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訪問者!
しおりを挟むその後マシューの活躍もあり、沢山の薬草や木の実が集まった。
マシューは見つけるのが得意なようだ。
(見つけるのもかな?)
これ以上採集すると、野生の生き物の食糧がなくなるので終了だ。
現在二人は帰る前に少し休憩しており、水筒に入れてきた水を飲んでいた。
そう、ただの水だ。
茶葉が勿体ないので水だけを入れてきた。
「たんまりだね」
マシューが持つ袋はぱんぱんに膨れあがっている。
(たんまりって……)
「よかったね」
マシューのしょんぼりは遠くに出かけていったようで、マシューはご機嫌なようだ。
「はっぱ、たべなくてすむね」
「マシュー、分かっていると思うけど野菜はきちんと食べるんだよ?」
「わ、わかってるよ。おいもだけたべないよっ」
マシューは口を尖らせている。
「それを聞けてよかったよ」
「うん……。あれ?」
マシューはまだ何かないかとキョロキョロと周囲を見渡し始めた。
「ん、あっちになにかあるきがする……」
マシューは森の奥をじっと見つめている。
「あんまり奥に行っちゃ駄目だよ」
「わかった」
そう言ってマシューは走りだした。
木の根や倒木を軽々と飛び超えているので、ほぼ直線の最短距離で走って行った。
「いや、行くなって言ったつもりだったんだけどな……。あんまりが良くなかったかな……」
マシューは気を付けろと勘違いしたようだ。
ヴァージニアはため息をついてマシューを追いかけようとしたが、後ろから人の気配がしたので彼を追いかけずに振り返った。
「ああ、やはりヴァージニアさんでしたか。こんにちは」
「ヒューバートさん。こんにちは。どうされましたか?」
こんな所でヒューバートを見るなんて意外すぎる。
ヒューバートほどのエリートがこんな変哲もない森に来るなんておかしい。
「ここに何かあるんですか?」
なのでヴァージニアは思い切って尋ねてみた。
相手の出方を探るためでもある。
「いえ、ヴァージニアさんに用があって来ました」
「私にって……もしかして教会の地下の件ですか?」
「いいえ、お連れの方についてです」
「お連れの方?あっ、コーディさんですか?ジェーンさんですか?」
おそらくギルドでヴァージニアはマシューと一緒にここにいると知らされてやって来たのだろう。
ヒューバートがはっきりと言わなかったので、ヴァージニアはとぼけることにした。
「いえいえ、同居なさっている方ですよ。最近一緒に暮らし始めたそうですね」
ヒューバートはにっこりと笑った。
「ああ……。そうです。遠い親戚の子でして、他に預かれる人がいないので私が預かっているんです」
「そうでしたか。その子に会わせて頂けませんか?」
今度ははっきりと言った。
「何故ですか?保護者としての責任がありますので、理由を教えてください」
「何でも、その子は魔力が高いのだそうですね。研究所で保護したいという声が出ています」
ヴァージニアはなんとなくだが、彼の言っていることが嘘な気がした。
多分恐らくと曖昧な理由でしかないがマシューが何者なのか調べたいのだと思った。
「保護?実験するのではなく?」
「実験って……。訓練はするかもしれませんが、非人道的なことはしませんよ」
ヒューバートの表情を見るとこれは本当のようだ。
「仮に保護した場合、保護者と責任者は誰になるのですか?」
「どちらも局長ですね」
「保護した後は何をどうするんですか?」
「まずは魔力の使い方を教えます。膨大な魔力が暴発したら怪我だけで済むか不安ですからね」
ヒューバートはもっともらしい事を言っているが、ヴァージニアは怪しいと感じた。
「その次は?」
「基礎の次は応用と実戦ですね」
「応用はともかく、まだ小さいのに実戦だなんて危険です」
「いいえ、彼を放置しておく方が危険です」
これがヒューバート達の本音だろう。
「危険だから自分達の目の届く場所に置いておこうって魂胆ですか?」
「そう思っていただいて結構ですよ。我々は彼が何者なのか知りたいのです。ヴァージニアさん、彼とは何時何処で会ったのですか?」
マシューが何者かなんてヴァージニアだって知りたい。
「この質問に答える義務はありませんよね」
「ええないです。ですが、答えられないとなると、ますます彼が怪しくなります」
ヴァージニアがマシューと何処で会ったかは本当に知らないようだ。
それとも知っていてわざと聞いているのだろうか。
「怪しいとは?」
「答えられない理由はなんですか?」
「実はよく覚えてないんですよ。記憶が曖昧でして。私が転移魔法を失敗して遠くに飛ばされてしまったのはご存じですよね?」
ヴァージニアは嘘をつくしかなかった。
正確に言うと嘘を混ぜるのだ。
「ええ、研究所に入る方は皆さんの素性や素行を調べさせて頂いております」
「飛ばされた場所もご存じですよね?」
彼らはあの時、島が出ていたのは知っているのだろうか。
「ええもちろんです」
「とんでもない場所に飛んでしまったのでパニックになってしまいまして、帰るまでの記憶が途切れ途切れなんですよ」
ヴァージニアは島とは言わないでおいた。
「ほう?それでいつの間にか彼がいたと」
「はい」
「今の話からですと、遠い親戚と言うのは嘘と言うことになりますがよろしいですか?虚偽の申告ですねぇ」
ヒューバートは興味深そうに笑った。
攻撃材料を得たと思ったのだと考えられる。
「混乱している時に転移魔法を使用すると自分と縁のある場所に飛ぶ場合もあるんですよ。多分途中で遠い親戚が住んでいる所に行ったのではないでしょうか?」
これはいくつも事例があるので、ヒューバートが知らないはずはない。
「ヴァージニアさん、貴女が行った場所はすでに調べられています。その土地に親戚がいないのは調べれば分かってしまいますよ」
「ええ分かっていますよ。ですが、あの日って魔水晶が上手く働いていなかったそうですね。残されている記録は正しいのですか?」
ヴァージニアはよく思いだしたと自画自讃したかった。
「……んー、正しいとは言い切れませんね」
ヴァージニアは心の中でよし!と握り拳を作った。
「私もどこに飛んだのか、よく覚えていませんので調べようがないですね」
「……地図を持ってらっしゃいますよね?それには記録されているのではないですか?」
「なくしました」
嘘をついてしまった。
ヴァージニアは今も地図を持っている。
「そうですか。念のために荷物を改めさせていただけますか?」
「ヒューバートさんに何の権限があるんですか?」
「ないですね」
「そうですよね。何かしらの令状が必要ですよね」
「ええ、その通りです。仕方ないですねぇ。……彼は森の奥にいるのですね。どうやら彼は魔力は隠せないようで……」
エリートだからか魔力の探知も容易いようだ。
「ところでヴァージニアさん、今日は魔法の練習に来たそうですね」
「え?ええ……」
ヴァージニアは予期していなかった質問内容に対応が遅れた。
「拘束系の魔法をかけられても転移魔法出来ますかね?」
「!!」
しまったと思った時にはすでに体が動かなくなっていた。
「くっ!」
ヴァージニアは魔法で縛られてしまった。
転移魔法をしようにも魔力ある物が触れているとヴァージニアは魔法を発動出来ない。
仮に出来ても失敗する。
「では彼を探しに行きますね。ヴァージニアさんはごゆっくりなさってください」
ヒューバートは憎たらしいと思うほどのにっこり笑顔で、マシューがいる方角に走って行った。
「ぐっ」
ヴァージニアは大声を出そうにも、口を塞がれ喉にまで圧迫感があるので声が上手く出せない。
振り解こうと手足を動かしてもビクともしなかった。
(どうしたらっ)
ヴァージニアは必死に頭を働かせた。
(そうだ!声だけ転移魔法だ)
教会でやった水に声だけを移動させる技である。
マシューが水筒の水を飲み干していなければ可能だろう。
ヴァージニアが水を入れたので、彼女の魔力が多少残っているかもしれない。
(だけどかすれ声しか出せないのに、出来るかな?……って考える暇はないね)
「マシュー、気配を消して。隠れて。逃げて」
ヴァージニアは必死に喋り、上手くマシューに伝わるのを願った。
だが、ちゃんと声だけ移動出来たのか確認しようがない。
(魔力がほんの僅かでも水に残っていたら、ちゃんと届いている……はず)
もう一度やってみようかと思ったが、拘束の力が強まっているようで掠れ声すら出せなかった。
(マシューは多分気配を消せる……と思う)
マシューの健脚なら非戦闘員のヒューバートから逃げ切れるだろう。
(いや、大人だしなぁ。それに結構走るの速かったよね……)
ヴァージニアは救援信号を出そうかと思ったが、手が鞄まで届かない。
そもそも所持していない気がする。
(いつもすぐに逃げていたからなぁ……。お金がないからって買わないでいたよ)
救援信号を送れる魔導具は消耗品なのだ。
(悲鳴が聞こえないからマシューはまだ無事なんだろう)
それとも赤子の手を捻るように、悲鳴を出す暇もなく捕らえられてしまっているだろうか。
「うわぁああ!」
「!!」
と思った時、遠くから悲鳴が聞こえてきた。
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