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観光地だ!
しおりを挟む「スージー起きてってば!」
エミリーはヴァージニアが持つとうめいの上からからスージーを引き剥がそうとした。
「うんんー」
しかし、スージーはとうめいから離れたくないのか爪を立てて抵抗している。
そのせいでとうめいの上部が伸びてしまっている。
「うわ、すっげー伸びてる」
とうめいはヴァージニアが想像していたより遥かに伸びている。
溶けたチーズのようにどんどん伸びている。
それを見てアリッサが慌てた。
「スージーの手元をいじればとれるかも」
アリッサがスージーの前足の指を広げてとうめいから剥がそうとした。
だが、スージーは寝ているはずなのに余計に力が入り、引き剥がすのがより困難になった。
「なんて力なの!」
「わー!とうめいが千切れちゃうよ!」
「!」
とうめいは大丈夫と言っているが、マシューは心配そうにおろおろとしている。
ヴァージニアはマシューが泣き出すかもしれないのでスージーに近づいてみた。
そのおかげで紐状に伸びていた部分が少しとうめいの体に戻ったようだ。
「んー!私の力じゃ無理みたい。ブライアン、代わりにお願い」
「いいが、俺の力だとスージーが怪我するんじゃないか?」
スージーは小さい犬だ、ブライアンは筋骨隆々で大きい。
何も知らない人だったらブライアンがスージーをいじめているようにも見える。
「なっ!私のスージーがそんなに弱いわけないでしょ!」
エミリーが鋭い目つきでブライアンを睨みつけると、ブライアンがたじろいだ。
「え、怒るのそこなの?」
彼らはかなり騒がしいがスージーは気にせずにずっと眠っている。
スージーの顔は穏やかなのに前足はかなり力が入っているのが不思議だ。
「おいおい。そんな事しなくたって、こうすりゃいいだろ」
ケヴィンが一歩スージーに近づくと、フサフサな耳に向かって息を吹きかけた。
その瞬間スージーは全身で飛び上がった。
「ひゃっ!何するの!やったのケヴィンでしょ!」
スージーは目を覚まし、即座にケヴィンに向かってパンチした。
両手で何度もパンチしたので、漸くとうめいはスージーから解放されることになった。
「とうめいよかったね!」
とうめいは伸びていた部分がにゅるりと体に戻り、元の丸っこい形に戻った。
「ん、あれ?マシューがいる。ヴァージニアもいる。……あと、丸いのがいる」
スージーは状況が飲み込めずに首を傾げている。
エミリーがもう朝だと教えると、何故起こさなかったのか怒り出した。
「私もマシューが列車を見てどんな反応をするのか見たかったのに!」
「ふふっ、残念だったね~」
「もう一度見にいこうよ!マシューも見たいでしょ?」
マシューはもう一度列車を見られると思い顔が輝いたが、すぐに却下された。
研究者達との顔合わせがあるそうなのだ。
「ちぇっ」
ヴァージニアが時間があればまた見られると言うと、マシューは列車を見た時のように飛び跳ねて喜びだした。
彼がこんなに喜ぶとは思っていなかったので、ヴァージニアは驚くしかなかった。
研究者との顔合わせが終わり、皆はホテルに向かった。
かなり繁盛しているようで人が多い。
まだ観光シーズンだからだろうか。
(ああ、暖かい地域だから一年中観光シーズンなのかな?)
ヴァージニア達以外は観光客なのではというくらい、どの人もリラックスした顔をしており楽しそうだ。
行き交う人々の服装も海がすぐそこにあるからか、ラフな格好をしている人がほとんどである。
ヴァージニアも楽しくない訳ではないし、観光地なので浮かれそうになったが、仕事で来ているのではしゃいではいけないと思い心身を引き締めることにした。
「人が沢山いるよ」
「このホテルは特に多いみたい。新館がオープンしたんだって。おかげで旧館がちょっと安くなってるんだよね」
他にも新館オープン記念の割引があったそうだ。
「僕達は旧館なんだね。節約大事」
普段から食費と光熱費を安くするためにヴァージニアが言っていたことだ。
「マシュー分かってるじゃないか」
「へへっ」
宿泊代は研究者持ちらしい。
何とかして安い宿を探したのだろう。
現在は新館の奥にある旧館に移動中だ。
「一番安い宿は取れなかったみたいだけどよく取れたよね」
「なんかね、最初は渋っていたけど宿泊名簿を見た支配人さんが無理矢理取ってくれたみたいだよ」
ヴァージニアは流石売れっ子は違うなと思った。
しかし彼女達の話を聞いていると彼女らに依頼されるのは大体魔物や魔獣の討伐なので、身に覚えがないそうだ。
(新館オープン……、新しい……、新規……)
つい最近マシューがお金持ちの子息を助けたのだが、それが関係している可能性がある。
あくまで可能性なのでヴァージニアは黙っておくことにした。
「ああ、二人部屋だったのをベッドを足して三人部屋にしてくれたんだそうだ」
「へぇ、すごいねぇ」
すごいと言いつつ、マシューは何も分かっていなさそうな顔をしている。
「しかも部屋にはシャワーがついているだ。いいだろ~?」
「普通じゃないの?」
マシューはケヴィンとブライアンに彼らが体験した宿の凄惨さを教えられた。
大勢が雑魚寝する大部屋なら良い方で、宿と名乗りつつ屋根しかない四阿のような場所で寝かされたりしたそうだ。
「あれなら金を払わないで野宿した方がましだっての」
「まぁ、野宿するための場所代だろう。町の外だと獣達に襲われるからな」
町の中では住民から嫌がられるので野宿出来ないのだ。
ならば町の外で結界を張ればいいだろうが、強い相手には効果がない。
「野宿なんてヴァージニアには縁がないよな?」
「確かに、魔力が残っていれば家に帰れますからね」
あるいは自然回復を待って近くの町の中に入って宿をとるかだ。
だが、地域によっては扉が閉ざされていて町内に入れなかったりするので、あまりいい方法ではない。
なので魔力回復薬は必須なのだ。
特に魔力の少ないヴァージニアには命綱である。
「僕、転移魔法覚えよう……」
森での出来事以来、マシューは転移魔法の練習をしていない。
すでに出来るから練習していないのだとヴァージニアは思っていたが、マシューのこの言い方だと本当に出来ないようだ。
ヴァージニアを下敷きにしたのを気にしているのだろう。
「マシューなら出来るもんだと思ってたんだがな」
「俺も思ってた」
「ジニーの上に落ちちゃったんだ」
マシューがため息をつくと、とうめいが腕?を出してを励ますようにぺちぺちと彼を叩いた。
「気にすんなって。そういや、なんでヴァージニアは転移魔法で人と衝突しないんだ?」
「……考えた事なかったですね」
何となくの感覚で避けているとしか思えない。
「空間魔法も生き物や建物があると勝手に避けるよ。勝手って自動なわけじゃないけど、察知して反射的に避けるんだよね」
「うーん、そんな感じですね」
ヴァージニアはそんな感じとしか言えなかった。
何故なら自然と身についたので説明出来ないのだ。
「探知能力があるのかもな」
「えー?だけど、人間達がいるって分かっても動くかもよ。もしかしたら避けた先に移動しちゃうかも」
「じゃあ予知能力か?これならどこに動くのか分かるだろう」
ヴァージニアは探知も予知も出来ないので、本当に感覚で行っているのだ。
「わぁ!ジニーすごい!」
「そんな予知とか探知とか大層なこと出来ないよ」
出来たとして、転移魔法の時限定だなんて悲しい限りだ。
どうせなら常に出来るようになりたい。
そうすれば仕事の幅が広がり収入も増えるだろう。
「けど、本当にホテルとれてよかったよ。高いホテルだったら、何割か自分達で払ってくれって言われてたかも」
「あり得るね~」
もしそうなっていたら、ヴァージニア達は新たに仕事を探さねばならなかっただろう。
ヴァージニアはマシューが助けたお金持ちに感謝した。
部屋の前に到着した。
男性陣の部屋で、打ち合わせをする事になった。
彼らは昨日から泊まっているため、すでに荷物が開かれていた。
「ヴァージニアは研究所の場所は覚えたか?」
ヴァージニアの場合、移動先を意識すれば行った事がなくても転移魔法出来る。
だが、一度行っておけば彼女の魔力が僅かに残り、その魔力に引きつけられるので魔力消費が抑えられる。
「ええ。覚えましたよ。出土品を見つけたら届けに行けばいいんですよね」
エミリーとスージーの魔法で見つけて回収するのだが、見つけた度に行ったり来たりするのではなく、いくつか集めてから届けるそうだ。
ヴァージニアへの負担も考慮されているらしい。
「そう。2日目は1日目の終了地点まで私の空間魔法で移動するよ。もちろん帰る時もね」
ヴァージニアも空間魔法で移動出来るのだろうか。
それとも先に帰らされるのだろうか。
彼女は魔導列車のように体験してみたいのだ。
「ところでどんな所を歩くの?」
ブライアンが地図を出して説明してくれた。
道は起伏は少なく歩きやすいが、暖かい地域だけあって木々が生い茂り虫が多いらしい。
しかし虫対策は万全だそうなので、虫に悩まされる心配はないそうだ。
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