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遺跡にあったもの!
しおりを挟むヴァージニアとマシューは石ころ達と以心伝心するために色々と試してみたが、結局どれも反応がなかった。
石ころ達は二人が何をするのか興味を持っているようだが、特に何の動きもせずに二人を見ているだけだった。
仕方ないので二人が帰ろうと空のトランクを引っ張りながら歩いていると、パン屋のおじさんに呼び止められた。
二人が彼に挨拶をすると、彼は食パン一斤をヴァージニアに渡してきた。
「いや~無事でよかったよ。ここも結構吹いたけど、比べものにならないくらい南の方では風が酷かったんだろう? 」
どうやらヴァージニアが遭難していたのは彼らにも伝わっていたようで、食パンは退院祝い代わりだそうだ。
「そうだよ! あんなの初めてだよ! 」
おじさんはテレビでニュースを見て大変だなと思っていたら、ヴァージニアとマシューが現場にいたと知って心配していたそうだ。
しかもグリーンからヴァージニアが風に飛ばされたと聞かされ気が気でなかったらしい。
ちなみにグリーンが知っていたのは、ギルドからとうめいの貸し出し期間の延長の申請が来た際に説明されたからだ。
「うんうん。二人とも元気そうでよかったよ」
「ありがとうございます」
パン屋のおじさんと別れた後、マシューは食パンを頭の上に掲げながら歩いていた。
マシューはパンに何を挟むかで悩んでいるが、当然ながらどれも芋料理である。
「コロッケにしようかな? ポテトサラダにしようかな? マッシュポテトでもいいかな? 」
マシューの鼻歌を聞きながらヴァージニアは転移魔法した。
二人はギルドにトランクを返却し、その後はスーパーで買い物をし帰宅した。
マシューはパンにポテトサラダを挟むことにしたようで、笑顔でカゴに入れていた。
(お総菜のポテトサラダはちょっと味が濃いから野菜を足そう)
ヴァージニアは遅めの昼ご飯にポテトサラダサンドを作る事にした。
マシューはヴァージニアが何をするのか横目で見ている。
「ジニー、何する気なの? 」
彼は手伝う気はないらしい。
「さっき買ったポテトサラダに野菜を足すだけだよ」
「これはこれで完成していると思うんだよね。それに改変したら作ってくれた人に失礼だよ」
マシューは味が濃いのが好きなようだ。
しかしヴァージニアは、そうなんだと言ってパプリカときゅうりを小さめに切って足した。
「何てことを……! 」
「買った後は好きにしていいと思うよ。マシューはパンを何枚食べるの? 」
「二枚にする」
ヴァージニアは皿に食パンを置いたが、ここで油断してしまった。
「やぁー! 」
マシューは素早くマヨネーズのボトルを握り、かけ声と共に食パン目がけてマヨネーズを大量に噴射した。
彼はマヨネーズの味が薄まるのが嫌だったらしい。
「ふぅ……」
マシューは満足げだがヴァージニアは無言でスプーンを手に取り余分なマヨネーズを除去した。
彼はまた何てことをと呟いたが、彼女は無視してパンにレタスを乗せてその上にポテトサラダを盛った。
「この上にパンを乗せて押さえるっと。このまま食べる? 半分に切る? 」
「このままでいいよ」
ヴァージニアは自分の分のサンドイッチを作り終え、今度はスープを作ることにした。
これは夕飯用だ。
「ふふふっ、またお豆のスープかな? 」
「嫌なら食べなくていいんですよ。マシューさん」
ヴァージニアは先ほどのパプリカの残りを大きめに切っている。
これを豆と一緒に煮るつもりだ。
「やだなぁ。僕はそんなこと言ってないよ」
ヴァージニアはマシューに言い方に少々苛立ったが、彼の気持ちは分かるのでもっとレパートリーを増やさねばと思いながら他の野菜とベーコンを切った。
昼食後、ヴァージニアはマシューの昼寝の間にジェーンから貰った手紙を読んでいた。
手紙の差出人はケヴィン達で、内容は研究者達が聞いた話のようだ。
どうやら出土品の中に明らかに遺跡と年代が異なる後世の物があったそうだ。
(黒い石板? )
この黒い石板には古代文字で年と日付が刻んであったそうだが、何故か年月が行ったり来たりしているそうで不思議だったそうだ。
刻んである文字は研究者達の専門の時代や地域の古代文字でなかったので解読に苦労したそうだが、なんとか読み解いて土地の有権者にこの内容を伝えると態度が急変して帰ってくれと言われたそうだ。
(それで彼らに会わなかったのか)
研究者達はヴァージニアが救出され時には帰国していたそうだ。
てっきり研究資金が尽きたのかと思ったが、有権者達に追い出されたらしい。
(黒い……石板……ね。拾ったなぁ。チラッと見ただけだけど、あの文字の形ってアートルム語なんじゃ……)
マシューが封印されていた場所や教会の地下の石碑に書いてあった文字だ。
(うーん、年月が行ったり来たりか……。後から誰かが書き足したとか? )
どのような内容が書かれているのか不明だが、そんなに頻繁に書き足したりするものだろうか。
そんなに多いとただの思いつきで付け足しているだけではないかと疑ってしまう。
だが、思いつきだとしたら何のために石板だなんて大袈裟なものに記録を残しているのか。
(どんな内容が書かれていたのかは手紙には書いてないや。分かったら歴史書と比べられるのになぁ)
だが、魔王についての記述が改竄されているので歴史書を信用していいのかとヴァージニアは眉間に皺を寄せて悩んだ。
研究者達をあの土地から追い出すぐらいなのだから、黒い石板は人の目に触れていけない物だったはずだ。
それなのに何故遺跡に置き、しかも研究者達に遺跡の調査を許可したのか。
(手違いかな? あるいは遺跡にあると知らなかったとか? )
謎ばかりなのでヴァージニアは手紙をもう一度最初から読んでみたが、結果は変わらなかった。
(置いてあった場所について考えるのはやめて、何故書き足されていたのか考えよう。手紙には行ったり来たりって書いてあったよね。この表現は何だろう? 行き来する、往復する、行って帰る、行って戻る。これは言い換えただけだ。もっと別の言い方をしないと……。ウロウロする、彷徨う、迷う、……ってどんどん離れている気がする)
黒い石板に刻まれた年月が行ったり来たりするのは何故だろうかと考えるうちに連想ゲームのようになってしまった。
(何度も行ったり来たりしてるんだよね? ……何度も? )
何度もと考えたヴァージニアの頭に地竜の顔が浮かんできた。
確か地竜は何度も、の後に何かを言っていたはずだ。
(何だっけ? 何度も……覚えていないけど何度も何かが起きているんだよね。そうだ! 何度も滅びかけている、だ! )
そう、地竜は何度も滅びかけていると言っていた。
しかし思い出したところで何も分からない。
(この後にも何か言っていたんだよ。人間に関するやつが。何かを人間が持っているんだよ。何だっけ? )
ヴァージニアはハッキリと思い出せず悔しかった。
彼女は人名と地名だけ記憶力が悪いのかと思っていたのに、大事な言葉を思い出せなくて悔しくて仕方なかった。
(ああー、また地竜さんに聞きに行けたらいいのに。それか時間をあの時に戻せたらいいのに! ……あ…………)
ヴァージニアはとある事を思いついた。
もし、世界が滅びかけてその度に誰かが時間を戻していたらどうだろうか。
そして、何か大きな出来事がある度に記録を残していたらどうだろうか。
(人間が持っているのは書物だ。時間が戻っても書いてある内容が消えない書物だ。遺跡で見つかった黒い石板がその書物なんだ)
多分だがその書物は他にもありそうだとヴァージニアは考えた。
万が一にでも破棄されたら拙いだろうから、他にも記録している人がいるだろう。
(けど、時を戻しているのは誰だろう? )
そんなの決まっている。
マシューの両親だ。
彼ら以外考えられない。
彼らが他にしている事とは、世界が滅びそうになる度に時間を戻す事なのだろう。
何度も時間を戻すだなんて大技は彼らにしか出来ないのだから。
(一体何処まで戻すんだろう? 世界の崩壊を回避出来ると踏んだ分岐点まで? どうやって判断してるの? )
それが分からないので、今まで何度も世界が滅びかけていると考えていいだろうか。
(私以外の人がマシューの封印解除した世界もあったのかな? どうなったんだろう? )
ずっとヴァージニアがマシューの封印解除をしているとは考えにくい。
前任者が上手くいかなかったから世界が滅びかけたのだ。
(私は何人目? 私も上手くいかなかったら別の人にされるのかな? )
ヴァージニアは彼女自身が沢山の魔力を持っている世界もあったのかなと思った。
だったらもっと苦労せずにマシューにもっと良い暮らしをさせられたはずだ。
ヴァージニアだって惨めな思いをしてまで魔導師にならなくて済んだであろう。
(そんなあるか分からない世界を考えても虚しいだけか。私は私でしかないし)
ヴァージニアは牧場でマシューがとうめいに言った言葉を思い出していた。
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