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探す!
しおりを挟むレストラン内を移動中に、女性の通信機がまた鳴った。
吹き抜けになっているので音が響いた。
「はい。分かりました」
子どもが見つかったのだろうかと、ヴァージニア達は期待と心配が混ざった表情をしながら女性を見た。
「船の固定が終わったそうなので、もう沈む心配がなくなりました。よって船内の捜索は継続して行えるそうです」
子どもの発見の連絡ではなかった。
しかし船はこれ以上沈まないのは良い知らせである。
「こんな巨大な船を空間に固定出来るのか。流石軍だな」
「複数人で術をかけていますからね。エミリーさんのように単独では出来ませんよ」
エミリーは色々な魔法が使えるようだ。
ヴァージニアはエミリーがだいたいの魔法を使えると聞いて驚くしかなかった。
「いやぁ、流石に私一人ではこの規模の船は無理ですかね。……って、私達が何者なのかご存じなんですか?」
そう言えばヴァージニアはケヴィンとエミリーが何者なのか女性に伝えていなかったのを思い出した。
「国内で実績を上げている方々ですからね。軍にも情報は入って来ていますよ」
女性は二人の名前や年齢や容姿という限られた情報で割り出したようだ。
「うーん、目をつけられてるってことか」
ケヴィンは険しい顔になり、エミリーも苦笑している。
ヴァージニアも局長や秘書から色々と探られたので彼らの気持ちはよく分かる。
「いざとなれば今回のように協力することもありますから、少しでも情報があった方がいいのです」
「そうすりゃ、すぐに俺達に何させるか決められるもんな」
ケヴィンは少々棘のある言い方をした。
「迅速に対応するためですので、何卒ご容赦ください」
女性はにっこりと笑顔で言った。
「……うん、人命に関わる事だからな。仕方ないとは思っている」
ケヴィンは言い終わると、今来た道を振り返って見逃した場所がないかと探している。
ヴァージニアはもうすぐで広いレストランから出られると思うと嬉しくて仕方なかった。
レストラン内は良い匂いが残っており、ヴァージニアは空腹感が増すので早く出たかったのだ。
彼女は食べ物を貰いたかったが泥棒になってしまうので我慢した。
「分かって頂き感謝致します。そういえば他のお二人も船内にいるのですか?」
「いや、二人は陸で救助された人達の対応をしている」
もし魔獣使いのアリッサが船内で救助活動をしたら鎧熊のブラッドがいるので、皆はブラッドに驚くだろう。
しかもブラッドは人間よりも大きいので狭い道を通れない可能性もある。
ブライアンは地属性なので海上作業には向いていないのかもしれない。
(ブライアンさんはアリッサさんの手伝いかな?)
ヴァージニアはブライアンは武闘家で地竜から力を貸して貰っているとしか知らないので、彼がどんな作業をしているのか想像付かなかった。
「そろそろ機関室に到着している班がいるはずなんですが、連絡が来ませんね」
「子どもがいなかったんでしょうか?」
「まだ捜索中なのかもしれませんね。それに狭いところに縮こまっていたら、探知魔法に引っかからないかもしれませんし。すでに探したところにいた可能性もあります」
探知魔法が効かない場所にすらいないのなら、子どもが行く場所、隠れる場所を予想しないといけない。
皆がどうしたらよいのか悩んでいるとエミリーが声を上げた。
「私に子どもの特徴を教えてください。出来るだけ細かく!」
エミリーには何か策があるようだ。
「年齢は6才、性別は女の子、二つ結びでピンク色の半袖のワンピースを着ているそうです。靴下は白でレースがついていて、靴はピンクだそうです」
エミリーは何か小さな紙切れを取り出した。
その紙に今の情報を元に絵を描いているようだが、色はインクの色のままだ。
これでは色まで聞いた意味がない。
「髪の色や目の色は?」
「濃い茶色に緑だそうです。私が聞いた情報は以上です」
「ありがとうございます。よし、出来た!」
このエミリー言葉とほぼ同時に絵に色がついていき、そして数秒後には写真のように変化していたので、ヴァージニアはポカンとしてしまった。
彼女に分かったのは魔法だということだけだ。
「スージー、この女の子を探して」
「いーよー!」
スージーは小さな紙切れの匂いをクンクンと嗅いだ。
ヴァージニアの思考はもうついていけない。
「この匂いと同じ匂いは……下だね!」
「よし!急ごう!」
ケヴィンとスージーが先行して少女を探しに行った。
女性は部下達に少女の行き先に検討がついたと報告し、他の行方不明者を捜すように指示した。
「最初から使えよって話だよねぇ」
エミリーは自嘲気味に笑った。
確かにヴァージニアはそんな便利な魔法があるのなら、もっと早くに使用すればいいのにとチラリと思っていた。
だがエミリーの疲労具合から考えると、あまり使いたくなかったのだろうとヴァージニアは察した。
「いえ、そんな……。空間魔法もして魔力を消費しているでしょうし……」
なので謝罪の気持ちをこめて、ヴァージニアは女性達に教えるためにわざと言った。
「空間魔法もお使いになったのですか?」
やはり空間魔法が使用出来るのはすごいことのだ。
女性も今までで一番驚いている。
「魔力は回復薬を飲んだので回復しているので大丈夫です」
「空間魔法は精神力も使うと聞いています。なのでいくら魔力を回復しても24時間以内に出来る回数は限られているとか……。そうでしたか……」
「これは情報にはなかったですか?」
エミリーはからかうようにクスリと笑った。
「空間魔法を使えるのは知っておりましたよ?」
女性もエミリーに対抗するようにクスリと笑い返した。
ヴァージニアもつられて笑っておこうかと思ったが、女性の部下が何かを言いたそうにしているのに気付き話しかけた。
「どうされました?」
「はい。エミリーさんに先ほどの魔法の説明をしていただきたいのです。絵が写真のようになり、その絵の匂いを嗅いでスージーさんは下だと言っていましたよね」
これは特殊な魔法のようだ。
ヴァージニアも気になっていたが、もしかしたら割とよくある魔法なのかと思い聞くのをためらっていた。
「あれは探しものの魔法なんです。特殊な紙とインクで描くと、描いた生き物や物の匂いがするんですよ。それを自分で作った魔導生物に嗅がせて探してもらうんです」
「その匂いはスージーだけしか嗅げないんですか?他の魔獣や魔導生物にはどうなんでしょうか?」
例えばブラッドだ。
犬より熊の方が鼻が良いので、スージーよりブラッドの方が早く探し出せるだろう。
「これは一家……いや、一族相伝の魔法だからブラッドには紙とインクの匂いしかしないって言われたよ。あ、ブラッドは熊の魔獣です」
女性と女性の部下はブラッドの説明で頷いた。
「ご家族の魔導生物ならさっきの絵から匂いを嗅げるんですか?」
「うん、スージーよりは匂いが薄くなるらしいけど嗅げるよ……。……う……はぁはぁ」
「エミリーさん大丈夫ですか?」
レストランから大分移動してきたので、エミリーは限界のようで顔色が優れない。
「エミリーさん船外へ避難してください。後は我々に任せてください。ヴァージニアさん転移魔法でエミリーさんと甲板へ行ってください」
「分かりました」
ヴァージニアがエミリ-に手を伸ばすと、エミリーはヴァージニアの手から体を引いて逃げた。
「待ってくださいっ。スージーと離れすぎたらスージーが動けなくなるんです。そうしたら女の子が……」
「そうでしたか。では私と彼が肩を貸しますので、ヴァージニアさんはケヴィンさんを見失わないようにお願いします」
「はい!」
ヴァージニアはすでにケヴィンを見失いそうであったので、急いで彼の後を追いかけた。
スージーが下だと言っただけあって、どんどん階段を下りていく。
(え、待って。本当に無理なんだけど!)
船が傾いているので当然、階段も斜めになっている。
ここは乗組員用の非常階段のようだ。
エレベーターもあるが電源が落ちて動かないし、匂いを辿った方がよいと判断されたのもありこの階段を下りている。
(これ逆向きに傾いていたら降りられなかったんじゃ……。いや折り返してるんだから意味ないか。うわぁ!どっちも無理!転移魔法で下まで行こうかな。どうしよう……)
ヴァージニアは先ほど甲板にいた時とは比較にならないぐらい足がガクガクと震えていた。
先ほどは太陽で明るかったからあまり震えなかったのかもしれない。
今はほとんど何も見えないのでそちらの恐怖もある。
(灯りの魔法は使っているけど!見えないよ!)
ヴァージニアの階段にしがみついた手はブルブルと震えている。
「ケヴィンさーん!今どこですかー?!」
必死に叫んで出した声もヴィブラートをかけたかのように揺れている。
あちこちに反響もしているので、彼女は自分の情けない声を連続で聞くはめになった。
「すっげぇ下ぁー!」
ケヴィンから大変ざっくりとした返事がした。
彼らのパーティはそんな返事が流行っているのだろうか。
「目的の階に着いたら何階か教えてくださーい!」
「分かったー!」
「印をつけておいてくださーい!」
上から女性の声がした。
ヴァージニアはエミリーを抱えながらどうやって下りているのだろうと思ったが、人の事を考えている余裕はない。
「分かった-!」
ヴァージニアはかなり下りたと思ったが、壁に書かれた階数を見てあまり下りられていないのを知ってしまった。
(え、嘘。まだ2階分しか下りてないの?)
ヴァージニアは目眩がした。
かなりの階数下りてきたと思っていたので、大きなショックを受けた。
(やっぱり転移魔法しよう。何階かずつならいけるでしょう。いけるいける。絶対いける)
ヴァージニアは3階下を照らして着地点を確認して転移魔法した。
(ぬお-!)
「うひぃいっ!!」
少し高低差を見誤ったようで、手すりを掴み損ねてヴァージニアは間抜けな声を出してしまった。
「ヴァージニアさん大丈夫ですかー?!」
「へっ……、平気でーす!」
生きていると言う意味なら平気だ。
ヴァージニアの心臓がかなりうるさくなっている。
「もうすぐだから頑張れよー!」
「はーい!」
ヴァージニアは上からも下からも心配されてしまった。
(女の子は何処まで行ったの?子どもがこんな所通れるのかな?マシューじゃあるまいし。もしかして船が沈む前に移動したのかな?)
子どもは探検したがるので、こんな隠された階段を見つけたら下りたくもなるだろう。
(いや、ならない!私は冒険も探検もしない!あー、もう!よし、今度こそ上手く転移魔法しよう)
ヴァージニアは今度は上手く移動出来た。
2階分にしたのもあるだろう。
(少しずつ移動しよう。うん)
このおかげでケヴィンとの差をかなり埋められた。
何回か転移魔法をしたらケヴィンに追いつけたのだ。
本当なら魔力の残りを気にしなければならないが、今は恐怖の方が勝っている。
「お!転移魔法か!いいなぁ」
「ケヴィンさんは空を飛べますよね?」
空を飛べるのなら一気に最下層に行ける。
船の傾きや揺れを気にしながら慎重に下りる必要はない。
「あれは疲れるからいざって時にしかやらない。ところでエミリーはどうした?」
「疲労が溜まっているそうです。スージーと離れすぎるとスージーが動けなくなるそうなので、軍人さん達がエミリーさんと一緒に階段を下りています」
ケヴィンは納得し、ヴァージニア達はここで待機することになった。
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