転移魔法に失敗したら大変な事に巻き込まれたようです。

ミカヅキグマ

文字の大きさ
上 下
140 / 312

退院だ!

しおりを挟む

 結局ヴァージニアは一週間入院していた。
 五日目ぐらいにはほぼ回復していたのだが、謎の渦に飲み込まれたのもあって大事を取ってもう二日入院させられたのだ。

「ジニー! 早くお家に帰ろう! 」

 退院の日になり、マシューは久々の我が家がとても楽しみなようで、元気よくぴょんぴょんと飛び跳ねている。
 そんな彼をジェーンはにっこりと微笑みながら見守っている。

「町に帰っても修業は続けるから、覚悟しておいてね」

 ジェーンの休みや休憩時間にやってくれるそうだ。

「うん。僕、なんだかもっと出来る気がする! 」

 南ノ森町ではこのリゾート地よりも気温が低くなっているそうなので、ヴァージニア達は上着を羽織った。
 マシューの秋冬の服はまだ買っていなかったので、薄手の服しか持って来ておらず重ね着させてある。

「ジェーンさん、俺達にも稽古をつけて下さりありがとうございます」

 ケヴィンとブライアンはまだ仕事があるそうなので、ヴァージニア達を見送りに来た。
 ブライアンの他にケヴィンも一緒に修業をしていたそうだ。
 しかしケヴィンは剣士なので余計な箇所に筋肉が付くのは嫌で、積極的にやりたくなかったらしく、たまにヴァージニアに愚痴りに来ていた。

「いつでも来ていいわよ。今度は本気で相手をしてあげる」
「よろしくお願いします! 」

 ブライアンは地竜製の鍋を見た時のように目を煌めかせながら言った。
 そんなブライアンの横でケヴィンが何かを言いたそうにしていた。

「あの……俺もスキルアップしたいので、ジェーンさんの伝手で剣士を紹介してくださいませんか? 」

 ケヴィンはブライアンを羨ましく思っていたようで、かなり真剣な顔つきをしていた。

「いいけど、誰がいいかしらね? 」

 ジェーンなら剣士を沢山知っているのだろうが、逆に知り合いが多すぎて腕を組んで悩んでいる。

「ジェーンさんのパーティにいなかったんですか? 」

 ヴァージニアが言うと、ジェーンの顔は曇った。
 もしや言ってはいけないことを言ってしまったのではと皆は焦った。
 ジェーンの年齢を考えたら、あるいは危険な依頼の最中に、など色々と考えられるからだ。

「いたけどね、今は剣豪だったなんて信じられないほどの体型になっちゃったの。見る陰もないわよ。彼に会ったらがっかりするんじゃない? 」
「え? 」

 ジェーンの元仲間の剣豪は料理に目覚め試食を繰り返していたら体積が増えてしまったそうだ。
 剣豪は何度もジェーンや仲間達に料理を振る舞ってくれたそうで、ジェーンはとても美味しかったと懐かしそうに言った。

「あら? 確かお店も何店舗かあるんじゃなかったかしら? 」

 ジェーンが店名を言うと、ケヴィン達は知っていたようで声を上げた。
 彼らはすでに剣豪と面識があったようだ。

「し、知らなかった……! 随分と腹がたぷたぷしたオーナーだなとしか思ってなかった! 」

 ケヴィンは非常に悔しそうにしていており、ブライアンも困惑している。
 ジェーンの元仲間は二人が剣士だと気付かないくらいの体型になってしまったらしい。
 ヴァージニアはちょっとふくよかになった程度だと想像したが、二人の様子を見ると面影もないのだろう。

「たぷたぷ……」
「……! 」

 マシューがたぷたぷを気にしたので、とうめいは自分の方がたぷたぷだとアピールしている。
 人間だと健康を考えるとあまり競ってはいけない部分だが、スライムにとっては重要なようだ。

「けど、剣は使えなくても指導は出来るでしょうから連絡しておくわね」
「ありがとうございます! 」



 ヴァージニアとマシューは転移魔法テレポートで、ジェーンはとうめいを背負い走って南ノ森町に戻ることになった。
 ヴァージニアがとうめいと一緒に転移魔法テレポートするには魔力を遮断出来る物に入れないといけないので、ジェーンにとうめいをお願いしたのだ。
 ジェーンは海の上より陸の方が楽だから平気と言っていたが、ヴァージニアはそりゃそうだろうという感想しか持てなかった。

(今の大きさのとうめいが入れる袋なんてあるのかな? もう箱に入ってもらうしかなさそう)

 とうめいが入ってきた袋にはどう頑張ってももう入らない。
 今度何かあったら箱に詰め込まねばならないが、ヴァージニアが背負えるのか不明だ。
 彼女が出来なければマシューに箱を持たせればいいのだろうかと思ったが、容量オーバーにならないか心配である。

(ラージサイズならまだ平気かな。それにしても、ジェーンさんは喜んでいたけど、とうめいで美容パックするつもりなんじゃ……)

 ヴァージニアの予感は的中し、夕方頃に肌が艶々になったジェーンと遭遇する。



「わー! 久しぶりのお家だー! 」

 マシューは椅子に荷物を置き、即座に服を脱いだ。
 重ね着しすぎて苦しかったらしい。

「洗濯するからまとめておいてね」
「はーい」

 ヴァージニアは取りあえず食事を作ろうと思い、缶詰やレトルトを見てみた。
 作り置きは出かける前に食べるだけ食べて、食べられなかったものはマリリンに頼んで処分して貰った。

「ジニー! 見て見て! 」
「えー何ー? 」

 ヴァージニアが振り返ると、マシューはパンツと靴下だけになっていた。

「え、何? 露出狂? 風邪引くから洋服を着なよ」
「見て! 僕の腹筋割れてる! 」

 確かにマシューのお腹はうっすらといくつかに割れている。
 だが、自慢するほどではない。

(いや、子どもだと考えたらすごいのかな? )
「ジェーンさんの修業を頑張ったからだね。すごいね! 」
「でしょでしょ! 見て! 力こぶ! 」

 マシューは何処で覚えたのかボディービルダーのようにポージングしだした。
 ヴァージニアはマシューが嬉しそうに見せつけてくるので戸惑い、何も言えなくなった。

(あの二人の影響だ! そうに違いない! )

 あの二人とは先ほどまでマシューと一緒にいたケヴィンとブライアンだ。
 マシューはヴァージニアの見舞いに来たときに、二人の筋肉がすごいと言っていたので間違いない。

「修業の成果を見せてくれたんだね。ありがとう。けど風邪引いちゃうから洋服着ようね」
「子どもは風の子元気な子だよ! 」

 風に苦しめられた身としては嬉しくない言葉だなとヴァージニアは思った。

「え~、マシューはもしかして赤ちゃんみたいにお洋服着せて欲しいのかなぁ? 」
「え……」

 ヴァージニアはからかうつもりで言ったのだが、マシューは少し嬉しそうな顔をしている。
 マシューはタンスから服を引っ張り出し、そのままヴァージニアの元に持って来た。

「……ジニー、着せて」
「え、あ、うん……」

 ヴァージニアがマシューに服を着せ終わったら、マリリンが何やら袋を持って訪ねてきた。
 マシュー用の秋冬の服で、古着だがどれも品質がよい。

「寒くなってきたからね。はい、こっちもどうぞ」
「わぁ! ありがとう! 」

 いつものブランドの紺色のコートだ。
 丸いセーラー襟で可愛らしいが左身頃が上なので男児物のようだ。

「靴もって思ったんだけど、マシュー君って結構大きくなったでしょう? だからサイズが分からなくて買えなかったの」
「自分で買うから大丈夫だよ」

 ヴァージニアの言葉にマシューは小さく驚きの声を出した。

「ジニー、我が家にお金あるの? 」
「なくはないよ……」

 入院費はブライアンが払ってくれた。
 ヴァージニアが彼と入れ替わってくれたのと、地竜製の鍋と抜け毛の分のお金だそうだ。
 だが、マシューの宿代は払わねばならない。
 ブライアンはマシューの宿代も払ってくれると言ったが、悪い気がしたので断ってしまったのだ。

「買って貰おうよ。僕、足痛いもん」
「ええっ? 」

 マシューが靴下を脱いで、ヴァージニア達に素足を見せてきた。
 彼の足の指は猫の手のように丸まってしまっている。

「そうだったんだ。気付かなくてごめんね」
「靴ってこういうものだと思ってたからいいの」
「いやいやいや……」

 全然よくないので、三人でマシューの靴を買いに行くことになった。
 だがその前に洗濯をせねばならない。
 今やらないと、疲れてやる気がなくなり後回しになる可能性があるからだ。

「僕がやるからジニーは休んでいて。病み上がりでしょ? 」
「もうとっくに回復していて体力は有り余っているよ。マシューの方こそ毎日修業で大変だったでしょう? 」
「僕は強くなったから平気なんだぁ」

 マシューに押し切られ、ヴァージニアは休憩することになった。
 食事もマリリンが家にあるもので作ってくれるらしい。

「激辛にしないでね」
「やだなぁ。私の食べる物しか激辛にしないから安心して」

 マリリンはにこやかだが、ヴァージニアは以前ジェイコブからマリリン作る料理が辛すぎて食べられなかったと聞いたので警戒している。
 最近はないようだが、過去にあったのは事実だ。

「そもそもこの家に唐辛子類ないでしょ? 」
「ああ、そっか」

 マシューがいるのもあるが、ヴァージニア自身が辛い物を好んで食べないからだ。

(よかった。それにしても暇だなぁ。島にいた時と真逆だ。入院している時とは同じだけど)

 島にいた時は必死だったが、入院時はほとんどベッドの上だった。
 ヴァージニアが二人の作業を見ながら入院時のようにぼんやりすることにした。


しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

レンタル従魔始めました!

よっしぃ
ファンタジー
「従魔のレンタルはじめました!」 僕の名前はロキュス・エルメリンス。10歳の時に教会で祝福を受け、【テイム】と言うスキルを得ました。 そのまま【テイマー】と言うジョブに。 最初の内はテイムできる魔物・魔獣は1体のみ。 それも比較的無害と言われる小さなスライム(大きなスライムは凶悪過ぎてSランク指定)ぐらいしかテイムできず、レベルの低いうちは、役立たずランキングで常に一桁の常連のジョブです。 そんな僕がどうやって従魔のレンタルを始めたか、ですか? そのうち分かりますよ、そのうち・・・・

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!

仁徳
ファンタジー
あらすじ リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。 彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。 ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。 途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。 ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。 彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。 リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。 一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。 そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。 これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

いや、あんたらアホでしょ

青太郎
恋愛
約束は3年。 3年経ったら離縁する手筈だったのに… 彼らはそれを忘れてしまったのだろうか。 全7話程の短編です。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

処理中です...