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とうめい、牧場に帰る!
しおりを挟む翌朝、とうめいを牧場へ返すためにヴァージニアとマシューは準備をしていた。
とうめいはギルドから借りた魔力を遮断出来るトランクに詰め込まれることになった。
ヴァージニアがトランクを開けて広げるとマシューが興味を示した。
「大きいね。僕も入れそうだよ。ほら! 」
マシューは床に置いてあるトランクに入った。
おかげで一気に二時間サスペンスドラマのようになってしまった。
「危ないから出ようねー」
「ジニーでも入れそうだから、とうめいも大丈夫そうだね」
マシューがトランクから出ると、とうめいはトランクの中をツンツンと突いて確認しだした。
窮屈でないかのチェックだろうか。
かなり念入りに調べている。
(そんなにあの袋は嫌だったんだ)
誰でも狭苦しい所にいるのは嫌に決まっている。
とうめいは問題ないと判断したらしく、にゅるんとトランクの中に入った。
「ファスナー閉めるよー。とうめい、挟まれないように気を付けてね」
無事にファスナーが閉まった。
とうめいも抵抗していないので狭くないようだ。
「早く牧場に行ってトランクから出してあげなきゃ! 」
マシューにせがまれたので、ヴァージニアは家の外に出るためにトランクをガラガラと引っ張ると、中でとうめいが暴れ出した。
どうやら振動が嫌だったらしい。
「僕が持ち上げるから引きずらないであげて! 」
「……うん。ごめんね」
牧場に到着すると、マシューはトランクを抱えたままスライムの柵まで歩いて行った。
マシューの身長だと持ち上げきれずに起伏のある地面にぶつかってしまうので、結局頭上に持ち上げていた。
「あ! グリーンさんだ! 」
柵の前にグリーンが手を振って待っていた。
「おはようございます。待ってましたよ。この子達もとうめい君を待っていました」
グリーンは微笑みながら柵の中のスライム達を手で示した。
スライム達はとうめいが帰って来たと分かっているらしく、体を震わせて今か今かと心待ちにしている。
(とうめいに見慣れていると小さく見える)
ヴァージニアはとうめいも最初に会った頃はこのくらいだったなと思った。
尤も一晩で大きくなったので数時間かしかスモールサイズの姿を見ていないのだが。
「よーし、開けるよー! 」
マシューがトランクのファスナーを開けると、とうめいは元気よく飛び出してきた。
そしてとうめいはヒーローのようにポーズを決めた。
その様子を見てグリーンは歓声を上げ、スライム達も喜んでいるのか振動が激しくなっていた。
「とうめい君、すっかり大きくなって……。やはり魔力が強い人に囲まれると影響を受けるのでしょうかね? 」
グリーンが頬を赤くして興奮しているので、ヴァージニアはケヴィン達の怪我を治療したことや、エミリーの涙を摂取していたのを伝えた。
「おおっ、そうでしたか。ちゃんと高魔力の人々の体液を摂取していたのですね」
「後は見た事のない植物を沢山食べていたよ。南の国はまだ色んなお花も咲いていたよ。美味しい果物もあったしね」
「それを全部ですか? とうめい君は食欲旺盛だったのですね。ふむふむ」
グリーンは手帳に大量の文字を書いている。
ヴァージニアは手帳をチラリと覗き見てしまったが、グリーンはこれを解読出来るのだろうかと心配になった。
そんな人間達のやり取りをよそに、スライム達は全身を使ってとうめいの帰還を喜んでいる。
「……! 」
とうめいはぽよんと柵を乗り越えて小さいスライム達と抱擁した。
「わわっ! 腕がいっぱい生えてる! 」
「タコの真似かな? 」
とうめいはタコのようになりスライム達を抱きしめたり撫でたりしている。
ヴァージニアは便利そうだと一瞬思ったが、不気味に感じた気持ちがやや勝った。
「とうめい君はさらに器用になりましたねぇ。何本まで増やせるのでしょう? 」
グリーンの言葉を聞き、とうめいはピタリと動きを止めた。
何があったのだろうかと一同が思っていると、とうめいが変形した。
「えーっと、それは足? 」
とうめいは自身の体の下に突起を二つ作ったが、バランスを保てず転がった。
ぷるぷるボディなので二本足での自立は無理だろう。
とうめいはまた体を変形させたが、角のような物が見えるのでおそらくは牛だろう。
「次は……、ああ、牛の真似をして足を四本にしたんだね」
「! 」
正解らしいが、これの形もバランスが取れなかったようだ。
なので再びとうめいは体を変形させ足の数を増やした。
「え……」
「うーん……」
グリーンとヴァージニアが言い淀んでいると、マシューは遠慮なく何に見えたか言った。
「なんだか芋虫みたい! 」
「?! 」
とうめいはショックを受けたらしく潰れてしまった。
とうめいは芋虫が嫌なのだろうか。
「ああほら、芋虫って蝶々になるでしょ? 」
「? 」
ヴァージニアがとうめいに蝶を教えると、蝶がどんな姿をしているか分かったらしい。
彼女は念のため妖精ではないとつけ加えておいた。
「ふーん。それでどうして器用って話から足の話になったの? 」
「歩こうと思って足を沢山生やす練習していたって言いたかったんじゃないかな?」
正解だったらしくヴァージニアはとうめいに拍手され、とうめいを真似したスライム達にも拍手された。
「それで腕も沢山生やせたのですね。いやぁ、ヴァージニアさんがいるとすぐに翻訳してくださるので助かります。ありがとうございます」
「お役に立ててよかったです」
ヴァージニアは自分でもよく分からないが、とうめいが何を表現しているのか理解出来るのだ。
「ジニーすごい! 何で分かるの? 」
「そうだなぁ、とうめいが何を知っているのかを考えると想像出来るのかな? 」
ヴァージニアは四本足の生き物についても、前にとうめいが牛舎についてきたのでその時に牛を見ていると推測した。
「何でとうめいが歩こうとしてるって分かったの? 」
「え、何でって、前に会話をしたがっていたから、もしかしたら歩いてみたいのかと思ったんだ」
「! 」
ヴァージニアはまたとうめいとスライム達に拍手された。
乾いた音ではなく湿り気のある音だ。
「……もしかして、とうめいは人間の真似をしているの? 」
「……」
マシューがこう言うと、とうめいは心なしか少しツヤがなくなった。
彼や人間と一緒にいると自分だけ違う扱いをされるので、とうめいは人間のように振る舞えたら、そんな扱いをされないのではないかと考えたのかもしれない。
「っ、とうめいはとうめいのままで良いんだよ!」
「……!! 」
マシューととうめいは熱い抱擁をしている。
当然ながら、とうめいはいつも通りの丸い形でなく変形している。
「人間の真似ですか。ふむふむ……。知能が高いとうめい君らしい行動ですね」
ヴァージニアはグリーンにとうめいがババ抜きでこっそり覗き見をしてマシューが勝てるようにイカサマをしたのを伝えた。
「一緒にやってみたいですねぇ。他のカードゲームも覚えられるのでしょうかねぇ」
グリーンは笑顔で手帳に色々と書き付けており、何枚もページをめくっている。
スライム達はグリーンの真似をして何かを書く仕草をしている。
中には小枝を拾って手? に持っている個体もおり、ヴァージニアは同じように枝を持っていたスライムを思い出した。
「……あ、私の遭難先にサンドスライムがいましたよ」
「なんと! この牧場にはいない種類じゃないですか! 」
ヴァージニアはまたもグリーンにスライムについて話をした。
とうめいとジョリジョリのふれあいもだが、ジョリジョリが地竜を恐れなかったと言う話もした。
「地竜ですかー。いいなぁ。是非とも見てみたいですねぇ。実はですね、子どものにチラリと何か大きな体をした生き物に出会ったんですよ。けど、何だったのかさっぱり分からなくて……。その正体が知りたかったから研究の道に進んだのに今はスライムの研究をしているんですよ。面白いですよねぇ。ふふふ」
グリーンは森を探索中に謎の大きな生き物と遭遇したそうだ。
そして森に住む生き物を調べるうちに研究対象がスライムへと移行したらしい。
「巨大なスライムかもしれませんよ。マウンテンサイズでしたっけ? 」
「はははっ、十分可能性がありますね」
ヴァージニア達はグリーンに石ころ達に変化があったと聞き、マシューが名付けた小石達を見に行った。
「あれ? 手が生えてるよ! 」
「本当だ。足も体も少し大きくなっているように見えるね」
石ころはマシューに近寄って来た。
遠くから見ると手足が見えないので、石が動いているように見えて心霊現象のようで薄気味悪い。
「マシューが地竜さんに会ったからかな? 」
「けど地竜さんはゴーレムが何を言っているか分からないって言ってたよ。テレパシー出来るのにだよ? 」
テレパシーは違う言語を話す者にも言葉が通じるので、何も分からないのは確かに変だ。
もしやゴーレムは喋らないのか。
「ねぇねぇ、みんな何かやってみて」
ここでスライム達だったら色々な反応を示すのだろうが、石ころ達は無反応だ。
スライム達はとうめいの影響を受けているからだろうか。
「うーん、とうめいがいる所とは別のスライム達も反応するから、スライムってそういう魔物なのかも」
「赤いのと黄色いのは攻撃してくるから危険だよね」
赤いのと黄色いのは、二人がとうめいの匂いがするからか怒って攻撃をしてくるのだ。
なので極力近寄らないでいる。
「名前を呼んでみよう! ゴー、レー、ムー、ゴレ、レム、ゴゴ、レレ、ムム! 」
それぞれ反応したので自身の名前は分かっているらしい。
だが、ヴァージニアには見分けが付かないので正しいのかは不明だ。
「みんな元気? 」
石ころ達は無言だった。
やはり名前以外の言葉は通じないようだ。
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