしていたので、自分の特訓そっちのけで見入ってしまった。
「じゃあ、前にも見せた雷などの属性を纏いながらやるわよ」
「分かった! って言いたいけど僕はその纏うやつ出来ないよ」
ヴァージニアは目にしていないが、マシューは火だったら出来たはずだ。
彼が嘘をついたのは何故だろうかと思ったが、どうやら忘れていただけのようだ。
ジェーンからそんなはずないと言われ、マシューがやってみたらすぐに成功した。
「ふぅ、色々あって忘れちゃってたみたい。けど、なんでジェーンさんは僕が出来るって分かったの? オーラ? 」
「オーラというより気を見れば分かるわよ」
ヴァージニアは謎の言葉が出て来て頭上に疑問符が浮かんでいる。
マシューも同じだろうと思ったが、彼はなるほどと言った顔をしていた。
「気だね! そっか! 殺気も気でしょ? 」
「まぁそうね」
ヴァージニアも納得したかったが二人の話についていけけず置いてきぼりだ。
「だけどさ、気は読まれちゃいけないんでしょ? 」
「そうよ。だから本当は失格ね」
マシューはガーンと口に出して言っているが、あまりショックでない表情だ。
「相手に自分が何が出来るか読まれちゃ駄目よ」
「何をしようとしているのかも、でしょ? 」
「そうよ。よく分かっているじゃない」
次の瞬間マシューが仰け反った。
ヴァージニアには何が起きたのか理解出来なかったが、マシューの顔の前にはジェーンの拳があった。
「覚えていたのね。偉いのね」
「もちろんだよ! いついかなる時もだよね」
マシューはジェーンから、どんな時でもどんな状況でもすぐに反応出来るように言われたのだろう。
(そりゃ怪我するよ……)
少しだけヴァージニアの顔から血の気が引いた。
しかし、そんな場合ではない。
ずっと二人の様子を見ていたせいで彼女自身の特訓が疎かになっていたので、彼女は塩水の転移魔法練習に専念した。
(そうだ。転移魔法する時以外も魔力を練っていよう)
ヴァージニアは魔力の質を高めるべく、手元で塩分濃度の調節をしながら魔力を練った。
だが、別の動作をしながらやるのはなかなか難しく、魔法発動前の状態を保つのは困難だった。
(汗が……。魔力もすぐに尽きそうだよ……。動きや練り方に無駄があるのかな……)
もしや魔力が少量しかない人が魔力を練るのは苦行でしかないのでは、とヴァージニアが思い始めていたら、いつの間にか彼女の近くにジェーンがやって来ていた。
マシューはどうしたのかと言うと、拳に炎を纏わせて型をやっている。
「ヴァージニアは何をしているの? 」
「魔力の質を高めるために、魔力を練っています」
ヴァージニアがジェーンにキャサリンからの指示だと伝えると、そんなやり方があるのねと言った。
ジェーンは当然ながらやったことがないそうだ。
「ああだけど、滝行はしたわよ。山にも籠ったし。その時に自然と一つになる感覚を覚えたのかもしれないわね」
ヴァージニアはジェーンが大人になってから己を鍛えるためにやったのかと想像したが、ジェーンは幼少期にやっていたらしい。
「仙人の話を聞いて真似したんだったかしら? うーん、昔すぎて覚えていないわね」
ジェーンは言い終わると大きな声で笑った。
彼女がこんな大きな声を出して笑えるのは今でも鍛えられた体をしているからだ。
ヴァージニアがやったら体を痛める。
「そうだわ。その魔力を練るっていうのも大事だけど、魔法を発動するまでの時間を短くするのも大事なのよ」
魔法発動前の状態が長いと、敵に攻撃されるからだそうだ。
確かに敵は悠長に待ってくれない。
特にヴァージニアの場合はちょっとした攻撃でも命に関わるので、転移魔法で逃げるまでの時間を短くすべきだとジェーンが言った。
「魔法の発動までを短くですか……」
今だってヴァージニアの転移魔法発動までの時間は長くはないが、先ほどのジェーンの動きを考えると誤差範囲と言われるような時間であっても短くした方がいいのは明白だ。
魔法を発動する前の魔力を練っている状態は、武道でいう殺気や筋肉の動きのようなものなのだ。
「そうよ。距離を詰められて攻撃されたら大変だもの。まぁ、わざと隙を見せてカウンターを喰らわせるって手もあるけど、一撃で仕留められないと思うならおすすめしないわ」
強者であるジェーンが言わなくても、ヴァージニアはカウンターなどやるつもりはない。
「私は攻撃魔法も物理攻撃も出来ませんのでカウンターなんてしませんよ」
「けど転移魔法出来るでしょう? 今は塩水を動かす練習をしてるのよね? 」
ヴァージニアはジェーンが何を言おうとしているのか分からないので眉を顰めた。
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