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久々にう○こ登場!
しおりを挟むヴァージニアの訝しんでいる顔を見て、キャサリンはクスリと笑った。
「貴女、龍達に会ったんでしょう? その時に何か聞かなかったの? 」
「……色々と聞きましたけど、それと関係があるのですか? 」
ヴァージニアは目を細めたままだ。
「ありまくりよ。私は彼らと同じような立場なんだもの」
キャサリンは口角を上げてクスクスと笑うが、ヴァージニアは相変わらずキャサリンが何を言っているのか何も分からない。
「えと……、実はもの凄く長命でらっしゃるとかでしょうか? 」
「ちょっ……。何でそんな発想になるのかしらねぇ……」
ヴァージニアはキャサリンに呆れられた。
キャサリンは何かを言おうと、息を吸ったところで誰かの足音が聞こえた。
一人はマシューだが、他の人物は不明だ。
「ジニー! エミリーとアリッサが来たよ! 」
マシューが部屋の扉を勢いよく開けると、彼の後ろにはエミリーとアリッサがいた。
彼女達はヴァージニアとマシューが島から帰った時にはすでに別の仕事に行っていたので、二人の無事を確認しに来たのだ。
「あら、貴女達。元気そうじゃない」
「え? 」
キャサリンも彼女達を知っているようだ。
ヴァージニアは流石売れっ子だなと思った。
「理事長? いえ、元理事長が何故このギルドにいらっしゃるのですか?」
エミリーはキャサリンを元理事長と言った。
エミリーとアリッサは王立魔導大学の出身らしいので、キャサリンはそこの理事長をしていたことになる。
流石ジェーンの元仲間だなとヴァージニアはぼんやり考えた。
「マシュー君に魔法を教えに来たのよ」
彼女達は声を上げて驚きと喜びを表した。
キャサリンならマシューの先生に適任なのと、マシューが最高学府の理事長を務めた人物から直々に指導されるほど期待値が高いと再確認したからだと思われる。
「私達の事を覚えていてくださったのですね」
「二人は優秀だもの。覚えているに決まっているでしょ? しかもエミリーは首席で卒業したものね」
マシューは王立魔導大学の首席も唸らせていたようだ。
「うーん、幸運が重なったので本当にまぐれですよ」
「何言ってるの。運も実力のうちよ」
アリッサがこそっとヴァージニアに教えた話によると、エミリーよりも成績がいい人がいたが、その人は卒業試験の時に体調を崩してしまったため成績が振るわなかったそうだ。
「ケヴィンさんとブライアンさんも同じ大学ですか? 」
「二人は物理攻撃系の専門がある大学出身なの」
ヴァージニアは彼らがパーティを組んだ経緯が気になった。
四人は学友だろうと勝手に思っていたのだ。
(募集の掲示板かな? )
ヴァージニアもたまにギルドに掲示されているパーティ募集を見てみるが、転移魔法しか出来ない人の募集は一度もなかった。
「今日はその彼らと一緒じゃないの? 」
「二人は剣豪さんのところに剣術を習いに行きましたよ」
キャサリンは少し残念そうな顔になった。
「あんなおデブに何を習うのよ。私の方が有益な魔法を教えてあげられるのに。ジェーン、余計なことして……。まったく……」
キャサリンは彼らとジェーンの修業を聞いていたようだ。
「ねえねえねえ! 剣術って楽しい? 僕も習ってみたい! 」
「キャサリンさんから教わることを全部出来るようになったら、お願いしに行こうね」
マシューはやる気が出たのか、元気よく返事をした。
「やめなさい。全然楽しくないわよ。それに綺麗な顔に傷がついたらどうするのよ」
「綺麗な顔? 誰が? 」
マシューには美少年の自覚はない。
キャサリンは形の良い眉の間に皺を寄せ、エミリーとアリッサは苦笑した。
「僕は子どもだからお肌が綺麗ってこと? 」
マシューは首を傾げた。
「マシューはう○こで喜ぶから、美醜なんて分からないんだよ」
スージーがエミリーの鞄から顔を出した。
確かにマシューはう○こを見つけては近寄っている。
リゾート地での出土品回収の時もマシューはう○こを見つけては騒いでいた。
「う○こでどんな動物が近くにいるか分かるんだから、う○こは凄いんだよ! ね、ジニー! 」
「あ、うん。鑑定魔導具の試作品の時の話だね。開発者さんはフンの他に足跡も大事って言ってたかな? 」
ヴァージニアはもうすぐで昼食を食べるので、マシューの興味をう○こから逸らそうと努力した。
「ほら、う○こは足跡と同じくらい大事なんだよ! う○こ凄い! 」
ヴァージニアは努力は泡となって消えた。
「顔は綺麗なのに、中身はそこら辺のガキんちょと一緒じゃない……」
「すみません……」
「年相応と言えばそうだから、別にいいわよ」
キャサリンはため息をついたところで食事が運ばれてきた。
エミリーとアリッサは食堂で食べるそうで、退室した。
「けど、こうも違うとはねぇ」
二人が部屋から出て行った後で、キャサリンはとても小さな声で呟いた。
ヴァージニアは何と比較しているのか疑問に思ったが、マシューに食事を取られるかもしれないので急いで昼食を食べた。
ヴァージニアは結局マシューにミートソーススパゲッティを一口取られた。
一口と言ってもマシューの一口なのでかなり多かった。
マシューの口の周りがオレンジ色になっているので、ヴァージニアはマシューに口を拭かせた。
「ふぅ。僕、お腹いっぱい」
マシューは口を拭き終わるとお腹をさすりながら、とても満足そうに言った。
「よかったねぇ」
「お昼寝しなきゃ」
マシューが予想外の言葉を発したので、キャサリンとヴァージニアは驚愕した。
「ちょ、せっかく私が来たのに寝るつもりなの? 」
キャサリンは頭を抱えている。
ヴァージニアはキャサリンに失礼があってはならぬと必死になった。
「マシュー、もうちょっと頑張れるよねぇ? 」
「今寝たら良い夢が見られそうな気がするんだぁ」
「もうちょっと頑張ってからの方が良い夢が見られると思うよ」
ヴァージニアの説得により、マシューは小休憩をとってから再びキャサリンの特訓を受けることになった。
キャサリンはマシューに食器の片付けと新しい紅茶を持ってくるように頼んだ。
「分かった。僕はお手伝い出来るいい子だからね! 」
マシューは鼻歌を歌いながら食器を念動力で運んで行った。
彼が遠ざかるのを確認して、キャサリンはゆっくりと息を吸った。
「……さて、ヴァージニア。私は協力者よ」
キャサリンは元々伸びている背筋をさらに伸ばし、真剣な目つきで言った。
ヴァージニアはキャサリンが何か魔法を使った気がしたが、何をしたのかは分からない。
「はい。本当に感謝しています。わざわざ王都からこの町まで来て下さってなんとお礼を言ったらいいのか……」
「はぁ……。貴女、本当に何も分かってないのね。覚えていないの方が正しいかしら? 」
ヴァージニアはキャサリンから協力者について聞かされた。
キャサリンの祖先は勇者と魔王と面識があるどころか信用されており、未来のどこで起きるか分からない出来事のために協力者を引き受け、代々受け継いで来たらしい。
そしてマシューの害になる物事を排除したり手助けをしていており、ヴァージニアが予想していた時間が戻されても書いた文字が消えない書物も所有しているそうだ。
「ではこの魔法は部屋の外に音が漏れないために……」
「ええそうよ。何処に悪い奴がいるか分からないでしょう? まぁ、大体の悪い奴はジェーンと私達が若い頃にぶっ飛ばしたり、ぶっ潰してきたんだけどね」
ジェーンのパーティの武勇伝や伝説は数多く存在し、これらをまとめた本まであるぐらいだ。
しかし、世界中の色んな地域で活躍した人達なので、全ては書かれていない。
「だから今いる悪党共は何世代前からあるような大きな組織はほぼなくて、縦や横に広いのはごく僅かだから安心と言えば安心なんだけど……どこにでも悪人は沸いて出るから念には念を入れないとね」
「あの、先ほどの話で待てど暮らせどというのはどう言う意味なのでしょうか? 」
「そうねぇ……。今の貴女には酷な話だけど……」
キャサリンが言うには、前の世界ではヴァージニアの魔力量は今と比べものにならないくらい多く、学業の成績もよかったので王立魔導大学に通っていたらしい。
その情報があったのでキャサリンは今の世界で理事長になったそうだ。
「理事長になれば手助けと監視が出来るかなって思ったけど、無意味だったわね」
「そんな……。前の世界と今の世界でこんなにも違うなんてあるんですか? 」
ヴァージニアは今までの苦しみはなんだったのだろうかと悲しくなった。
「ないけど、あるのよ。ジェーンがそうだもの。前の世界だと彼女はあんな超人じゃなかったの」
ジェーンのような規格外の人物の出現は過去にもあったらしい。
しかし、誰もが毎回超人に生まれるのではなく、誕生する年月も人物もランダムとのことだ。
「彼らが善人だった時に時代が大幅に進む傾向があるわね。そして超人が悪人だった場合は早々に時間を戻してなかったことにしてるの。これは戻す時間が短い方が魔力を必要としないからでしょうね」
「勇者と魔王にとって都合がいい世界を選択しているのですね」
ヴァージニアは頭では分かっているが釈然としなかった。
「そうなるわね。何様のつもりよ。って言いたいけど、そうしないと今この星にいる生き物達が生活出来なくなるから仕方ないのよ」
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