転移魔法に失敗したら大変な事に巻き込まれたようです。

ミカヅキグマ

文字の大きさ
上 下
87 / 312

虫?!(2)

しおりを挟む
――もういいわよ!あんた達なんかに助けて貰わなくたって平気なんだから!だけどいいの?妖精を助けられるだなんて滅多に経験出来ない貴重なことよ?それを見す見す逃していいの?ねぇちょっと聞いてる?もしもーし!本当にアンタ達勿体ないわよ!いいの?本当にいいの?おーい!

 ださい妖精はまだギャーギャー騒いでいるようで、嫌でも耳に入ってくる。
 助けて欲しければ少しの間だけでも大人しくすれば良いのに、すぐに口の悪さ、いや、性格の悪さが出てしまい文句を言ってしまう。
 これでは他の人間がださい妖精の声や姿を確認出来ても、ヴァージニア達と同じように助けないかもしれない。

「嫌なやつだったね。あいつも最下位じゃなくて参加資格なしだね」

 これはマシューの好きな人や物の順位である。

「どんな種族にも嫌な奴はいるんだよ」
「びっくりしたよ」

 二人はださい妖精から離れて現代の食事のゾーンに来ていた。
 色んな国々の食事が並べられていて美味しそうだが、残念なことにどれも食品サンプルである。

「まぁまぁ、そう言わず助けてやってください」
「えーだけどさぁ、あんなに煩いし口が悪いのに嫌だよ」
「ええ、嫌ですよね。私も嫌です。ですが仕方ないのです」
「嫌だよねぇ。……って誰?!」

 誰かはとても自然に二人の会話に参加していた。
 二人は驚きながら声がした方を見た。

「お久しぶりです人間さん。それに小さい人間さん初めまして」

 姿を現したのはヴァージニアが前に会った綺麗な妖精だった。

「わっ!綺麗でとっても小さな人間だ!こんにちは!」

 マシューは綺麗な妖精を色んな角度から観察している。
 何処かの妖精と違いキラキラと輝きまくっているのでマシューが観察したくなるのは当たり前だ。

「ふふふっ、ありがとうございます。訂正させていただくと、私は人間ではなく妖精ですよ」
「妖精?本物だぁ!すごい!」
(本物って……。まぁ、気持ちは分かるよ)

 ヴァージニアはフフッと小さく声を出して笑った。

「残念なお知らせですが、先ほど小さい人間さんが見ていたのも妖精なんですよ」
「えっ、虫擬きじゃないの?」

 マシューは本気で妖精だと思っていなかったらしい。

「私も驚いていますよ。あんなに問題行動を起こすのが同種族だなんて」
「今回も捕まえに来たのですか?」
「はい。他は下手くそなのに逃げるのだけは上手いんですよね。逃げるのだけは」

 綺麗な妖精が強調して言っているので余程の嫌な思いをしているのだろう。

「へぇ……あっそうだ!逃げられないように顔だけ出して埋めようよ。周りをカチカチに固めてさ、これなら大丈夫だよ!口が出てれば呼吸と食事が出来るから問題ないでしょ?」

 マシューがさらりと怖い事を言った。
 無邪気そうに言ったのが尚更怖いとヴァージニアは思った。

「良い案ですね。進言してみます」

 綺麗な妖精は笑顔で言った。
 これは冗談ではなく本気のようだ。

「えっ、進言しちゃうんですか?!」
「それほど困っているんです。こう何度も脱獄されると国の威信がなくなってしまいますからね」

 綺麗な妖精は本当に困っているらしく表情が優れない。

「ええまさか、また会うはめになるとは思いもしませんでした」
「人間さんには本当に申し訳なく思っております。申し訳ないついでに、脱獄犯を助けて頂けないでしょうか?私の力ではあの蓋は持ち上がらないのです」

 妖精が小さいのもあるが、蓋が分厚く大きいのもあって重たいのだ。

「あいつをちゃんと捕らえてくれるならいいよ」
「ありがとうございます」

 綺麗な妖精はペコリと頭を下げた。
 ヴァージニアは人間と同じく妖精の中でも色んな個体がいるのだろうと思った。



 三人でださい妖精がいる場所に戻った。
 ださい妖精は綺麗な妖精の登場に慌てふためいていた。

――あああ、先輩!これには訳がありまして……。そう、そうです!この人間達が私にこんなことを!ひどい!ひどいわ!あんまりよ!ううっ……

 ださい妖精はわざとらしく泣き真似をしだした。
 姿が見える前から騒ぎ声は聞こえていたので今更遅いのだが、それにすら気付いていない。

「これ以上罪を重ねるおつもりで?」

 ださい妖精はヴァージニア達を犯罪者に仕立てるつもりのようだ。
 当然綺麗な妖精は相当怒っているようだが、やはりださい妖精は気付いていない。

――何のことですか?いいから早くその人間達をとっちめてください!

 ださい妖精は自分が助けられることより、ヴァージニア達が罰せられるのを望んでいる。
 つくづく変な生き物だ。

「成敗されるのは貴女ですよ。貴女の行動は全て監視されているので何を言っても無駄です」
――そんなぁ……

 虫擬きはがっくりと肩を落とし大人しくなった。
 マシューは綺麗な妖精の頼みを聞き、虫擬きを助けることにした。

「展示品には触っちゃいけないんだよね。どうやって助けるの?」
「マシューは念動力サイコキネシス使えるでしょう」

 どうやらマシューはいつも自然に念動力サイコキネシスを使っているので、魔法を使っている感覚がなくなっていたのだろう。

「はっ!そう言えばそうだった!」

 マシューは目と口を大きく開けて驚いているのを見ると、とぼけたのではなく本当に忘れていたらしい。

「魔力の痕跡は私が消しますのでご安心ください。人間から咎められることはないでしょう」

 展示物に手を触れてはいけないのは勿論だが、魔法も使用してはならないのだ。
 もし魔法を使用したのは妖精を助けるためだと言っても信用してもらえるか分からない。
 そんな危険は冒したくない。

「よーし、じゃあ……」

 マシューは念動力サイコキネシスを使用した。


しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

異世界に迷い込んだ盾職おっさんは『使えない』といわれ町ぐるみで追放されましたが、現在女の子の保護者になってます。

古嶺こいし
ファンタジー
異世界に神隠しに遭い、そのまま10年以上過ごした主人公、北城辰也はある日突然パーティーメンバーから『盾しか能がないおっさんは使えない』という理由で突然解雇されてしまう。勝手に冒険者資格も剥奪され、しかも家まで壊されて居場所を完全に失ってしまった。 頼りもない孤独な主人公はこれからどうしようと海辺で黄昏ていると、海に女の子が浮かんでいるのを発見する。 「うおおおおお!!??」 慌てて救助したことによって、北城辰也の物語が幕を開けたのだった。 基本出来上がり投稿となります!

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

マヨマヨ~迷々の旅人~

雪野湯
ファンタジー
誰でもよかった系の人に刺されて笠鷺燎は死んだ。(享年十四歳・男) んで、あの世で裁判。 主文・『前世の罪』を償っていないので宇宙追放→次元の狭間にポイッ。 襲いかかる理不尽の連続。でも、土壇場で運良く異世界へ渡る。 なぜか、黒髪の美少女の姿だったけど……。 オマケとして剣と魔法の才と、自分が忘れていた記憶に触れるという、いまいち微妙なスキルもついてきた。 では、才能溢れる俺の初クエストは!?  ドブ掃除でした……。 掃除はともかく、異世界の人たちは良い人ばかりで居心地は悪くない。 故郷に帰りたい気持ちはあるけど、まぁ残ってもいいかなぁ、と思い始めたところにとんだ試練が。 『前世の罪』と『マヨマヨ』という奇妙な存在が、大切な日常を壊しやがった。

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...