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雷の正体!
しおりを挟む地竜が作った避雷針に大きな雷が落ちた。
ヴァージニアはもし地竜の背に乗っていなかったらどうなっていたのか考えてしまい、全身が震えていた。
耳を塞いでいたのにも関わらず雷鳴は耳を劈くようだったし、地竜越しに伝わった衝撃も地震が起きたのかと思うほどの振動だった。
ヴァージニアが体を起こして避雷針を見てみると、避雷針が焦げた煙なのか砂埃なのか不明だが、視界を遮る物がそこら中に立ち込めており、その奥に何か影が見えた。
その影はかなり巨大で縦に長いが、だいたい地竜と同じぐらいの大きさだろうかとヴァージニアが考えていると、再び大きな音がした。
生き物の咆吼のようだ。
「はぁ……。相変わらず煩い奴だ」
ヴァージニアは落雷の衝撃だけで手一杯なのに、落雷に続き謎の生き物の襲来で状況が飲み込めずに混乱していた。
しかし地竜は落ち着いているどころか呆れたように言ったので謎の生物を知っているようだ。
彼女は状況を整理すべく地竜に何が起きたのか聞こうとしが、それを遮るように目の前の影から大きな笑い声が聞こえた。
「フハハハハハッ!久しいな地の者よ!」
「もう少し静かに来い」
地竜はため息をついた。
確かにもう少し落ち着いた登場をして欲しい、と思いながらヴァージニアは二竜のやり取りを見ていた。
「何を言うか。避雷針まで作って我が来るのを心待ちにしていた癖に」
「そりゃ、変な所にお前が落ちて火事が起きたら困るからだ」
木に雷が起きたら島内の森は全滅する可能性がある。
地竜やこの島に暮らす生き物からしたら大迷惑だ。
「お、照れているのか?フハハハハ!無理もないな。我とお主の仲なのだからな!」
「はぁ……。ヴァージニア、すまないな。こいつは見ての通り雷の奴だ」
「はい……」
ヴァージニアは登場の仕方から薄々気付いてはいたが、彼女の眼前にいるのはジェーンの友である雷竜だそうだ。
そんな雷竜の背中で何者かが動いて顔を出した。
「ジニー?ジニーがいるの?!」
「え、マシュー?」
マシューは大きな雷竜から飛び降りると、一目散にヴァージニアのところにやって来た。
一応マシューは地竜に断りを入れて地竜に背中に乗せて貰っていた。
「うっ……ジニー……」
「うぐぅっ、痛いよマシュー……」
マシューの小さい体からは想像出来ないくらい力一杯ヴァージニアを抱きしめたので、彼女の節々が悲鳴をあげた。
さらにマシューは電気を帯びているのかビリビリとした。
彼の顔周りの髪の毛が広がっているので間違いない。
「ううっ、ジニー……」
マシューは大泣きしているが、ヴァージニアは再会の感動より痛いみ方が酷かった。
「マ、マシュー。私はお風呂に入ってなくて綺麗じゃないし、痛いから、ちょっと離れてくれるかな?」
マシューがヴァージニアから離れると、いつしかのようにマシューは顔面から出る物全てを出していた。
彼の顔もしわくちゃになっている。
(うわぁ……。元々汚い服がさらに汚くなった)
ヴァージニアが帰る前に服を洗わねばと考えていたら、雷竜の背から別の人物が降りてくるのが視界の端に捉えた。
人物の他に何かぬるりと動く物体もいるようだ。
「えっ、ジェーンさんにとうめい?!」
「ぼぐがジェーンざんにだのんで、雷竜さんにおでがいじでもらっだの」
マシューの整った顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃになっている。
「そっか。ありがとう、マシュー……」
マシューはヴァージニアのために自分に出来る事を考えて行動したのだ。
今度はヴァージニアからマシューを抱きしめると、彼の泣き声はより大きくなった。
「なあ、我はもう喋ってもよいか?再会は果たしたのだろう?」
雷竜は空気を読んでいたのかと思っていたが、地竜とジェーンに止められていたようだ。
「ヴァージニアが無事で本当によかったわぁ。貴方が助けてくれたの?」
どうやら地竜とジェーンは初対面のようだ。
地竜はジェーンを見に行ったと言っていたが、顔は合せていなかったらしい。
「ん?わしか?うーん、わしはヤドカリの奴に利用されただけだからなぁ」
「いえ、そんな。地竜さんのおかげでこの島で生き残れたんです」
地竜の上に不時着したのもだが、抜け毛やかまどと鍋と濾過装置がなければ、今ヴァージニアが活動出来ていたか分からない。
もっと弱っていた可能性が高い。
「流石我の友だな!」
「地竜ざんありがどぉおお!!」
マシューは雷竜の咆吼のように泣き叫んだ。
ヴァージニアは至近距離で聞いたので耳がどうにかなりそうになった。
「マシューとやらも煩いなぁ」
「少しの間、我と過ごしたからだろうな!フハハハハ!」
雷竜はまた高らかに笑った。
耳を塞ぐほどではないが、かなりの音量だ。
「!」
皆が会話している間にとうめいは地竜に登ってきていた。
地竜は気付いているのに登らせたのはとうめいに害意はないと分かっているからだろう。
「……ねぇ、とうめい。あなた大きくなってない?」
「!」
とうめいはどうやらミディアムサイズからラージサイズになったようだ。
(魔力が強い人達と一緒にいたらこうなるか……。雷竜さんとも一緒にいたし)
ヴァージニアの大きさなら全身を十分に包み込めるサイズだ。
なんなら今されている。
(……喋れない)
「!」
とうめいがヴァージニアから離れると、彼女の体や髪や服がすっかり綺麗になっていた。
彼女の全身と衣類が大分綺麗になった。
「とうめいもありがとうね」
「!」
とうめいはヴァージニアに抱きしめられて変形した。
「あら、いいわねぇ……」
ジェーンは美容目的でとうめいを見つめている。
とうめいはジェーンの眼差しに気付いてヴァージニアの後ろに隠れた。
「我は?我は?」
雷竜は子どものように目をキラキラとさせて礼を言われるのを待っている。
ヴァージニアは地竜と雷竜でここまで性格が違うとは思っていなかった。
「雷竜さんもジェーンさんも本当にありがとうございます」
雷竜はフフンと鼻を鳴らして、腰に手を置いてふんぞり返った。
「いいのよ。久しぶりに友達に会えたのだもの」
「うむ。我も友に会えて嬉しいぞ!」
「みんなありがどぉ!ずぴぴー」
マシューは勢いよく鼻水をすすった。
「え、雷竜さんではなく、ジェーンさんにおんぶされてこの島を出るんですか?」
ヴァージニアはてっきり雷竜の背に乗せて貰い、大陸まで送ってもらうのだと思っていた。
「我は風の者のくしゃみの中なぞ飛びたくない」
「汚いものな」
二竜とも心底嫌そうな顔をしている。
見かけも性格もかなり違うが、ここは一致するらしい。
「ほら!あれは僕が思った通りくしゃみだったんだよ」
「!」
とうめいは手?を生やしてぺちぺちと拍手して、すごいと表現しているらしい。
ラージサイズになったからか随分と器用になったようだ。
「今からだと流石の私でも二人を背負ってだと到着が真夜中になっちゃうから、今日はこの島に泊まって朝一で出発するわよ」
「分かりました。あの、どうやって大陸まで行くのでしょうか?」
ヴァージニアはジェーンにおんぶされてと言うところが気になった。
乗り物は用意してなさそうなので尚更だ。
「そんなの海の上を走るに決まっているでしょう。やぁねぇ。うふふふ」
ジェーンは子どもの冗談を聞いたかのような笑顔をした。
ヴァージニアはもしやと一瞬頭を過ぎったが、すぐにそんな馬鹿なと思っていたので、苦笑いをするしかなかった。
やり方を聞いても沈む前に足を出せば良いと言われそうなので、ヴァージニアは海の上を走り方を聞かないでおいた。
「とうめいで僕達とジェーンさんをくっつけるんだよ」
「へぇ、そうなんだぁ」
「!」
とうめいは任せろと胸?を手?で叩いた。
「頼もしいスライムだな。そうだ、ヴァージニア。マシューに島の案内をしてやったらどうだ?」
「え……、はい。分かりました」
ヴァージニアは何故地竜がわざわざこんなことを言ったのか分からなかったが、ヴァージニア達に聞かれたくない話をするのだろうと推測した。
「では、ジェーンさんも一緒に……」
ヴァージニアがこう言うと二竜とジェーンが顔を見合わせた。
「私はいいわ。体力を温存しないといけないしね。とうめいちゃんは行ってきたら?」
「!」
ヴァージニアはマシューととうめいに島を案内することになった。
取りあえず、ヴァージニアは地竜達から離れ、採集の際に見つけた面白い物をマシュー達に見せることにした。
途中でとうめいは草を食べていた。
それを見たマシューも果物を採って囓っていた。
「食べたことのない味がするよ」
「その実ってちょっとマンゴーっぽいよね」
「何それ?」
ヴァージニアはマシューにマンゴーを食べさせてなかった。
千年前にも食べていなかったようだ。
桃は食べていたようなので、極端に暑かったり寒かったりする地域にはいなかったのが分かる。
「美味しいけど、食べ過ぎるとお腹がゆるくなっちゃう果物だよ」
「なんて恐ろしい食べ物!」
マシューが食べた後の果物の皮や種はとうめいが食べた。
そう言えばとうめいは野菜の屑などの生ゴミも食べるのだった。
「……!……!」
「美味しかったの?」
とうめいは果物が気に入ったらしく、腕?を伸ばして木からもぎ取って食べ出した。
高さや距離があっても余裕を持って届くようになったようである。
「とうめい、それだけにしないとお腹壊しちゃうかもよ?」
「!」
とうめいは一つだけ果物を食べた。
マシューの真似をして食べたかっただけかもしれない。
「はい、喋っているうちに到着したよ」
「わ!何あれ!」
森を抜けるとヴァージニア達の前に岩の柱が並んでいる場所に出た。
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