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似ている人!
しおりを挟む「そうだヴァージニア!私さ、あの軍人さんが誰かに似てるって言ったの覚えてる?」
「ええ、言ってましたね」
エミリーとヴァージニアの今の会話を聞いて、ケヴィンは首を傾げている。
彼も誰に似ているか照らし合わせているのだろう。
「それでね、本人に誰かに似ているって言われないか聞いてみたの」
「えっ、すごいですね」
ヴァージニアだったら躊躇して聞けずにいたかもしれない。
「でしょ?ふふっ」
「ねぇ、エミリー。マシューに自然回復促進の魔法をかけなくていいの?」
スージーが言うとエミリーはそうだったと慌ててマシューに魔法をかけた。
しかし相変わらずヴァージニアには何が起きたのか分からない。
「んで、誰に似てるんだよ。俺の記憶にあの人に似ている人はいなかったぞ」
「私も見覚えがないです」
エミリーしか会っていない人物なのではないだろうか。
だが、似ているのが共通の知り合いか有名人だと感じないと、あの時にわざわざヴァージニアに誰かに似ているなどと言わないだろう。
「皆会った事あるよ~。でも今の姿しか知らないからなぁ」
「エミリー、勿体ぶらずに教えてよ」
アリッサの言葉にエミリーはニヤリと笑った。
「知りたい?」
エミリーはまだ勿体ぶりたいようだ。
ここでブライアンがエミリーとは別の生き物に話しかけた。
「スージー、教えてくれるか?」
スージーはエミリーと一緒に聞いていたはずだ。
「いーよ!あのね、あの軍人さんの名前はレオナさんって言うの。これは似ている人のミドルネームから貰ったんだって」
「ミドルネームがレオナ?余計に分かんねぇなぁ」
ケヴィンの顔が険しくなった。
「ちょっとスージー。もうちょっと伸ばせたでしょ」
ヴァージニアはエミリーの今の姿という発言が気になった。
そしてレオナはヴァージニアが何処から来たのか告げた時にあまりいい顔をしなかったのを思い出していた。
(レオナさんに似ている人は南ノ森町にいる人だ。そして若い人ではなく少し年嵩の人だ)
となると一人だけだ。
「ジェーンさんですか?」
「そうだよ!ジェーンさんだよ。ヴァージニア当たり!」
スージーはエミリーの肩の上で数度跳んでくるりと宙返りした。
ヴァージニアは正解した嬉しさよりも、スージーの器用さへの驚きの方が大きい。
「私、前にジェーンさんの若い頃の写真見てたの。それを覚えていたみたいなの」
「それで、名前を貰ったってなんでだ?」
「ジェーンさんはレオナさんの大伯母さんなんだって」
「大伯母……、伯母じゃなく?」
大伯母は祖父母の姉だ。
ジェーンを見ているとそんな年齢には見えない。
「そうだよ。小さい頃から似てるって言われてるらしいよ!」
「そのせいで、どんなに活躍しても血筋のおかげって言われて嫌みたい」
「そんなの何にも知らない女の子を虜にしちゃうんだから、実力は本物なのにね」
ヴァージニア以外の女性陣がレオナの話で盛り上がっている。
「ふーん、確かに強そうだったよなぁ。常に周囲に気を張り巡らせていたし、相当出来る人だろう」
「何度も助けてもらいました」
ヴァージニアが移動出来るようにレオナは持ち上げてくれたり、上から引っ張ってくれたりしていた。
きちんと礼を言えていないので、いつか言えたらとヴァージニアは思った。
「あ、そうだ。ヴァージニアに改めて謝っておいて欲しいって仰ってたよ。最初はヴァージニアを不審者か先に着いた救助隊かどうか迷ったんだって。これは聞いたよね?」
「はい」
ヴァージニアの足元には気絶している泥棒がいたが、レオナ達には二人が何者なのか分からない。
「ヴァージニアは軽装だからな」
「うっ……」
他の皆はきちんと救助作業をするのに相応しい格好をしているが、ヴァージニアは普段着だし鞄もなくて手ぶらだ。
なのでレオナ達から見たら二人とも要救助者なのか、どちらかが悪人なのか、どちらも悪人なのか分からない。
「だからどんな場面でも対応出来るように、最初に部下じゃなくてレオナさんが行ったみたいだよ」
「そんなに不審者っぽかったんですね」
ヴァージニアはあの場にいるのはふさわしくなかったようだ。
「離れていたからだろう。あんまり気にするな」
「はい……」
済んだことを気にしていては身が持たない。
ヴァージニアはマシューの心配だけをしていようと思った。
「暗くなってきたから帰るか」
「賛成。お腹も空いたしね」
少し離れた場所にある灯台には灯りが見える。
もっと暗くなったら光の筋が見えるのだろう。
「マシューはどうする?俺達が連れて帰るか?」
「いえ、少し触れていれば一緒に転移魔法出来るので私が連れて帰ります」
「余力は残っているか?」
これは魔力だけでなく体力についても言っていると思われる。
「はい。大丈夫です。あの、頂いた携行食はいつ返せばいいですか?」
「いいって。俺達も手を貸してもらったんだしな」
「すみません。ありがとうございます」
ヴァージニアはケヴィンにお辞儀をして、ブライアンからマシューを受け取った。
彼女はブライアンに手伝ってもらいながら久しぶりにマシューをおんぶをした。
まだブライアンがマシューを持ってくれているので重さは分からないが、マシューの身長が伸びているので、以前より彼の手足が彼女の視界に入りやすくなった。
ヴァージニアがマシューと背負えたのを確認しブライアンが手を離したら、マシューの全体重が彼女にのしかかりよろめいてしまった。
「ぬおっ」
マシューは確実に以前より重たくなっている。
「大丈夫か?やっぱり俺らが送って行くか?」
「いえ……大丈夫です。それでは皆さんまた……」
ヴァージニアはマシューの重さに耐えながら転移魔法した。
ヴァージニアは帰宅するのではなくギルドに荷物を取りに行った。
後は厨房のおじさんに食事を注文したのに食べなかったことを謝罪しようと思った。
(もちろん救助活動の報告もしないとね)
ヴァージニアがギルドに入ると、すぐにジェーンの姿が見えた。
ジェーンの近くにはジェイコブとマリリンの姿もあった。
話を聞いて駆けつけてくれたのだろう。
「ああっ帰ってきたわ。ほらマシュー君は私が持ってあげるから少し休んで」
「すみません」
ジェーンはマシューを軽々と片手で持って奥の部屋に連れて行った。
マシューが眠ってしまったのはギルドに連絡がいっているようだ。
「俺達も行くか。ここは夕食時だからな」
皆仕事を終えて帰ってきたようだ。
仕事の後の食事や飲酒を楽しんでいる。
「そうだね」
「大変だったでしょう」
ヴァージニアはマリリンに背中を支えてもらいながら奥の部屋に移動した。
行く途中で美味しそうな食事の匂いがしたので、空腹が促進されヴァージニアの腹が鳴った。
それが聞こえたのか分からないが、ジェーンはヴァージニアが入室してすぐに昼食を食べたのか聞いた。
「ケヴィンさんから携行食を分けてもらいました」
「じゃあ食べてないのと同じね。多めに用意して貰うわね」
「ありがとうございます……」
ジェーンは部屋から出て行った。
ヴァージニアはマシューがソファで寝かされているのを確認した。
いつものマシューなら寝相が悪いのでソファから落ちるだろうが、今は気絶に近い状態なので落ちなさそうだ。
「ねぇ、なんだか大ごとみたいになっているけど、どうしたの?」
ヴァージニアはジェーンの他にジェイコブとマリリンが待っているとは思っていなかった。
「何故って豪華客船の沈没が国内外でニュースになっているからだよ。取材の人とか見かけなかった?」
地元のニュースではなく、国外でも報道されているようだ。
確かにあれだけの規模の船に何かあったら、報道側はトップニュースとして扱うだろう。
「えっ気付かなかったよ……。ああ……世界中を旅する船だもんね。そりゃあ見に来るよね」
様々な国籍の人が乗船しているのだから自国民が無事かどうかを報道するはずだ。
「色んな国の港で乗り降りするからな。皆気になるんだろ」
ヴァージニアが椅子に座るとジェイコブとマリリンも座った。
「そんな大きな仕事に行ったって聞いたから心配しちゃったわ。テレビで見たら船は結構傾いているし、気が気でなかったの」
ヴァージニアの家にはお金がないのでテレビはない。
マシューはテレビの存在に気付いていないのではなく、ヴァージニアが上手く誤魔化しているので半信半疑ながらただの飾りだと信じているようだ。
だが、学園都市に行った時に多くのテレビやモニターを見てしまったので、もう誤魔化せそうにない。
学園都市から帰ってきた直後は美味しそうなおやつに気を取られてくれたので話題に上がらなかったが、いつか思い出してテレビの話をしだすのではないかとヴァージニアはドキドキしている。
「うん、ケヴィンさん達以外の人達も救助に来てたね。海軍も来たからビックリしたよ」
「ちょうど近くを航行していたみたいね」
「遠すぎてちゃんとした大きさは分からなかったけど、とても大きな船だったなぁ……」
まさか遠く離れた場所にある船から一瞬にして人がやって来るとはヴァージニアは考えもしなかった。
あれも転移魔法なのだろうか。
しかし、あんなに転移魔法出来る人がいるとは思えないので、軍人なら誰もが身に付けている特殊な技か何かだろう。
「へぇ、船上での救助活動は初めてでしょう?しかも軍と一緒にね。色んな経験したのね」
「うん……」
一生行けないような場所で一生縁がなさそうな人達と出会った。
「マシューも救助に行ったと聞いたから肝が冷えた。いくら魔力量が多いからってマシューはまだ子どもで匙加減が分からない。現に魔法を使いすぎて倒れてしまった。今回はブライアン達がいたからよかったが毎回こうはいかない」
「まあまあ、無事に帰って来たのだからいいじゃない」
「はぁ、マシューにきちんと魔法の使い方を教えないとだな」
今回マシューが倒れたのはヴァージニアがマシューに魔法の使用の制限をしていたからだ。
そのせいで限度が分からずマシューは倒れてしまい、マシューを守るもつもりが危険な目に遭わせてしまった。
これでは本末転倒である。
「……ジニー、大丈夫?貴女もどこか具合が悪いの?」
「え?全然平気だよ」
ヴァージニアは少し疲労感があるぐらいでその他は至って健康だ。
「もうすぐ飯が届くだろう。説教してしまって悪かったな」
「ううん。私の配慮不足だから……」
「飯が不味くなってしまうだろうから俺は部屋から出ている。ケヴィン達にも文句を言ってやらないと……」
ジェイコブはブツブツ言いながら部屋を出て行った。
マリリンはそんな彼の背を見送った後にクスリと笑った。
「ジェイコブったら二人が救助に参加してるって話を聞いて、急いで仕事を終わらせてギルドに来たの。二人の事が心配だったみたいね」
「私もさっきまでマシューがくっついて来てるなんて知らなかったよ」
「マシュー君も何かしなきゃって思ったのかもね」
人間は温かい方がいい。
マシューはこれを覚えていて凍えている人の体を魔法で温めようと考えた。
彼はもう自分で考えて行動出来るのだ。
(私はまだマシューのために何か出来るのかな……)
ジェーンが運んで来た夕食はいつもより味気なく感じたヴァージニアだった。
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