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話を整理する!
しおりを挟む夜になり、マシューは夕食と桃を食べて満足したのかぐっすり眠っている。
慣れない場所に行って疲れているせいなのもあるだろう。
ヴァージニアも今すぐ眠りたかったが、マシューと彼の両親について色々と情報を整理したいので眠らずにいた。
(紙に書いた方が分かりやすいかな?だけどマシューが見たり、他の人が見たら厄介だしなぁ……。よし、書いたら燃やすか)
証拠隠滅である。
(えっと、まずは勇者と魔王は戦っていない。これは確定だね。それで二人でどっかへ行ってしまった、と……)
何処かとは何処だろう、とヴァージニアはいくつか選択肢を書いた。
(思いつくのは常に移動していた、秘境にいた、魔法で作った空間にいた……。いや、常に追手を気にして隠れ家を変えていたら、記録に残ってそうだね。だからこれはない。完全に人目のつかない場所で生活していたんだ。魔法で作った空間じゃなきゃ、誰かに匿われていたとかかな?)
ヴァージニアは二人が匿われていたとしたら、人間ではない気がした。
人間以外の大きな力を持った者に保護されていたのだろう。
(保護があっているのか分からないけどね。人間は当てにならないから彼らを頼ったとか?)
人間は個体数が多いので国も沢山ある。
これらの思惑が二人の思想と異なっていたら人間を頼れない。
だから人間以外の者達に助けを求めた。
(憶測の域を出ないね。……他の行方をくらませた理由は二人が死んだから?)
二人が死んでしまったらマシューは存在しないので、死んだとしてもマシューが誕生してからだ。
(死んでいるのも確実かな?だけどなぁ……想像がつかないほどの力を持っているらしいしなぁ……)
魔力量が膨大にあると老化が遅くなるらしい。
それに二人が死んでいないのなら遺体や遺骨が見つかっていないのも説明がつく。
ただし、跡形もなく消え去った場合を除く。
(えーっとそれで、二人はマシューを封印した後何処に行ったんだろう?そもそもなんでマシューを……?)
やはりマシューを安全な場所に避難させたと考えていいのだろうか。
(千年前は今からじゃ想像出来ないほど世界中が荒廃していた。人間の間に伝わる話だと、それは魔王の仕業だった。けど違う。二人が協力したおかげで今の時代が平和なんだ。これは確定だね)
二人は何をして荒廃から救いだしたのだろう。
そもそも荒廃の原因はなんだろうか。
どうせ歴史書には魔王の仕業としか書かれていないと思われる。
(ここまで来ると、意図的に改竄されたとしか……。え、そうだとしたら人間のせいで荒廃したんじゃ……。それで魔王に罪を被せたとか?辻褄が合いすぎてる。合いすぎてるから逆に違うんじゃ……)
そう、人間側が全人類が窮地に陥るほど荒廃していくのを、ただぼっと見ているとは考えにくい。
(急激に荒廃するような出来事が起きたんだ。じゃあ自然の力だな。きっと隕石とか火山噴火とか地殻変動とかが起きたんでしょう)
これなら世界中の地層などを調べれば何か出てきそうだ。
だが、これらを引き起こしたのが魔王だと言われたらそこで終了してしまう。
(ここまで徹底して魔王のせいにする必要があるかな?)
冤罪そのものである。
(もしかして人類共通の敵を作り出して人々を鼓舞した……?そして希望を持たせるために勇者を……?馬鹿げてるけど、とても馬鹿げてるけど……何だかあり得そうだね……)
そもそも当時は魔王と呼ばれていたのだろうか。
魔王という言葉はいつからあったのか。
後生に作られた言葉ではないのか。
(いや、マシューも魔王って言っていたよね。……あ、なんか今思い出しそうになった)
ヴァージニアの頭には王都にいるグレーヘアのおかっぱの女性の顔が浮かんだ。
(……確か局長が魔力が強い人は魔族と呼ばれていたって言っていたような?いや、元から魔族と先祖が魔族で先祖返りだっけ?あれ?合ってる?)
局長がこのような事を言っていたのは確かだ。
局長も言い伝えを言っただけで、明確なことは分かっていない様子だった。
(魔族は魔力が高い、魔力が高いから魔族……?)
魔力が高い人間が魔族と言われた説と先祖返り説だっただろうか。
(ややこしい。あれ?なんであの時こんな話をしたんだっけ?……ああ、ちょっと思い出してきた)
再び局長の顔が浮かび上がり、彼女の目をよく思い出してみた。
(目の色だ。虹色の目を持った人について言ってたんだ。確か虹色の目をした人は強い魔力を持っているから迫害された。中には反撃する人もいて、その人達が魔族と言われたんだ。他には虹色の目の人は魔族の先祖返りの説ってのも教えられたんだよね)
ヴァージニアはそうだそうだと膝を打った。
(んーっと、魔王の話だ。魔王は魔族の王。だけど魔族は虹色の目をした人間の事って説がある。だとしたら魔力が強い人の王ってこと?なんだそれ?王って言われているなら国があるはず。虹色の目をした人の国があったのかな?それともニックネームみたいな……○○の貴公子、○○の王子、○○の姫のようにさ)
ニックネームでなければ自称だろう。
(他人も魔王って言っているから自称ではないかな。それともあれかな。あだ名を自己申告する人……。ま、これはいいか)
ヴァージニアは魔王について色々と考えてしまったので、話を戻そうと思った。
(よし、次はマシューを封印した理由だね。これはマシューを守るためで決まりでしょう)
マシューは普段は海に沈んでいる島にかなり厳重に封印されていた。
まず行こうと思って行ける場所ではない。
地図にも載っていない島に行けるはずがない。
(それほど大事に思っていたんだ。平和になってから封印を解いて貰おうって)
とヴァージニアは思ったが、封印解除される時代が平和とは限らない。
(平和になってから地下に続く階段が出る仕組みだったとか?けど、何をもって平和なんだろ?)
ヴァージニアは封印が解けたのがこの時代でよかったのかと、眉間に皺を寄せ唇を一文字にして考えた。
(これは永遠に答えは出なさそうだね。私の国では平和だけど、外国では戦争や内戦や紛争があるんだし、争いがなくても犯罪は起きるし餓死する人はいるし、親が子を殺し、子が親を殺してる。まだ不治の病はあるし、大怪我を完全に治せる医術も薬も魔法もない。……けど、千年前よりはマシって言うならマシなのかな?)
ならばどの時代でもよかったはずだ。
百年前でもいいし、もっと未来でもいい。
(今じゃないといけない理由があった。この仮説だと封印が解けたのはこの時代にマシューの役目があるみたいになる。いや、まさか。こんな幼い子にさせないよね……)
だがマシューは膨大な魔力を持っているので、その気になれば彼は何でも出来るだろう。
現在、マシューはヴァージニアの指示に従い目立つ魔法は使わないでいる。
それにヴァージニアに遠慮しているのか甘えているのか不明だが、魔法を使えないふりをしているのだ。
(転移魔法がそうだね)
ヴァージニアがマシューを牧場の送り迎えをしているのはこのためだ。
王族や高位貴族なら子どもでも転移魔法が出来るらしいので、マシューが隠す必要はないのだ。
(魔力がいっぱいある人はいいねぇ……。回復薬もあんまり買わなくてよさそう……。いや、大量消費する魔法をバンバン使うのかな?)
違う世界で暮らす人々のことはヴァージニアには分からない。
薬類ももっと上等なものを使っているだろうし、自然回復を促す術や魔導具を有していそうだ。
(あ、そう言えば国によって薬の値段が違うんだよね。あの時はどうしようかと思ったよ。……言葉も通じなかったし、また異国に飛ばされるかもしれないから翻訳する魔導具が欲しいなぁ。確か高かったよな……ってどっちもお金がらみだ)
お金があれば大体のことは出来る。
ヴァージニアには想像不可能なことだって出来るのだ。
(お金かぁ。外国の俳優が島を買っていたなぁ。いくらしたんだろう?)
休暇の時に遊びに行くのだろうか。
(島かぁ。地図に載っていないあの島は誰の、あるいはどの国の島なんだろう。誰の者でもないとかかな。海底の地形図にも載っていないのかなぁ。そこは調べてなかったなぁ……)
ヴァージニアは地図を取り出して履歴を確認した。
何度も見たがやはり島はなく海だ。
(局長は私の訪問歴を調べてるはずだから、海底の地形も調べてそうだなぁ……。そう言えば最近何も言ってこないなぁ。諦めたのかな?それともやっぱり何かしでかしたのは王都の王立魔導研究所なのかな?)
かの研究所が何かしでかしたらしいのは学園都市の研究所で女性から聞いた噂だ。
マシューに関して探りを入れてこないのは、監視の他に局長達の行動制限もしたからだろう。
(あー……聞く必要がなくなったとかかな?マシューの正体に気付いたとか。いや、それだったらとっくに大ごとになってるよね)
噂を聞きつけた人達が押し寄せるだろう。
未だに勇者と魔王は人気があり、宗教のような組織もあるそうだ。
もしそんな人達にマシューが見つかったら崇め奉られたり、利用されたり大変なことになる。
(頭が痛くなる……。うん。島に話を戻して……、えっとこれで海底地形は見られるのかな?)
ヴァージニアは地図の設定を色々見てみた。
この地図は現在位置は勿論、様々な図法に変更出来るし、地形図にも変えられる。
(ないかなぁ……。あ、これか)
ヴァージニアは海底地形図を発見した。
船乗りや漁師などはこういう図を見るのだろう。
(んー?)
ヴァージニアは目を凝らして見てみるが、こちらの地図にも載っていない。
陸にも海底にも島らしき出っ張りがないのだ。
(あれ?そんなバカな……)
ヴァージニアがもう一度よく見ると海底地形図に違和感を覚えた。
マシューがいた島の周辺だけ何もないのだ。
真っ平らということになっているようだ。
(この辺は調べられていないのかな?いや、そんな……)
この海域は調査できないほど荒れ狂っていなかったし、仮にそうでも空から調べられると思われる。
となると、何者かの手によって意図的に調査出来ないようにしているか、島の存在をそのものを消しているか、個人の所有物なので地図等に記載しないようにしているかだ。
(とんでもなく力のある人の仕業だ……)
お金も地位も名誉もある人物によるものだろう。
(関わらないのが吉だね)
ヴァージニアは島についてはとても厄介そうなので調べないことにした。
(最後に何故私に封印が解けたのか。偶然なのかな?うん、分からん)
島に辿り着いたのなら誰でも良かったのではないか。
ヴァージニアは封印を解くだなんて大層な術は持っていない。
人より出来るのは転移魔法だけだ。
(うん、偶然だね……)
そうヴァージニアは思ったが、子どもの頃に見た虹色の蝶と真っ黒な犬を思い出すと必然だったのではと思えてしまう。
(いや、偶然だ。たまたま転移魔法に失敗して辿り着いたのが私だっただけだ)
ヴァージニアはそうであって欲しいと思いながら、メモ用紙を燃やした。
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