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その頃のヴァージニアは?!
しおりを挟むヴァージニアは本日分の飲用水を作るため、朝露や霧を採集して鍋に入れて沸騰させた。
それに加え、地竜に頼んで濾過装置を作って貰ったのでこれも使用している。
「飲み水は問題ない……けどそろそろシャワー浴びたいたいよねぇ……」
体は拭いているがそれだけだった。
きっと体をこすったら垢がめりめりと剥がれるだろうし、シャンプーをしたら皮脂汚れのせいで最初は泡立たなそうだ。
「ふむ、シャワーとは雨みたいなものだったな。当分雨は降りそうにないからなぁ」
「雨はそんなに綺麗じゃないですよ……」
雪と同じで雨にも大気中の塵や埃が含まれている。
「じゃあ砂浴びでもするか?それとも泥浴びか?」
昨朝、ヴァージニアは地震かと思い飛び起きたら、地竜が洞穴の前で砂浴びをしていた。
巨体がゴロゴロとするものだから振動が凄かったのだ。
その揺れで鍋や濾過装置がガタガタいっていたので、ヴァージニアは慌ててそれらが壊れないように押さえつけたのをだった。
「私は砂浴びや泥浴びをする人間には出会ったことないですね」
ここでヴァージニアは美容のための泥パックをする人を思い出した。
だがあれは結局水やぬるま湯で洗い流す。
「気持ちいいのになぁ。やってみたら案外気に入るかもしれんぞ」
地竜は目を細めてにっこりと笑っている。
「うーん、遠慮しておきますね。あの、この島には本当に水が沢山ある場所はないんですか?この島は器みたいな形をしているので、どこかしらに水が溜まりそうな気がするんですけど……」
ヴァージニアはこの島で過ごすうちに、実は湖沼ほどではないが水が溜まっている場所があると考えていた。
地竜はあまり水を摂取する必要がないようなので見逃しているのではないかと推測していたのだ。
「あるにはあるが、溶けるかもしれないから人間は使わない方が身のためだぞ」
「溶ける……この島全体が火山ってことは水の酸性度が高いんですね……。それじゃあ飲めないですね」
「ああそうだ。だからないと答えた」
湧き出た水でなくても長時間酸性の土壌に接していたら酸が溶け出してそうだ。
きっと体を拭くのもよくないだろう。
「あれ?植物が育っているのは何故ですかね?」
「さあな、適応したんじゃないか?ずっとここに住んでいるわけじゃないから分からん」
「そうでしたか」
どの果物もヴァージニアが食べても問題なかった。
もちろん解毒等はしていない。
どれを食べても体に異常をきたしていない。
(もしや野草を食べていたからかな……)
この島と大陸とでは植生が大分違うようだが、ヴァージニアは野草で鍛えられていたからか何の問題もない。
健康そのものだ。
だがそろそろ果物だけは飽きてきているので、別の物が食べたかった。
(思い切って苔を食べるとか……)
ヴァージニアが苔を見てみるとフサフサとしている緑色の物体が見えた。
彼女が食べていいのかどうかと考えていると、異変に気付いた。
何やら視界の端で地面が動いた気がしたのだ。
(見間違いかな?)
そう思ったが、また地面が動いた。
正確に言うと地面のごく一部だけが移動している。
(例えて言うなら、とうめいが地面を這っているかのような……?)
とうめいが弾んで移動しているのではなく、ずるずると這っている時に似ている。
「さっきから地面を見てどうした?砂浴びをする気になったのか?」
「いえ、地面が移動しているような気がするんです」
会話している間に、また地面の一部が動いた。
どんどんヴァージニア達に近づいている。
「ああ、あれはスライムだろう」
「えっ……あんなスライムいるんですね」
スライムはかまどに近づい来ている。
ヴァージニアがスライムだから水が欲しいのかと思ったが、スライムはかまどに飛びついた。
「ん?あいつ、わしが作ったかまどを食べる気だな」
地竜の魔法で作られたかまどは、さぞや美味で栄養満点だろう。
それが分かっていてスライムはやって来たのだ。
地竜の力を恐れないのを見ると、かなり食いしん坊なようだ。
「って感心してる場合じゃなかった!」
ヴァージニアは急いでスライムをかまどから引き剥がすと、このスライムの手触りはとうめいと違ってザラザラとしているのが分かった。
「わー……。透き通ってないし、なんだか土か砂の塊みたい……」
スライムは必死に動いて抵抗しだした。
おかげでヴァージニアの手は紙やすりで擦られたかのように痛かった。
「うわぁあ」
ヴァージニアは痛みで思わず投げ飛ばすと、スライムは草むらに落下した。
「スライムなのにジョリジョリしているなんて……」
とうめいや牧場にいるとうめいの仲間達はプルプルでツヤツヤしている。
なのに今のスライムは少しもプルツヤではなかった。
「サンドスライムだろう。奴等はあまり水は好きではない」
「そう言えば、そんなスライムがいるって聞いたことがあります。確かブラウンスライムとも言うそうですね」
スライムは属性ごとにいるそうだ。
ちなみに牧場にはブルーとグリーン以外にも他属性のスライムがいる。
「砂は色んな色があるのだからブラウンじゃ変だろう」
「ロックスライムもグレースライムとか言われますけど、岩も赤かったり緑っぽかったりしますものね」
地竜は人間の名付け方にお怒りだ。
なんなら炎もレッドじゃおかしいと言っている。
(葉っぱの色も様々だしね)
もしかしたら、とうめいが赤い葉ばかり食べていたら、体の色がグリーンじゃなかったかもしれない。
「代表的な色って理屈は分かるんだがな。だが、住んでいる地域によって土の色は違うだろ?」
「はい。私は転移魔法で世界中に行っているので様々な色の土を目にしています」
「砂が茶色じゃない地域の者らにブラウンと言っても分からんだろ」
地竜はご機嫌斜めだ。
ヴァージニアはなんとかして話題を変えねばと思った。
「首を傾げるでしょうね。……ところでサンドスライムは水は好きじゃないんですよね?体も水っぽくなかったです。ってことは凍らないんでしょうか?」
「んー、まぁそうだろうな。なんだ、突然に」
「実はですね……」
ヴァージニアは地竜にケヴィンがとうめいを凍らせてしまった話をした。
急いで回復魔法をかけたので大事には至らなかったが、とうめいがケヴィンを恨んでいるとも教えた。
「そりゃ氷属性の者がそんな事やったら凍るわな。気の毒なスライムだ」
「あ、彼は氷ではなく珍しい吹雪属性だそうですよ」
「んあ?吹雪だぁ?そいつは人間なのか?」
どうやら人間で吹雪属性はいないらしい。
だが、ケヴィンは人間だと思うとヴァージニアは伝えた。
「んじゃあ祖先に雪男か雪女がいるんだろう」
ヴァージニアは雪男は聞いたことがあるが、雪女はなかった。
地竜の話によると、雪女は島国にいるらしい。
「あと彼は空が飛べるらしいですよ。飛ぶと疲れるそうですとのことなので聞いただけですが」
「雪男は飛ばないなぁ。雪女が飛ぶのか知らないな。まぁ、先祖どうのではなく別の要因かも知れないな」
ケヴィンの話から他の属性の話にも繋がっていき、ヴァージニアは地竜に昔の人間は虹色の目の人達を魔族と呼んでいたと説明した。
「魔族?なんだそりゃ?」
「魔王も魔族だと言われていますけど、魔族は存在しないんですか?」
ヴァージニアは地竜の反応から魔族はいないのだと分かった。
「では虹色の目をしている人間の話からしよう。ま、早い話どの属性の魔法も扱えるってわけだな。そうなるには魔力量がふんだんにないと出来ない」
「魔王も目が虹色だったんですよね」
「もちろんそうだ。魔導師を統べる者、すなわち王なのだから」
これを略して魔王なのであって、魔族の王ではないらしい。
地竜の話によると魔王の生まれた地域では皆が魔力が高く優れた魔導師だったそうだ。
当然彼らを脅威に感じ疎ましく思う者達がいた。
それと同時に魔法への探究心から彼らを慕う者達もいたし、その中に紛れて彼らの力を利用しようとする者達もいた。
数多くの情念が渦巻き、争いが頻発したそうだ。
「私利私欲にまみれてってやつだな」
「あ、あの……話は戻るのですが雪女は人間なのでしょうか?」
雪女は珍しい属性を持っているので、人間ではない気がしたのだ。
「毛むくじゃらじゃないし、二本足で歩くそうだから人間じゃないのか?ちょっと特殊な力を持っただけの」
「うーん、その地域特有の力ってことでしょうかね?」
「それか一族とかな」
エミリーの特殊な探知魔法も一族相伝だったはずだ。
「じゃあ魔族と言われた人達も……」
「だろうな。権力側からしたらただの人間より、そういう怪しげな奴等を討伐したと言いふらす方が聞こえが良いだろう」
ヴァージニアは今まで慣れ親しんでいた童話にも悪者退治の話があったのを思い出した。
これらの元の話も目障りな者を始末した話なのではないか。
こう思うとヴァージニアの背筋はひんやりとした。
「酷いですね……」
「だがまぁ、虹色の目をしている人間は今もいるんだろ?どんな手を使っても彼らは消し去れなかったんだな」
現在生きている虹色の目の人物全員が血を引いているのではないだろうが、生き延びた人の子孫が今もいる。
王都の某局長がその一人だ。
「沢山教えて下さり感謝いたします」
「いや、いいさ。人間のことを知られてよかった」
ヴァージニアはまたも頭の中がいっぱいになってしまったので、落ち着かせるために食事の採集に意識を傾けることにした。
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